「実況は“筋肉”と同じ。日々鍛えていないと、試合で使えなくなる」実況アナウンサー・清野茂樹が語る【プロレス×言葉】

インタビューロングバージョン

2019/8/9

2006年からプロレス実況で活躍してきた清野茂樹さん。試合の空気、会場の空気を読みながらリアルタイムで言葉を発し続け、試合を観ている人たちをより盛り上げるために、実況アナウンサーが心がけていることとは? また、今のプロレスラーたちが発する言葉に思うこと、心に残るレスラーの言葉についてもたっぷりと語ってもらった。

ダ・ヴィンチ9月号掲載の「実況アナが語る【プロレス×言葉】」の完全版です。

プロレスは、しゃべりも含めて“エンタメ”です

──プロレスの実況アナウンサーになりたいと、いつ頃から思っていらしたんですか?

清野 子どもの頃から古舘伊知郎さんの実況を聞いていて、「これをやりたい」と思ってはいました。ただ明確にこの世界でやるんだ、と思ったのは21歳くらいですね。

──プロレスラーになりたいと思ったことは?

清野 一度もないです。自分にはレスラーは無理だと思ったのもありますが、盛り上げ役である実況アナウンサーのほうが輝いて見えていましたね。子供心に、言葉の使い方がすごいなと。当時はプロ野球も流行っていましたが、野球の実況にはすごさを感じなかった。僕は、野球はスポーツで、プロレスはエンターテインメントだと思うんです。後から思ったことですけど、野球の実況は“勝負”の状況を描写していて、プロレスの実況は“物語”を語っているんですよね。

 当時のプロレスは、試合のテンポが今と全く違っていたんです。ゆっくりで、間があって……だから実況でも全然関係ない話をするんですよ。たとえば、古舘伊知郎さんはアントニオ猪木さんを「ヘラクレスの息子」、ハルク・ホーガンさんを「大海原を席巻したネプチューン」と、神話の人物にたとえて語ったりする(笑)。非常にロマン的というか、時空を飛び越えて物語を勝手に語るようなところにすごく惹かれましたね。

実況アナは「飛べ」と言われたら、すぐ飛べないといけない

──ご著書の『コブラツイストに愛をこめて』の中で、実況の大前提として、ベストが出てこなければ「ベストに近いベターな言葉を思い切って口にできるかどうかが大切」とおっしゃっていたのが印象的でした。

清野 プロレス実況の仕事で一番よくないのは、言葉が詰まって出てこないこと。だから実況中はベストではなくても“ベター”な言葉をすぐに言わなければいけない。試合はどんどん進行しているわけですから、僕ら実況アナウンサーも常に「今ここから飛び降りろ!」って言われているようなもの。すぐに飛べない人には向いていない職業かなと思う(笑)。実況って“筋肉”と同じなんですよ。日々鍛えていないと、試合で使えなくなるんです。

 試合の描写も、ただ「ここで飛びました! ドロップキック!」と言っているだけではおもしろくない。たとえば、田口(隆祐)さんが脱線してふざけたことをやりだしたのに、実況がまじめにやったら、ちぐはぐな感じになりますよね。だから試合の動きに合わせて、こちらも脱線していく。田口さんの得意技であるヒップアタックにかけて、「田口選手、尻上がりに調子がよくなってきましたね」とお尻で言葉遊びをしてみたり(笑)。そうすると、解説者から「尻すぼみに終わらないか心配です」って返ってきて、最後は僕が「尻切れトンボに終わりました」で締める(笑)。でも、勝負論のありそうな、まじめな試合ではまじめに語ります。しゃべりも含めて、エンターテインメントじゃないといけないんだと思います。

