クリエイター・虚淵玄と向き合って感じたこととは――『OBSOLETE』山田裕城監督インタビュー

マンガ・アニメ

2019/12/10

『OBSOLETE』 YouTube Originalsとして、YouTubeバンダイナムコアーツチャンネルで配信中。
(C)PROJECT OBSOLETE

『OBSOLETE』公式サイト:https://project-obsolete.com

 意識制御ができるロボット「エグゾフレーム」とそれを操縦する人間たち。それらを3DCGで作り込み、動かしているのは、山田裕城監督と武右ェ門のスタッフだ。

『タクティクスオウガ』や『ファイナルファンタジー』シリーズで活躍してきた吉田明彦の描くキャラクターをストイックに動かし、「エグゾフレーム」を自由自在にアクションさせる。その緻密な映像作りは、『OBSOLETE』という作品に深みと奥行きを与えている。

『OBSOLETE』の映像を作っている山田監督に、この作品の見どころを伺った。

吉田明彦さんのキャラクターが体現している世界観

――『OBSOLETE』の企画を最初に知った時は、どんな印象をお持ちになりましたか。

山田 私はシナリオが全部上がった状態で企画に参加したんです。シナリオは面白かったのですが、各話ごとに年代も違うし、舞台も違う、人が主役の物語ではないものですから、ひとつのシリーズとしてのつながりを出すことができるだろうか、エンタテインメントにできるんだろうかというところが、最初はなかなか見えなかったですね。

――その中で、山田監督はどんな作業から進めていったのでしょうか。

山田 私はモデラー(キャラクターの3DCGモデルを作る担当者)として、ここ(株式会社武右ェ門)で仕事をしてきました。なので、まずはあがってきたキャラクターデザインやメカデザインを受けて、それをかたち(3DCGモデル)にすることから始めました。メカデザインに関しては白土(晴一)さん(共同監督)や虚淵(玄)さん(原案・シリーズ構成)、石渡(マコト)さん(メカデザイン)が入念に決められたものだったので、それを3DCGモデルで再現することを考えて。同時に、キャラクターは吉田(明彦)さんのお描きになったイメージをどうやってこの舞台に参加させることができるかな、ということを考えて、モデリングをしていきました。

――先ほど「ひとつのシリーズとしてのつながりを出すことができるだろうか」という課題をお持ちだったとおっしゃっていましたが、この課題はどうやってクリアしていったのでしょうか。

山田 モデリング作業を進めるときに、吉田さんが描いたキャラクターデザインをずっと見ていたことが良かったと思います。吉田さんの描いたキャラクターの雰囲気を全編にブレずに出していくことができれば良いんだろうな、と。たとえば『装甲騎兵ボトムズ』は、その世界をかたちづくるキャラクターやメカだけで画面ができていて、もし違うデザインの要素が入ったとしたらすぐに分かると思うんです。『OBSOLETE』では、その「世界観」を吉田さんのキャラクターが作ってくださったと思っています。そういう吉田さんのキャラクターが作り出す「『OBSOLETE』っぽさ」が成立していれば、シリーズがバラバラになることはないだろうなと思っていました。

――キャラクターが劇画調、バンド・デシネ(フランス語圏の漫画の手法)調で描画されているところが、とても印象的です。このビジュアルを決めたのは、何がきっかけだったのでしょうか。

山田 これも完全に吉田さんの力だと思います。吉田さんの描いたキャラクターの「ちょっと距離を置いたような冷たさ」や「客観性」のようなものを画面に出せたら良いなと思ったんです。虚淵さんも「人に感情移入しすぎない距離感が良い」とおっしゃっていて、そういう距離感と吉田さんのキャラクターはマッチしていると思いました。本来、他人の考えていることなんて分かりようもないわけで、それを吉田さんのデザインから感じることができれば面白いなと考えていました。当初は完全にセルルックにすることも考えたのですが、吉田さんのタッチを画面に残すことで、その雰囲気ができないだろうか、と考えていました。

――大人のキャラクターが数多く登場する作品ですが、キャラクターのお芝居で意識したところは?

