小説家デビューを果たした「HOME MADE 家族」KUROが、影響を受けた3冊の“マイ・フェイバリット”――開高健の『輝ける闇』も!

エンタメ

2019/3/24

 ヒップホップグループ「HOME MADE 家族」のメンバー、KUROさんがサミュエル・サトシの名で3月に小説家デビューを果たした。処女作のタイトルは『マン・イン・ザ・ミラー 「僕」はマイケル・ジャクソンに殺された』(KADOKAWA)。

 本作はミュージシャンの外見、パフォーマンス、しぐさの一挙手一投足を完璧に再現する「インパーソネーター」に光を当てた物語だ。実在するマイケル・ジャクソンのインパーソネーターをモデルに、KUROさんが取材を重ねて書き上げた渾身のフィクションは、音楽界、文学界の双方から注目を集めている。

「HOME MADE 家族」は2016年に無期限の活動休止に入ったが、KUROさんはその間も、別ユニットでライブを行ったり、ソロプロジェクトを立ち上げたり、ミュージシャンとして精力的に活動を続けてきた。

 一方で、ネットラジオ「RADIO NEXUS」でのパーソナリティーを務めたり、書評サイト「シミルボン」でコラムやレビューを執筆したりと、言葉への造詣が深いことでも知られている。音楽の世界と言葉の世界、この2つを結びつけた小説の上梓――KUROさんのルーツを探るべく、これまでにKUROさんが感銘を受けた本について話を伺った。

■音楽に、本にどっぷりはまった高校の3年間

――ネットラジオ「RADIO NEXUS」でのお話や、書評サイト「シミルボン」のコラムやレビューからも、KUROさんは本当にさまざまなジャンルの本を手に取られていることがわかります。活字にハマるきっかけは、いつごろからだったのでしょうか?

KURO 高校時代ですね。僕の通った高校は全寮制で、ちょっと変わった校則があってテレビを観ることを3年間禁止されていたんです。だから娯楽がないんですよ……ラジオと本しか。そこで音楽と活字の世界にどっぷり浸かりました。おそらく今までの人生のなかで、一番本を読んだ時期だったんじゃないかな(笑)。

■本当のマイケル・ジャクソンを知ることができる1冊『マイ・フレンド・マイケル』

――ミュージシャンとしてKUROさんが感銘を受けた一冊をお教えください。小説のタイトルにもあるマイケル・ジャクソンは、KUROさんがもっとも尊敬するアーティストの1人と伺っていますが……。

KURO マイケル・ジャクソンの話になったので、まず大ファンのマイケルのすばらしい本を1冊(笑)。『マイ・フレンド・マイケル』(フランク・カシオ/飛鳥新社)をぜひ読んでみてください。

 マイケルについて書かれた本のなかで、一番おもしろかったですね。ほとんどのマイケルの本は評論家による分析だったりとか、ライナーノーツのような感じなんですけど、『マイ・フレンド・マイケル』の著者のフランク・カシオは、4歳のときからマイケルと付き合いがあった方なんです。ホテルマンだったお父さんが縁で、最初は家族ぐるみでマイケルとの付き合いがはじまって、最終的にはマイケルのパーソナルマネージャーになっちゃうんですよ。

 つまり、マイケルのプライベートと仕事の両方を知る、まさに「マイケルの一番近いところにいた人物が書いた本」なんです。ですからプライベートの人間的なところも、仕事の冷徹なところも、血の通ったマイケルがすごくよくわかるんですよ。もし世の中でマイケルを誤解している人がいても、この一冊を渡せば、みんなマイケルのことが好きになるんじゃないか、ってくらいジーンときますね。

 フランク・カシオはもともと職業人としての小説家ではないので、そういった意味では決して流れるように美しい文章で綴られているわけではないんですよ。でも不思議なことに、一番近くでみていた人の言葉って、生き生きとしていて、情景一つ一つがくっきりと浮かび上がってくるんです。

■アーティストとしての葛藤に気付かされる1冊『引き裂かれたソウル』

――『マン・イン・ザ・ミラー』では、ひとつの道を究めるインパーソネーターの孤独も描かれています。同じ表現者、アーティストを描いた作品で、深く記憶に残っている一冊はありますか?

