ネタバレあり要注意!『スペシャルアクターズ』上田慎一郎監督×大澤数人さん対談

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公開日:2019/10/26

 興行収入31億円を記録し、日本アカデミー賞の最優秀編集賞も受賞した映画『カメラを止めるな!』。その上田慎一郎監督がメガホンをとった新作『スペシャルアクターズ』(以下『スペアク』)が、現在全国公開中です。

『カメ止め』同様、『スペアク』も無名の俳優を起用し、役者へのあて書きで描かれた完全オリジナル作品。オーディション応募者数1500通以上の中から主役を射止めた、新人の大澤数人さんと、われらが上田慎一郎監督に特別対談していただきました~。

われらが上田慎一郎監督(左)と、主演の大澤数人さん

――本日はよろしくお願いいたします。大澤さんは控え目な性格ゆえ、インタビューでも獲れ高が少ない、というお話をうかがっていますので、今日は大澤さんの魅力をできるだけお伝えできればと。

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(大澤)…よろしくお願いいたします…(小声)。

――まずは大澤さんに伺いたいのですが、なぜ、この作品のオーディションに応募しようと思われたんですか?

(大澤)はい…あの、絶対、今回のこの松竹ブロードキャストには応募しようと思っていて…。事務所に所属していない僕のような人間としては、映画に出られる道があまりないので…。以前応募したときは、ワークショップまでは受けられたんですが、そのあとキャストにはなれなかったので…。今回、上田監督が担当されると発表されてからは、応募し忘れないように毎日、スマホで確認して…。応募しました。

(上田)その前のワークショップには応募し忘れたんやな?

(大澤)はい…。気が付いた時にはもう締め切り2日後で…。

――無事応募できて何よりでしたね。上田監督は、どうして大澤さんの起用を決めたんですか?

(上田)ワークショップには1500通以上の書類応募があって、年末年始に僕とふくだ(奥様で、本作の監督補を務めたふくだみゆき監督)で、まずオーディションに来てもらう200人を選んだんです。数人は応募写真から異質な魅力を感じました。カメラのレンズを貫かんばかりに、目力があったんですよ。

――大澤さん、オーディションに受かったときの心境はいかがでしたか?

(大澤)はい…1次選考に受かった時は、静かに受け止めることができたんですが…。

 2回目に受かった時は、だんだん胸も張り裂けんばかりになって…。

 最後に「50人から15人に選考される」という段階が一番難しいと思っていたので、ドキドキしていました。

(上田)なんでそこが一番難しいと思ったの?

(大澤)はい…やはり精鋭たちが来ていたので、その中で最後の15人に残るって、大変だなあ…。と。

(上田)オーディションの時に、50人を25人ずつの2班にわけて、最後に15名まで絞ったんですよね。数人がいる班のほうが、最後まで残った人が多い。それくらい曲者が多い班でした。

――大澤さん、ワークショップが終わって、まさかの主役に抜擢されたときの心境をお聞かせください。

(大澤)はい…、でもしばらく主役という意識はなかったんです…。監督にも「横並びでがんばろう」と言われていたので、あまり主役を意識してなくて…。

 でもある日、撮影時に演技がうまくできないときがあって、監督に呼ばれて「主役なんやから頼むで」と言われて初めて「そうか、そういう自覚をもたないと…」って思いました。

(上田)ホントにそれまで主役ってわかってなかったの(笑)? 俺に現場で呼び出されて初めて自覚したんだ(笑)?

(大澤)…はい、それまではあまり意識してなかったです…すみません…。

(上田)数人に「主役なんやから、頼むで」って言ったのは覚えてますね。

 その時はなんか現場が多少ぴりぴりしていて、で、1回現場の空気を入れ替えないといけないなって思って。

 今考えると、僕は要所要所で数人に緊張を保つための声かけをしていましたね。数人には緊張感を持ちながら芝居をやって欲しかったので。 だから、ま、これは演出やね(笑)。

――上田監督は、息をするように演出されてますよね。まるで条件反射のように。

(上田)そうですね、それは多分場数もあるかもですね。僕、3~4年ずっと定期的にワークショップをしていたので、役者が芝居したらすぐフィードバックするんですよね。それで、自分の中で理屈が固まる前に、言葉が出て、演出していることはありますよね。

――上田監督、大澤さんを主役に選んだ理由をお聞かせください。

(上田)まずはワークショップ中、数人が一番目が離せなかった。芝居をしてる最中だけではなく、お菓子をつまんでるときだったり、ほかの人の芝居を見学してるとこだったり。存在そのものがつい見ちゃう。次の言動が読めない。サスペンスをつねに身にまとっている(笑)。

 これはすでに本人が身に着けている個性なんで、彼を撮れば、面白い作品ができると思いました。

 あと、ワークショップの最中から、この作品は全国100館以上で公開することはささやかれていたので、全国公開で、数人のような主人公はいないんじゃないかなと思って。自分も見たことのない、今までにない主人公にしたかったというのもあります。

 この作品は、物語で勇気づけられる人も多いと思うけど、数人のような気弱で不器用な青年が、長編映画の主役で頑張って職務をまっとうした、という事実が、多くの人に感動を呼ぶと思いました。

――それは確かにそう思いました。大澤さんが画面に登場したときは不安でしたが、最後のほうはもう「頑張れ!」と、勝手に応援している自分がいました。感動を呼びますよね。

 大澤さん、役作りでの工夫はございましたか?

