「自分をゲイだと認めたとき、孤独死すると思ったんです」“夫”と出会うまでの半生を綴った、七崎良輔さんの決意

暮らし

2019/6/6

 2016年10月、築地本願寺でとある同性カップルの結婚式が挙げられた。大勢のゲストの前で照れくさそうに笑っていたのは、七崎良輔さんと亮介さんの“夫夫(ふうふ)”。築地本願寺での同性同士の結婚式は史上初ということもあり、そのニュースが大きな話題を集めたことも記憶に新しい。

 しかし、ふたりは法的には結ばれていない。この春には居住地である江戸川区でも同性パートナーシップ制度が導入され、その第一号として登録もした。それでも、七崎さんの胸の内は晴れていない。彼が求めるのは、婚姻の平等。“パートナーシップ”ではなく、男女のカップルと同じように“国に認められた関係”を求めているからだ。

『僕が夫に出会うまで』(七崎良輔/文藝春秋)

 どうして七崎さんはそこまで“結婚”というものにこだわるのか。その答えが綴られている、一冊の書籍がある。『僕が夫に出会うまで』(文藝春秋)。これは、七崎さんが文春オンラインで連載していた自伝的エッセイをまとめたもの。そこには北海道で生まれ育ったひとりの少年の苦しみ、絶望、葛藤が赤裸々に綴られている。

 一読して、七崎さんの絶望に触れることができたような気がした。それと同時に、どうして自分自身をここまでオープンにする必要があったのだろう、という疑問も湧いた。

 いまが幸せだからこそ、過去を書き留めておきたかった――。本書からは、そんな七崎さんの叫びが聞こえてくるが……、その本心に迫りたい。

■綺麗事が書かれた本なんかじゃ、人は救われない

 本書では幼少期の頃までさかのぼり、七崎さんがどんな青春時代を過ごしてきたのかがまとめられている。同級生の男の子への恋心、彼女ができた親友への苛立ち、初めて男性と体を重ねた夜……。なかには浮気や修羅場寸前のエピソードもあり、正直、「ここまで書いてしまって大丈夫なのだろうか」と心配になるくらいだ。けれど、その理由を七崎さんはこう語る。

「赤裸々に書く以外の方法が思いつかなかったというのもありますし、人の心を動かして、感動してもらうためには、素直にまっすぐ表現するしかないんじゃないかと思ったんです。自分がセクシュアリティで悩んでいた頃、どんな本に出合えていたら救われていたかなと考えてみると、『みんな違ってみんな良いんだよ』といったように、上辺だけをなぞるようなものではなく、泥臭くて人間の嫌な部分も見えてくるものだったんじゃないかな、と。決して綺麗事なんかでは、本質的に救われないと思うんです。だからこそ、過去の恋愛も性体験もいざこざも、全部あけっぴろげにして書きました。その分、勇気は必要でしたけどね(笑)」(七崎さん、以下同)

 綺麗事にはしたくなかった。やさしい笑顔を浮かべながら、七崎さんは鋭い言葉を放つ。そこには大きな覚悟が滲んでいる。

 七崎さんの想いを裏付けるように、本書はWEBでの連載当時からさまざまな反響が寄せられたという。

「文春オンラインで連載しているとき、MtF(トランスジェンダー)のお子さんを持つお母さんからご連絡をいただいたんです。お話を聞いてみると、そのお子さんは学校で『オカマ』といじめられている、と。そこで学校の先生に相談してみても、『子どもたちには理解できないから』と足蹴にされてしまったんです。とても残念なことですが、これが現実で。でも、僕の連載を読んで、とても共感してくれたそうなんです。それを聞いて、書いてみて本当に良かったと思いました」

 七崎さん自身がいじめに遭っていたことは、本書にも綴られている。心ない同級生からの一言に哀しみ、過剰に「ふつう」ぶろうとする姿は、想像するだけで胸が締め付けられる。しかし、それ以上に憤りを感じたのは、七崎さんが教師から浴びせられた次の一言だ。

“ぶりっ子してるから、先生から見ても、七崎くんは『オカマ』に見えるよ。だから先生も、さっきの子の気持ちがわかるもん。そのまま大人になっちゃったら大変だよ。そのまま大人になっちゃったら、すごく困ると思うよ”

