「自分探し」で迷走しないために。澤村伊智×大木亜希子が語る「自分の仕事の探し方」

文芸・カルチャー

公開日:2020/4/26


「やりたいコトがないから辞める」は、最悪のパターン

――作家としてキャリアを積み重ねてきた現在、お二人にとって今の仕事は「天職」だと思いますか?

澤村:そうですね…、“結果として”天職になったのかもしれません。巡り巡って残ったのが現在の選択肢だったし、40歳という年齢なので再就職も難しい。実際に、きちんとキャリアのある友人でもアラフォーだと転職が難しいという話も聞いたりしますしね。

 だから、作家になった以上は「この道で頑張るしかない」と自分に発破をかけるしかない。ひょっとすると意地なのかもしれません。デビュー前に文章を書いて仲間に見せていた頃も、とにかく「友だちをおもしろがらせたい」という一心で書き続けていたし、自分のことをステージに登って人を喜ばせるお笑い芸人や手品師の方に近い気もしているんですよ。

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 趣味として続けていた時代から徹夜するほど書くことには打ち込んでいたし、自分では友だちが少ないほうだと思っているんですけど、それでも小説を書いているときには世界が開けていくような感覚を味わっています。

大木:世界が開けていくという感覚は、すごく共感できます。私がアイドルの経験があると、周りからはコミュニケーション能力が高いと思われがちなんですけれど…。でも、本当の自分はできれば一人でいたいし、山奥にこもって瞑想したいと考えるくらい。

 それでも、文章と向き合っているときだけは、他人から「どう思われていてもいいや」と開き直れるんです。だから、自分にとって書いて表現することは天職だったのかもしれません。

澤村:余計なお世話だし、失礼な質問かもしれないんですが、大木さんは「元アイドル」という肩書きをどう考えていらっしゃいますか?

大木:正直、不安に考えた時期もありました。でも2冊目のタイトルにも「元アイドル」と入っていますが、個人的には「話題になればいい」と思っています。


 今でもふと「アイドルの肩書きが外れたとき、売れるかどうか分からない…」と頭をよぎるときもあるんですけど、自分の人生を振り返ったときに「そのときやりたいことがたまたまアイドルだった」という点では整合性が取れているので。それに最近ではようやくその肩書きを外せるのかな、と気楽さも味わっています。現在、アイドル業とは関係のないテーマを題材にしたフィクションの小説に取り組んでいます。今年の夏には世にお届けできる予定です。

澤村:この先大木さんのことを知った人が、「へー、アイドルやってたんだ!」と後で気が付くようになったら、理想ですね。

――インタビューの締めくくりになりますが、今まさに目の前にある仕事や将来のキャリアに悩む社会人のみなさんへ、アドバイスをいただければと思います。

澤村:自分の仕事を考えるときにいろいろな視点があると思いますが、ひとつは、仕事や将来に関して今感じている不安が「外から影響を受けているもの」か、「内面からにじみ出ているもの」かを、見極めるのは必要ですね。

 例えば、「他の人よりも不遇な環境だ…」と比較しているのであれば、その理由は外的要因な悩みですよね。自分が悩む一つひとつの原因を探った末に、どうしても納得できない理由があるのならば、そのとき真剣に転職などを考えるべきだと思います。

大木:自分の会社員時代、周囲の友人のなかには「辞めたらこの先が続かないから」とぼやきながらも仕事を続けていた人もいましたね。私は過去のキャリアにとらわれずどうにかやってこられたタイプではあるものの、置かれた場所で自分にとって「正しい結果」を残そうと意気込みすぎる必要もないと思うんですよ。

 でも、できればプライドは捨てて欲しい。私は会社を辞めてフリーランスとしてなかなか順調に行かなかった時期にバイトをしていたんですが、その頃に足を運んだイベントで、「出版社を紹介してください!」と質疑応答のコーナーでぶち込んだことがあって(笑)。他のお客さんからは頭おかしいと思われたかもしれないけど、結果として1冊目の本の出版にたどり着いた。

 今ある場所を離れて転職したいと考えている人は、心のどこかで「本当の自分はこんなもんじゃない」という思いもあると思うので、その「本当の自分」がどれくらいのものなのか、一度丸裸になってみるのもいいかもしれない。

澤村:仕事探しの選択肢は多々あると思いますけど、最悪かつやってはいけないのは「やりたいコトがないから辞める」というパターンだと思います。自分の問題からドロップアウトしてしまうお題目になりやすいと思うんですよね…。

 今僕も作家として「何が本当に作りたいのか」を迷いながら続けています。簡単には見つからないけれども、いったん手放してしまえば、それまでの苦労も何もかも棒に振ってしまいかねない。もし疲れたら、ときには休めばいいし、一度立ち止まってみると楽しさが見つかる瞬間もあると思う。「とにかく続けてみる」というのもいいのかもしれません。


紆余曲折を経験しながら作家という仕事へたどり着いた澤村さんと大木さん。お二人の対談から飛び出した言葉の数々が、毎日の仕事で悶々としている方々に響いてくれることを願いたい。

取材・文=カネコシュウヘイ
撮影=松本順子