裏切れない、止まれない。「今の気持ち」を伝える“紅蓮華”の真実――LiSAインタビュー(後編)

エンタメ

2019/7/6

 LiSAによる15枚目のシングルの表題曲“紅蓮華”の歌詞に、聴く者をはっとさせる一節がある。《世界に打ちのめされて/負ける意味を知った》――自分の弱さを受け入れ、過酷な運命に立ち向かっていく『鬼滅の刃』の主人公・炭治郎が奮闘する姿が浮かぶフレーズだが、これは同時に、LiSAが今の自分自身と向き合った末に生み出された言葉でもある。シンガーとして経験を重ね、圧倒的なライブパフォーマンスをもって躍進を果たしてきたLiSAだが、一方では何度もうまくいかない現実に直面し、そのたびにそれを乗り越えてきた歴史がある。常にLiSAを奮い立たせてきたのは「裏切れない」「大切なものを守りたい」という、強い意志だった。《世界に打ちのめされて/負ける意味を知った》は、「負ける意味」とともに、「それを跳ね返して前に進むことの大切さ」を知っているLiSAにだから書けた言葉だと思う。『紅蓮華』リリースに伴うインタビュー後編では、“紅蓮華”の背景にあったものは何であるのか、に迫りつつ、『鬼滅の刃』のエンディング主題歌である梶浦由記との楽曲“from the edge”について、話を聞いた。

前編はこちら>「ずっと近くにいられますように」と願うLiSAの、選択と変化とは――LiSAインタビュー

自分の中の正解は、《世界に打ちのめされて/負ける意味を知った》だった

――前回のシングル“ADAMAS”と“赤い罠(who loves it?)”は意識的に攻めてる内容だったと思うんですけど、その意味で最新作の“紅蓮華”は、逆に「LiSAらしい楽曲」っていう印象があって。どういうモードで制作に臨んでいったんですか。

LiSA:まず“紅蓮華”は、「守りたいものがあって、傷だらけでも強くなっていく」というところで、“ADAMAS”とテーマ的に大きくは変わらなくて。“ADAMAS”はベストアルバムのあとに、それこそ「こいつ、まだまだ攻めていくんだな。よっしゃ、いくぞ!」みたいな気合いを入れたかったし、みんなの不安を解消したい気持ちもあったから、“ADAMAS”“赤い罠”と、あえて攻めの楽曲を入れました。で、今回“紅蓮華”を出すことになったときに、“紅蓮華”は「守りたいものがあるから攻めていく」っていう以前のわたしのスタンスではなくて、守りたいものができてしまったことによる嬉しさ、つらさみたいなものも組み込んである曲なんですね。

 わたし自身が裏切れない、やめられない、止まれない。生きることをやめられないし、死ねない――要するに、LiSAであることをやめられない、やっていかなくちゃいけないっていう、やっぱりその時点の素直な苦しかった気持ちも含めてます。だけど、自分がそれでもまだ咲きたい、まだ進みたいっていう希望を、横浜アリーナでのライブの前にちゃんとみんなに伝えたくて。それまで、不安要素が多いところをみんなにたくさん見せてしまっていたので、今の自分の気持ちをちゃんと伝えなくちゃって思ったのが“紅蓮華”です。

――受け取る人を不安にさせてしまう状態というのは、その当時の時分のメンタルにどんな影響をもたらしていたと思いますか。

LiSA:大前提として、「みんなのことを不安にさせたくない」っていう気持ちがあります。自分の気持ちをわかってほしいということではなくて、「大丈夫。わたしは今、ちゃんと前向きだよ。ちゃんと自分のことを大事にできてるよ。これからも進んでいく心積もりでいるから」っていう気持ちを伝えなくちゃ、と思ってました。

