【魔王学院の不適合者】ふたりで描いた、鮮やかすぎる成長曲線――楠木ともり×夏吉ゆうこインタビュー

アニメ

公開日:2020/9/19

魔王学院の不適合者

 あの『愛の不時着』を抑えて、Netflixのデイリーランキング1位を獲得(8月22日、9月6日)――現在放送中のTVアニメ『魔王学院の不適合者 〜史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う〜』が成し遂げた快挙である。だが、驚きはしたけれど、作品のいち視聴者として、「そうだろうな」とも思った。だって、『魔王学院の不適合者』は、実際めちゃくちゃ面白くて、観ているうちにどんどん好きになってしまうアニメーションだから。その楽しさが正しく伝わって、多くの人が放送を心待ちにして、大きなリアクションがある。とても健全なエンタメの楽しまれ方だし、こんなに痛快なことはない。「アニメは総合芸術」だとよく言われる。演出、作画、キャストの芝居を含む音響、どれが欠けても、いいフィルムは完成しない。『魔王学院の不適合者』は、作品に関わるすべてのメンバーの力が結集することで、高い熱量が生まれ、それが作品へと映し出されている。その制作過程を探るべく、キャスト・スタッフにしっかり話を聞いてみたい、と思った。

 先週配信のアノス役・鈴木達央インタビューに続いてお届けするのは、メインヒロインであり双子のミーシャ・ネクロン、サーシャ・ネクロンを演じる、楠木ともり&夏吉ゆうこの対談。回を重ねるごとに魅力を増していくミーシャ&サーシャを、ふたりはどのように作り上げていったのだろうか。

魔王学院の不適合者
TVアニメ『魔王学院の不適合者 〜史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う〜』 毎週土曜23時30分より、TOKYO MXほかにて放送中 (C)2019 秋/KADOKAWA/Demon King Academy

(4話は)視聴者の方にも、ここでしっかりミーシャとサーシャに思い入れを持ってほしいなあ、と思っていた(楠木)

――『魔王学院の不適合者』、めちゃくちゃ楽しく観させてもらってます。

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楠木夏吉:やったあ(笑)。

――純粋にいち視聴者として、おふたりはこの作品のどこが好きですか。

楠木:アノスが強いから、何か問題が起きてもどうにかなるな、アノスはどう解決していくんだろうっていう発想になれるところが、今までになかった作品だな、と思っていて。疑問を残すんじゃなくて、「このあと、アノスはどうしてくれるんだろう?」と思うので、もし自分がいち視聴者だったらたぶんそこがハマるポイントなんだろうなって。観ていて、すごくスッキリします。

夏吉:わたしは、シリアスなシーンとコミカルなシーンのバランスがすごくよくて、素敵だなあと思っていて。やっぱりアノスが最強すぎて、ちょっと木の枝を振ったくらいで山がなくなったり、飛ばされたりするわけですよ(笑)。そういう、「アノスがちょっとひと振りしたらそうなるよな」って納得してしまうシーンも、ほんとにこの作品ならではの素敵なポイントだなあ、と思っています。それだけじゃなくて、ちょっと胸が熱くなるシーンもあって、毎話毎話の構成がすごく楽しみですし、感情がジェットコースターしてます(笑)。アニメを観ている間、感情の振れ幅がすごく生まれるので、皆さんにとっても、そこがハマるポイントなんだと思います。

楠木:演じていても、「視聴者の方にここで何かを感じ取ってもらいたい」と思うところで、すごくいい反応をしていただけるので、そこが伝わってるのも嬉しいです。

――ミーシャとサーシャに出会った頃と現在の印象は、どう変わりましたか。

楠木:ミーシャは、原作を読んだときや、最初に演じていたときは、感情を表に出さなくて、静かであまりしゃべらないキャラクターという印象を抱いてました。でも、演じていくうちに、感情が出てないわけではなく、彼女の中ではしっかりと出ていることに気づいて。身振り手振りとか、ちょっとした表情にも彼女なりの感情が出ているし、せっかく田村監督がかわいい動きをつけてくれているのに、それを演技で潰したくないと思ってたので、「あれ? もしかして今喜んだ?」くらいのニュアンスが出たらいいなって、演じていくうちに気をつけていくようになっていきました。

