「ジャーナリスティックな視点」を混ぜたロボットアニメを目指して――『OBSOLETE』白土晴一監督インタビュー

マンガ・アニメ

2019/12/17

『OBSOLETE』 YouTube Originalsとして、YouTubeバンダイナムコアーツチャンネルで配信中。
(C)PROJECT OBSOLETE

『OBSOLETE』公式サイト:https://project-obsolete.com

『OBSOLETE』の舞台は、2014年から2026年の世界各地。宇宙人から購入した「エグゾフレーム」は、世界各地で変革を起こしていく。「エグゾフレーム」を手にした人類はどんな運命をたどるのか――。

 現実を舞台にした作品にリアリティを宿したのは、白土晴一監督。数多くのアニメ作品で設定考証やリサーチャーを務めている人物だ。

『OBSOLETE』の企画に初期から関わっている彼から、この作品ができあがるまでの経緯を伺った。

人間にとって最もありふれたもので、人間にとって最も価値のあるものが手に入る

――『OBSOLETE』の企画に関わることになったきっかけは何だったのでしょうか。

白土 虚淵(玄)さん(原案・シリーズ構成)から、ある日いきなりSNSでメッセージが来たんです。これまでにニトロプラスさんと仕事をしたことはあったけれど、虚淵さんとはとくにやり取りをしたことがなかった。そうしたら「アイデアがあるんですが、付き合ってくれませんか?」と。虚淵玄に誘われたら、そりゃ名誉だねと思ってニトロプラスさんに伺ったら、小坂(崇氣)さん(ニトロプラス代表取締役)と虚淵さんがいて。一緒にご飯を食べながら、話をすることになったんです。そのときに「まだ何も決まっていないんだけど、すごく安価なロボットがあって。それが世界を変えていく話を書きたい」という話をしてくれたんです。

――それが『OBSOLETE』の原型だったわけですね。

白土 そうですね。それはどう考えてもリアルなロボット路線になっちゃうね、と。「いわゆる『機動戦士ガンダム』の路線ではなく、もっとミリタリーに寄ったかたちでロボットものができたら」という話をみんなでしたんです。そのあとは、ずっと『装甲騎兵ボトムズ』の話で盛り上がっていたんですけど(笑)。

――白土さんは『装甲騎兵ボトムズ』がお好きなんですね。

白土 僕は基本、高橋良輔派(『装甲騎兵ボトムズ』『太陽の牙ダグラム』監督)なので(笑)。あ、もちろん『機動戦士ガンダム』シリーズも好きなんだけど、一番好きというと……やっぱり『ボトムズ』かなあ。虚淵さんも当時『ダグラム』や『ボトムズ』のプラモデルで遊んでいて。そのあたりに虚淵さんの(今回の企画を発案した)初期衝動があったんだと思うんです。私は『ボトムズ』の「クメン編(第14話~第28話)」のドロドロのロボット戦が続くあたりを子どものころに見ていて。あれをもう一度見てみたい。それが私の初期衝動になっています。

――先ほど「『機動戦士ガンダム』の路線ではない」という話がありましたが、具体的に言うと、どんな方向性を目指していたんでしょうか。

白土 泥臭さ、ですね。カッコよくロボットが描かれなくても良いんじゃないかということです。「このロボットの最大の強みは安価であること」で「使い捨てても良い」くらいのコンセプトでロボットアニメを作ってみたら面白いな、と。

――リアル路線を取る中で、舞台を現代にしたのはなぜでしょう。

白土 宇宙から来た「エグゾフレーム」というロボットが、一番違和感のある場所はどこかと考えたときに、地続きのある世界観のほうが面白いだろうと考えたんです。これは最初のうちに何となく決まっていましたね。ちょうど僕はアニメ『ヨルムンガンド』という作品に関わっていて(設定考証として参加)、日本のアニメーションにジャーナリスティックな視点があっても良いんじゃないかと感じていたんです。ロボットアニメでありながら「ジャーナリスティックな視点」を混ぜて企画をしてみようと。そこは早い時期から考えていたことでした。

――「宇宙人と石灰岩1000キロと通商することでロボットが手に入る」という本作のフィクショナルな要素は、何処から出てきたアイデアだったのでしょうか。

白土 「宇宙人から(ロボットが渡される)」というアイデアは最初の虚淵さんの企画にあったことなんですよ。じゃあ、その宇宙人はどんな宇宙人なんだろうと考えたときに、完全無欠の商人として描くと面白いんじゃないかと思ったんです。政治にも文化にも干渉しないが、取引だけを求める。情緒的なものを挟まない究極的な自由貿易主義者。彼らが信奉するのは科学ではなく商業であるような存在にしましょうと。次に、その宇宙人と地球人は何の取引をするんだろう、と。そこでちょっと考えて、この物語を面白くするには、地球上のどこでも安易に宇宙人と取引できるようにしたほうが良いだろうと思ったんですね。

