『ダンまち』が愛される理由とは何か――原作・大森藤ノ ロング・インタビュー(前編)

マンガ・アニメ

2019/9/7

『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅡ』 毎週金曜24時30分より、TOKYO MXほかにて放送中 (C)大森藤ノ・SBクリエイティブ/ダンまち2製作委員会

 好評放送中のTVアニメ『ダンまちⅡ』特集の最後を飾るにあたり、原作者・大森藤ノに登場していただいた。TVアニメ1期からアニメ制作現場に本格的に関わり、劇場版では脚本を担当した大森氏にとって、『ダンまち』は単なるデビュー作とは違う特別な作品になっている。前編となる今回は、TVアニメ1期からアプリゲーム『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか メモリア・フレーゼ』まで、他媒体の関わり方や、自身と作品に及ぼした影響を聞いた。

キャストさんにキャラクターを乗っ取られたような感覚があった

――アニメ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅡ』をここまでご覧になって、どんな手応えやご感想を抱かれているでしょうか。

大森:現場のスタッフさんとキャストさんが、ひとつのファミリアのような感じがあるんです。スタッフさん、キャストさんがみんなで頑張って、笑いあったり、譲れないところは殴り合ったり、熱く作品づくりができている現場だなと、TVアニメ1期の頃から感じていました。そういった積み重ねが、2期で花開いているのかなと。特に2期は「ファミリア編」ということで、多くのキャラクターたちが結集していく展開になっているので、作品の内容と現場の盛り上がりがシンクロしている感じがします。現在はすでに2期の後半戦の制作が進んでいるんですが、これまで培ったチームワークが良い形で結実することを楽しみにしています。

――ご自身の小説がアニメ化するということは、大森先生にどんな影響や刺激がありましたか。特に1期のアニメ化は大きな話題となりましたが、そのことで大森先生の執筆にどんな影響を与えましたか。

大森:大げさに言ってしまうと、アニメ化したことで、自分の固定観念が壊されたなと思います。アニメ化する前は作者として「アニメにするならこうなるべき!」という頭の固いところが、少なからずあったと思うんです。でも、スタッフさんとの脚本会議やキャストさんの演技で、自分の思ってもいなかったものを作っていただいて、それが化学反応を起こしていった。ヘスティアってこういう声なんだ、ベルってこんな声を出すんだ、という驚きがあって。キャストさんにキャラクターを乗っ取られてしまったような感覚さえありました。原作者の思惑を軽く飛び越えられてしまったな、というか。

――TVアニメ1期では、アニメの現場にどんな関わり方をされていたのですか?

大森:最初にプロデューサーさんから「原作者としてではなく、スタッフのひとりとして現場に入ってほしい」というリクエストがあったんです。でも、小説家って人見知りなところがあるので(笑)、TVアニメ1期の制作に参加ばかりの頃は、おずおずと話をしていたのですが、脚本会議を重ねていくうちに「意見を言わないことが、一番の後悔になるかもしれない」と思って。途中からは、脚本家さんに「自分はこう思いますが、どうでしょうか?」とお伺いを立てていくようにしていました。そうやって、現場に関わるようになったことで、自分の視野が広がったような感覚があって。音響監督さんに「こういう芝居はどうでしょう?」とか、脚本家さんに「こういうト書きを入れてみてはどうでしょう」と自分から発言していきました。

――おそらくTVアニメ1期の制作中は、原作では原作の単行本第7巻、第8巻あたりを執筆されていたと思いますが……。

大森:そうですね。ちょうど2期でアニメ化をしているあたりを、TVアニメ1期のアニメの制作中に書いていました。

――第7巻、第8巻に、アニメ化の影響は出ていますか?

大森:いやー、すごい影響が出ていますね。原作の第8巻の執筆が、アフレコが終わったあたりだったのかな。アニメの2期最終話のヘスティアのセリフは、原作を執筆している時点で、水瀬(いのり)さん(ヘスティア)の声で再生されていました。だから、2期の収録はすごく楽しみでしたね。

――じゃあ、原作の執筆中は、キャストさんの声のイメージで、セリフを書いているということですね。

大森:ヘスティアのセリフを書くときは、頭の中で水瀬さんの声として再生されています。セリフを書いた後に「ああ、これじゃあ、ただの水瀬いのりさん本人だ」と思って、セリフを書き直すこともありましたね(笑)。

――水瀬さんは『ダンまち』のヘスティア役が初のヒロイン役だったんですよね。

大森:はい、初主演というお話を1期の収録の頃に聞きました。すごく頑張ってくださったので、本当にうれしかったです。でも、初主演とは思えないほど頼もしい感じがありました。松岡(禎丞)さん(ベル・クラネル役)と一緒に、水瀬さんのことを「神様」と呼んでいました。「あの人はすごい!」と称えまくってましたね(笑)。松岡さんも、「負けられない」とおっしゃっていて。主演のおふたりがすごく良い関係だなと思っていました。

ヘスティアの人気は、先頭打者が満塁ホームランを打ってしまったような爆発力がありました

――原点は『ダンまち』という作品ですが、小説とアニメによって、それぞれ違う魅力が芽生えていると思います。大森先生はそれぞれの特徴や違いをどのように感じていますか。

