苦しい思いをネットで発信する若者を受け止める「SNSカウンセリング」の現状とは…?

社会

2019/7/30

『SNSカウンセリング・ハンドブック』(杉原保史、宮田智基/誠信書房)

 近年、LINEなどのSNSを用いて若者の悩み相談を受ける自治体や民間団体が増えている。

 その背景として、周囲の身近な誰かに直接悩みを打ち明けるよりもTwitterやFacebookなどを通じて心の内を不特定多数に向けて発信するという、若者のマインドの変化があげられている。また、2017年に起きた自殺願望をSNSで発信した若者たちが殺害された事件を機に国がSNSによる相談窓口の整備を打ち出し、それを受けた民間団体が「全国SNSカウンセリング協議会」を設立。相談窓口の増設やカウンセリングの品質向上が急務となっている。

『SNSカウンセリング・ハンドブック』(誠信書房)は、SNSカウンセリング相談員養成テキストとして発行された。編著者のひとりである、京都大学学生総合支援センター長・教授である杉原保史さんに現状をうかがった。

杉原保史 すぎはら・やすし●1961年、兵庫県生まれ。京都大学学生総合支援センター長・教授。教育学博士、公認心理師、臨床心理士。近著に『SNSカウンセリング入門:LINEによるいじめ・自殺予防相談の実際』(共著/北大路書房)がある。

――まずはSNSカウンセリングの定義から教えてください。

杉原さん(以下、杉原): 基本的にテキストによる相談で、LINEなどのアプリを用いて行うカウンセリングです。ほかにも、Twitterで「死にたい」と発信する人に呼びかけて見守ったり、アプリでいじめの通報を受けつけるなど、SNSを用いて相談につなげる多様な支援も含まれます。

 始まりは2017年の9月、子どもたちのいじめや自殺問題を重要視していた長野県が県内の中高生を対象に“LINEを用いたSNS相談事業”を実施することになり、私も関わっている関西カウンセリングセンターで相談実務を請け負いました。

■いきなり「死にたい」というひとことから始まる

――SNSカウンセリングと従来の対面や電話によるカウンセリングでは違いがたくさんあると思いますが、最も大きく異なるのはどのあたりでしょうか。

杉原:まず、相談者の表情や声のトーン、しぐさなどの“非言語情報”がまったくない点でしょうか。当初は心理援助の専門家から“音声も画像もなく文字だけで相談なんてうまくいくはずがないし危険でさえある。子どもたちがかわいそうだ”と、ネガティブな反応がありました。“スタンプの連打のような、相談にならないメッセージが押し寄せてくるのでは?”という懐疑的な声すらありました。

 しかし、いざふたをあけてみたら2週間の期間中に専用アカウントに寄せられたアクセスは1579件、相談対応件数は547件でした。これは電話相談の2年分の件数に相当する数で、想定以上のアクセス数に対応しきれませんでした。おそらく対面のカウンセリングと違って、誰にも知られずこっそり受けられる心理的なハードルの低さが利用しやすさの理由なのではと思われます。

――悩みの傾向や深さも、対面のカウンセリングとは異なりましたか。

杉原:はい。対面のカウンセリングでは出合わないような健康度の高い相談もありましたし、対面のカウンセリングに行くことが難しいであろう重度のメンタルヘルスの問題を抱える人もいるという、振り幅が大きい印象がありました。

 そもそも対面のカウンセリングを受けに行くにはある程度、心と経済に余裕が必要です。また本当にしんどいときには外に出ることも難しくなるため「少しましになったので来ました」とおっしゃる方が多く、辛さのピークではない時に利用する傾向があるのです。

 一方でLINE相談の場合は、最もしんどい時でもアクセスできる。それだけに最初の言葉が「死にたい」ということも少なくありません。自傷行為をした直後の相談と思われる際に「今、おうちに誰かいますか?」と尋ねても「誰もいない」という答えが返ってくることもしばしばです。そういうところから推察すると、やはり複雑な背景をもっていてふだんなかなか対面の相談につながらないような若者が、つながりを求めてアクセスしてくれているのだろうという印象を受けます。

 従ってカウンセリングも、「ともかく相談機関につながってくれてよかった」という状態からスタートします。「来てくれてありがとう!」という気持ちで向き合うことが大切になります。

――この本にも「カウンセラーが注意しなければいけない点」が書かれていますが、多重の問題を抱える人や希死念慮のある人の相談にあたるときなどは、カウンセラー側にも相当な緊張感やプレッシャーがあるかと思うのですが。

杉原:やはり「今から死にます」と書かれるとカウンセラーとしてはいちばんストレスを感じます。希死念慮には波があり、一番ひどいときをやり過ごすと冷静さが戻ってきます。それゆえ一定時間対話しながら何とかその波をやり過ごせば、ひとまず危機は回避できることが多いのです。ご本人の思いを聞きながらじっくりサポートするようにしていきます。考えをまとめてから文字を打つので、カウンセリング全体として1時間半くらいかかることも少なくありません。

本書は心理相談の有資格者に向けて書かれており、SNSカウンセリングの進め方や基本スキルなどを詳しく解説。実際の相談例にもとづいて作成された受け答えの例も紹介されている(本書より部分転載)。

■従来とは異なる未来のカウンセリングの可能性を拓く

――今後、SNSカウンセリングはさらに広がっていくと思われますか。

杉原:実際、需要はとても多いと感じています。長野での初めての実施から2年足らずの間に、多くの自治体で急速に広がってきています。学生だけでなく成人も対象に、これまで電話相談で受けていたありとあらゆる相談をLINEで受ける取り組みが始まっています。SNSカウンセリングにはデメリットもありますが、相談者にとってはそれを上回る大きなメリットがあるのだと思います。

 2018年3月に厚生労働省が実施した自殺予防月間のLINE相談には、友だち登録が1ヶ月で6万人もありました。たとえば職場の人間関係でうつ状態に陥っている方や、児童虐待の被害を受けている当事者、あるいはメンタルの不調に加えて雇用や子育ての問題、経済不安、介護中など多重の問題を抱えている方も少なくなく、潜在的に大きな需要があることがわかりました。私たちもただ受け止めるだけではなく、相談内容に応じて必要であれば対面の相談、児童相談所や行政の窓口、法律の専門家につなぐことも任務の範疇だと思っています。

 今後はテクノロジーの進化とともに、SNSカウンセリングを支える技術の基盤もさらに変化を遂げていくでしょう。この本を手にとってくださるカウンセラーの方は、まずはこれを足がかりにSNSカウンセリングという新たな領域の心理援助に取り組んでみてください。そのうえで“対面をベースに構築された従来のカウンセリング”をどのように時代にフィットしたものに進化させていくのか。カウンセラーにも新しい時代のカウンセリング法を開発・提案する視点が必要になってきており、今はその分岐点に来ているのではないかとも感じています。

――最後に、今誰にも悩みを打ち明けられずにいる人へメッセージをお願いします。

杉原:SNSカウンセリングは、気兼ねなく利用できる身近な相談ツールです。病院やクリニックに対面のカウンセリングを受けに行くのがしんどいなと感じているとき、それでも誰かに気持ちを受けとめてほしいと思うときなどに、少しだけ勇気を出してアクセスしていただけるといいなと思っています。

取材・文=タニハタ マユミ

※SNSカウンセリングに対する問い合わせは「全国SNSカウンセリング協議会」まで。