高橋留美子インタビュー!『うる星やつら』『犬夜叉』から最新作『MAO』まで。「こえる」をキーワードに作品世界をひもとく!

マンガ

公開日:2020/11/14

(C)高橋留美子/小学館

 2020年11月2日、秋の褒章受賞者が発表され、紫綬褒章の受章が大きな話題となった高橋留美子氏。ダ・ヴィンチ12月号では「境界をかける高橋留美子」と題し、その魅力を大特集。特集内で“こえる”を起点にロングインタビューを敢行、ここではその抜粋版を掲載する。書面でのインタビューになったが、氏自身が「そのおかげで、と言いますか、考えを整理しながら自分の思うところをかなり正直にお伝えできたと自負しています」(本誌掲載分にて)と書いており、その明快で歯切れのいい文章から自身の漫画創作に対する迷いのない姿勢、変わらぬ漫画への愛情が見えてくる。

時空をこえる

Q『犬夜叉』では戦国時代と現代、『MAO』では大正時代と現代、と時代をこえる様子が描かれます。ヒロインのかごめ、菜花は頻繁に2 つの時代を行き来し、現代での生活も大事にしているのが印象的です。なぜ「帰って来るのが難しい」設定ではなく、行き来が可能な設定を描かれるのでしょう。

A 『犬夜叉』連載当時、かごめをいったん現代に帰すか否かは担当編集と話し合いました。担当は、戦国時代の感じが定着するまで帰れなくていいのでは ? という意見でした。結局帰した訳ですが、当時の私の考えはシンプルに、『家族が心配するから』でした。弟の目前でヒロイン・かごめが妖怪に連れ去られた訳ですから残された家族は生きた心地がしないだろうし、それに触れないのも気がひける。しかし、そんな描写は実はストーリーの邪魔になるし、という事で、いったん現代に戻し、その後戦国に戻る戻らないは、かごめが選択するという作りにしました。

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『MAO』の場合、謎その他が現代にも及んでいるのと約百年の誤差を見せることが結構重要だったので。そして、平安の過去回想が多めなので、菜花が帰れないと、令和のストーリーまで過去回想になっては無駄なので、普通に行き来できるようにしました。

『犬夜叉』最終巻より。行き来を繰り返した後、全てが終わり井戸は閉ざされる。3年家族と過ごしたかごめは、犬夜叉の元に行くことを決断。 娘への想いが溢れる母の表情にも注目を。

Q時をこえて生きること、生死をこえるというモチーフも頻出します。ポジティブに描かれる一方、「人魚シリーズ」のように、悲しみや苦しみに主軸が置かれることもありますが、命を描く時、特に気をつけていることはありますか。

A 特に人魚シリーズにおいて、「生き方」を描くという事に主眼を置いたつもりです。主人公の湧太が実は一番、ちゃんとしているというか…。不老不死ではありますが、彼は『普通に死にたい』と言っているのであって、別に死に憧れている訳ではない。一応、人と関わって生きている。各話の人魚の肉に関わる人々は何をやってもいいかなと思いつつ、不老不死の湧太が『おれはこう思う』と言う事で、それなりにバランスのとれた話になるのでは、と思いました。

「人魚は笑わない」より。この後「あきるまで生きてみるってのも、悪くはねえよなあ。」 と続く。湧太は自分と同じく不死になった真魚と、幾度も「生きる」ことについて語り合う。

種族をこえる

Q 『うる星やつら』のラムとあたる(宇宙人と地球人)、『犬夜叉』の犬夜叉とかごめ(半妖と人間)など種族をこえてキャラクターたちが心を通わせる姿に胸を打たれます。違いのある者同士を交流させることについて、どんな思いをお持ちなのでしょうか。

A これはミもフタもない言い方になるかもしれませんが、『漫画だから色んなデザインのキャラが一杯出たら楽しい』という事です。

『うる星やつら』より。「色んなデザイン」のキャラクターたちが入り乱れ、様々 に盛り上がる様子が楽しい。「漫画だから」という言葉に高橋留美子の一貫した 姿勢が表れている。

Q 少年漫画においては、異種族同士はもちろん、人間同士でも違うタイプの人々が喧嘩をしながら楽しそうに交わっている姿が描かれています。一方『ポジティブ・クッキング』『義理のバカンス』等大人向けの短編では、家族など近しい人とのコミュニケーションの難しさとその中にある救いのようなものも描かれています。ご自身のコミュニケーションの取り方や考え方は、作品にどう反映されていますでしょうか。

