もっと自由に。ミニアルバム『シスターシティーズ』が映し出す、「表現者・早見沙織」のあり方――早見沙織インタビュー

エンタメ

2020/3/31

 2015年8月に1stシングル『やさしい希望』からスタートした声優・早見沙織の音楽活動が、今年で5周年を迎える。自ら作詞・作曲も手掛ける「早見沙織の音楽」は、さまざまなクリエイターとの邂逅を経ながら豊かな広がりを獲得し、2018年12月発表の2ndアルバム『JUNCTION』は、まさにさまざまな音楽が交差する場所に生まれた、長く愛されるべき名盤となった。そんな早見沙織の最新のアウトプットが、「旅」と「自由」をテーマに編まれた5曲入りのミニアルバム『シスターシティーズ』(発売中)だ。5組のクリエイター=Kenichiro Nishihara、田淵智也、NARASAKI、堀込泰行、横山 克とのコラボレーションにより、その音楽はさらに拡張し奥行きを増しつつ、『JUNCTION』後のツアーや、自身が担当してきたキャラクターソングのライブ“CHARACTERS”の経験も反映された、開放的で心地よい歌が収められている。5月から全国7都市で開催予定のツアー『Your Cities』を前に、いまのモードを聞いた。

自分という枠組みを、もっとオープンにしていく必要があるな、と思った

──新作の『シスターシティーズ』、2ndアルバム『JUNCTION』に続いて、素晴らしい1枚が完成しましたね。何よりも、とにかく聴いていて心地がいい5曲だな、と思います。

早見:そうですね。すごくスッと入ってくる5曲だと、わたしも思います。

──早見さんはいつも、「リリース前はドキドキして胃が痛い」と言っているわけですが、今回の1枚に関してはどんな感触がありますか?

早見:すごく楽しかった5曲が揃ったな、という印象があって。だから今回は、ドキドキするというよりも、「いろんな方に聴いていただけたらいいなあ」という純粋なワクワク感が大きいかもしれないです。多少、心穏やかになっております。胃は痛いですよ? いつも、どんな場所でも(笑)。でも今回は、一緒にやってくださる皆さんと、しっかりコラボという形でタッグを組んでやっているところが、大きいと思います。

──作家さんとの共同作業という意味では、これまでの作品と同じ環境ではあると思うんですけど、『シスターシティーズ』のリリース前を特別心穏やかに過ごせているのはなぜなんでしょうね?

早見:ひとつは、『JUNCTION』があって、2019年の1年を経てのこのアルバム、というのは大きいかもしれないですね。自分の中でもちょっとずつ、視野や幅が広がったところもあると思いますし――うん、『JUNCTION』をやったことが、意外に大きかったのかもって、今話しながら思いました。『JUNCTION』を出す前が、わたしにとって一番の過緊張点だったので。それが、いろんな形で、いろんな伝わり方で、いろんな方に届いて、それが目に見える形で見えたから、ひとつ達成感はあったし、次につながったのかなって思います。

──『JUNCTION』のリリースが18年12月で、昨年には4都市でツアーがあったわけですが、実際そのツアーでの体験も、『シスターシティーズ』にいろんな意味で作用しているのではないかな、と。『JUNCTION』ツアーで早見さん自身が受け取ったもの、何だと思いますか。

早見:『JUNCTION』と、“CHARACTERS”(2019年10月、Zepp DiverCity Tokyoで開催された、自身が担当したキャラクターソングのライブ)も踏まえて思ったことなんですけど……言葉で伝えられるかわからないけど、「みんな、今を生きてるな」と思ったんです。「今を見ている、見つめているし、みんなちゃんと今を生きてるんだ」「自分も、音楽をやっていって、今できることを広げて未来につなげていきたいな」と思って。それを考えさせてくれたのは、“CHARACTERS”でした。“CHARACTERSで”昔の曲をいっぱい歌って、それはわたしにとって財産だったと思います。すごくいい経験だったし、聴いてくださる方も、いろんな角度で刺さったり、「はあ~」となってくださって、すごくありがたかったし――とてもいい感覚でした。

 同時に、“CHARACTERS”では、アンコールまでタイアップ以外は自分の曲をやらなかったんですよね。ずーっとキャラクターソングだけを歌って、アンコールで自分の曲、だったんですけど、そこで本編とはまた違う一体感があったんですよ。そのときに、みんながひとつになった感じが、わたしの中で感動として残っていて。その経験があったから、わたし自身も、今のわたし、そして今のわたしからつながっていくこれからのわたしに、もっと目を向けようと思った、というか。それがあっての2020年なので、内観しつつ進んでいる感じは、今すごく大きいです。『JUNCTION』ツアーにもそういう一端があって、いつもいろいろ迷いながらやってきたけど、ひとつ、「わたしがこのライブをした」という事実が、大きい経験として自分史に残った感じがあります。

