志尊 淳「舞台上では泣くな」――野田秀樹に言われた、この言葉の意味とは?

あの人と本の話 and more

更新日:2020/1/15

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、NODA MAPの新作舞台『Q:A Night At The Kabuki』に出演中の志尊淳さん。中学時代にハマったマンガ『ホーリーランド』から受けた刺激や、出演映画『HiGH&LOW THE WORST』にも影響した役者としての姿勢とは?

志尊淳さん
志尊 淳
しそん・じゅん●1995年、東京都生まれ。ドラマ『烈車戦隊トッキュウジャー』の主演で注目を集める。『女子的生活』ではトランスジェンダー役を演じ話題に。出演作にNHK連続テレビ小説『半分、青い。』、主演ドラマ『潤一』、舞台『春のめざめ』、映画『劇場版おっさんずラブ~LOVE or DEAD』『HiGH&LOW THE WORST』など。
ヘアメイク:仲田須加 スタイリング:手塚陽介

『クローズZERO』などのヤンキーマンガが大好きだという志尊淳さん。マンガ『ホーリーランド』にハマったのは中学時代、ボクシングを習い始めたばかりのころ。同書に描かれたさまざまな格闘技の知識にも刺激を受けた。

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「“喧嘩=暴力”とどうしてもとられがちですが、僕はこの作品をスポーツマンガのような感覚で読んでいました。結果を成していくことでまわりから羨望と嫉妬を集め、望むと望まざるとにかかわらず背負うものが増えていく。いじめられっ子だった主人公のユウは『不良(ヤンキー)狩り』と呼ばれるほど強くなることで自尊心も芽生えていく。5000回のシャドーボクシングで地道に強くなっていく過程に励まされることはもちろん、とりまく環境や心身の変化についていけずスランプに陥るところや、感情のドラマとして揺さぶられるところも多かった。今でも無性に読みたくなってときどき読み返します」

 本誌では「ヤンキーマンガは、言動の裏に隠された真意と心の対話を読みとるのが醍醐味」と語っていた。学びとったものはすべて、役者業にも投影されている。その最たるものが10月に公開した映画『HiGH&LOW THE WORST』だ。

「大ファンである髙橋ヒロシさん脚本のもと、オリジナルキャラクターとして生きる――僕にとって、それは夢のような仕事だったので、マネージャーさんに無理を言ってなんとかスケジュールを調整してもらい、出演が叶いました。だから思い入れが強くて、監督にもいろいろな提案をさせていただいて。そのひとつが、血だらけの学ランを羽織って決戦に挑むというシーン。僕が演じた上田佐智雄の率いる鳳仙学園はただ狂暴なのではなく、“やられた仲間の敵討ちのため闘う男たち”なんだってことを表現したかったんです。とはいえ、僕らはあくまで主役に対峙する敵役。でも、敵なりの筋を一本、通したかった。やられた仲間の学ランを身につけることで、説明はなくてもその意志と信念はきっと伝わると思って。結果的にファンの方々からも喜んでいただけているようなので、最後まで粘ってよかったです(笑)」

 この「説明はなくても」というのが肝。物語の構図がわかりやすいからこそ、わかりやすい言葉で説明されない部分が効いてくるのだと、志尊さんは言う。

「鳳仙学園を演じる役者のみなさんにお願いして、ポケットに手をつっこんだり缶を蹴ったりする、わかりやすい不良の仕草しないようにしました。鬼邪高が勢い込んで向かってくるからこそ、僕らは“ただ歩くだけで強さがにじみ出る復讐心に燃える奴ら”という対比を見せたかったし、敵である以上、小物感を出したくなかったんです。
舞台『春のめざめ』の演出・白井晃さんにも、公演中の舞台『Q』演出の野田秀樹さんにも、二人ともに共通して言われたことがあって。それは『舞台上で泣くな』ということ。表面的なわかりやすさって意識的に選択しない限りは逃げにつながるというか、要するに、いちばん簡単な表現なんですよね。痛いところを突かれてつらかったけれど、演じている自分が気持ちよくなってしまうようなエゴの演技じゃだめなんだ、という学びでもありました」

『Q:A Night At The Kabuki』で志尊さんが演じるのは「平の瑯壬生(ろうみお)」。広瀬すずさん演じる「源の愁里愛(じゅりえ)」と恋に落ちる、平氏の嫡男だ。同作は『ロミオとジュリエット』を下敷きに、源平合戦やシベリア抑留といった歴史を重ねながら、原作の悲劇的な死から生きのびた「それから」の二人を描き出す。

「たった5日間の恋がのちの人生に多大なる影響を与えるほどのものだった、という説得力をもたせるにはやっぱり言葉じゃない部分……あとさき考えない情熱の発露が必要で、そこに理性が存在していてはだめだと思いました。だからこそ、生きのびて大人になった彼らは後悔し、“それから”の物語に意味が生まれる。野田さんの作品は、あらゆる方向から複合的な意味をもたせた言葉の反復が特徴的ですが、やっぱりここにも、言葉を重ねたからこそ効いてくる繰り返しの演出というものがある。結果、脚本を読んだだけでは感じられない生の迫力を、観終わったあともずっと反芻できるはずだと思います。本当は僕も客席で観たいくらい(笑)」

 もうひとつ同作で注目されているのが、クイーンの名盤『オペラ座の夜』の楽曲を使用していること。

「歌詞がね……作中人物の心情とめちゃくちゃ重なるんです。もともと好きな曲だったけど、『ラブ オブ マイ ライフ(Love of my life)』と『ボヘミアン ラプソディ(Bohemian Rhapsody)』はこれから一生、聴くたびこの舞台を思い出すことになるでしょうね。本当に幸せな経験をさせていただいていると、心から思います」

(取材・文:立花もも 写真:干川 修)

 

NODA・MAP第23回公演『Q』:A Night At The Kabuki

NODA・MAP第23回公演『Q』:A Night At The Kabuki

作・演出:野田秀樹 音楽:QUEEN 出演:松 たか子、上川隆也、広瀬すず、志尊 淳ほか 12月11日(水)まで東京芸術劇場プレイハウスにて
●両家の諍いゆえに引き裂かれ死を選んだ「源の愁里愛」と「平の瑯壬生」。しかし二人は生きのびて、新たなすれ違いがはじまる……。『ロミオとジュリエット』を下敷きに、源平合戦やシベリア抑留などの歴史を重ねながら、クイーンの楽曲とともに描き出される愛の物語。