福井晴敏が語る、「宇宙世紀ガンダム」の歩みと未来④~総論・『機動戦士ガンダムUC』以降の宇宙世紀~

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更新日:2020/5/14

©創通・サンライズ ©創通・サンライズ・MBS

『機動戦士ガンダム』の40周年を記念し、ガンダムシリーズより「宇宙世紀」の作品をスペシャルプライスでリリース中の「U.C.ガンダムBlu-rayライブラリーズ」。12月25日には待望の『機動戦士ガンダム』と『機動戦士Zガンダム』の劇場版が同ライブラリーズに加わり、宇宙世紀ガンダムのコンプリートに向けていよいよその厚みを増しつつある。

 そんなライブラリーズの特典として注目なのが、『機動戦士ガンダム』から『機動戦士Vガンダム』へと至る宇宙世紀を描いたガンダムシリーズ全ての映像を、新作パートを交えながら再構成した新映像『機動戦士ガンダム 光る命Chronicle U.C.』だ。ダ・ヴィンチニュースでは、この『光る命』のシナリオを書き下ろした福井晴敏のロングインタビューを敢行。『機動戦士ガンダムUC』『機動戦士ガンダムNT』を筆頭に数々の作品でガンダムの物語を綴り続けてきた福井に、壮大な宇宙世紀のガンダムサーガについて語り尽くしてもらった。ライブラリーズの副読本として、宇宙世紀ガンダムの総括として、そして「UC NexT 0100」への助走としてお楽しみいただきたい。

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 福井晴敏ロングインタビューの最終回となる今回は、福井自身の作品である『UC』から『機動戦士ガンダムF91』、そして『V』へと続く、宇宙世紀後半の作品が話題の中心となった。果てしない拡大を続けるガンダム世界の原点である宇宙世紀は、なぜ40年の時を経た今なお観るもの者を魅了し続けるのかーー。

『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』

主人公たちは救われるけれど世界は救われない、それが『UC』で描きたかったもの。ガンダムに句読点を打とうとした

――第二次ネオ・ジオン戦争の『逆襲のシャア』がUC0093で、『UC』はUC0096から始まるという、この時系列はすぐに決まったものですか。

福井:そうですね。「ガンダム世界を丸ごとえぐり取るようにしてください」というオーダーでしたし、その宇宙世紀の元年を描くというのが片方にあった際に、じゃあもう片方はどこに軸足を置くのかと考えた時、ガンダム年表のようなものを見ていたら、UC0100でジオン共和国が自治権を返還して、ジオンという名の国家が消滅すると。じゃあ、そこに置いてみようと。ちょうどそこに100年間というタームを取って、描いてみようという計算だったんです。

――『UC』の役割・目的は、宇宙世紀のガンダムをここでジ・エンドにしよう、というものだったんでしょうか。

福井:いや、宇宙世紀のガンダムを終わらせるというか、そこで一度句読点を打とう、という気持ちはありました。そこで句読点を打ってから改めて、『F91』から先のことを考えていくべきだと思ったんです。行く手には『∀ガンダム』っていう、この世界の全てが滅んじゃうよっていう終わりが提示されていることもあるので、だとしたらその世界に何か意味はあったのか? と。そこでガンダムを作ってきたこと、観てきたことに意味があったのか? という問いにイエスと答えられる作品を作らないとダメだろうな、という意識が当初からありましたね。特に、『∀ガンダム』のノベライズをやらせてもらったこともあって、そこの構造ははっきり意識してましたね。

――『UC』の物語を創作する際に、それまでのガンダム、それまでの宇宙世紀の物語から、福井さんに課題として手渡されたものはなんだと思いますか?