技名は、文脈を大事にしたい

──技の名前に関して、もともと誰が使っていたかにこだわって、細かく呼び分けている、というお話もおもしろかったです。

清野 つまらないこだわりだとは思うんですが、“文脈”を大事にしたいんですよ。実況は今を切り取っているのだから、今を語ればいいんですけど……新日本プロレスには47年という歴史があるので、その文脈に合わないことはあまり言いたくない。たとえば「ドラゴン・スープレックス」という技は、もともと(ドラゴンと呼ばれた)藤波辰爾さんが使っていたから、そういう名前がついた。だから藤波さんの弟子である棚橋(弘至)さんがやる時はそのまま「ドラゴン・スープレックス」でいいんですが、別の選手がやった時には「フルネルソン・スープレックス」と呼んだほうがいいかな、と思ってしまう。

──レスラーへのリスペクトが伝わってきます。

清野 いやあ、あまりそこに賛同してくれる方はいないのですが(笑)。でもたまに地方の会場で、50代くらいの年季の入ったファンが中継後に「清野さん、あの言い方、いいですねえ」と言ってくださることはあります(笑)。僕以外の実況の方は、誰がやっても「ドラゴン・スープレックス」と言っていたりするので、もし中継ディレクターから「統一してください」と言われたら、そうするしかないとは思っています。今のところは言われていないので、これからも使い分けていきます(笑)。

棚橋弘至は「媒体レスラー」

──棚橋選手に「言葉」について答えていただいたのですが、棚橋選手の言葉の使い方についてどう思われますか?

清野 すごく考え抜かれていますよね。試合後のコメントにしても、聞いている人たちがテーマを見つけられるようなことを言う。「100年に一人の逸材」っていうキャッチコピーも、自分で考えて自分で言っていて……最初に聞いた時は「自分で言うの!?」と驚きました(笑)。SNSも種類ごとに使い分けて、雑誌や新聞よりも早くダイレクトにファンに言葉を届けている。しかも、どのメディアよりも影響力があったりする。もうご自分がメディアを兼ねているというか……もはや「棚橋弘至」という媒体をも持ってしまった「媒体レスラー」ですね(笑)。
 棚橋さんは、意識改革をしたんだと思います。プロレスの人気が低迷していた時代に、どうしたらいいかを考えて、言葉で自分を表現して、自分から発信することにした。今多くのレスラーがそうするようになったのは、棚橋さん、それに同時代に登場した中邑真輔さん、真壁刀義さんたちが作った流れ……功績なんじゃないでしょうか。

──以前は、レスラー自身はそういったことはしていなかった?

清野 しなかったですね。昔は、実況アナウンサーに語り部としての役割があったんですよね。古舘さんは、アントニオ猪木さんの試合に「闘い模様がバラードだ」と実況をつけて、全盛期を過ぎた猪木さんのプロレスを言葉で補っていた。それも見事だったなと思います。「このことを、うまく伝えるにはどうすればいいか」ということを考える、広告代理店的なこともしていた。レスラーのキャッチフレーズも、実況アナウンサーがつけたりしましたし。
 今はみなさん、闘いのテーマとか意味合いのようなものも自分からていねいに語られますよね。練った言葉を使うことも多い。70~80年代に猪木さんがマイクアピールで発した言葉は、「誰でもいい。俺の首をかっ切ってみろ!」のような感情的というか衝動的なものが多かったんですが、僕はそういうのも好きです(笑)。お客のことなんか関係ない!っていうような、リアルな感情があふれてしまうマイク。そういう言葉を使うタイプのレスラーにも、今後出てきてほしいなと思いますね。わざと大げさに言ったりする部分と、リアルな部分が混ざっているのがプロレスの魅力なんじゃないでしょうか。

──内藤哲也選手のマイクアピールについては、ご著書で「ワクワクする」と書いていらっしゃいましたね。

清野 内藤さんは、おもしろいですね。あんなにゆっくりなマイクアピールは、日本のプロレスの歴史になかったんじゃないかなと(笑)。すごくためてしゃべるから、「次、何を言うんだろう!?」って気になっちゃいますよね。あと「お客さん目線」で語る、というのも新しかった。内藤さん自身が熱心なプロレスファンだからできることだと思います。ファンが、特にマッチメイク(対戦の組み方)についてモヤモヤしていると、それを代弁するようなことを言いますよね。あれはうまいなあと思います。

──ほかに印象に残っている選手の言葉はありますか?

