福井晴敏が語る、「宇宙世紀ガンダム」の歩みと未来②~宇宙世紀ガンダムの始まり――『機動戦士ガンダム』と一年戦争の物語の数々~

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更新日:2020/5/14

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『機動戦士ガンダム』の40周年を記念し、ガンダムシリーズより「宇宙世紀」の作品をスペシャルプライスでリリース中の「U.C.ガンダムBlu-rayライブラリーズ」。12月25日には待望の『機動戦士ガンダム』と『機動戦士Zガンダム』の劇場版が同ライブラリーズに加わり、宇宙世紀ガンダムのコンプリートに向けていよいよその厚みを増しつつある。

 そんなライブラリーズの特典として注目なのが、『機動戦士ガンダム』から『機動戦士Vガンダム』へと至る宇宙世紀を描いたガンダムシリーズ全ての映像を、新作パートを交えながら再構成した新映像『機動戦士ガンダム 光る命Chronicle U.C.』だ。ダ・ヴィンチニュースでは、この『光る命』のシナリオを書き下ろした福井晴敏のロングインタビューを敢行。『機動戦士ガンダムUC』『機動戦士ガンダムNT』を筆頭に数々の作品でガンダムの物語を綴り続けてきた福井に、壮大な宇宙世紀のガンダムサーガについて語り尽くしてもらった。ライブラリーズの副読本として、宇宙世紀ガンダムの総括として、そして「UC NexT 0100」への助走としてお楽しみいただきたい。

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 第2回となる今回、いよいよ話は「一年戦争」へ。すべての始まりだったファーストガンダムの画期性について、その「ミリタリズムとロマン」の拮抗を当時の時代背景も含めて紐解いていく。

『劇場版 機動戦士ガンダム』

ファーストガンダムは少女漫画的なSFとロマンの作品でもあったと思います

――『光る命』を拝見していて感じたのは、ガンダムの宇宙世紀をリノベートするというか、表面の塗装を剥いで、抜き身の本来のガンダムにもう一度肉付けしていく作業のようだ、ということだったんですが。

福井:それはあるかもしれない。なんだろう、70年代はちょうどSFブームがきた時代なんですよ。ガンダムがあそこまで人気になったのって、ミリタリーものに惹かれる男の子だけじゃなくて、同じくらいか、それ以上の女の子たちもきていたのが非常に大きくて。で、その女の子たちは何に惹かれていたかっていうと、今で言うとそれこそ「キャラにでしょ?」ってことになってしまうんだけど、じゃあそのキャラっていうのは、いい男が一枚絵で描いてあったらそれで始まるものかっていったら、そうではないわけですよね。やっぱりそのキャラクターが生きる世界があって、そこに生じるロマン的なものに女性は惹かれると思うんです。

 それで言うと70年代の頃って実は、『宇宙戦艦ヤマト』があって、『未知との遭遇』や『スター・ウォーズ』があって…っていう文脈の一方で、竹宮恵子や萩尾望都、そういう少女漫画家たちがすごくハードなSFと、少女漫画で培ってきたテクニックを持って人間を描く、世界を描くということをやっていた流れがあると思うんです。実はガンダムって、そこにわりと共通点があるんですよね。片方の足は間違いなくこちらに置いていたと思います。で、もう片一方の足が、男たちの好きなものの方においていたという。そこでもう一度ロマンのほうを呼び戻して、こっちにも足付けさせたということなんだと思います。

――アムロの冒険物語としての側面と、ハムレット的なシャアの物語、ファーストガンダムは確かにロマンに溢れていました。

福井:うん、ほんと端々に色気があふれていたわけですよね。そういうのが『Z』以降はおそらく意図的にというのもあったんだろうけど、それをなくしていったという流れですよね。