──実際、“CHARACTERS”のライブを観ていて、そこで届けられた音楽体験に対してすごく感謝をした記憶があります。もちろんそれは“JUNCTION”も同じで、豊かな音楽の体験を届けてもらって、その満ち足りた気持ちをお客さんがステージに対して返す、みたいな循環があったような気がします。

早見:いろいろな相互作用があったことを今、思い出しました。あのとき来てくださった方に、「心洗われました」「自然と泣いちゃって」「すごく救われました」とか、いろいろなメッセージをいただいたときに、自分自身も、音楽に救ってもらったり、何かを受け取ってきたけど、わたしもライブ中にそういうことをもしかしてしているのかな……って。自分が歌いながら感じている感覚と、同じ感覚を、聴いている方と共有していたのかもしれないし、それによってわたしも浄化されるというか、気持ちが昇華していくというか。『JUNCTION』ツアーでは、その共鳴にすごく感動しました。

──素晴らしいですね。

早見:わたしがこれまで音楽にもらってきたことを、同じようにみんなと一緒にやっていることに気づいたのは、『JUNCTION』が大きかったです。“CHARACTERS”では、これまでの軌跡をわたし自身も振り返ってきた、みんなも振り返ってきた、じゃあ今からどうしていこうかな、となって。それが2019年で、それはたぶん『JUNCTION』を作った2018年から始まったと思っているんですけど。

──ステージ上で感じたその感覚は、「もとから思い描いていた理想の形」というよりは、自然と発見する感じだったんですか。

早見:偶発的でもあったかな。ほんとに、その場で教えてもらったというか。わたし、すぐメモしないとどんどんこぼしていっちゃうから、メモしたんです。「うわーっ」と思ったので。自分がもらったものを返してる、みたいな感じになってますね。その先で、聴いてくれる方も、同じようなプロセスになるんじゃないかなあって。ライブという生の瞬間に生まれるものだけじゃなくて、形にするためにも、それをちゃんと音楽に乗せていけたらいいなあって思う、@2020です(笑)。

──(笑)「音楽を通してこういうことをやっていけたらいいな」っていう指針というか、道が少し見えている感じがありますね。

早見:はい。だからこそ、自分という枠組みも、もっとオープンにしていく必要があるな、と思いました。より自分らしくというか、わたし自身をある種、開放してやっていけたらいいな、と。2020、2021年については、そう思ってます。いろんな方からもそう言っていただけるので、特にそれを意識しているかもしれないですね。

──でも、今までクローズドだったわけではないですよね。

早見:そうではないと思うんですけど、自分のマインド的に、よりいっそう「いいんだよ」ってどんどん言っていく作業というか――自己肯定力!(笑)。その上で、「もっとこうしなきゃ」と思っているままでもいいし、「やっぱりあっちがよかったかなあ」って思ってる今のあなたでいいし、「ここは完璧に見せなきゃ!」って思っているあなたでいいし、「ここは気を抜きたい」って思っているあなたでいいって、自分に対して思うというか。「こんなところは見せられない」を見せたっていいかもしれない。「それでいいんだよね」を、2020年は一歩一歩手探りで、手触りを確かめながら生きていく年になりそうだなって思ってます。

曲を聴くことで、自分の歩んできたこれまでや、これからどうなっていくか、そして今どう生きていくかに思いを馳せてくれたら

──そして今回の『シスターシティーズ』は名盤だと思うんですけど。なぜ名盤なのかというと、“旅”と“自由”をテーマに作られているからではないかな、と。“旅”は、これからツアーをやるからですよね。一方、“自由”をテーマにするというのは、とても面白いと思いました。さっき話してくれた開放という言葉と自由って、意味合いが似てるじゃないですか。開放された結果、自由を見つけたのかもしれないし、開放を目指すからこそ自由をテーマに据えたのかもしれない。まずは“自由”というテーマを設定するに至った背景を聞きたいです。

早見:今、そう言っていただいて、「確かにそうだなあ」って。ある種、潜在意識的なところですよね。やっぱり今、自由とか開放ということに対して、思い入れがあったのかもしれないです。