――ミーシャの場合、いわゆるアニメっぽいお芝居をするとちょっとハマらないシーンが多いですよね。

楠木:そうなんです。声が出たか出てないか、くらいの微妙なニュアンスのお芝居って、今まであまりやったことがなかったので。

――息遣いだけで感情を伝える、文字で表すと「ん」一文字、みたいな。

楠木:その返事の「ん」も、かなり難しかったです。そこは音響監督さんのディレクションをいただきながら、最初に持っていたミーシャに対する偏見のようなものが、取り払われた感じがしました。1、2話では、ミーシャが何を考えてるかわからないところがあったけど、そこから掘り下げられていって。サーシャに対して言葉を投げ掛けて、それが届いた瞬間に、ミーシャが変わったような気がします。

――ミーシャだけ、最初はどういう子なのかわかりづらいところがありますよね。『魔王学院』の面白さって、出てくるヤツ全員のキャラが濃すぎて、どんなヤツなのかわからないってことが基本ないところだと思うんですけど(笑)。

夏吉:確かに。個性の塊たち(笑)。

楠木:「ああ、この人ね」みたいな(笑)。その中で、ミーシャは無口キャラの分類に入るのかな、と思うんですけど、そこがどんどん取り払われていく感じがありました。

――サーシャも、2話でイヤな奴っぽい感じで出てくるけど、「これもう、絶対になんか背景があるじゃん」みたいな登場の仕方をするわけですが。

夏吉:そうなんです。「何か背負ってるな」っていうのが、もうバレバレ(笑)。

――(笑)観る人も「何か背景がありそうだ」と予想つく中で、それを気持ちよく見せていくって、実はかなり難しいことじゃないですか。

夏吉:ほんとにそうですね。サーシャは、最初は何か抱えている感じ、ツンケンした感じで出てきて、双子の間での問題が解決する4話までは、一部の視聴者の方には「こいつ、なんなんだ」って思われたかもしれないんですけど(笑)、3,4話を経て、わりと歳相応の女の子の一面も見せるようになりました。

楠木:とにかくかわいいんですよ、サーシャが(笑)。

夏吉:そう、かわいいんですよ。でも、そういうサーシャになってきて、わたしとしても4話までとは違う演じ方ができるので、それも楽しいですし。これが本来のサーシャ、15年間ずっと我慢してたけど、かわいくみんなに振り回されたりしてるのが本来の彼女なんだなって思いながら、わたし自身も解放された気持ちで演じています。

楠木:4話のミーシャとサーシャのくだりで、ゆうゆ(夏吉)の演技に絵を合わせていただいた箇所があったよね。

夏吉:ありがとうございました(笑)。

楠木:(笑)達さん(鈴木達央)も以前おっしゃっていたんですけど、ゆうゆは絵からさらに上の演技をしてくるので、わたしも演じながらミーシャが引っ張られそうになるんですよ。でも、引っ張られるとミーシャとしては出しすぎになっちゃうから、そこが難しかったです。

夏吉:ほんとに3,4話あたりは思い入れがありすぎて、自分もサーシャと一緒になって、なりふり構わずでした。もう、わたしがこの子の代わりにならなきゃ、みたいな気持ちで。音響監督の納谷(僚介)さんといっぱい相談して、「サーシャの覚悟を表すために、訥々と言ってみてはどうか」とか、いろいろ試行錯誤をした結果、「今ポッと出たこの演技がよかったので、ちょっと絵を変えてみましょうか」って言っていただけたので、ほんとに皆さまのおかげです。

――4話はミーシャとサーシャにとって大きな見せ場でしたけど、エンディングのクレジットを見ると、その回には5人しか出てないんですね。収録ブースの中は、相当濃いことになっていたんじゃないかと思うんですけど。

楠木:実は、3人で録っていたんです。

夏吉:そうなんです。すごく贅沢でした。演技だけに集中できる時間だったので、楽しかったです。

――4話の収録が終わったとき、どうでした?