――ガンダムの寓話性を剥いでいったら、ダークな側面も出てきた作品になったという。

福井:そういうことですよね。『Z』って、おそらく『機動戦士ガンダム』の続編ということ以上に、ガンダムブームというものを経てしまったことに対する返句というべきものだったのかもしれない。それが結果的に良かった面もあって。要は、逆に作り事だけにならずにすんだっていうことがありますよね。普通の物語を作るというのは、こういう主人公がいて、こういう世界を描きますっていう風に始まっていくんだけども、『Z』の場合はそういう手続きをすっ飛ばして「現実はこうだから!」ってバーンと打ち出している。でも、それが結果として、作為的にならずにガンダムの歴史が紡がれていったということがあるので、そこの部分も、ガンダムが今をもってなお生き永らえていることの大きな要因でもあるんですよね。

『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』

『0083』は言わば新入社員の話で、バブル崩壊前夜に社会人となったガンプラ世代にとっては身に迫るものがあったんです

――一年戦争まわりのいわゆる派生作品で、福井さん的に今見返しても面白い、意義深いと思われる作品はどれですか?

福井:それは個人的なオススメでは『0083』が入ります。ミリタリーものとしてのガンダムの極北であるのは間違いないですし。『0083』についてさらに言えば、実は時代と極めてうまくハマっていたっていうのが……自分がちょうどその世代だったからわかるんですが、これまでのような偶然ガンダムに乗り込んでしまった子供が主人公ではなくて、新任の仕官が乗るっていうお話ですよね。最初から大人であり、職業兵士なんです。要するにそれって、新入社員ですよ(笑)。

――(笑)。

福井:『0083』は1991年の作品で、それってガンプラ直撃世代がまさに世の中に出た年なんですよね。つまりガンダムファンの新入社員としてのリアリティと、うまいこと合致してしまったんです(笑)。だって『0083』って、新人社員が思いもよらぬ舞台に担ぎ出されて、ライバル商社の超エリート、ベテランのやつとコンペで戦うことになったっていう、そういう話じゃないですか(笑)。しかもそれがサクセス物語にはならなかった点が、すごくリアルだったんです。

 あと、もうひとつの要因としては1991年って、まさにバブル崩壊がきた時代だったんですよ。新入社員として社会に出て、会社に入社した時点ではよかったんだけれども、その直後にひどいことになってしまったっていう。早々に挫折を味わったわけですよね。あの世代は、そういう意味で『0083』の物語とシンクロしているんです。そこが軍隊ごっこだけで終わらずに済んだ理由のひとつですよね。やっぱり、身に迫るものがどこかあったんだと思います。

――しかも『0083』は、ニュータイプ的なものはある意味禁じ手にされていて。

福井:うん、そういう特殊能力を持たない普通の奴の話ですからね。そう、実は時代とすごくリンクした話で、だからこそ今見返すと……これは僕だけかもしれないけれど、もう恥ずかしくて観ていられない(笑)。

――(笑)。

福井:あまりにも身につまされるというか、こういうミス、自分も昔やったよなあ……とかね。実は『Z』もそうなんですけどね。カミーユが17歳で、僕もちょうど17歳の時にあれを観たので。当時は問題なくシンクロできたんだけど、今観ると恥ずかしくて仕方ない。

『劇場版 機動戦士Zガンダム』

シャアは、もともと世間は敵にしかならないだろう、ということは最初からわかっていたと思う

――『Z』の話に戻りますが、ファーストと『Z』のもうひとつ大きな差は、ガンダムやニュータイプの負の側面が示されたことですよね。人類を救うスーパーパワーであると同時に凶器でもあるガンダム、人類の希望であると同時に脅威でもあり、忌避され始めたニュータイプという。そういう意味で、『光る命』の中でもシーンを抜粋しながら取り上げられていたように、ニュータイプ観の原点は『Z』かなとも思うんですが。