福井:まずはあれですね、男の子の遊び場だけにしないでっていう(笑)。その叫びは聞こえましたよね。で、自分自身、物語を作るということが職業ですから、その観点で見た時に最初のガンダムと、その後のガンダムと何が違うんだろうって分析したときに、少女漫画的なロマンもあるだろうな、と。まずは、それを取り戻す。で、それを取り戻しながら、それによって作為的な歴史ものになっていってしまってはダメなので、ちゃんと今までのガンダムの「現実ってこうだから」と乱暴に投げつけるあの感覚、その歴史の経緯だけはちゃんとおいておこうと。

『UC』って、非常に綺麗に終わってるじゃないですか。これからなにか物事が好転するんじゃないかな、っていう気はするんですけど……でもね、あれから数年後にはジオンっていう国家が解体されて、『F91』や『V』っていう夢も希望もない未来が待っているわけですから。だからあれってある意味でファーストガンダムと一緒なんです。物語としてそこで主人公たちは一瞬救われるんだけども、世界は救われていない。でも救われていない世界の中でそうやって一度でも自分たちの心を救った主人公たちは、おそらく死ぬまで折れずに生きていけるでしょう、と思えることが、物語の醍醐味だと思うんです。

――そうですね。

福井:もしかしたら富野(由悠季)さんはそういう物語のロマン自体が許せなくなってしまって、「そんなことないよ、こいつは死ぬんだよ」ってなったのかもしれないですけどね。そうやって物語を読むことによって人が得ること、得るべき環境みたいなものをそもそも否定するみたいなところから入るのではなく、ということですよね。だから物語としての原理の部分は、ファーストガンダムの地点に戻そうと思いました。

――そういうロマンと現実を両立させたガンダムとしての『UC』を構築する上で、気をつけたことは?

福井:都合よく世の中が変わってしまわないように、っていうことです。そういう意味では『逆襲のシャア』って、本来アクシズの衝突で地球と人類が滅ぶまではいかなくても、地球がもう住めない惑星になってしまう段階までいきそうになったものを防いだ点において、なんだかよくわからない奇跡のような力で世界を歴史を大きく改ざんしたっていうことじゃないですか。あれはやっぱり、物語の生みの親である富野さんしかやっちゃいけないことだと思うんです。『UC』では、サイコフレーム・パワーで奇跡的なことが起きたとしても、遠目から見たときにはちょっとした火事が消し止められたとか、その程度のレベルに留めておかないといけないだろう、と。それでコロニーレーザーを捻じ曲げて、コロニーを救いはしたんだけれども、そのことを知る人はほとんどいないわけですよね。続く『機動戦士ガンダムNT』もそうです。奇跡が起こるにしても、人目には付いていない。そこは気をつけないといけない、と思ってました。

『機動戦士ガンダムF91』

ガンダムは富野さんという神が作った作品であり、神自身にもままならなくなっている。そこがガンダムの魅力、リアリズムなんです

――ファーストガンダムから引き継いだロマンは、あくまでもダーク・ロマンですよね。

福井:そう、決してそれで何かが救われるものではない。でもそれはやっぱり……ガンダムで育ってきた世代は50代にさしかかっているわけで、それこそ自分が死ぬこと、死を射程距離に捉える年齢になった時に……「死んだらどうなるの?」って、ファーストガンダムを観ていた若い自分よりも身に染みて興味があることかなって。切実な問題じゃないですか、老いであったり、死であったり。なんかそこのところも取り込みたい、というのはちょっとあったんですよね。自分自身、生きていてニュータイプ的にピンと何かがわかるなんて経験はないけれども、それでも何かそうとしか思えないような偶然って、時としてあるじゃないですか。なので、そもそもガンダムの世界で霊が出て来ちゃうっていう、あの辺の世界の構造みたいなものを一度試しに整理してみたかったんです。

 それは決してこの世界の真実となって、その後のガンダム世界を変えていくものではなく、あるひとりがそうじゃないかと疑って、突き詰めて、大実験をして、失敗して、償いをして消えていく、という話。『NT』って、そういう構図の話ですから。一度そういう形、後の歴史に傷がつかない範囲で、いっぺん紐解いてみようかな、と。先々のことまで考えていった時に、最後に『NT』でミネバが「これを封じるのが私たちの一生の仕事」って、優秀な予告編のようなセリフを言ってましたけど(笑)。