(大澤)役作りですか…。一度YouTubeで「気絶」って検索して…見てみました。でも、本当の気絶は、スッと気絶してたんで、これはちょっと違うかな、って…。参考になる気絶の資料を監督からご提案いただいて…、練習しました。

 あと、「1回ホントに気絶してみたら」って言われました…。

(上田)それ、冗談で言ってるやつや(笑)。

仲良しっぷりがほほえましいです

――大澤さん、上田監督はどのような監督さんでしたか?

(大澤)はい…。上田監督は誰よりもタレントさんというか、サービス精神がありますので…。説明とかも大きな声でとっても上手でわかりやすくて…。すごいなって。上田監督は引っ張って行ってくれます。

――いつか走馬灯に流れるような、印象的な出来事やエピソードはありますか?

(大澤)そうですね…。走馬灯に流れるだろうって思うのは、クライマックスの集会所での、立ち回りの撮影の時に「現場では1回しか撮れない」っていう緊張感だったんですが、上田監督だけ「まあ、1回でできなくてもいいんだよ。一生懸命やってくれたらそれでいい」と言ってくださって…。

(上田)いい話やんか~。それ、もっと言っていこう(笑)。

――それ言ってもらえて、ずいぶん気が楽になりましたよね。

(上田)あのシーンは、ホントは一発で撮りたいとは思っていました。血を吹くシーンがあるので、失敗すると撮り直しが難しい。それに、一発でOKじゃなかったら、みんな急に意識してなんとかこなしていこうと思っちゃうものなので。あのシーンがうまく一発で撮れて、この映画の手ごたえを感じました。よっしゃ、いける、と。

――上田監督、やはりこの作品は、どうしても大ヒット作『カメラを止めるな!』との比較をされてしまうと思うのですが…。監督の今現在の心境をお聞かせいただけませんか?

(上田)…そうですね、ある程度『カメ止め』を経て、ちょっと図太くなったとは思っています。『カメ止め』は多くの方に絶賛していただけましたが、エゴサするとけなしている人もたくさんいて。応援してくれるひともいれば、つらい言葉を投げる人もいる。それは世に出たらしょうがないことです。100人が100人面白いと言ってくれる映画はない、という割り切りはできるようになりました。それまでは、どこかで「みんなに好かれたい」という気持ちが強かったけど、『カメ止め』で10年分くらいの経験ができ、鍛えられました。ですので、今はもう、あまり気負ったところはないです。この『スペアク』を、多くの方に届けるだけ、という気持ちでいっぱいです。

 いつもそうなんですが、公開前に、「どういう評価を受けようが、この映画を作ってよかったな」と思う瞬間がくるんですよね。今回もそう思っているので、大丈夫です。そう思えない作品を作ってしまったときのほうが後悔が大きい。もちろん、不安もありますよ。でも不安があるってことは挑戦したってことだから。不安があるのは大事なんです。僕は、「置きに行ったような映画」を作ったわけじゃない。それは、なんか一番大事にしているところですね。

――ありがとうございます。確かに、全然置きに行ってない作品ですよね。『カメ止め』を経て鍛えられた、という言葉も重みがあります。最後にぜひ伺いたいのですが、大澤さん、プライベートでは何をされてらっしゃるんですか?

(大澤)ほぼ、家にいます。家が好きなので…。お休みになると、「何しよう、何しよう」って。本読もうとか、家で映画見ようとか…。そわそわしています。あとはバイトです。映画のチケットもぎりをやっています。映画が公開されても、バイトは続けます…。

――ありがとうございました。最後に、「スペアク」について一言ずつお願いできますでしょうか?

(大澤)はい…やっぱり…、僕が…松竹の映画の主演になれたって、かなり多くの人々に勇気を与えるって思うんですよね。映画の主人公って、絶対きらきらしている人が多いのに、僕みたいなのが主人公って…。そこはみなさんに勇気を与えられると思います。あと、役者を目指している人にも…。

(上田)ぜひ、何度も足を運んでいただきたいですね。2回目を見ると、前半中盤のセリフや行動に、全然違うフレーバーがかかる映画ですので。…例えばスペアクの稽古場に、足だけうつってる人物がいるとか、スペアクの事務所のポスターに種明かしがあるとか…。2~3,4度見ていただけると、そのたびに味わいが変わってくる映画だと思います!

――上田監督、大澤さん、今日は長い間ありがとうございました!

最後に記念撮影! さあ、もう一度劇場に行こう!

取材・構成・文=松田紀子 『カメラを止めるな!』アツアツファンブック編集長