楠木:とりあえず、「終わったぁ」っていう感じ(笑)。何回も録っていたので、収録の時間自体もけっこうギリギリだった気がします。

夏吉:かかったねえ。解放感に満ちあふれてる感じだった(笑)。

楠木:原作を読んでいたときも、「ここがふたりの見せ場だな」と思っていて。視聴者の方にも、ここでしっかりミーシャとサーシャに思い入れを持ってほしいなあ、と思っていたので、収録前からかなり気負っていた感じはありました。ここでちゃんと、バシッと決めないと、みたいな。だから、無事に録り終わって一安心したのと、完成した映像を観るのに怖さと楽しみの両方がありました。

夏吉:できあがった4話を観て、「サーシャがそこにいる」って思いました(笑)。サーシャを作り上げたのは原作の秋先生なので、「これが絶対正解のサーシャ」というのはわからないですけど、自分なりに彼女を作って、完成したシーンを観たときに、「自分の中で具現化していたサーシャがそこにいるな」って。おこがましいことなのかもしれないですけど、やっぱり嬉しかったですね。「自分のイメージそのままの絵が出てくることがあるんだ!」って。描いてくださるスタッフさんの技量が素晴らしいんだと思うんですけど、やっぱり絵が演技してることで、こんなに心が動かされることなんだなって思いました。

魔王学院の不適合者

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贅沢な時間を過ごさせていただいたので、キャリアを重ねて、いつか恩返しをしたい(夏吉)

――アニメはいろんなパートが分業して作ってる映像作品ですけど、関わる全員が同じ方向を向いて制作することで、人の心を動かす作品になるじゃないですか。ふたりの話を聞いていても、お芝居だけでも絵だけでも成り立たなくて、それらがあわさることで、最高の映像になる。という前提で、『魔王学院』の要であるアノス役、鈴木達央論をふたりに話してほしいんですよ。いろいろ突き詰めて考えていくと、要するに鈴木達央じゃないですか、この作品って(笑)。

夏吉:そうです(笑)。

――彼が中心に、一緒にみんなで作り上げてきた作品だと思うんですけど、まず第一に鈴木達央という人は、とても熱い人物じゃないですか。

楠木:そうですね。わたしは前に別の作品でもご一緒していて、そのときに……何かをやらかした、とかではないんですが、かなり熱いお話をしていただいたことがあって。だから、今回ご一緒する前は、正直めちゃくちゃビビッていたんです。でも、今回座長としての達央さんを初めて現場で見て、ちょっと雰囲気が違ってるなって。作品を引っ張ろう、盛り上げようっていうお気持ちをものすごく感じたし、怖いというような印象も全然なくて。熱くて、演技に関して素朴な疑問をぶつけても、1の質問を100で返してくださるんです。本当に後輩思いで、作品思いで、いろんなことに気を配ってくださって。よく言っているんですが、「まさしくアノスがいる」みたいな感じです。すごく頼れる存在ですし、「この人についていけば、この作品は大丈夫だな」って思いました。

