ひたすらしゃべってバカをやる、「無駄部」の日常が楽しすぎる!――『恋に無駄口』福山リョウコインタビュー

マンガ・アニメ

2020/2/27

『恋に無駄口』(福山リョウコ/白泉社)

 TVアニメに実写映画、さらに劇中バンドの楽曲のCDシリーズ化まで、さまざまなメディアに展開し、大きな反響を呼んだ『覆面系ノイズ』の完結から1年。「花とゆめ」に連載中の福山リョウコ最新作『恋に無駄口』のコミックス1巻が発売される。『覆面系』が、シリアスな背景を抱える少年少女の人間模様を圧倒的な熱量と、読み手を振り回すほどのもどかしさや息苦しさをもって描き切った力作だっただけに、『恋に無駄口』のストーリーを聞いて驚いた。で、実際に読んでみて、もっと驚いた。とにかく底抜けに楽しいのである。本作の中心は、元女子高だった高校に入学した、「無形文化遺産代行保存部」(通称・無駄部)の男子4人。ひたすらしゃべり、バカをやる彼らの日常を眺めるのは、とても心地がいい。少女マンガ読者だけでなく、「高校時代ひたすらしょうもないことしゃべってたな」と身に覚えのある男性読者にも、ぜひ一読いただきたい。作者・福山リョウコに、本作誕生のきっかけや描き進めるうちに出会った発見、『覆面系ノイズ』がもたらしたものなど、幅広いテーマで話を聞かせてもらった。

20周年だし、読者の方ともうちょっと視線を合わせたいなって

――『恋に無駄口』、ものすごく楽しい作品ですね。

福山:ありがとうございます。なんか、男の子にめっちゃ評判がよくて。うちの弟は、小さい頃からマンガを読んでくれてるんですけど、辛口なんです。でも、今までのマンガで一番面白いって。まわりの人がみんな好きって言ってくれるので、それが嬉しいですね。

――基本的なところから伺いますが、この作品を描くことになった背景、着想するきっかけとは?

福山:身のまわりで、死とか病気が重なった時期があって、(『覆面系ノイズ』に続く)新連載の構想が考えられなくなってしまって。それで、ヤングアニマルZEROでやってるネタ(『聴けない夜は亡い』)がまずできたんです。できたというか、固まって。それを「花とゆめ」でやりたかったんですけど、「もうちょっとキャッチ―なものがいい」と言われ、しばらく考えてました。どうしても、生と死のことしか書けなくて、初めて何も出なくなっちゃったんです。いろいろと相談に乗っていただき、まずはヤングアニマルZEROのほうのネームを起こしましょう、ということで描いていったら、わりとすっきりしたんです。向こうは、その当時の気持ちをただ垂れ流し、みたいな作品になっているので。

――喪失が、創作の原点になったわけですね。

福山:なりました、そのときは。その代わり、こっちが書けなくなっちゃった。

担当編集:『恋に無駄口』のネタの骨格というか、おしゃべりする男子たちの案が出てきたときに、「真逆なのもいいかも?」みたいな話になって。

福山:そうか、ネタありきで「真逆でいい」と思って話をしましたね。

――「あえて真逆なものを作ろう」ではなく。

福山:ではないですね。男の子がただバカな話をする話は、昔からずっと描いてみたかったんですよ。だから初回は気合いも入って、作ろうと思ってたものがちゃんと作れたんですけど、2話目で葵と幼なじみの子がわちゃわちゃするプロットを描いたときに、ついこれまでのポエマー成分が出てきちゃって(笑)、葵をイケメン風に描いちゃったんです。そのときに「福山さん、これはちょっとカッコよすぎます」って軌道修正をしていただいて、「そうか、なるほど」と。長年の癖でイケメンをカッコよく描いてしまうところが脈々とあるので、それを修正していただいたことで、自分の中でだいぶ固まりました。「こうやって外してかわいく描くのが、この作品のキモなんだな」って。

――なるほど。

福山:不安になっちゃうんですよね。「花ゆめ」で少女マンガをやってきて、クライマックスはイケメンがカッコよく締める、みたいなセオリーが自分の中にあったんです。でも『あ、だめだ』と(笑)。

――(笑)そうでなければならないとも思っていた?

