伊坂幸太郎ファンの佐倉綾音が声優として伊坂作品を分析、あらためて気づいたその魅力とは?
更新日:2020/7/12
インタビュー:佐倉綾音
小学生の頃から伊坂作品を愛読していたという声優の佐倉綾音さん。昨年、『チルドレン』の続編『サブマリン』の文庫発売記念として、伊坂作品の人気キャラクター・陣内のセリフを朗読するという機会が巡ってきた。型破りで何があっても我道を突き進む、きわめて男性的なあの陣内の言葉を、佐倉さんはどんなふうに朗読したのか。
陣内らしくないセリフが
陣内らしさに変わっていく流れにグッときた
さくら・あやね●東京都生まれ。声優。出演作に『新サクラ大戦 the Animation』『新幹線変形ロボ シンカリオン』『僕のヒーローアカデミア』『五等分の花嫁』『SHIROBAKO』『ご注文はうさぎですか?』など多数。パーソナリティを務めるラジオ番組『セブン-イレブン presents 佐倉としたい大西』はアニラジアワードにて2年連続「RADIO OF THE YEAR 最優秀ラジオ大賞」を受賞。
伊坂さんが書かれる言葉は、口にすると、爽快感のある、
“口が気持ちいいセリフ”
男の子の役を演じたことは幾度もありますが、大人の男性役はこれまでほぼなかったんです。男くさい言葉を言う陣内さんのセリフを朗読するときは手探り感が強かったですね。でも収録はとても楽しかった! 伊坂さんが書かれる言葉って、口にすると、心地よくて、爽快感のある、“口が気持ちいいセリフ”なんです。小学生から高校生にかけて、伊坂作品を夢中で読んでいた私ですが、今回、『サブマリン』を朗読させていただき、あらためてそう思いました。
子供の頃から感じていたのですが、伊坂さんは改行位置が独特ですよね。会話の後、改行せずにト書きのような文章が続くことも多い。今回朗読してみて、それが、マンガ的、アニメーション的なところがあるなと。セリフが先行して、そのあとのコマで人物が現れてくるというマンガの展開ってありますよね。アニメーションも同様で、前のカットでセリフが先行して次のカットで人物が描写されるとか。伊坂さんがあえて改行しなかったりするのは、それと同じで、ストーリーのテンポの良さを意識しておられるのではと思ったんです。声優という立場で小説を読んだことで、以前は気づくことのできなかった伊坂作品のおもしろさを自分なりに分析&発見できたことが新鮮でした。
私の勝手なイメージなのですが、伊坂作品ってシャフト(アニメ制作会社)っぽいなと感じることがあるんです。『サブマリン』に関しては、陣内さんの、屁理屈をこねているあの感じ、シャフトは西尾維新さんの原作ものをよく手掛けていますが、西尾作品のなかにも屁理屈キャラがでてくるので、そこからの連想なのかも。これも声優っぽい想像ですね。
陣内の言っていることは屁理屈のように聞こえるけど、
実はそれが世界の真理ではないか
陣内の考え方には良くも悪くも、とても共感できるんです。こんなふうに考えられたら、孤独だろうけど、きっと豊かだろうなって。彼の言っていることは屁理屈のように聞こえるけど、実はそれが世界の真理ではないかと。人生を諦めているような、楽しんでいるような彼のセリフは、読んでいて小気味よかったです。
今回の朗読で心に残ったのは、刃物を振り回して小学生たちに向かっていった男を陣内が取り押さえて、彼に言ったセリフです。その直前にある「どうせ人生を捨てるつもりで、暴れるなら、もっと強そうで悪そうな奴をどうにかしようと思わねえのか?」もそうですが、このあたりのセリフって、実はちょっと陣内さんらしくない。物事を常に俯瞰的に見ている陣内さんが、真っ当でスポーツマンシップみたいなことを語り出している。けれど、その陣内さん“らしくなさ”が、ストーリーのなかで、どんどん陣内さん“らしさ”に変わっていった。読んでいてグッときました。
『陽気なギャングが地球を回す』の
正確無比な体内時計の持ち主・雪子に憧れていました。
小学校のときにいちばん愛読していたのが、『陽気なギャングが地球を回す』。私にとって初めての伊坂作品で、彼らが銀行強盗に入る直前のお約束“ロマンはどこだ?”というセリフも大好きで、ラジオで紹介したこともありましたね。特殊能力を持つ大人たちが軽やかに駆け回っているところが、当時すごく新鮮に感じられて、なかでも私は、正確無比な体内時計の持ち主・雪子に憧れていました。あらゆる時間を把握できるなんてかっこいい。演じてみたい気持ちもありますが、年齢的に私がやるのは難しいかな。もう少し年上の癖のない声質の方が良いのではないかと……。
本を読んでいると、“この人はこんなふうに喋るんだろうな”と想像を巡らせてしまうのですが、それと同時に、声優キャスティングもつい考えてしまうんです。今回、神谷浩史さんも陣内の朗読をしたのですが、私の中のシャフトらしさとも合致したりして、とても合っていましたね。
取材・文:河村道子
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