――安価なロボットが安易に手に入る取引条件を考えたわけですね。

白土 そうです。資源開発の中で市場価値が高いものは、その資源が希少か偏在しているものですよね。だとしたら、その反対は、世界に広く存在していて、人間がここ数百年使ったとしても問題がないありふれた資源。そこで「石灰岩」を僕から提案しました。「石灰岩」は欧州、中央アジア、アフリカにもある。ありふれていて埋蔵量が極めて多い。あと「石灰岩」ができた起源に生物由来という説があって、地球産の資源としても面白い。なおかつ、石灰岩(ライムストーン)の採掘場は石切り場になっているので絵になる。作品のコンセプトにあわせて、設定を論理的に詰めていったということです。

――人間にとって最もありふれたもので、人間にとって最も価値のあるものが手に入る、という皮肉な構図ですね。

白土 ただ、この作品においてはそういった作り込んだ設定を前面に出すのではなく、ストーリーやアクションを優先させることが僕と虚淵さんの共通見解だったので、基本的にそういう部分は映像では語ってはいないんです。映像面では、山田(裕城)さん(共同監督)のアイデアも入っていますし、いろいろなスタッフからたくさんアイデアを入れてもらって、作ることができれば、と思っていました。

――本作は各話ごとに時間や舞台を変えていくオムニバス形式の作品です。どんなやりとりで各話のシチュエーションは決まっていったのでしょうか。

白土 場所の選定は、僕の趣味も大きいかな(笑)。(宇宙人から安価で購入できる)「エグゾフレーム」は製造業が極めて脆弱な地域で普及するだろうと考えたんです。現実社会の製造力の不均衡が、この作品の世界観に加味されたほうが面白いのではないかということで南アフリカ、インド、パキスタンあたりを舞台に選んでいます。それは先ほど言った、ジャーナリスティックな視点を盛り込むという試みのひとつでもありますね。工業力で後れを取っている国が、独自の意志で進もうとしていくスタンスのひとつとして「エグゾフレーム」を選ぶ。そういう要素が見えると、この作品が面白くなるんじゃないかと考えたんです。

――各話の場所を決めるまでは、虚淵さんとは具体的にどんなやり取りがあったんでしょうか。

白土 たとえば第3話ならば、虚淵さんが「ロボットでエクストリームスキーをやりたい」というアイデアを出してくださって。いくつかの雪山の候補を出した中で、一番尖っている場所がインド、パキスタンの国境があるシアチョン氷河だったんです。正直、実現するのかわからなかったんですけど、アイデアを狭める必要はないと思って提案したところ、今回の第3話につながったんです。

まだまだ広がっていく『OBSOLETE』の世界

――時代の変化も本作では描かれていますね。たとえば第1話「OUTCAST SOMEWHERE IN SOUTH AFRICA-2023」は「エグゾフレーム」が異星人から提供され始めて9年後の世界を舞台にしています。この未来を描くうえで意識していたことは何ですか?

白土 先ほど言ったジャーナリスティックな視点を入れてみたところでもあります。第1話で描かれる2023年は、「エグゾフレーム」が登場したことで、少しだけ変化している世界なんですね。いわゆる先進国に住んでいる私たちの見えている範囲では大きな変化が起きているわけではないけれど、エクアドル国境では変化が起き始めている。それくらいのバランスになると良いなと思っていました。

――各国の舞台を描くうえで、白土さんがこだわったことはどんなことですか?

白土 主に資料を提供しています。本当はリサーチャーが10人くらいいて、がっつりと調査して作品に反映することができれば良いんでしょうけど(笑)。あいにくとアニメーションでリサーチにかける予算は潤沢ではないので、基本的には僕や鈴木(貴昭)さん(武器考証)が資料を提供していました。もちろん、各スタッフが独自で調べてくださっていたり、想像力で膨らませてくださっているので、映像面でのリアリティは、みなさんの力によるところが大きいです。そもそも、正確に現実を描くことに徹するのならば、別にアニメーションである必然はないわけで。今回はあくまで「リアリティはあるものの、面白い映像を作る」ということに主眼に置いています。

――白土さんが提供された資料には貴重なものや入手困難なものもあるんでしょうか。

白土 いやあ、映像で必要な資料の8割くらいはオープンソースで入手できるものですよ。まあ……でもシアチェン氷河の資料は、なかなか持っている人はいないかもしれませんね(笑)。昔、セットで落札したシアチェン氷河の紛争の写真集を持っていたので、それを提供しました。

――白土さんは、そういう珍しい資料をお持ちなんですね。

白土 それに関してコメントすると愚痴になってしまうんですが、普段から「今後もしかしたら使うような気がする」という資料をひたすら買い込んで、ひたすら読んでいるんです。ですから……家では寝る場所もないわけです。あとは名前を出せないような方や現地の方にお話を伺ったり……。まあ、普段からそういう仕事(リサーチャー)をしているので、とくに資料を集める大変さは感じていないんですけど。

――1話15分で配信というフォーマットはどの段階で決まったのでしょうか。

白土 早い段階で決まっていましたね。虚淵さんが「アクションを主体に見せる作品にしたいから、30分である必要はないだろう」と。たしかにYouTubeの映像やYouTuber の映像はもっと短い。僕も数々のアニメの現場を見てきて、尺を短くすることには納得できました。そこにしっかりとディテールを入れることができれば、15分で終わるのは良いんじゃないかと思っていました。

――最初は設定監督として参加した白土さんが、監督という立場に立ったのはどのタイミングだったんですか?