福山:思っていました。「わたしのマンガはそうであったほうがいい」みたいな気がしてたんです。

――それを意図的に外していくのは、端的にチャレンジになりますよね。

福山:そう、今回すっごいチャレンジなんです。ものすごく冒険してるし、発売がめちゃくちゃ不安です。だいぶ今までの感じからは外してきてる気がするので。

――『覆面系ノイズ』から継続して読んでいる方もいるでしょうけど、新しい読者も増えそうですよね。いち男性読者として、「こういうのが読みたかった!感」がすごくありました。

福山:ほんとですか⁉ 嬉しいです。わたしも、こういうのが読みたかったんですよ。マンガって、巻の最後は次の巻が気になるようにするのがベストだとずっと信じていたんですけど、最近自分が買っているものは全部そうじゃなくて。1冊読んで満足、「ああ~、幸せな気持ちになった。よし、次の巻も楽しみだな」っていうマンガばかり読んでいます。でも、自分のマンガは胃が締め付けられるようなやつで(笑)、次の巻まで3ヶ月待たなきゃいけないのをずっと繰り返していたわけですよ。「あ、これ読者の方にはきつかったかもしれないな」と。語弊があるかもしれないけど、今はいろんな娯楽があるから、「これ苦しいから、違う娯楽に行こう」ってなる方が多いことも、肌で感じていて。なので、いつでも気楽に読めるものがわたしにも描けないかな、と。

――読み手としての感覚が、『恋に無駄口』に投影されてるんですかね。

福山:そうかもしれないです。特に、『覆面系ノイズ』はわかるやつだけついてこい、みたいな作品だったので(笑)、読破していただいた読者の方には「よく最後までついてきてくれた」っていう感謝が自分の中にあって――こう、力で押し切るタイプの作品じゃないですか。でも今年はせっかく20周年だし、読者の方ともうちょっと視線を合わせたいなっていう気持ちもありました。だいぶ俯瞰の視点から、いろんなものを長く描いていた気がするんですよ。

――『覆面系ノイズ』の場合、頑張って物語に食らいついていくことが、読み手にとっての喜びだったところもあると思います。

福山:そうかな。だとしたらすごく嬉しいですね。

青春は無駄である、でも無駄とかけがえのなさは表裏一体

――「男子がバカな話をしている」というテーマにはもともと興味があった、というお話でしたが、実際に描いてみて得られた発見や気づきもありましたか?

福山:いっぱいあります。まず、今までのわたしは1話につき一萌え、二萌えみたいに、男の子と女の子の絡みで萌えるポイントをなるべく入れるように作ってきたんですけど、「入れない楽しさもあるんだ」って。プロットからネームを清書するときに、会話のテンポを吟味しながら描くのが、ものすごく楽しいです。

――テンポのよさは、この作品のキモですよね。ページ・コマ・ふきだしの中に詰まった言葉の密度感によるテンポが、会話の面白さを引き出している、というか。こいつらほんとによくしゃべるなあ、と。

福山:ほんとにそうですね。昔、大学生のときだったかな、男の子の友達が、「少女マンガで男の子同士が好きな女の子の話をするけど、あんなの有り得ない」って言ってる人がけっこう多くて。そういうのが描けてたらいいな、と思いながら描いてます。

――恋愛の話ばっかりではないかもしれないけど、話すことは山ほどあったりするんですよ。

福山:ありますよね、それはわかる。わたし、最近ゲームにはまって、YouTubeの実況を見てるんですよ。仲間内でチームを組んで、一緒に対戦する実況があるんですけど、20代中盤くらいの子が、ほんとにしょうもないことしか言ってなくて、小学生みたいなんですよね。女の子だったら、ここまでバカな話はしないよな、と。それも、だいぶ自分の中でツボっている気がします。

――ただ、マンガとして読む場合、会話が楽しめるかどうかは無駄部の4人のことを好きになれるか次第だと思うんですよ。「なんだこいつら」っていう人たちの会話って楽しめないじゃないですか。

福山:わかります。

――『恋に無駄口』がすごいのは、1話が終わる頃には4人のことがわりと好きになっちゃうことで。彼らをどう作っていったのかは、とても気になりました。

福山:最初の打ち合わせのときに、4人出すって決めて役割分担を決めましたね。バカと、モテないと、かわいい担当と……とか。わたし、つい話を重視しちゃうので、キャラクター作りって苦手なんですよ。話に合うように作っていってだんだんできてくる、みたいなパターンが多かったんですけど、今回はちゃんと作った方がいい気がしてました。連載前にキャラを文章に起こすことをほぼしてこなくて、それはあまり決めつけちゃうと面白くないからなんですけど、今回はわたしにしては多めにひとりひとりのキャラクターがどういうやつなのかを作りましたね。会話が面白くなかったらこの話はダメだな、と思ったので。