 周囲から「オカマ」だといじめられている小学生の男の子に対して、こんな発言をしてしまう。これが現実に起きたことだなんて、あまりにも哀しい。

「これに限らず、『いつかゲイなんて治るよ』『そっちに逃げないほうがいいよ』『女の人を好きになる努力をしたほうがいい』など、いろんなことを言われてきたんです。そういう人たちに足りないのは、知識。セクシュアルマイノリティがどういうものなのかを知らないんですよ。同性婚を認めてもらうための活動をしているので、議員さんにお会いする機会も多々あるんですけど、なかには『同性愛なんてやめればいいじゃない』って言う人もいるんです。それって、僕からすれば『死ね』と同義語で。だからこそ、この本を読んで、僕らのことを知ってもらいたい」

■結婚する・しないの“選択肢”を与えてほしい

 想像以上につらい経験をしてきた七崎さん。それでもいまこうして笑顔で過ごせているのは、周囲の人たちに恵まれていたから。初めてセクシュアリティをカミングアウトした〈あさみ〉さんをはじめ、彼はさまざまな友人たちに支えられてきた。

「この作品を書くにあたって、登場する友人たちに連絡を取ったんです。そしたら、みんな喜んでくれて。僕と同じ男の子を好きになった、いわばライバルだった〈愛〉ちゃんなんて、『あんた、どうせあたしのことブスって書くんでしょ。でも、楽しみにしてるわ』って言ってくれました(笑)。僕のセクシュアリティも、現在の状況も活動も、すべてを理解して応援してくれている友人たちには、本当に感謝の気持ちしかないです。なかでも、やっぱり〈あさみ〉。最初はフラれた彼女を慰めてあげるつもりで飲みに行ったはずなのに、気が付いたら勢いで、『(好きな人がいても付き合えないしフラれもしない)僕の方がかわいそうだ!』とカミングアウトしてしまってて。でも、そこで『つらかったね』って言ってくれたことで、自分自身がいかに苦しい状況だったのか気付けたんです。彼女にカミングアウトしたのは、僕の人生での大きな転機だったと思います」

 ひた隠しにしてきたセクシュアリティを受け入れてくれる友人の存在。それが七崎さんにとって、かけがえのない支えになったことは想像に難くない。

 とはいえ、七崎さんは「カミングアウトを無理に推奨したくはない」とも話す。

「カミングアウトせずに暮らしている人を否定するつもりはないんです。むしろ、言わずに生きられるなんて強いし、そういう人生もありだと思います。でも、カミングアウトしたいのにできない、と悩んでいる人がいるのであれば、それは社会とか環境に原因があることなので、できる限り取り除いていきたい。僕はフルオープンにしていて、時々、『羨ましい』『自分はそんなに恵まれていないし、苦しい』と言われることがあります。でも、大切なのは自分がどうしたいのか、どう生きていきたいのか。オープンリーでもクローゼットでも、どちらでもよくって、最終的にどうなりたいのかを判断基準にしたほうがいいのかなって」

 故郷・北海道でさまざまな抑圧を受け、苦しんていた少年は、周囲のサポートもあり、偏見に負けず、自分自身の価値観を大切にする大人へと成長した。いま願うのは、ただひとつ。婚姻の平等だ。

「物心つく頃から両親を見てきて、自分もいつか家庭を持つんだって思ってきました。だから、自分のことをゲイだと認めたときは、そのまま孤独死するって絶望したんです。誰とも家族になれず、孤独なまま死んでいくんだって。でも、それはおかしい。結婚なんてしてもしなくてもいいんですけど、最初から選択肢が与えられていないのは、ちょっと違いますよね。それに、婚姻制度によって守られる権利が、僕らには与えられないことにも憤りを感じます。先日、江東区に住むゲイの友人の彼が救急車で運ばれてしまったんです。その子が急いで病院に駆けつけたんですけど、家族じゃないと会わせられないって言われてしまって。同性婚が認められてさえいれば、そんな事態にはならないですよね。よく、『愛があればいいじゃない』って言われるんです。でも、愛だけでは守られないものがある。そこに不安を感じますし、僕はそれを変えていきたい」

 まっすぐに前を見つめる七崎さん。その視線の先には、いまよりもはるかに生きやすい未来図が描かれているのだろう。そして、そのとき、七崎さんの隣にいるのは、夫である亮介さんだ。

「亮介くんには、こんな僕ですけど、今後もよろしくお願いしますとしか言えないです。彼は僕と真逆で、とても几帳面。だからお互いに惹かれ合っているのかもしれないですね。ただ、彼がいないと生きられない、なんて言うつもりはないです。大好きですけど、依存はしたくない。僕は僕の両足で立っていたいんです」

取材・文=五十嵐 大 写真=内海裕之