――『紅蓮華』は15枚目のシングルで、これまでもあまねく物語に自分を重ね合わせてきたと思うんですけど、今回は歴代のタイアップ曲の中でも、かつてなくLiSA自身が歌詞に出てるんじゃないかなって思っていて。当然『鬼滅の刃』の物語やキャラクターは念頭に置きつつ、自分自身のことがアウトプットされた感覚が強いんじゃないですか。

LiSA:そうですね。これまでは、作品があるおかげで、あまり素直な言葉を使わないでよかった部分もあったけど、“紅蓮華”はわかりやすくないといけないって思いました。どちらかというと、今までは「アニメ側の気持ちに自分の気持ちを乗せなきゃ」って思ってたし、近いものを探そうって思ってた。だけど今回は、自分が書きたいことや自分が書きたい歌詞の伝え方を、作品に寄せる作業のほうが多かったというか。先に自分のことを書いて、作品に寄せていったっていう言い方が近いのかな。

――手法としては、かつての手法と逆のアプローチをしている?

LiSA:そうですね。

――LiSAの状況として気持ちを伝えるべきタイミングでもあっただろうし、それは結果『鬼滅の刃』とも相性がよかったのかな、と思うんですよ。なんか、炭治郎という人がLiSAに見えて仕方がないと思っていて。いわゆる剣戟が見どころのアニメなんだろうなあ、と思いつつ、実はキモになってるのは1話の序盤で炭治郎が街に炭を売りに行ったところで――。

LiSA:ははは。なんで? わたし、炭売らないよ(笑)。

――(笑)彼は家族みんなに「行かないで」って寂しがられながら家から出て行って、街に行く。街では、炭治郎が行くところ、行くところに人が集まってくる。自然体でいても引力があって、まわりに輪ができていく人なんだなって――炭を売りに行くシーンで、勝手にそう感じていたんだけど(笑)。

LiSA:(笑)はい。

――「とてもLiSA的な光景だな」って思いながら観てたわけです。だから炭治郎に無理やり寄っていく必要もなかっただろうし、自分の中にはない気持ちを『鬼滅の刃』に見出す必要もなかったんじゃないかな、と。最初から近い位置で書けていたのが“紅蓮華”の歌詞なんだろうな、と思っていて。

LiSA:そう思います。だから歌詞も、炭治郎として書いたというよりは、炭治郎を自分の中に一回入れて、LiSAとして書いた感じですね。

――さらにシンプルに言うと「炭治郎って、LiSAっぽいな」と思ったんですよね。彼は、自分が弱いことをわかっているし、勝てないと思ったときの行動もある意味的確だし、弱いことを認めた上で立ち向かっていくところがある。同時に、人のためを思って必死になれる部分もある。それこそ、今の自分を認める、でも行かなきゃいけないんだっていう気持ちも、今回の歌詞には現れてるじゃないですか。

LiSA:そうですね。だから物語を読んでる人、『鬼滅』を好きな人たちも「炭治郎の歌に聞こえます」って言ってくれるんだろうなって思います。

――象徴的な歌詞があって、それは《世界に打ちのめされて/負ける意味を知った》という箇所なんだけど、やっぱり自分自身が思うようにできなくて悔しい思いをした人から出てくるからこそ、説得力をもって響く言葉になってるなあって思うんですけども。

LiSA:そうそう、そこから歌詞を書いたんです。《世界に打ちのめされて/負ける意味を知った》から歌詞を書いていきました。《ありがとう悲しみよ》の部分をピックアップしていただくことが多くて、もちろんそこを印象的なフレーズとして残してるからそうなると思うんですけど、わたしが歌詞をバーッて何回も何回も書いて、「ここだ~!」って思った自分の中の正解は、《世界に打ちのめされて/負ける意味を知った》でした。このフレーズだけを残して、一回全部バーッて壊して、また最初から書きました。