――その結果、無駄部の4人が愛せるヤツらになって――。

福山:そうか、キャラ愛の話ですね(2017年春、TVアニメ『覆面系ノイズ』放送当時のインタビューで、「キャラ愛はほんとにない」と発言)。

――あれは力強い言葉でした(笑)。

福山:(笑)言った後、すごく考えたんですよ。「わたしはほんとにキャラ愛がないのか?」と思って。すっごい考えて、その後で昔の自分のコミックスを読んだら、「ほんとにこのキャラクターたちが大好きです」的なことが書いてあって、衝撃を受けて(笑)。

――ははは。

福山:「わたし、何かなくしたんじゃないか!?」って。でも、あのときはわりと本気でした。なぜなのかを考えたら、インタビューを受けた当時の展開が『覆面系』の連載中で一番難しいところで、ずーっと「もう、こいつら! こいつら!」みたいな感じで描いていたんですよね。だから当時そう言ったんだと思うんですけど、最後それぞれちゃんと落ち着くところに落ち着いたときに「ああ、愛してるわ」と思いました(笑)。当時は世界に入り込みすぎて、完全にキャラ視点になっちゃってたんだと思います。愛がなかったら、最後までしっかり描き切ることができないとも思っているので。

――実際、『恋に無駄口』からは描き手のキャラ愛を感じますよ。

福山:よかった。ありがとうございます。

――思春期の男子がしゃべったり妄想したり、青春を無駄に過ごしているように見えるけど、実は本質的なことを描いていたりする。そういう作品はいろんな時期に存在している気がしていて、普遍的に人を惹きつけるモチーフだと思うんですけど、福山さんがそれに惹かれるのはなぜでしょう。

福山:いや、実はこういう日常系のマンガって、今まで一度も食指が動いたことがなくて。でも、ひとつ思うのが、『覆面系ノイズ』のアニメのドラマCDとか、イベントの朗読劇の脚本を書いたんですけど、今回やっていることってあのノリなんですよ。そこでほんとにどうしようもないことをキャラたちがしゃべり倒すのを描くのが好きになった感があります。「無駄、めっちゃ楽しいじゃん」って。

――この作品のキーワードでもある「無駄」って、ある意味発明だな、と思って。無駄部の4人はグダグダしゃべっているようだけど、これって果たして無駄なのだろうか、と。むしろ、「この人たち、得難い時間過ごしてない?」って読んでいて思うんですよね。

福山:コミックスの表3に著者コメントがあるんですけど、まさに同じことを描いてます。青春は無駄である、でも無駄とかけがえのなさは表裏一体だからって。それはけっこう意識している気がします。

――無駄という言葉はそれこそ表裏一体で、彼らがその時間を過ごしていることに対して、本人たちは感じていない喜びみたいなものを、読み手である我々がのぞき見ているというか。

福山:本人たちも、後で気づくんだろうなと思います。だから、「無駄」はわりといい意味で使ってますね。

――究極、彼らがなんで無駄部として活動をしているのか、作品を読み終えたときにわからなくてもいいのかなって思います。

福山:それはあるかもしれないです。そもそも、自分でツッコみたいんですけど、あんな部活承認されるわけないじゃないですか。同好会ならまだしも、なんで部なんだよって自分で未だに思っていて(笑)。

――(笑)確かに。この世界は、彼らにすごく優しいんですね。無駄部が正式に承認されちゃってる空気が、そもそも心地いいというか。

福山:そうなんですよ。優しすぎるじゃんって。

――無駄部が承認されていることと、詰出麗華(つんで・れいか)というキャラクターが存在できている、この空気がたまらないです(笑)。

福山:ありがとうございます(笑)。

(『覆面系ノイズ』で)メディア化の夢が叶って、連載もなんとかまとめられたことが、自信につながったところはあるかもしれない

――『覆面系ノイズ』の連載が完結して、もう1年になりますね。

福山:1年経っちゃいましたね……ほんとだ、こわ!

――『覆面系ノイズ』が福山さんに残してくれたものは何だったんでしょう。

福山:いろいろありますね。自分としては傑作とも思ってないし、でもそのときの自分としては頑張ったと思うので、大切なことは大切なんですけど――難しいですね。忍耐力、かな。楽しいことだけじゃなく、きついことも多かったので。マンガを描くという行為がすごく楽しかったのは、最後まで変わらなかったんですけど。

――作品の雰囲気が暗いわけではないけど、キャラクターがそれぞれシリアスな体験をしてましたからね。

福山:自分で描いておいてなんですけど、背景が不憫な子が多かったので、「なんとかしてこの子を幸せにしないといけない」ってずっと思ってたんですよ。それを背負って描いてきたので、重かったですね……今、こうして話していても過呼吸になりそうですけど(笑)。だから、最後なんとかうまく着地できそうって思ったときに、ようやくすーっと力が抜けた気がします。「終わるからうまくまとめちゃおう」は絶対やりたくなかったので、それだけは必死でしたね。