白土 いろいろ紆余曲折がありまして。虚淵さん以外では、僕だけがずっとこの作品に参加し続けていたメンバーなんです。それで、僕が一番作品を把握している、ということになって。あまり柄ではないけれど、一度やっておくと面白いかなと思って、監督を引き受けました。映像に関しては山田さんにまかせっきりですので、僕は作品の大枠からはみ出ないように修正を掛けるぐらいの仕事をしています。

――『OBSOLETE』は白土さんにとって初監督作品になりますが、手応えはいかがでしょうか。

白土 いやあ、監督はやるもんじゃないなと思いました(笑)。僕は現場に入るタイプのリサーチャーなので、これまでも現場のいろいろなセクションに関わったり、チョロッとだけレイアウトチェックをしたこともあったんです。でも、全部を見るというのは今回初めてでした。これまで設定制作やリサーチャーとしてアニメーションの現場に参加するときは、「アレやりましょうよ」なんて気軽にアイデアを出していたんです。でも、監督の立場になると、気軽に判断できるもんじゃないんだなと(笑)。今回は、山田さんとご一緒できて、スタッフもみんな頑張ってくださったので、とてもありがたく思っています。

――第1話をご覧になって、どんな印象をお持ちでしたか?

白土 こんなの作っちゃったけど、誰が見るんだろう?(笑)と。自分から見ると、すごく燃える作品になったと思うんだけど、今の時流には乗っていないなって。映像のクオリティは山田さんをはじめ、 武右ェ門さんのみなさんによって素晴らしいものになっているんですが。一抹の不安があるのは事実ですね。

――今回は世界各地で見ることのできる配信ですから、海外でどのように作品が受け入れられるかが気になるところではありますね。

白土 当初、虚淵さんはミリタリーのFPS(主観視点のシューティングゲーム)の世界観が海外で受け入れられているんだから、そちら側に近いアニメーションがあっても良いだろうとおっしゃっていたんです。なおかつ、それが『ボトムズ』的な高橋良輔イズムと合わさることで面白いものになるんじゃないかと思っていました。

――虚淵玄さんとご一緒されてみて、どんな方だと思いましたか。

白土 いまだに得体が知れない部分があります。ひとつひとつの判断が早くて、その判断が極めて創意に富んでいる。自分で作ったシナリオやコンセプトに自信を持っているのか、肝が太いのかわからないんですけど、現場の判断にはとても寛容なところも意外でした。商売柄、いろいろな脚本家とお仕事をさせてもらっていますが、虚淵玄はやはりコンセプトメーカーとして素晴らしい方なんだなと感じています。

――『OBSOLETE』という作品で今後やってみたいことや挑戦してみたいことはありますか?

白土 今回は、最初に広がった妄想やアイデアを研ぎ澄ましていく作業をしていましたが、もちろんそこでそぎ落としたアイデアも多くあるんですね。それを形にするチャンスがあれば、ぜひやってみたいと思っています。あと、この企画の初期の段階で、虚淵さんが「この作品の世界観をもとにして、いろいろな人に新しいものを作ってもらいたい」とおっしゃっていたんです。『OBSOLETE』は「現実にエグゾフレームが現れたら?」という世界観ですから、まだまだいろいろなシチュエーションが考えられると思うんです。この作品の世界観をベースにして、新たなものを作りたいと思う方が出てきてくれたら嬉しいですね。

取材・文=志田英邦

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 2014年、突如現れた異星人は、人類に対して「交易」を要求した。彼らは石灰岩1000キログラムと引き換えに意識制御型汎用ロボット「エグゾフレーム」を提供し始める。銃よりも安価で、誰でも操作できる「エグゾフレーム」はまたたくまに拡散していく。

【配信情報】
『OBSOLETE』 YouTube Originalsとして、YouTubeバンダイナムコアーツチャンネルで配信中。YouTube Premiumメンバー(有料)は、最新エピソードを広告なしで視聴できます。
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【公開スケジュール】
2019年12月3日(火)EP 1 〜 EP 6 公開(YouTube Premium メンバー対象)EP 1 無料公開
2019年12月10日(火)EP 2 無料公開
2019年12月17日(火)EP 3 無料公開
2019年12月24日(火)EP 4 無料公開
2019年12月31日(火)EP 5 無料公開
2020年1月7日(火)EP 6 無料公開

白土晴一(しらと・せいいち)
アニメ、ゲーム、マンガ、小説の設定考証を数多く手掛ける。代表作にはアニメ『ヨルムンガンド』『ジョーカー・ゲーム』『ドリフターズ』『プリンセス・プリンシパル』、コミック『軍靴のバルツァー』『貧民、聖櫃、大富豪』など。