──こうして作品にアウトプットされているということは、ある部分では意識的になっているのかもしれないですね。

早見:それが形になってきたというところであり、たぶん、今このときだからだと思いますね。なんていうんだろう、逆に自由であることを気にしていないと、自由という言葉は出てこないじゃないですか。お茶を飲みたいからお茶の話をする、みたいな感じだと思うんですよね。やっぱり、自分の中でどこかそこに引っかかりがあったり、気にするところがあって生まれたところはあると思います。たぶん、次に出すものも今制作をしてますが、そこはもうある種そんなに気にしていないんですよ。一回、通っちゃったから。でも、2019から2020にかけての自分の中では、自由に対する意識があったんだと思います。自由になれているときもあるし、まったく自由でないと思うときもあったかもしれない。その中で、「それって本当はなんなんだろう?」とか、「何をすることが自分の感じる自由につながっているんだろう?」と、すごく考えてはいたと思います。

──願望の表れ、という部分もあるのかも。「自分は自由だ!」って主張するときって、まだ自由じゃないってことでもあるし。

早見:はい。ほんとに自由な人は、気にしてないですからね(笑)。

──で、自由をテーマに掲げて、それが音や歌詞にも現れているから、『シスターシティーズ』はとにかく気持ちいいんだろうなあ、と思うんです。

早見:わたしも、聴き心地がとてもいいアルバムだな、と思います。

──今までに体験してきたことによる内面的な部分が作用しつつ、冒頭に話してくれた通り、クリエイターさんたちとの共同作業であることが、このアルバム全体に働きかけてますよね。

早見:そうですね。皆さんは基本、わたしが名前を出させていただいた方です。クリエイターさんとのコラボになりますというお話をいただき、それが土台にあって、「どなたにしよう?」っていうアイディア出し会があって、そのときにわたしが最近よく聴く方とか、こんな方に書いていただきたい、といろんな方のお名前を出させていただきつつ、みんなでいろいろ意見交換をして決まった感じです。

──5曲とも、曲先ですか?

早見:曲先です。横山(克・“mist”作曲)さんとはちょっと打ち合わせしたりをしましたけど、基本は曲先ですね。

──“旅”と“自由”というテーマを伝えた上で、こういう音になった?

早見:いや、制作途中で偶然が重なって筋が通っていった、というか。そもそも『シスターシティーズ』というタイトルはけっこう早めに決めていて、『JUNCTION』からつながって、今度はわたしが自分の馴染みの深い場所とか、縁を作りたい場所、憧れの場所、そういう土地に行って何を得てくるか、をイメージしていたんですよ。だからなんとなく、「旅っぽくなるかな~」と思っていて。プラス、横山さんたちと打ち合わせをしたときに、旅のお話もあったり、そのときに自分がどこにでも行けるような感覚にもなって、それってすごく自由なことだなあ、と思ったんです。NARASAKIさん(“ザラメ”作曲)の曲も早めの段階でいただけていたので、そのあたりのインスピレーションも踏まえて、「いいかも、この方向性なのかも」って思いながら進んでいった感じでした。

──制作をしていて、音楽的に面白かったエピソードを聞きたいです。特に、イメージしていなかったことが起きて、楽曲がよりよいものになった、的な体験があればぜひ。

早見:全部に言えちゃうけど、いろいろありますよ。NARASAKIさんは一緒に録ったので、一番セッション的だと思うし、瞬間で生まれたものを切り取った感があります。ギターはダブルで、NARASAKIさんはアコギだったのかな? で、その他のギターのところは『覆面系ノイズ』でお世話になったビリーさんが弾いてくださっているんですけど、みんな共通の知人で、ライブも一緒にやっていたので、旧知のメンバーで「いっせーのせっ、ドン!」って合わせた瞬間の心地よさは、すごく詰まってると思います。堀込(泰行・“遊泳”作曲)さんは、「早見沙織がボーカルであること」をとても考えた作曲をしてくださって。デモとコード譜が送られてきて、曲の持つ空気感を「この状態で進めていってください」という指示をくださるのは、なんとなく堀込さん感があるなあって、音楽的に思いました。そこに倉内(達矢)さんのアレンジが乗ることで、ちょっと違う味も足されてより世界が広がる変化の過程も楽しめましたし、あとは5曲目(“PLACE”)が──あれ? これ、全部言う流れになってますか?(笑)。

──(笑)全部でもいいですよ。

早見:どれもそうなんですけど、歌詞を書いてると泣けてしまって(笑)。“PLACE”とか、1曲目の“yoso”もそうだし、“mist”もそう。

──何に泣けたんですか?