――(笑)。

福井:それはあると思いますよね。封じられて、10年経ったのが『F91』なんじゃないですかね。『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』とかもあり。あの時にはもしかしたらまだ封じられていたのかもしれないし……宇宙世紀0105、0106年、ジオンもなくなって、宇宙世紀の100年前後に何かすごいことが起こったり。『UC』の続編的なものがあるとしたら、そこが主眼になるのかなっていう気はします。

――宇宙世紀の物語ってすごく特殊で。例えば同じように果てしなく続いていくサーガとして『指輪物語』のようなものがあるとして、トールキンは最初の時点で物語の全体像をある程度把握した上で緻密に世界を設計していったわけですよね。でも、ガンダムの場合は、生みの親の富野さんにもコントロール不能な荒ぶりの産物であり、それを受け取った他者が解釈を加えていく相乗効果の中で、キメラ的に広がっていったサーガである、という。

福井:やっぱり、ガンダムっていうのは富野さんの苦闘が反射されている世界観なんだろうな、と思います。もしもこの世界を神様が作ったものだとしたら、世界の混乱は神自身の混乱だとも解釈できないこともないですよね。それを思うと、ガンダムは富野さんという神が作った世界であり、じゃあそれは神の恣意的で独善的なものになるかといえば全然そうじゃなくて、神自身にもどうにもままならなくなっているっていう、そこがガンダムのある種の魅力、リアリズムなんですよ。だから、自分がいまこうやって関わってはいますけど、自分の好きなように組み立てていってしまうことだけは避けないといけないし、本来自分が予定していたことも、時局に合わせて違うな、と思ったらすぐに変更するっていう、そういうフットワークの良さを絶えず持ちながらやっていかないと、たちどころに作り事に落ちていってしまう。そういうスリリングさがありますよね。

『機動戦士ガンダムZZ』

宇宙世紀のタブーは、宇宙人が出てくること。あとワープもしてはいけないでしょうね。

――そうした宇宙世紀のガンダムを描く上でのタブーがあるとしたら?

福井:例えば、宇宙人は出てきちゃダメですね。人間だけ。あと、おそらくワープもしちゃいけない気がします。所詮人間って、宇宙を舞台にしていると言ってもせいぜい猫の額のような、地球と月の間の極小な空間で覇権争いをするしかない生き物なんだっていうところが、宇宙世紀なんだと思います。

――確かに、宇宙世紀と言っているけれども、宇宙を際限なく切り開いていこうという意思はあまりないんですよね。むしろ地球に向いている。

福井:そうなんですよ。今の科学の力でも地球から月に行くのに3日かかるんですけど、まんまそれを踏襲しているんですね。航法とかも、今とほとんど変わらないし。で、たぶん『∀ガンダム』とか、ああいう風に世界が切り替わった物語というのが、おそらく人類的に飛躍的な進化を遂げた瞬間なんですよね。ワープ航法を編み出して、コロニーにワープ・エンジンつけてワープしていったんじゃないか? とかね。実は『光る命』にも、最後にワンカットだけ、それを入れているんです。コロニーがスーッと全部いなくなってしまうっていう。でも、それをやった瞬間に、宇宙世紀って終わっちゃうんじゃないかな。その代わり、SF的なところで言うと、サイコフレーム・パワーで隕石を止めたりするのはアリ(笑)。これはもう、神がそれをやっているので、免罪符つきです。

――福井さんは、『F91』以降、『∀ガンダム』以前の時間には興味ないですか?

