【10/10放送開始!】あらゆる作品に求められる実力者は、「受動的な主人公」をどう体現するのか――『神様になった日』花江夏樹インタビュー

アニメ

更新日:2020/10/5

花江夏樹

「『Angel Beats!』『Charlotte』を経て――、麻枝准は原点回帰する。」――この言葉を掲げて、10月10日放送開始のTVアニメ『神様になった日』は始動した。『AB!』から『Charlotte』まで5年。そして、『Charlotte』から本作に至るまで、5年の歳月が経過した。PCゲームとしてリリース、のちにアニメ化されたKeyブランドの傑作たち=『Kanon』『AIR』『CLANNAD』『リトルバスターズ!』で、数多くのユーザーの心を揺さぶりまくった麻枝 准が、みたび原作・脚本・音楽を担当する、オリジナルアニメーション。そして宣言された「原点回帰」。麻枝作品で笑い、涙を流してきた者にとっては、最新作で披露される彼の「原点」とは何であるのか、どう心を動かしてくれるのか、楽しみで仕方がない。そんな『神様になった日』の真実と背景に、メインキャラクターを担当するふたりのキャストの言葉、そして麻枝 准自身へのロング・インタビューで迫っていきたい。

 第1弾は、主人公・成神陽太を演じる花江夏樹のインタビュー。『Charlotte』の後半にも出演していた彼は、麻枝作品から何を受け取り、『神様になった日』にどう臨んだのか。作品の前半は、とにかく花江演じる陽太と、メインヒロインのひな(佐倉綾音)の掛け合いがとにかく楽しくて、ずっと観ていたくなるような引力を放っている。いま、あらゆるアニメ作品から求められている実力者・花江夏樹が、陽太と過ごした時間を語ってくれた。

神様になった日
TVアニメ『神様になった日』10月10日より、TOKYO MXほかにて毎週土曜24:00~放送 (C)VISUAL ARTS /Ke /「神様になった日」Project

神様になった日

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基本的に陽太には共感できるので、やりづらいと思うことはなかった

──まずは、麻枝 准さんの3作目のTVアニメで、Keyの最新作『神様になった日』のメインキャラクター・成神陽太を演じることになって、感じたことを聞かせてください。

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花江:オーディションのときは、「P.A.WORKSさんの新しいアニメ」という認識で受けていました。で、台本をもらったときに、「あっ、Keyなんだ」ってなったんですよね。僕も、以前にKey作品のアニメを観ていたし、『Charlotte』にも少し出演させていただいたので、麻枝さんといえばやっぱり泣き、みたいなイメージがあって。あとは、家族や死をテーマにした作品が多いと思うんですけど。人の心を動かしたり、感動する作品ばかりなので、『神様になった日』もそうなるのではないかな、というワクワク感は感じていました。

──これまで に触れてきたKey作品の中で、特に花江さんに影響を与えた作品やシーン、キャラクターについてはどうですか?

花江:『AIR』の「もうゴールしてもいいよね?」のシーンは、すごく覚えてますね。観たときに、すごく泣いた記憶があります。

──『神様になった日』の収録に参加されてみて、おそらくこの作品はKeyの今までのイメージも踏襲した内容であると思うんですが、Key作品に抱いていたイメージが変わった部分、あるいは「やっぱりこういう感じなんだ」と納得した部分については、それぞれどういう感じでしたか?

花江:今回は、かなりギャグが多い印象がありました。キャラクター同士のつながりや関係性を描きつつ、その裏で物語が進行していきますけど、前半はただただ笑える、面白いイメージです。とにかく台本が毎回面白いので、やっていてもすごく楽しかったです。

──花江さんは、5年前の『Charlotte』にも出演していたわけですけど、ものすごい数の作品に出てきた中で、麻枝作品ならではの雰囲気はどういうところに感じていましたか。

花江:『Charlotte』は、ストーリーがだいぶシリアスになってからの参加だったんですけど、伏線の作り方を見ていて、「お話の構築が緻密だな」って、当時すごく感じました。『Charlotte』で覚えているのは、過去にタイムスリップしていかに金を稼ぐか、みたいな話があったんですけど、競馬だったり宝くじだったり、ちょっとした設定にも想像を掻き立てられるようなストーリーがあったので、すごくいいなあって思ってましたね。

──実際、『Charlotte』でお芝居をした時間は、そんなに長くはなかったですよね。

花江:長くないですね。なんなら、キャラクターコメンタリーで本編の10倍以上しゃべりました(笑)。まだ本編でしゃべる前で、自分の中でキャラもまだ完全に固まってない状態でずーっとしゃべってたので、「こっちが本編だったのかな」って(笑)。でもそのときも、途中から出演させていただいたキャラクターでも、これだけ設定が練られているんだったら、『Charlotte』も最初から出ていたら絶対にもっと面白かっただろうなって思いました。

神様になった日

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──そういう意味では今回、成神陽太は1話からしゃべりまくるわけですけど、どんな準備をして現場に入りましたか?