山田 主にアニメーターのみなさんが頑張ってくれたところだと思うのですが、今回登場するキャラクターたちは、考えていることがはっきりと表に見える人間ばかりじゃないと思うんです。ましてや、戦争をやっている状況で兵士たちの内面を理解するのは難しい。だから、兵士たちを見せるときは、立ち方やシルエットで描くようにして、大きな身振りや手振りをさせないようにお願いしていました。

――表情や芝居を過剰に付けて、キャラクターの内面を説明しすぎないように抑えていたということですね。「エグゾフレーム」の初登場話数として、第1話で意識していたことはどんなことでしたか。

山田 虚淵さんが「今回は人間の手に負えるサイズのものを描きたい」「(ロボットと)神経がつながっているかのように動かしたい」とおっしゃっていたんです。なので巨大感が出過ぎないように、ヒーローのような大見得を切ったポーズもしないように動かそうと考えていました。打ち合わせでは「リアリティ」という言葉が飛び交っていましたし、白土さんにもリアリティのある描写になるように、いろいろと指摘していただきました。

手描きアニメーションの技術を受け継いだ、武右ェ門の3DCG

――白土監督とは、どのような役割分担で作業を進めていったのでしょうか。

山田 白土さんはもともと設定考証というお仕事をされているのですが、その設定考証という仕事は、これまでの私たちの作品においても、欠けていたパーツだと感じていたんです。たとえば戦車を動かすような映像を作る時も、私たちはどうしてもイメージを優先して描いてしまう。今回白土さんが後ろ盾として立ってくださることはとてもありがたかったです。白土さんはシナリオの段階から参加されていて、その段階から、充分にリアリティを追求してくださっていたのですが、さらに絵コンテも見ていただいて「こういう表現はやめましょう」といろいろと意見をいただきました。映像を作っていく最中も、たとえば「どうしてもここでミサイルを撃ちたいです」というところが出てくると、白土さんに相談して、そのシーンにふさわしい武器を見つけてきていただきました。あるいは「この武器を発射したときは火(マズルフラッシュ)を出したいんです」と言うと、白土さんがその理由の裏付けを設定してくださる。こちらが演出したいことを汲み取っていただき、助けてもらいました。

――第1話では「エグゾフレーム」が高度1万メートルから降下しています。こういう降下シーンのリアリティはまさに本作の見せ場ですね。

山田 ロボットの降下シーンはあまり見たことがなかったので、「これはぜひやりたいです」と話をしました。白土さんからは「飛行機の後部ハッチを開いたときは、機内の灯りを緑色に切り替えたほうが良い」というような、いろいろなアドバイスをいただきました。ほかにも「エグゾフレーム」の重量だとパラシュートはふたが現実的です」とか、要所ごとにご意見をいただいて映像を作っています。

――いざ戦闘シーンになると「エグゾフレーム」が実物大の銃器を使用します。「エグゾフレームらしい銃器アクション」はどのように作っていかれましたか。

山田 まず「エグゾフレームはロボットなので、銃器のスコープを覗く必要はない」という指摘が白土さんからありました。私もそうあるべきだと思いましたし、虚淵さんも同じ考え方だったので、自然と「『OBSOLETE』ではそれはやらない」というルールができあがっていきました。

――その「スコープを覗かなくても良い銃器アクション」が、銃を背中越しに撃つような独特なアクションを実現したんですね。

山田 「エグゾフレームはどうやって銃を撃つんだろう?」という発想を補強していく過程だったと思います。そうやって、観ている人に納得してもらえるような理屈を気持ちよく見せられるように考えていきました。

――今回、各話ごとに舞台と登場人物が違うオムニバス形式です。それぞれ各話にどのようにアプローチしていったのでしょうか。

山田 基本的に最初期に虚淵さんからいただいたアイディアを芯にしています。たとえば第1話では「お互い誰だか顔がわからない戦闘」をやりたいとおっしゃっていましたし、第3話では「疾走感のあるエクストリームスポーツを見せたい」というキーワードがありました。同時に年代ごとに「エグゾフレーム」に乗る人たちの「慣れ感」を出すようにしました。

――「慣れ感」とは?