福井:いや、ないことはないですよ。でも、そこまでいったらもう完全にフリーハンドですよね。それでいて、過去の財産もちょっとは使えるし。ただまあ……どういう風にそれを、どんな媒体で発表していくのがいいのか、考えなきゃいけない部分はありますけどね。今はもう、テレビ放送っていう脈は基本的になくなってきたんですよね。今やるとしたら、いきなり劇場で勝負するか。あとは、サブスク系のところと契約してやるか。まだそこらへんが過渡期なんです。さっきちょっと話に出た『UC』の続きのお話も含めて、どういう風に展開していくのがいいのか、考えなきゃいけないですね。

――福井さんは、今は『機動戦士ムーンガンダム』のストーリーを書いてらっしゃるんですよね。

福井:ええ、ガンダムまわりで現在進んでいるのはそれですね。この先どうなるのかはわからないですが……この間気づいたんですけど、『V』を作っていた頃の富野さんの年齢に、今の僕はなろうとしているんですよね。そういう意味でも、なにがしかちょっと、成熟した技を見せたいなって思っている時期です。自分の弱点や長所を見極めて、この球だったら確実に打てるっていうのを、自分が一番やれること、得意なこと、確実にやれることをやっていこうと。映像作品って、やっぱりこれまでもそうですけど、やったことがないことにチャレンジしていかなきゃいけないし、まわりとの共闘作業の部分もあるんですけど、今回の『ムーンガンダム』の場合は、もちろん虎哉(孝征)さんっていう描き手との共同作業で。非常に長い付き合いで、お互いの肌感覚もわかっているので、そこでもう腰を据えたものを作りたいと考えていて、それが結果的に、宇宙世紀っていう世界を裏側からもういっぺん見ていく、みたいな作品につながっていったんです。

『UC』では、それこそ宇宙世紀の元年からスタートしましたけど、元年から一年戦争の間はぽっかり空いているんですよね。それこそジオンが勃興した時のまわりの空気感であったり、「ムーン・ムーン」っていう、『ZZ』で一度だけ出てきた忘れられたコロニーが舞台の話なんですけど、そのコロニーの歴史を辿っていくだけで、実は宇宙世紀の裏面史みたいになっていくところもあって。舞台としては、『ZZ』と『逆襲のシャア』の間の話なので、これからアクシズ・ショックが起こる、大きな転換が起こる直前の空気がどういうものだったのかっていうことを、改めて総括して見せていこうとしているので、この記事を読んだ方は、『ムーンガンダム』もぜひ一読してみて欲しいですね。

取材・文=粉川しの

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福井晴敏(ふくい・はるとし)
作家。代表作として、『Twelve Y.O.』『亡国のイージス』『終戦のローレライ』『戦国自衛隊1549』など。2000年、『ターンエーガンダム』のノベライズを発表、以降ガンダムシリーズのさまざまな作品に深く関わり続けており、『機動戦士ガンダムUC』(小説)、アニメ『機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096』(シリーズ構成)、映画『機動戦士ガンダムNT』(脚本)、漫画『機動戦士ムーンガンダム』(ストーリー)などを担当している。

U.C.ガンダムBlu-rayライブラリーズとは?
『機動戦士ガンダム』40周年を記念して、ガンダムシリーズの宇宙世紀作品がスペシャルプライスでリリース。各作品に、すでに発売されているBlu-rayブックレットなどの資料から厳選されたデジタルアーカイブを収録。また、全タイトルに、新規映像特典『機動戦士ガンダム 光る命 Chronicle U.C.』のディスクも付属する。

●発売中
機動戦士ガンダム 第08MS小隊 ミラーズ・リポート
機動戦士ガンダム0083 ―ジオンの残光―
機動戦士ガンダム 逆襲のシャア
機動戦士ガンダムF91
価格:各3,800円(税抜)

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劇場版 機動戦士ガンダム
劇場版 機動戦士Zガンダム
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●2020年2月27日発売
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機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争 価格:8,000円(税抜)
機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY 価格:18,000円(税抜)

2020年9月からは『機動戦士ガンダム』から『機動戦士Vガンダム』までの宇宙世紀TVシリーズ作品も発売決定! 詳細は公式サイトをチェック!
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