大森:たとえば小説では心理描写をたっぷりと書くことができますが、アニメではそれを絵一枚で解決してしまうこともあったりして。小説とアニメどちらが優れているかは言えないですし、一長一短だとは思いますけど、カルチャーショックみたいなものを味わいました。

――過去のインタビューでは、TVアニメ1期の「ミノタウロス戦」(第8話)にすごく期待を寄せられていたとおっしゃっていましたね。

大森:そうですね。原作を書いていたときは、ミノタウロス戦にすごく力を注いでいたので、アニメになるのが楽しみだったんです。小説では、ある種の王道の戦闘シーンとして書いているのですが、実際に映像になると、キャストさんの演技と劇伴(BGM)によって、波のようなものが生まれていて。ある種の神々しさのようなものが感じられて、すごく印象に残りました。小説とは感じ方が全然違うものになっているなと。おそらく劇伴を担当された井内啓二さんの楽曲によるものと、アニメの演出、キャストさんの演技によるものが大きいんだろうなと思いました。当時、初見で観たときの印象と、現在、観るときでは印象が変わって見えるのも、すごいなと思いますね。

――原作を執筆するときに、キャラクターのビジュアルイメージは明確にあるものなんですか?

大森:第1巻を執筆しているころは右も左もわからなかったので、担当編集さんといっしょに相談して、参考資料などをイラスト(キャラクター原案)のヤスダスズヒトさんにお渡ししたほうがいいのか、などといろいろ試行錯誤していたのですが、編集さんが「すべてヤスダさんにお任せしたほうが良いと思います」とおっしゃって。自分から注文をつけたことはあまりないですね。ヤスダさんも原作を読み込んでキャラクターを描いてくださるので、こちらもお任せしています。こちらの想定から大きく膨らんだキャラクターと言うと、ギルドの受付嬢のエイナ(チュール)ですね。当初、自分が書いているときは、眼鏡をかけていなかったんですが、ヤスダさんが眼鏡をつけてくださって。ほかのキャラクターと差別化できて良かったなと思います。

――アニメになったことで、ヘスティアのキャラクターの人気も際立ちましたね。

大森:そうですね……。あれは誰も想像できなかったんじゃないかと思います。先頭打者が満塁ホームランを打ってしまったような(笑)、よく理由のわからない現象だったと思います。

――TVアニメ1期のあとにOVA『ダンジョンに温泉を求めるのは間違っているだろうか』が制作されました。こちらはオリジナルストーリーになっていますが、大森先生はどんな関わり方をされていたのでしょうか。

大森:あれは脚本の白根(秀樹)さんが暴走してくださったエピソードです(笑)。「ヤマト・命が温泉好き」という、ひとつの設定をすごく膨らませて。「命ってそんなキャラクターだったの?」と自分が思うくらいの内容になりました。でも、生真面目というイメージが強かった命のキャラクター性が膨らんで、温泉があるとハメが外れる……という、良いキャラクターになったなと。そこは、白根さんの功績だと思います。赤﨑(千夏)さん(ヤマト・命役)もぶっとんだ演技をしてくださって。命はこのエピソードですごく人気が出たんじゃないかなと、個人的には思っています。

――アニメによってキャラクターが膨らんでいったわけですね。

大森:良い意味で、作品を使って悪ふざけをするスタッフさんたちなんですよね。白根さんをはじめとするスタッフ陣は歴戦のメンバーなので、自分が右往左往している間に、どんどん話が膨らんでいく感じがあって。OVAなどのオリジナルストーリーは、あまり自分が口出しをしないほうが良いのかなと。良い意味で「お祭り感覚」で作っていただくのが、良い意味でハメを外してもらえるのかなと思うようになりましたね。

――その後、本編のヒロインであるアイズ・ヴァレンシュタインを主人公にした『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか外伝 ソード・オラトリア』もアニメ化されました。

大森:『外伝』のアニメ化は、自分の中では「チャレンジ」だなと思っていました。「(ソード・)オラトリア」の主人公アイズは、本編では最後に救いたいヒロインだという位置づけが自分の中で確立されているので、(本編では彼女の)設定をなかなか回収できないんです。なので彼女の感情移入がしにくいキャラクターになってしまっている感じがあって。レフィーヤ(・ウィリディス)というアイズのバディのようなキャラクターを出して、いろいろと掘り下げてはいるんですが……。そんなアイズの『外伝』をアニメ化することはまったく考えていませんでした。でも、自分としては『オラトリア』のおかげで世界観が固まったところがあったので、アニメになったことで世界観の奥行や幅をすごく広げることができたなと思います。先月(2019年7月)に『オラトリア』の12巻を上梓したのですが、自分としては『外伝』の集大成のつもりだったんです。そうしたら、ファンのみなさんの反響がすごく段違いに大きくて。ここまで走ってきて良かったな、と思いました。