清野 ぱっと浮かぶのは、中邑真輔さんの「一番スゲェのはプロレスなんだよ!」。あれは真理をついた言葉だなと思いますね。ちょうど格闘技が全盛の頃で、ファンの間でも「俺たちが信じていたプロレスは強くないんじゃないか……?」というアイデンティティ・クライシスがあった。そういう時に、レスラーの側が「一番スゲェ」と言ってくれたことでファンは救われたんです。一番「強い」じゃないところがミソ。格闘技の要素ももちろんあるし、宝塚のような役で魅せる部分もあるし、きらびやかに自分を見せる入場は、ファッションショーのランウェイのよう。マイクパフォーマンスには、相手よりおもしろいものを返すという大喜利的な要素もある。中邑さんは、より深く人々を熱狂させるエンタメとしての力がプロレスにはあるということを、ひとことで言ってくれたんだなと思います。

武藤敬司がふと見せたプロレス観

──清野さんはパーソナリティとしてラジオ番組『真夜中のハーリー&レイス』を9年間続けていらっしゃいます。プロレスラーはもちろん、俳優や芸人らプロレス業界以外の方も、たくさんゲストに招いていらっしゃいますね。どういう基準で選ばれるのですか?

清野 「誰でもいいようで誰でもよくない」というのがコンセプトです(笑)。プロレス関係の方を呼ぶ時でも、なるべくほかでは発信していない人を呼んで、ここでしか聞けない話をお聞きしたいなと思っています。

 

番組名ともなった「ミスター・プロレス」ことハーリー・レイスさんと清野さん。
レイスさんは、8月1日(現地時間)、76歳で亡くなられた。

 

──これまで特に印象に残っている回はありますか?

清野 どの回も印象に残っていますが……先日の武藤敬司さんの回も印象的でしたね。毎回番組の冒頭で、“ドレッシングルーム”=スタジオと副調整室を隔てるガラスの向こうにいるゲストを僕が実況風に紹介しているので、武藤さんに「ガラス越しにポーズをとってもらえますか?」ってお願いしたんです。だいたいみなさんやってくださるんですが、武藤さんは「なんで? ラジオだからやっても映らないじゃん!」って(笑)。武藤敬司という人は、やっぱり合理主義なんだなあと思いましたね。理屈に合っているか合っていないかで、ジャッジする。大観衆がいるなら大技のムーンサルトプレスもやるけど、いないなら、ヒザのダメージを考えて別の技を狙う。武藤さんのプロレス観みたいなものがそれでよくわかって、おもしろかったです(笑)。

 

清野さんがパーソナリティを務めるラジオ番組
『真夜中のハーリー&レイス』
毎週日曜日23時~ ラジオ日本 

棚橋弘至、前田日明、武藤敬司らプロレスラーはもちろん、漫画家の諌山創、嶋田隆司(ゆでたまご)、ミュージシャンの綾小路翔、映画監督の本広克行など様々な分野の“挑戦者”=ゲストを招いてトークを行う“30分1本勝負”のラジオ番組。プロレス以外の話題に終始することがあるのもおもしろい。ポッドキャストでは“延長戦”を配信!

 

 
 

『コブラツイストに愛をこめて 
実況アナが見たプロレスの不思議な世界』

清野茂樹 立東舎 1600円(税別)
「プロレスラーそのものに近い」という実況アナウンサーの仕事内容とその本質について、オカダ・カズチカ、内藤哲也、中邑真輔ら至近距離で接してきたレスラーたちについて、敬愛する古舘伊知郎について……実況アナならではの視点で“プロレス”を書き尽くす。ミラノコレクションA.T.、獣神サンダー・ライガーとの対談も収録。