福井:それはもう、ガンガンにありましたよね。実際、そうだと思います。やっぱり、地球にいる人たちは基本的に勝ち組でお金持ち、宇宙にいる連中は負け組、捨てられた連中だっていう、みな口には出さないけれどその構図は間違いなくあって。しかもジオンは、地球を見ることすらできない月の裏側、最果ての地に追いやられている人たちなわけですよね。そういう境遇に置かれた連中がフザケンナと帰ってくるっていう、それは当然な気がするじゃないですか。そういう構図がある時に、宇宙にいる人間の方がより進化した人間になれるっていう論法を展開された日には、地球連邦政府の根幹が揺らいでしまいますよね。

 だからそれはもう学校教育の段階で徹底的に排除するでしょうし、今『ムーンガンダム』でもやってますけれど、この時代の一般的な兵士の観点から見たときに、ニュータイプはもう恐怖以外の何物でもなかったと思うんですよね。何しろ撃ったって当たらないし、見えないところから撃ってきて……仮に生き残れたとしても、仲間や部下がたくさんニュータイプに殺されてしまった人はいっぱいいると思うんですよね、この時代には。彼らにとってニュータイプは味方になればエースで頼りになるかもしれないけれど、敵に回したらこんなものはダメだっていうのはあるでしょうから、一般の、マスの意見としてあんな化け物どもは、っていうのは絶対あったと思いますよね。

――そういう、自分たちが一年戦争で見出しかけたニュータイプという希望が潰されていく様をシャアは潰す側の連邦サイドで見てしまったがために、逆襲してしまった、裏切られたという感覚だったんでしょうかね。

福井:うーん、そこは多分ね、あの人(シャア)は、もともと世間は敵にしかならないだろう、ということは最初からわかっていたと思うんです。曲がりなりにもジオンの血を継ぐものとして、どうその世界に伍して変えていくかっていう大望を持って、もう一度地球に戻ってきて、何かもう一度してやろうっていうときに、何もできなかった自分自身に対する絶望が大きくて、ああなっちゃったような気がしますよね。世界に対する絶望というよりも、自分に対する絶望じゃないですかね。

取材・文=粉川しの

第3回は12月27日配信予定です
『U.C.ガンダムBlu-rayライブラリーズ』特集トップページはこちら

福井晴敏(ふくい・はるとし)
作家。代表作として、『Twelve Y.O.』『亡国のイージス』『終戦のローレライ』『戦国自衛隊1549』など。2000年、『ターンエーガンダム』のノベライズを発表、以降ガンダムシリーズのさまざまな作品に深く関わり続けており、『機動戦士ガンダムUC』(小説)、アニメ『機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096』(シリーズ構成)、映画『機動戦士ガンダムNT』(脚本)、漫画『機動戦士ムーンガンダム』(ストーリー)などを担当している。

U.C.ガンダムBlu-rayライブラリーズとは?
『機動戦士ガンダム』40周年を記念して、ガンダムシリーズの宇宙世紀作品がスペシャルプライスでリリース。各作品に、すでに発売されているBlu-rayブックレットなどの資料から厳選されたデジタルアーカイブを収録。また、全タイトルに、新規映像特典『機動戦士ガンダム 光る命 Chronicle U.C.』のディスクも付属する。

●発売中
機動戦士ガンダム 第08MS小隊 ミラーズ・リポート
機動戦士ガンダム0083 ―ジオンの残光―
機動戦士ガンダム 逆襲のシャア
機動戦士ガンダムF91
価格:各3,800円(税抜)

●12月25日発売
劇場版 機動戦士ガンダム
劇場版 機動戦士Zガンダム
価格:各10,000円(税抜)

●2020年2月27日発売
機動戦士ガンダム 第08MS小隊 価格:16,000円(税抜)
機動戦士ガンダム MS IGLOO 価格:12,000円(税抜)
機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争 価格:8,000円(税抜)
機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY 価格:18,000円(税抜)

2020年9月からは『機動戦士ガンダム』から『機動戦士Vガンダム』までの宇宙世紀TVシリーズ作品も発売決定! 詳細は公式サイトをチェック!
U.C.ガンダムBlu-rayライブラリーズ 公式サイト