山田 初めて「エグゾフレーム」に乗る人は、まだ体になじんでいないかもしれない。第2話のように、とても身体能力の高い人が乗れば、それがそのまま「エグゾフレーム」の走り方にも表現されるかもしれない。もちろん映像としての見やすさやテンポ、疾走感を阻害しない程度に、それぞれの個性を意識してもらっています。

――武右ェ門というスタジオはどんなグラフィック(映像表現)が得意なスタジオと言えるでしょうか。山田監督が考える、武右ェ門の特徴や魅力をお聞かせください。

山田 武右ェ門には、手描きのアニメーションで培われた技術を大事にしよう、という考え方があって。モーションキャプチャのような技術を使うこともないですし、機械が計算に頼ることなく「絵」を作ろうとしているところがあります。CGっぽくない、一枚の絵を作るうえで完成度の高いものになるようにこだわっているところがあると思います。

――今回、虚淵玄さんによる『OBSOLETE』という作品に関わって、どんなご感想をお持ちになっていますか。

山田 今回の作品では、吉田さんの絵と虚淵さんの存在がすごく大きかったですね。虚淵さんが何を考えているのかを、制作中はずっと考えています。

――虚淵さんが考えていること……。その答えは見えましたか?

山田 いや、わからないです(笑)。すごく複雑な方で、とても面白い方だと感じました。

――どんなところにクリエイターとしての魅力を感じたのでしょうか。

山田 最初にお会いしたときは、すごく怖い方なのかなと思ってました。人間に興味がないんだろうか、とか(笑)。でも、シナリオや絵コンテの打ち合わせで何度もお会いする中で、本質で何を考えているのかを知ろうと心がけてきました。虚淵さんの考えているものを映像で表現するために、意図にできるかぎり近づけたいと思ったので。打ち合わせ内容もすべて録音していて、どこかにヒントがないかイメージを読み取ろうとしていました。その中で、本当はとても優しい方なのだろうな、と感じました。

――どんなところに「優しさ」を感じたのでしょうか。

山田 虚淵さんは、お互いに殺し合うような物語を書くことがありますが、その中で、そういう人たちやそういう世界から目を逸らすことができない人なんだろうな、と感じます。決して、その状況や人を見捨てることはしない。いろんなことをひっくるめて、まず世界を肯定されていて、そこに愛情があるんだと思います。一方で、「エグゾフレーム」が頭部を撃たれて四散するようなシーンをこちらから提案すると、虚淵さんは嬉々として賛成してくださるんですが、その破壊の悦びを感じつつも、壊れるからこそ大事さが増すという感覚もお持ちです。傷ひとつ付かないモノよりも、傷つきやすいモノのほうが魅力がある。そういう複雑な感情の中にいらっしゃる方でした。

――『OBSOLETE』今後の展開で楽しみにしていることがあればお聞かせください。

山田 あまり予備知識や先入観なしで見ていただきたいと思っています。世界中のみなさんが、これを観たらどう思うんだろう? そこから何を感じられるのか、皆さんの反応を楽しみにしています。加えて、純粋なSFを楽しんでほしいです。これのファンになってくださる方々が、理解と節度を持って、現実では決して人に銃を向けないという約束が交わされるのであれば、私たちはいくらでも作ります。

取材・文=志田英邦

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 2014年、突如現れた異星人は、人類に対して「交易」を要求した。彼らは石灰岩1000キログラムと引き換えに意識制御型汎用ロボット「エグゾフレーム」を提供し始める。銃よりも安価で、誰でも操作できる「エグゾフレーム」はまたたくまに拡散していく。

【配信情報】
『OBSOLETE』 YouTube Originalsとして、YouTubeバンダイナムコアーツチャンネルで配信中。YouTube Premiumメンバー(有料)は、最新エピソードを広告なしで視聴できます。
YouTube Premium メンバーの以外の方も、広告付きで無料で視聴いただけます。

【公開スケジュール】
2019年12月3日(火)EP 1 〜 EP 6 公開(YouTube Premium メンバー対象)EP 1 無料公開
2019年12月10日(火)EP 2 無料公開
2019年12月17日(火)EP 3 無料公開
2019年12月24日(火)EP 4 無料公開
2019年12月31日(火)EP 5 無料公開
2020年1月7日(火)EP 6 無料公開

山田裕城(やまだ・ゆうき)
CGデザイナーとして、スタジオジブリ、サンライズエモーションスタジオを経て、2014年より武右ェ門に所属。若手アニメーター等人材育成事業あにめたまご2016出品作品『風の又三郎』で初監督を務める。