花江:やっぱり、ギャグが多いとテンションも高くなるので、まわりのキャラクターたちとのテンションに合わせられるようにしないと、とは思ってました。でも、基本的に収録はプレスコ(絵よりも台詞を先行して収録する手法)だったので、家で準備をするときはあまり細かいことを考えずに、ひたすら相手のお芝居を聴きながらやっていこう、と思っていました。陽太に関しては、ひなに引っ張りまわされて、「やれやれ」みたいな感じを出しつつも、なんでも付き合ってあげる優しい部分があるので、ひなについていって、いろんな無茶をやっているシーンには、彼のよさというか、人間性が出てると思います。

──その陽太に対して、花江さん自身が感情移入できる部分、あるいは自分とのギャップがあって、想像力を働かせて束づいていく部分は、それぞれどういうところですか。

花江:基本的に陽太には共感できるので、やりづらいと思うことはなかったですね。何かに誘われたり、「一緒にこれをやろうよ」って言われることで感じる嬉しい気持ちや、友達に対する想いも、すごくわかるなあ、と。

──実際、陽太とひなのシーンはほんとに素晴らしいと思うし、観ていてめちゃくちゃ楽しいです。『神様になった日』の前半の魅力は、まさにふたりの会話のシーンにあると思うんですけど、ひなとのシーンで花江さんが意識していたことって何でしたか。

花江:やっぱり収録がプレスコだったので、佐倉さんに合わせつつ。「ふたりでこのひとつのシーンを盛り上げる」という意識はしてました。陽太って、基本的に受動的なんですよね。ひなが発信することが多くて、ひなのボケに対してツッコむことが基本なので、ふたりのシーンではそこを意識していました。陽太は、ひなに引っ張られてダジタジになったり、呆れながらもちょっと付き合ってあげることが多いんですけど、振り切ったギャグシーンでは、自らノリノリでやっていたり、めちゃめちゃボケに回ることもあるんですよね。そこは、3話、4話のときに、すごく感じました。

 収録は早い時期だったので、みんな揃って録ることができたんですよ。やっぱりギャグ回は、ひとりで抜き録りをするよりも、みんながいることで面白くなると思います。「この人がこういうお芝居をするなら、自分はもっとこうしてみよう」とか、そういう連鎖反応で面白くなっていくと思うので。みんな、それぞれのキャラクターのお芝居に笑っていたし、すごく和気藹々としてましたね。

花江夏樹

お芝居の楽しさやアニメの面白さを、改めて認識できた

──『神様になった日』には、「麻枝准は原点回帰する」というコピーがついているわけですけど、麻枝さんが以前手掛けた2作のアニメ、『Angel Beats!』や『Charlotte』と比べてシンプルなのかというと、必ずしもそうではないのかな、と。むしろ要素がたくさん詰まっているし、その要素のひとつひとつが濃くて、非常にサービス精神のある作品でもあるような気がするんですけども。

花江:それはもう、すごく感じますね。正直、お話的には「1話の中であまり進展してないじゃん」みたいな回もあるんですよ(笑)。でも、その中に組み込まれているセリフのやり取りや、仕込まれたネタ、その流れがすごく面白いので、ほんとにあっという間に感じたりしますね。台本を読んだときに――僕、ある回がすごく好きで、脚本をいただいた時点で、すごくワクワクしたんですよ。台本の時点でゲラゲラ笑ったのは、けっこう珍しいかもしれません。それくらい、衝撃的でした(笑)。

──(笑)収録はすでに終了している、と聞きました。陽太を最後のシーンまで演じ終えたとき、どんなことを感じましたか?

花江:やっぱり、最後まで演じてみても、陽太を作っている基本的な部分は変わらないなって思いました。ただ、陽太には優しいイメージがあったんですけど、そこに彼自身の意思が絡んできて、「果たして正しいのかはわからないけど、自分が思ったことをやってみる」とか、ちょっと男らしい部分も見えてきたりするので、そこはちょっと変化してるのかなって思います。

──『神様になった日』は、花江さんの声優としてのキャリアの中で、どんな存在になると思いますか。

花江:そうですね、まだ完成した映像を観ていないので、現段階で言えない部分はありますけど、収録はすごく楽しかったし、僕自身は好きなお話でもありました。自分の中では、お芝居の楽しさやアニメの面白さを、改めて認識できた気がします。

『神様になった日』公式サイト

取材・文=清水大輔 写真=藤原江理奈
ヘアメイク=加藤ゆい(fringe)