A 年を重ねるごとに、『言わなきゃわからない事はたくさんある』と思うようになりました。逆に作品ではそれが出来ないから起こる悲喜こもごもを描く、という感じです。

Q「それが出来ないから起こる悲喜こもごも」を描く作品で特に印象に残っているものをお教えください。

A 「言わなくていいや」「聞くのが怖い」という事では『ポジティブ・ クッキング』はわかり易い作品と思います。また、『めぞん一刻』は、察しの悪いヒロインと、余計な事を言う住人たちに主人公が翻弄され「話しても伝わらない」エピソード満載だったかと思います。

「ポジティブ・クッキング」より。それまでどんな料理にも「うん、いい んじゃないか?」しか言わなかった夫の文句に、笑顔で返す妻。夫婦の行き違いをコミカルかつリアルに描く。

性をこえる

Q 高橋先生の作品には、水をかけると体が男性から女性になる乱馬(『らんま 1 / 2 』)をはじめ、男性として育てられた女性・竜之介(『うる星やつら』)など、性が固定され切っていない魅力的なキャラクターが何人か登場します。なぜそういったキャラクターを描こうと思われたのかお教えください。

A 乱馬は、高一の頃クラスで回し読みした弓月光先生の男女入れかわり話「笑って許して」がメチャクチャ面白くて、そこが原点かと思います。竜之介は、その週のネームが出来なくて打合わせと全然違う話を描いた事で生まれたキャラです。『うる星』は作品的に男キャラは絶対ボケなくてはいけなかったのですが、竜之介は女子なのでカッコ良く描いても許され、しかも存在自体がボケなので、うまくいったと思います。また男女入れかえという作業は作者自身が自分をダマすというか、描いていて、より楽しくなる事が多いです。

『うる星やつら』より。あたるたちのいる高校に転入してきた竜之介の制服姿(本人はセーラー服を着たがっている)。「女の子」だとわかった上で、女子生徒から大人気に。

世代をこえる

Q 新連載のたびに子供や若い世代の新しい読者が増え、以前からの読者は読者でい続け、あらゆる層に読者がいる状態が何十年も続いています。先生にとって、読者はどのような存在ですか。

A 漫画は読者がいなければ成立しません。誰かが楽しんでくれる、待っていてくれるというのは本当にありがたいですし、すべてのモチベーションです。

高橋留美子とは?

Q 漫画を描く上で大事にしていることを「読んでいる人が傷つかないことです」と繰り返しおっしゃっています。そう思うようになったのは、どんな理由からでしょう。

A 昔見たアニメで、自分の倫理観と違っていたため勝手に傷ついた、という事がありました。倫理観は人それぞれなので私の一方的な考えです。しかし、自分の物差しは大切にしたいし、キャラの尊厳も大切にしたいです。

Q 今回いただいたどのお答えも大変興味深く、明快で、迷いなくお書きいただいたように感じました。勝手ながら、先生のお人柄が垣間見えるように感じたのですが、ご自分のことをどんな性格だと分析されていますでしょうか。またご自分を「どんな漫画家」だと思っていらっしゃいますか。

A 真面目だと思います。明日出来る事も、出来るなら今日やってしまう方です。あまり悩みこまないです。悩みは3つ以上覚えられません。4つめの悩みが出来るとひとつ消去される感じです。漫画に対しては結構「しつこい」です。特にネーム、演出は納得いくまでやります(ほとんどのプロ作家は同じだと思いますが)。まあまあインドア派なので、漫画家に向いた性格とライフスタイルだと思います。「どんな漫画家か」…デビュー作がたまたま週刊誌に掲載され、多くの読者に見つけていただき、「不安」より「やる気」が勝って、良い波が来たら乗っかる、という感じで今までやって来られました。恵まれた漫画家だと思っています。

質問作成・構成=門倉紫麻

プロフィール
高橋留美子(たかはし・るみこ)●新潟県出身。1978年、大学在学中に『勝手なやつら』でデビュー。『うる星やつら』『めぞん一刻』『らんま1/2』『犬夜叉』『境界のRINNE』「人魚シリーズ」などヒット作を生み出し続ける。アメリカ・アイズナー賞「コミックの殿堂」受賞など海外でも高い評価を受ける。『週刊少年サンデー』にて『MAO』を連載中。