朝井リョウが「“書けないものない系”の書き手」と称する、須賀しのぶの大河ロマンを堪能する7作品!

小説・エッセイ

2019/12/7

 数ある須賀作品の中から、最新作『荒城に白百合ありて』に通じる大河ロマンを一挙ご紹介!

架空の帝国から近現代まで彼女に書けないものはない

「この人、“書けないものない系”の書き手だ。」

『革命前夜』解説で、朝井リョウは須賀しのぶという先輩作家をそう表している。架空の大帝国、大正の浅草歓楽街、ロシア革命の嵐が吹き荒れるハルビンに、ベルリンの壁崩壊直前の東ドイツまで。自身とはまったく関わりがない国や時代を、わが目で見てきたかのようなリアリティで物語に仕立て上げる。それこそが須賀作品の魅力であり、真骨頂だ。

 大学在学中にコバルト・ノベル大賞読者大賞を受賞して作家デビューを果たし、卒業後はそのまま専業作家の道へ。代表作『帝国の娘』シリーズをはじめとしたライトノベルを精力的に執筆してきたが、一般文芸に移ってからの活躍はさらに目覚ましい。

『芙蓉千里』では、明治期に大陸に渡った少女の冒険を壮大なスケールで描き、2012年度のセンス・オブ・ジェンダー賞大賞を受賞。「女」という枠に縛られず、大胆に人生を突き進む主人公に多くの読者が魅了された。性差を跨ぐことで、世界の異なる位相も見えてくる。そのことがもたらす価値観の変化は、女装少年が少女ギャング団で活躍する『くれなゐの紐』からも読み取れる。

 大学の史学科で西洋史を専攻したことも創作に活きている。各種ミステリーランキングの上位にランクインした『神の棘』は、ナチス政権下のドイツで対照的な人生を歩んだふたりの男たちの長編。次々と襲いかかる試練、重層的なクライマックス。謎の向こう側で待ち受ける真実が、読み手の心を激しく揺さぶる傑作だ。

 一方で、境界線を超えれば別の正義があり、歴史は縦軸でも連綿と連なっている。『また、桜の国で』ではナチスに蹂躙されたポーランドで誇り高く生きた日本人を、『紺碧の果てを見よ』では太平洋戦争に翻弄された兄妹を、『革命前夜』では至るところに密告者が潜む冷戦下の東ドイツをと、第二次大戦前後の世界をそれぞれ異なる立場から巧みに照射してみせた。

 初めて見聞きする国や世界のドラマであっても、須賀しのぶは堅牢な筆力で読者を引き込み、知る喜びと畏怖を与え、最後にはエンターテインメントへと昇華させる。初めて幕末を舞台にした最新作『荒城に白百合ありて』もこの系譜に連なる歴史小説だ。東と西を行きつ戻りつ、〝書けないものない系作家〟の快進撃は続く。

“和”――自由を求めて、少女は遠く高く翔ぶ

『くれなゐの紐』書影

女装少年が少女ギャング団に潜入 歓楽街の最底辺で見た真実
『くれなゐの紐』
光文社文庫 760円(税別)
「生まれなんて関係ない。男か女かも関係ない。ただ、覚悟の差なんだよ」。時は大正。消えた姉を追って浅草にやって来た仙太郎は、少女ギャング団「紅紐団」のリーダーで男装の麗人・操と出会う。女装を条件に入団を許可された仙太郎は、操の指令でタイピスト養成所に潜入させられ……。大正浪漫が迸る少年少女の冒険活劇。

 

『芙蓉千里』(1~4巻)書影

自由、恋、誇り、そして冒険!波瀾万丈な女子大河ロマン
『芙蓉千里』(1~4巻)
角川文庫 629~819円(税別)
日露戦争で日本が勝利した後、「大陸一の売れっ子女郎になる」という野心を抱いて満州・ハルビンにやって来たフミ。妓楼の下働きとなったフミは、愛嬌と才覚、そして舞の才能を武器に芸妓の道を歩み出す。タフに、自由に、大陸を駆ける主人公が痛快! 第12回センス・オブ・ジェンダー大賞受賞の壮大なスケールの大河ロマン。

 

『紺碧の果てを見よ』書影

海軍に進んだ兄と、芸術を選んだ妹。紺碧の果てで見えた風景は
『紺碧の果てを見よ』
新潮文庫 890円(税別)
「船に乗って勇ましく戦いたい」。そんな夢を抱いて海軍兵学校に進んだ鷹志。鋭い直感と感受性を持ち、「女」という窮屈な枷から抜け出し、創作の道を志した妹の雪子。紺碧の海のその先には、どんな光景が広がっているのか―。大正末期から終戦にかけての日本で、対照的な生き方を選んだ兄妹の半生を描く青春群像劇。

 

“洋”――神なき世界を、私とあなたはどう生きるか

『神の棘』(Ⅰ・Ⅱ)書影

地獄の底で、男たちは巡り合う ラストの美しさに震える歴史大作
『神の棘』(Ⅰ・Ⅱ)
新潮文庫 (Ⅰ)750円、(Ⅱ)890円(いずれも税別)
家族を失い、神に身を捧げる修道士となったマティアス。親衛隊に入隊したアルベルト。かつて学友だったふたりは、ナチス政権下のドイツで数奇にして対照的な運命をたどっていく……。裏切り、弾圧、集団の狂気、そして祈りと救済。激動の時代に翻弄されながらも、それぞれのやり方で信じる道を貫く男女の姿が胸を打つ長編。

 

『また、桜の国で』書影

「真実を残す。それこそが、最も得がたく、美しい勝利だ」
『また、桜の国で』
祥伝社 1850円(税別)
1938年、外務書記生としてワルシャワの在ポーランド大使館に着任した棚倉慎。ヒトラー率いるナチス・ドイツとの緊張が高まる中、慎は職分において、それ以上に人間としての誇りをかけて、戦争回避に奔走する。だが、ついにドイツはポーランドに侵攻して……。本好きの高校生たちが選んだ第4回「高校生直木賞」受賞作。

 

『革命前夜』書影

密告者が潜む冷戦下の東ドイツで、若きピアニストは自分の音を探す
『革命前夜』
文春文庫 890円(税別)
元号が平成に変わった1989年。バブル景気に浮かれる日本に背を向け、冷戦下の東ドイツに音楽留学したピアニストの眞山柊史。だが、ドレスデンの音楽大学は、圧倒的な個性を持つ各国の天才がひしめいていた……。ベルリンの壁崩壊直前の東ドイツを舞台に繰り広げられる、圧巻の歴史エンターテインメント。第18回大藪春彦賞受賞作。

 

『帝国の娘』(上・下)書影

少女は自力で運命を拓く コバルト時代の代表作
『帝国の娘』(上・下)
角川文庫 上580円、下667円(いずれも税別)
大帝国ルトヴィアの辺鄙な山村に育った少女カリエ。ある日突然、何者かにさらわれた彼女は、次の皇帝候補である皇子の身代わりを命じられて……。陰謀渦巻く王宮で、カリエは自らの運命を切り拓けるのか? 1999年から集英社コバルト文庫より刊行された全25巻の大作『流血女神伝』シリーズの冒頭にあたる物語が復刊! 書き下ろしあとがきも収録。

 

写真:首藤幹夫