KURO 『引き裂かれたソウル』(デイヴィット・リッツ:著、吉岡正晴:訳/スペースシャワーネットワーク)ですね。伝説のソウルミュージシャン、マーヴィン・ゲイの伝記です。

 マーヴィン・ゲイは44歳の若さでこの世を去っているんですよ。しかも実のお父さんに銃で命を奪われて。お父さんはキリスト教の牧師で、マーヴィン・ゲイは敬虔なクリスチャンとして、とても厳しく育てられたんですね。でも後に彼は類希なる才能で、大衆音楽で成功を収めるんです。

 ただ、教会でゴスペルを歌っていた人間がポピュラリティの場で活動するということは、当時からしたら悪魔に魂を売るようなものだったのでしょう。テレビに出て、メジャーになればなるほど、お父さんからますます認められなくなって、心を病んで麻薬にも手を出して……読んでいる僕自身まで、心が引き裂かれそうになる本でした。ものすごい苦悩のはざまで、ああいうふうにたくさん名曲を生んだんだなって思うと、同じミュージシャンとして、とても複雑な気持ちになります。

 かのレオナルド・ダ・ヴィンチも「苦悩なくしてはいかなる完成せる才能もあり得ない」という名言を残していますが、これは僕自身のなかでは抗いたいテーマなんですよ。「幸せな状態から幸せなものをつくれないのかな」って。読んでいて辛いのですが、何かを生み出すということについていろいろと考えさせてくれる1冊です。

■KUROの生き方に影響を与え続ける1冊『輝ける闇』

――それでは、KUROさんのこれまでの人生において一番影響を受けた本はなんでしょうか? 例えば、無人島にもし、本を一冊だけ持っていけるとしたら、何を持っていきますか?

KURO 開高健のすべての作品、とりわけ『輝ける闇』は、まさに僕のマイ・フェイバリット。バイブルですね。読んだあとはげんなりする、もう何もしたくなくなっちゃうくらい圧倒される。でも何回読んだかなあ……数え切れないくらい読み返しました。

――どのようなお話なのでしょうか?

KURO ベトナム戦争が舞台です。開高健は朝日新聞社の臨時海外特派員として南ベトナム政府軍に帯同して、最前線で本当の戦争を経験しているんです。『輝ける闇』は、そのときの開高健の実体験が基になっています。

 文字を追うごとに、ページを繰るたびに、もう鳥肌が立つっていうのか、これを読ませたらみんな戦争をやめるんじゃないかっていうくらい強烈な1冊です。すばらしい言葉もいっぱいありますし、作中のどんな文章にも意味があります。

 なかでも衝撃的なのは、敵から機銃の一斉掃射を受けて、命からがら逃げのびて九死に一生を得る場面です。200人のうちたった数十人しか生き残れなかった戦局で、開高健は弾がすれすれ飛び交うなか、戦場を活写して、今起きていることを書き留めるんですよ。

 そして最後に敵に追いつめられて、とうとう死を覚悟した開高健が、カメラマンとおたがいに写真を撮り合うんですね。その写真も載っているんですが、開高健の表情がもう何ともいえなくって……死を覚悟すると、人はこういう表情をするんだって。

――『マン・イン・ザ・ミラー』の執筆にあたっては、実在のインパーソネーターに取材されたそうですね。実体験を物語に昇華させるという過程で、ルポルタージュに身を捧げた開高健さんに学んだところはあるのでしょうか。

KURO 開高健の有名な言葉に「足で考え、耳で書く」という一節があります。頭の中だけで考えるのではなく、現地へ赴いて生の声を聞け、といった開高健らしい言葉なのですが、今回『マン・イン・ザ・ミラー』を書くにあたっては、それを肝に銘じて、いろいろな人からお話を伺いました。

 どこまで近づけるかわからないけれども、開高健のようにとことん取材してみようと。なので、それは開高健の生き方や作品から教えてもらったやり方ですかね。

取材・文=丹羽毅