――そこだけが、コアとして残った。

LiSA:そうです。そこが、今回の心臓です(笑)。『鬼滅の刃』自体、ほんとにめちゃくちゃ没頭して読んでいて、今もずっと追っかけてるんですよ。出てくる人はみんな素直で、だけどみんなちゃんとそれぞれに戦う意味があって、戦い続けていて。炭治郎は残酷な過去を背負っていても素直で、たぶん彼は禰豆子がいるからグレなかったんだと思うんですよね。炭治郎みたいに悲しい過去を背負ったときに、守るものがない人は、『鬼滅の刃』の世界では鬼になるんです。でも炭治郎には禰豆子がいて、守るべきものがあったから、強くならないといけなかった。炭治郎には唯一の希望、自分が生きる意味があって、わたしにとってはそれがLiSAで、みんながいるからわたしは希望を持ってLiSAでいられている。でもみんながいなかったら、たぶんできないんだろうなって思いました。

――守るべきものがある人は、鬼にならない。

LiSA:ならない。責任や守るべきものを放棄できた人は、鬼になれる。自分の弱さを言い訳にして、すべてを敵だと思える人は、鬼になれてしまうんですね。人は、守りたいものを捨ててしまえば、裏切ってしまえば、いつでも鬼になれる。モラルや、自分の中に「こうはなりたくない」っていう信念、「こういう人でいたい」っていう理想があったら、鬼にはならないんだろうなって思います。

――守るべきものは必ずしも人ではなくて、決めている覚悟や曲げられない気持ちでもあったりする、と。それを持っていれば、悪いほうに転ぶことはない、ということですかね。

LiSA:そうですね。この間スペインとパリに行ったときに、教会を回ったりしたんですけど、教会ってすごく静かなんですね。「なんでだろう?」って考えたときに、それはそういう場所を与えられているだけで、きっと人は何もなくても「自分が正しいと思うことをきちんとしよう」っていう気持ちになれたら、ずっと正しいことができるし、何かを願おうと思えば、ロザリオがなくたって本当は願えると思うんです。教会というのは、「ここに来たら、みんなお祈りや懺悔や考えごとをするんですよ」っていう場所を与えられていて、でも本当はすべて自分の心の中にあることなのかなって思ったんです。

――真理だなあ(笑)。

LiSA:(笑)そう思ったんです。

――場所や道具はひとつのきっかけであって、自分の中に揺らがないものがあるのかどうかはしっかり問われる、ということですね。

LiSA:そうですね。それを他人や世間のせいにしたり、自分を正当化している人たちが鬼になるんです。それこそ、スペインで携帯を盗まれたんですけど、その人たちはお金がなくて、それはお金がない現状が悪いんだって言って、人のものを盗るわけですよね。「これをお金に代えて食べ物を買って何が悪いの。お前ら普通にご飯食べられてるんでしょ、iPhone持ってるんでしょ」って。もう、鬼が現れたって思った(笑)。

――(笑)。

LiSA:世の中には、鬼がいっぱいいるんです。でも、そういう鬼のことを気にしたらダメって、小池一夫さんの本に書いてあった。小池一夫さんの『だめなら逃げてみる(自分を休める225の言葉)』っていう本が、わたしのお守りなんですけど。

――LiSAの内面には鬼はいない?

LiSA:天使と悪魔、みたいな話で言うなら、鬼はいます。鬼が住んでる。だから、それを大声で言ったら恥ずかしいっていう天使もいる。

――なるほど。話を戻すと、“紅蓮華”は自分自身の物語を描いた上で作品の物語にもシンクロできていて、その意味で非常に価値の高いコラボレーションであり楽曲になってると思います。

LiSA:ありがとうございます。そういう意味では、作者と物語とLiSAにとって神が一緒というか、信じてるものが一緒なんだと思う。だから、魂が近いんだと思います。

“紅蓮華”をみんなが喜んでくれた、楽しんでくれた、好きになってくれたことが自信になった

――『鬼滅の刃』のエンディングでは、梶浦由記さんが書かれたFictionJunction feat. LiSAとしての曲“from the edge”も担当していて。梶浦さんと一緒に作業するのは初めてだと思うんですけど、どんな印象を持ってましたか。