――最後にとっておこうと考えていたヒロイン・アイズを、『外伝』として掘り下げるという試みに挑まれて、どんな手応えを感じましたか。

大森:そうですね。本編だとアイズはミステリアスなところがあるんですけど、『外伝』では意外とポンコツでお茶目なところがあるんです。『外伝』のアニメでは大西沙織さんの演技のおかげで、アイズのかわいらしさが出ていたと思います。

『ダンまち』シリーズの世界観がこんなにも広がるとは思っていませんでした

――そのあと『ダンまち』シリーズでは『劇場版 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか -オリオンの矢-』が制作されています。この劇場版では、大森先生は脚本を担当されていましたね。

大森:劇場版が決まる前から、「いつの日か劇場版をやりたいな」とは思っていたんです。ラノベの作品が続々劇場版アニメ化されていくなかで、一度はチャレンジしてみたいと考えるようになっていて。TVアニメ化したあとは、劇場版をやるとしたらどんな話にすると良いだろう、とずっと妄想していたんです。それで劇場版の企画が動き出したときに、自分から脚本をやりたいと立候補させていただいたんです。そうしたら、スタッフさんもぜひと受け入れてくださって、挑戦させていただきました。でも、最初に提出したプロットは「劇場版の尺(上映時間)に入らない」ということでボツになったんですけどね(笑)。だから、『オリオンの矢』は最初に考えていたものと全然違ったものになっています。急遽作り直したものではあるんですが、ストレートでわかりやすくて、直球で刺さる脚本は『ダンまち』には映えるな、という感じがありました。

――脚本を書くことは、小説家として小説を書くときと、内容の違いがありましたか?

大森:もちろん脚本においても使える、小説の技術はあると思うんですけど、やはり映像化前提で書く脚本は、小説とぜんぜん違っていたので、難しさを感じました。意図していないところを監督の演出で拾ってくださって、すごく助けられたました。自分で書いていて「ああ、映像ではこうなるのか」というところもあって。経験値がまだ浅いんだなと感じるところもたくさんありました。

――小説は読者に読んでもらうものですが、脚本はスタッフが映像を組み立てるための設計図になりますよね。

大森:そうですね。小説は読者の想像力に委ねるところがあるんです。行間を読んでいただいて、読者が十人十色の感じ方をしていただいて、それで良いと思っているんです。でも、アニメは絵がつくし、音楽がつくことで、観客を誘導したい感情線があるような気がしていて。そこに導くのも難しいですし、あと一番大変なのは尺との戦いですね。お客さんに映画館の座席についていただいて、限定された時間と空間で何を見せるかという、取捨選択の連続でした。そこが歯がゆいところでもあり、挑戦しがいのあるところでもありました。

――実際に『オリオンの矢』を作ってみて、どんな手応えがありましたか。

大森:やはり『ダンまち』はキャストさんの演技の圧がすごいんですよね。キャストさんの演技に助けられているところがすごくあって。悔しくもあり、嬉しくもあり、といったところがありました。松岡さん、水瀬さん、アルテミス役の坂本真綾さんの演技がすばらしくて。あのお三方ががんばってくださったから……というのも変なんですけど。お三方のがんばりで、すごく良いものになったと思います。

――大森先生は劇場版の脚本だけでなく、アプリゲーム『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか メモリア・フレーゼ』においてもシナリオを執筆されるなど、深く関わっていらっしゃいますね。

大森:基本はゲームのライターさん、スタッフさんといっしょにプロットの枠組みを話し合っています。その中で、書きたいところがあると、GA文庫さんに謝りつつ、自分もゲームのシナリオを書かせていただいています。よくキャストさんともお話しているんですが、たぶんアニメよりもゲームのほうがたくさんしゃべっているんだと思います。そのぶん、キャラクターの要素がよくわかります、と言われています。

――『メモリア・フレーゼ』ではキャラクターの新しい側面もたくさん掘り下げられていますね。

大森:自分の中で、『メモリア・フレーゼ』は「ギャグ4、シリアス3、原作で描かれていない部分3」のバランスでやっているつもりなんです。ハメを外せる部分もありつつ、キャラクターの背景も描きつつ、それを発展させつつ、冒険物語を作ることができればと。自分にとっても、すごく勉強になっています。

――原作小説やアニメだけでなく、いろいろなメディアで展開することで、より世界観が広がっているわけですね。

大森:小説も長期シリーズになってきましたからね。改めて設定を確認することもありますし、整理しながら、新たに書いているところがあるので。『メモリア・フレーゼ』も『ダンまち』シリーズに良い化学反応を生んでいると思います。

――『ダンまち』シリーズの世界観では、まだまだ書きたいことがあふれている感じですね。

大森:書き始めたころは、『ダンまち』シリーズの世界観がこんなにも広がるとは思っていませんでした。この世界観が広がったきっかけは、やはり外伝『オラトリア』を書いたことですね。『オラトリア』が出たことで、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか ファミリアクロニクル』という『外伝』も出すことができましたから。そして、ふたつの外伝があったから、『メモリア・フレーゼ』で大きな展開ができたのかなと思います。『外伝』の功績は大きいです。

後編に続く

取材・文=志田英邦

『ダンまちⅡ』HPはこちら