夏吉:わたしは達さんともともりちゃんとも初めてお会いしたんですけど、わたしもほんとにアノスそのものだと思ってます。ほんとにお優しい方ですけど、それは後輩がいい方向に向かうようにしてくれる優しさだなあ、と思っていて。サーシャがカッコよく決めないといけないシーンがあって、そのテストテイクが終わったときに、わたしがボソッと「よしっ、サーシャ、カッコよくなったね」「カッコよくしたぜ。よし!」とか独り言を言ってたんですけど(笑)、そのときに達さんが「今日はサーシャ、カッコいいじゃない」みたいなことを言ってくださって。それはたぶん、わたしの演技のことではなくて、「今日のサーシャの活躍のしかた、お話がカッコいいじゃない」という意味だと思うんですけど、そのときわたしは「今日はカッコよくてごめんなさい」みたいなことを言ったんですよ(笑)。そうしたら、「うんうん。カッコよくなってるといいね」って優しく言ってくださって。そこでわたしは、「いや、これはたぶん、お前の演技がカッコいいっていうわけじゃないぞ、わかっているのか」を、すごく優しく言ってくださったのかもしれないな、と思って(笑)。

楠木:(笑)そうなの?

夏吉:そう思って背筋が伸びたという、勝手な思い出を持ってます――違うかもしれないけど(笑)。

――(笑)では、そんな座長にふたりからメッセージを。

夏吉:ええ~~っ?

楠木:わたしは、ほんとに先輩としてすっごい尊敬していて――。

夏吉:んふっ。

楠木:めっちゃ嘘っぽくなる! なんだこれ(笑)。

――(笑)。

楠木:新人に対して演技の話をすることって、理解も遅いから、正直疲れることだと思うんです。でも、達さんは収録の空き時間にもわたしたちと向き合ってくださるし、本当に素敵な先輩だな、と思います。この作品の座長が達さん本当によかったなって思うんですけど、いじられたときにどう返したらいいのかだけが未だにいまだにわからないので、どうするべきか教えてほしいです(笑)。ゆうゆは、あまりいじられてないよね?

夏吉:わりとね、別現場だといじりの的だったりする(笑)。そのときは、わたしは芸人に徹してるから、けっこう「イエ~イ!」ってなってるし、わたし自身も調子乗り子さんだから止まらなくなって、まわりの人も止めどきがわからなくなったりしてます――どうしたらいいですか、達さん!(笑)。

楠木:(笑)達さ~ん! わたしたち、どうしたらいいですか?

――メッセージをもらうはずが質問になった(笑)。

楠木:(笑)でも、ふたりともめちゃめちゃ尊敬してるんです。

夏吉:うん。尊敬してるし、こうやって向き合ってくれる方ってそうそういないので、これからも一緒の現場に立てるように頑張っていきます。

楠木:よろしくお願いいたします。

――ふたりとも、この作品で充実した経験ができていると思うんですけど、『魔王学院の不適合者』は自身にとってどんな存在になりそうですか。

楠木:こんなに愛にあふれた現場って、なかなかないのではないかなって感じます。もちろん、どの作品の現場にも愛はあると思うんですが、それをわたしたちキャストにも直接伝えてもらえることはなかなかないですし、長い時間をかけて演技を詰めていって、わたし自身はミーシャのようなキャラクターを演じたことがなかったので、技術的にも、作品に対しての気持ち的にも、今まで触れてこなかった感覚がすごくありました。その経験は今後に活きてくると思いますし、今回エンディング主題歌を歌わせていただけたこともあって、演じる部分以外でも、より俯瞰で作品を見つめる機会になったので、わたしにとってターニングポイントになる作品だな、と思います。

夏吉:まだ声優になって日が浅くて、現場でメインキャラクターを演じることにも慣れていない中で、すごく緻密に演技について向き合っていただいたので、得るものがすごく多かったです。いっぱいアドバイスをもらって、リハーサルVを観るときや、演技の作り方もほんとにガラッと変わったので、今後に活かしてお仕事をしていって、またこの素敵なスタッフさんたちに出会える日が来たら、とても幸せだな、と思います。これだけいろいろなものをもらって、「何か恩返しをしたい」って思っているけど、まだまだ自分の器では無理だと痛感させられるような現場でもありました。ほんとに贅沢な時間を過ごさせていただいたと思っているので、キャリアを重ねて、いつか恩返しをしたいです。

取材・文=清水大輔
写真=田村与