LiSA:「難しい曲を書く人だなあ」と思ってました。わたしからクラシックって、けっこう遠いから(笑)。倍音があったり、コーラスワークがあったり、全体のサウンド感として――梶浦さんの曲を歌う人たちの戦い方って、アニメ的に言うとハンマーで壊していく感じのイメージがあるんですよね。わたしは、ソードでシャキーンって斬っていく感じ。エッジの利いた、ストレートな細い針で刺すようなイメージ。だけど梶浦さんの曲は、もっと倍音が多くて、広くて、フッとやったらバババババ~ンっていう――。

――今の表現だと、読んでる人に全然伝わらない(笑)。

LiSA:(笑)。

スタッフ:対人兵器と、対軍兵器です。

LiSA:クラシックって、楽器を演奏する人、オーケストラ的な人がいっぱいいるじゃないですか。だけどわたしはひとりで歌っている。そこの違いはすごく大きいと思っていたので、自分は梶浦さんの音楽に関わることはできないのかな、と思ってました。

――なるほど。とすると、その印象は今回だいぶ変わったんじゃないですか。

LiSA:変わりました。変わったし、「梶浦さんの楽曲に関わらせてもらう」っていう気持ちで行ったんですけど、梶浦さんもわたしにすごく寄り添ってくれて。造語みたいな難しい言葉をたくさん使われるイメージだったので、「梶浦さんワールドで自分が表現できる楽器を持ってないかも」って思ってたんですけど、レコーディングのときに梶浦さんから「LiSAさんは(クイーンの)フレディ・マーキュリーだと思ったの」って言われて。梶浦さんたちがオーケストラだとしたら、わたしがたぶんフレディで、そこで「なるほどぉ」って思って。そこで、「わたしは細い針のままでもいいんだな」って思ったら、すんなりできたんです。梶浦さんにいっぱい引き出してもらって、すごく楽しかったですね。

――複雑な曲を書く人っていうイメージがあるけど、それこそ『ソードアート・オンライン』の音楽を聴いたりすると、ストレートで情熱的で、聴いた人が一発で高揚するような音楽を書かれる梶浦さんも素晴らしいな、と思うんですよね。その意味で、「対人兵器・LiSA」は梶浦さんにとってイメージが広がる歌の持ち主なんじゃないかなって思うし、そのトライアルの成果が曲に現れてますよね。

LiSA:ほんとに、梶浦さんは素晴らしい人ですね。音楽家の先輩としてというか――わたしは全然足下にもおよばないですけど――追求する心だったり、作品に寄り添う力はもちろんですけど、心遣いも含めて、ほんとに素晴らしい人だなって思います。曲も、わたしがひとりで錬ってきたものを投影したというよりも、梶浦さんとディスカッションをしていく中で、「こういう曲が作れるんだなあ」って思ったし、まだ見たことがない、聴いたことがない自分の声を聴いてる感じがしました。

――『鬼滅の刃』に関わったことで、“紅蓮華”で自身の想いをアウトプットすることができたし、梶浦さんとの共同作業も得るものが大きかった。この1枚の経験は、今後の自身にどんな意味をもたらしてくれると感じていますか。

LiSA:なんか、すごくバカみたいな回答になっちゃうけど(笑)、自信がつきました。“紅蓮華”をみんなが喜んでくれた、楽しんでくれた、好きになってくれたことが自信になったし、自分自身もやっぱり“紅蓮華”と“from the edge”ができたときに、自分の中で達成感があって、「すごくいいものが作れたなあ」って思える気持ちが強くて。それが、みんなの評価と同じだったことを感じられたので、すごく自信になりました。

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取材・文=清水大輔  撮影=中野敬久
スタイリング=久芳俊夫 ヘアメイク=氏家恵子

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