Superfly(越智志帆)×一木けい『愛を知らない』刊行記念対談

小説・エッセイ

2019/7/6

「この物語で発見したことから1曲書きたいと思いました」という志帆さん、「Superflyさんの『I Remember』という曲は主人公の心の叫びのようです」と語る一木さん。初対面とは思えぬ空気感、符合する記憶と想いに、「ソウルメイトでしょうか」と微笑み合う二人の語らいは、“私たちの本音って「嫌われたくない」じゃなくて「愛されたい」だったんだ。”という、志帆さんが寄せた言葉をテーマに始まった――。

Superfly(越智志帆)×一木けい

越智志帆
おち・しほ●1984年、愛媛県生まれ。2007年『ハロー・ハロー』でデビュー。『愛をこめて花束を』『Beautiful』『Gifts』など、数々の大ヒット曲がある。9月からは、3年半ぶりの開催となる全国15公演自身過去最大規模のアリーナツアーがスタートする。
一木けい
いちき・けい●1979年、福岡県生まれ。東京都立大学卒。2016年、『西国疾走少女』で第15回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。同作を所収したデビュー作『1ミリの後悔もない、はずがない』が大きな話題となる。現在、バンコク在住。

 

一木 帯のお言葉をいただいたとき、わかったんです。“こういうことだったんだ!”と。執筆中は無意識だったのですが、この物語の人々は皆、“愛されたい”という切実な想いでいる。

志帆 主人公の橙子、語り手の涼、そして大人を含めた登場人物のほとんどに、私はその気持ちを感じました。人は皆、“愛さなければ”と、思っているけど、その根本には、やっぱり“愛されたい”という気持ちがあると。その気持ちは本来、当たり前のものだし、純粋で、生きるエネルギーにもなる。でもそれは、殊に大人になると、相手に求めるものではないと思ってしまいがちで。けれど、この物語から、肯定された気がしたんです。“愛されたいと思っていい”のだと。

一木 本作で書きたかったテーマは“支配”でした。学校や家庭など、身近なところにもある支配と被支配の構造。それはなぜ生まれるのか、どうすればそこに入ることを回避できるかということを追究したかった。それを誰に語らせる?と考えていたら、羽根の付いた帽子を被った女の子がスクランブル交差点を歩いていく映像が浮かんできたんです。そして彼女を見ている人が“行け!”と応援していた。その子はどこから来てどこへ行くのか、見ている人はなぜ、“行け!”と思っているのか――。そこから物語が生まれていきました。

志帆 その子が橙子だったのですね。

一木 そうです。実ははじめ、橙子の目線で書いていたんですね。けれど抱えるものの大きさや、クラスでひとりぼっちの存在である彼女の視点に入っていくと苦しくて。クラスメイトであり、遠い親戚で、橙子と良い距離感を持つ、涼を語り手にしました。

志帆 橙子の心が開かれていく扉となるのが合唱コンクール。練習風景などの描写は、自分が歌う時に考えていることと重なりました。ただの“ラララ”ではなく、そこにどんな意味が込められているのかみたいなことを深く考えていくところとか。

一木 合唱というモチーフを入れたのは、ひとつには橙子に自尊心と誰かに大切にしてもらったという気持ちを持ってほしかったからなんです。

志帆 それ、実感として、すごくよくわかるんです。私、自分のことを話すのが不得意な子供だったんですね。言いたいことはたくさんあるのに言えないもどかしさをずっと抱えていた。けれど中学の時、全校生徒の前でゴスペルを歌う機会を得て。歌った時、“私はこういう人です!”って言えた感覚を覚えたんです。そして拍手をもらったとき、自分が自分として認められた気がしたんです。

一木 そう! まさにその感覚を橙子に持ってほしかったんです。

恩には時効がある 縁には期限がある

志帆 ストーリーには“これは誰の本音? 過去?”と、思いを巡らせてしまう不穏な日記が挟まれてきます。あの場面になると、そのページだけに光が当たり、辺りが闇で閉ざされるような感覚になって。そして、その行く先に、驚愕の“転調”が訪れる。

一木 橙子の秘密が明かされる、その“転調”の場面で描きたかったことは、触れてはいけないのでは?という意識をずっと持っていたもの。それだけに、書くと決めたからには真摯に、目を背けずに書きました。

志帆 魂の叫びが聞こえるようでした。何かを求め、それがうまくいかない人々の。子供も大人も関係なく。

一木 この物語では、子供たちの周りにいる大人の存在を書きたいと思ったんです。なかでも、ちゃんと手を差し伸べられる大人を。私自身、そうありたいという祈りでもありますね。

志帆 そうした大人たちの正直さが素敵です。ある人は“助けられないかもしれないけど”と自分の限界を偽りなく提示し、でも“助けたい”と本心で子供に向き合う。そんな大人のなかのひとりが言う「恩にも、時効はあっていい」という言葉が印象的で。

一木 恐れや苦しい想いを抱く相手から本当は逃げ出したいけど、自分はその人に恩がある、だからそんな風に思う自分がいけないのだと考えてしまうことってありますよね。その思いをどうすればいいのだろうと悩み、出て来た言葉です。その言葉から導き出される、ひとつの提案も。

志帆 実は私も近いことを考えていたんです。それは“縁には期限がある”ということ。去年はうまくいっていたけど、今年はお互い調子悪くてうまくいかないということってありますよね。“この人とはうまくいくはず。悪いのは私かな?”と自責し、悩んでいた時期もあったのですが、“縁には期限があるんだ”と考えたら、心が軽くなり、出会ったご縁に対し、もっと感謝できるようになったんです。

一木 素敵な考え方ですね!

志帆 人と人が共に過ごすことは難しい。うまく過ごすコツみたいなものを私はいつも妄想しているんです。

人と人とのいい循環をつくりたい

一木 昨年、Nコン(NHK全国学校音楽コンクール)中学校の部の課題曲として、志帆さんが作られた『Gifts』にも、そんな素敵な考え方が詰まっていますね。子供たちの悲しみ、苦しみを掬いあげ、ほっとするところまで連れて行ってくれる。

志帆 教室にいるあの頃って、人との距離が近すぎて、相手のことが自分のことのように見えてしまう。だからどうしても人と比べ、自分は劣っていると思ってつらくなる。そこから救い出してくれるものって、誰かの“〇〇ちゃんって、ここが素敵だよね”という言葉じゃないかなって。

一木 それが、歌詞のなかで繰り返される、あなたには“〇〇があるから”というフレーズなのですね。

志帆 歌っていくうちに自信の生まれていくような曲にしたかった。そして自分を認めることができたら、次は目の前にいる子の素敵なところを言えるようになればいいなって。

一木 そこには、人と人とのいい循環が生まれていきますよね。

志帆 この物語もそのいい循環が巡っていく。橙子のラストの決断はきっとそれによるもの。この先出会う人に対しても、本来の自分で向き合うことのできる力を橙子は得たんだ、と感じました。この小説には、いろんな問いの答えが詰まっている。主人公と同年代の方はもちろん、子育てに悩んでいる方のヒントにもなってくれると思いますね。

一木 私は、普通の親子、普通の結婚など、そこに付けられてしまう“普通”という言葉に引っかかる方に読んでいただきたいなと思うんです。“普通”なんて本当はない。人は各々違うから。それを認め合う素晴らしさ、そこに気付くきっかけに、この一冊がなってくれればうれしいなと思います。

取材・文:河村道子 写真:富永智子
スタイリング:谷崎郁子 ヘアメイク:丹羽寛和(maroonbrand)

Superfly(越智志帆)×一木けい