『覆面系ノイズ』は、一気読みしたほうがいいなって自分では思います。話を追っていく中で、きつくて離脱した人もいっぱいいると思うんですよね。一気に読めたら、最後気持ちいいんじゃないかなって。わたしはわりとあまり先を決めないで、「だいたいこんな風に着地するぞ」ってぼんやり考えつつ描くんですけど、最後にライブとキャラたちの成長とユズの歌とか、もろもろがきれいにハマったので、自分でもビックリしたんですよ。だから、最終巻はわりと好きかもしれないです。

――以前福山さんは、マンガを描くことで得たいと思っているものは満足、という話をされてましたね。

福山:今はちょっと変わって、もうあまり頓着してない気がしてます。満足してないのは変わらないんですけど(笑)。今までは、「これをちゃんと描かないと死ぬ」みたいなつもりで描いてたけど、最近それがあまりなくなった気がする。わりと、命がけな感じだったんですよ。でも最近は、楽と言ったら違うし、生むつらさは相変わらずあるんですけど、「いろんな道があるな」って感じてますね。それは、描けない時期があったのがきっかけのひとつのような気がする。自分が描けるものはこうで、望まれてるものがこうで、という気持ちがずっとあったんですけど、「冒険してもいいんじゃないか」って。

――「冒険してもいいんじゃないか」と思えたのはなぜ?

福山:この話(『恋に無駄口』)を思いついたからかな? いや、違うな……ずっと、メディア化が夢だったんですよ。その夢が叶って、連載もなんとかまとめられたことが、自信につながったところはあるかもしれないです。自分の中で、「一個大きいことやったな」って。「一生分ポエム描いたな」とか(笑)。中二とかポエムは大好きなんですけど、別のこともやってみたいな、と。

――でも、中二とかポエムを今後一切描きません、ということではないですよね。

福山:それはないです。根本的に中二だし、生粋のオタクなので(笑)、絶対に描くと思います。それこそ、ヤングアニマルZEROのほうは明らかにポエマーモードで描けるものなので、それがあるからこっちを描けてると思う部分はあります。いい意味で、気が抜けているものを描いていいんだなって。今までは一作品しか書いてないから、「これが失敗したら終わる」とかずっと考えていたわけですよ。それが今、ふたつある分、だいぶ自分の中の負担がバラけている感じがあります。でも「自由だ」って思うのはその前で――初めて、自由だって思ったんですよね。

 話が飛びますけど、わたし、反抗期がなかったんですよ。小中高と、親が言うこと、先生が言うことは正しいと思って生きてきたんですけど、大学に入ったら自由に授業を組めるじゃないですか。急にバンって放り出された気がして、めちゃめちゃ不安になったんですよ。でも落ち着いてくると「すごく自由!」と思って、大学が大好きになっちゃって。そのときに感じた感触と今の感覚って、近いんですよね。

――それはかなり珍しい思考ですね。

福山:どっちがですか?

――小中高で言われたままをやるのを心地よく感じて暮らしてきた思考は、だいぶ珍しい気がします。

福山:そう、反抗期がなかったってヤバくないですか? 自分でもヤバいと思いながら。「いつ反抗期するんだろう?」って思っていたんですよ。「むしろ反抗期やりたい」って思ってたんですけど、一回も来なくて。でもやっぱり、自由だと思ったのは、『覆面系ノイズ』を描いたからですかね。きれいに下ろしきれたと自負はしているので。

――自由になれたのも、そこまでいけたからっていう。

福山:そうですね。ドMの向こう側、みたいな(笑)。

――(笑)ドMである自覚は持ってるんですね。

福山:あります、あります。マンガ家はみんなそうだと思ってるんですけど。

――ドMの向こう側、ビジュアライズしてみたいですね、お花畑みたいな感じだったりするんでしょうか。

福山:花畑の中で描いているわたし、かもしれないです。怖い(笑)。

――(笑)最後に、『恋に無駄口』の中で青春を楽しんでいる4人に言いたいことって何ですか?

福山:全員に「もっと無駄を楽しめ」って言いたいです。今は気づかなくてもいいから、ほんとに無駄を楽しんでほしいと思います。わりと今までの連載は傾向としては全部似ていたと思っていて、成長譚であり、何かを乗り越える少年少女たちが成長していく、そこにはポエムいっぱい、みたいな(笑)。今回はそれとはちょっと違うと思えるところも気に入っているので、楽しんでもらえたら嬉しいです。

取材・文=清水大輔