早見:なんだろう?……自分の中の感情をすくい上げていくからじゃないですか? ひとつひとつを丁寧に手に取って、見つめていくと、なんか泣けてきちゃう、というか(笑)。でも、そればかりを言葉に乗せると、じめっとしちゃうから、そうはなりたくなくて。カラッとしたアルバムだと思うし、ライトで肌に馴染みのよいアルバムになってほしいから、あまり感情を乗せて乗せて、とはしなかったけど、やっているときはけっこう「ううう~」となってました。

──歌詞を読みながら聴いていると、「今までに見たことがない、行ったことのない領域に踏み込む感」を感じたんですよ。

早見:あえて意識はしてなかったですけど、それはもしかすると、そもそもの自分自身がそうだからなのかもしれないですね。わたしが今、歩んでいる中で、やっぱりそういうところがあるから。今までに踏み入れたことがないところに足を踏み入れたり、今までになかったものと出会ったり、今まで自分の中にあったけど使ってこなかったものを出したり。そういう歩みを続けていく過程での1枚なので、そう感じられるのかもしれないです。

──今までの早見さんの音楽を知らない人にも、ぜひこのアルバムを聴いてもらいたいと思うんですけど、その人たちに「こういうアルバムですよ」って伝えるとしたらどんな言葉を選びますか?

早見:純粋に、一緒に旅してほしいなあと思っているんですよね。それは別に、このアルバムと一緒に沖縄に行ってくれとか、そういう話ではなく(笑)。

──(笑)聴きながら沖縄に行っても、素敵な旅になりそうですけどね。

早見:そうですね、それもすごくきれいだと思います。このアルバムは、これまで歩んできた道と、これから歩む道について、思いを馳せてる曲が多いんですよ。だから、こう……うん、そういうポイントで聴いてもらいたいというか。ある種、人生も旅的なところがあるし、曲を聴くことで、自分の歩んできたこれまでや、これからどうなっていくか、そして今どう生きていくかに思いを馳せてくれたら素敵かもしれない――って、今、心の底から出てきました(笑)。

──(笑)今の話とつながるかもしれないですけど、“PLACE”の歌詞はとにかく素晴らしいですね。《何気ない日常を分けあい笑いあう/喜びを胸に大切に抱きしめて/僕はまた旅に出る》、ここは特にグッときました。まさに、音楽を作る人と受け取る人、両方を同時に祝福するような言葉たちだと思うし、音楽が鳴る場所で得られる何かがあることを、言い当てているような感じがします。

早見:そうであってくれたら、すごく嬉しいです。

──なんというか、祝福感があるんですよ。

早見:祝福! 祝福感、好きなんですよね。

──祝福感、好きですか。

早見:はい(笑)。なんだろう……お互いに祝福したいですよね、やっぱり。「みんなで幸せを分かち合っていくぞ!」みたいなところはあるかもしれない。

──祝福したいし、されたい?

早見:はい。おいしいケーキがあったとして、それはほんとにレアで価値が高いケーキなんですけど、「どうぞどうぞ、みんなで食べて」ってやるのも、最高だと思うんですよ。最高だけど、「わたしも食べるし、あなたも食べる。それがいいかも」って思うんです。わたしだけが食べるのも違うし。「わたしも食べさせてもらいますし、でもあなたにも絶対食べてほしい。だからこのおいしいイチゴの部分は乗っけとくよ」みたいな(笑)。

──とても素敵なたとえですね。「自分も食うけどな」っていうところが特にいい(笑)。

早見:「よろしく頼む」みたいな(笑)。そうなっていったらいいなって、いつも試行錯誤しています。でもやっぱり、人間じゃないですか。自分も、自己嫌悪するときはありますし。「うわー……ケーキ持ってくるはずだったのに、消しゴムしか持ってこられなかった……」とか。

──ははは。

早見:「ケーキの9割わたしが食べた。ほんとにごめん。しかもそれを3ヶ月言えなかった」とか(笑)。「みんなで半分こしよって買ってきてたんだけど、ほんとはその前にひとりでスイーツパラダイス行ってた、ごめん!」とか。そういうことって、たぶんあると思うんですよね。でも、お互いに助けて、助けられて、救い救われ、気持ちを震わせ合って、やっていけたらいいなって思います。自分の近くにいる人ともそうだし、音楽を聴いてくれる人ともそうだし。

──これからの自分自身に、どんなことを期待していますか?

早見:今年は、自分のまわりに、好きなことや楽しいことを並べていけたら幸せだなって思います。これは1年というより、今後のことかもしれないですけど。それが行われたら楽しいですね。そのわたしのワクワク感が、モノにも人にもどんどん伝わって、ケーキの法則で、みんなが楽しくなっていったらいいなあって思います。おいしいものをおいしそうに食べている人を見ると、幸せだなって思うじゃないですか。おいしいものを一緒に食べると、自分も幸せになる。そうなっていったらいいなあって思います。

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取材・文=清水大輔