「みんなと一緒に作り上げる楽曲」にたどりつくまで――水瀬いのり・音楽活動5周年インタビュー③

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公開日:2020/11/28

水瀬いのり

 12月2日。1stシングル『夢のつぼみ』で声優・水瀬いのりが音楽活動をスタートしてから、もうすぐ5周年を迎える。戸惑いながら歩き始めた水瀬いのりの足跡は、多くの聴き手の応援を受け、支えられながら、リリースを重ねるごとに確かなものとなっていった。これまでに8枚のシングルと3枚のオリジナルアルバムを発表、日本武道館をはじめ大きなステージに立ち、ファンと心を通わせて絆をはぐくんできた結果、「水瀬いのりの音楽」は5年間愛され続けてきた。そのあたたかい関係性は、きっとこれからも変わらないだろう。今回は、音楽活動5周年と、水瀬自身の25歳の誕生日でもある12月2日の9thシングル『Starlight Museum』リリースを記念して、連載形式で5本立てのロング・インタビューをお届けしたい。第3回のテーマは、「5年間を象徴する5曲」。自身の音楽活動の中で、多くのものを受け取ってきた5曲を水瀬自身にピックアップしてもらい、話を聞いた。

水瀬いのりが選ぶ、「音楽活動5年間を象徴する5曲」
①夢のつぼみ
②harmony ribbon
③Starry Wish
④Ready Steady Go!
⑤Catch the Rainbow!

(“夢のつぼみ”を)今の自分が歌ったら、きっとたくさんの人の背中を押せる自信がある

――事前に、「音楽活動5年間を象徴する5曲」、というテーマで選んでもらったんですけど――わりと初期に固まってますね(笑)。

水瀬:そうですね(笑)。音楽活動を始めて、初めて何かを達成したり、初めて見る景色があったりしたので、この5曲が象徴的だなと思いました。始まりの曲の“夢のつぼみ”であったり、“harmony ribbon”や“Ready Steady Go!”は、このあとお話するライブというテーマにも関わってきますが、レコーディングをしているときは見えなかったものが、ライブを通して見えた曲であり、みんなの前で歌える喜びを知ることができた曲たちです。活動をしていく中で、この曲をみんなに歌うことができる、自分の持ち曲にこの曲があって本当によかったと、胸を張って言える曲になりました。“harmony ribbon”と“Ready Steady Go!”、それに“Catch the Rainbow!”もそうですが、みんなの前で歌ったからこそ、より濃いものになった曲だなと思って、選びました。

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――まず“夢のつぼみ”ですが、改めて聴いてみると、1stシングルとしてはかなり難しい曲だったのでは?と思ったんです。で、少し前になりますけど、水瀬さん自身から「当時、そのつぼみはくすんでいたかもしれない」っていう名言も出ていまして(笑)。

水瀬:はい。このレコーディングは、苦い思い出が……(笑)。

――“夢のつぼみ”というタイトルは、しっとりとした曲調を思わせるところがありますけど、実際にはわりとアッパーな曲ですよね。

水瀬:そうなんです。デビュー曲にして、自分の気持ちすらも飛び越えていくような活力がある曲で。《行くよ まだまだまだ》という歌詞に、当初は自分の歌でありながら自分も置いていかれそうになりました(笑)。それくらいパワーのある楽曲ですし、キャッチーですし、ある意味で最初の壁にぶつかったのも、この“夢のつぼみ”でした。もちろん大好きな楽曲ですが、当時この曲でデビューして、普段の自分と曲のパワフルさの折り合いに、最初は悩んでいました。

 実はこの曲が最初のレコーディングではなくて、カップリングの“笑顔が似合う日”が、キャラソンではない個人の曲は初めてのレコーディングだったのですが、当日はなぜか謎の自信を持ちながらスタジオに行ったんです(笑)。歌うことも好きですし、「やっと自分の歌が歌える~」という嬉しい気持ちでスタジオに行ったのですが、全然上手に歌えなくて。“夢のつぼみ”も同じで、日付を越えるくらいの時間まで歌い続けたんです。当時はまだ10代だったので、帰りの終電を気にしながら歌うから、より焦りも出てしまって。とにかくガムシャラすぎて、技術プラス、表情や感情、いろんなものが合わさって歌になるんだ、ということを1st シングルのレコーディングで知って――そこでまず、くすみました(笑)。

――(笑)確かに、テンション感は大事だけど、ひたすら前のめりならそれでいいっていう曲ではないですよね。

水瀬:そうなんです。「楽しく歌いま~す!」だけではダメで、技術面が必要だとそこでわかったので、もう一気につぼみが枯れそうになりました(笑)。

――(笑)歌っている水瀬さん自身が楽しくて、みんなを楽しませることもできる。そこがいいバランスで結びつくと、この曲すごくいいものになるんだろうなって、歌詞を見ていると思いますね。

水瀬:そうですね。なので今の自分が歌ったら、きっと前よりたくさんの人の背中を押せるんじゃないか、という自信があります。

――技術の話が出ましたけど、5年間やってきたら、当然技術は向上すると思うんです。歌の表情が豊かになったり、アプローチの選択肢が増えたり。その中で、水瀬さん自身が気づいた自分の歌の強み、いいところって何でしたか。

水瀬:うーん、なんでしょう? でも、自分の歌声は、この活動を始めてみなければわからないことでした。歌が好き、とただ思っていた頃も、自分の歌を聴き返すことはなかったんです。自分は気持ちよく歌っているけど、その声が人にどう届いているかわからないまま過ごしていたのですが、CDになったり、ラジオやテレビCMで自分の歌が流れているのを聴いたときに、自分の歌声の低音がすごく好きだなあって気づきました。わりとキーが高い曲も多いですが、自分の曲の中で特に好きなのは、AメロやBメロあたりの、ちょっと低いキーで歌っている自分の声だったりします。年齢の積み重ねもあるのかもしれないですが、落ち着いたパートを歌うときの感情表現をこの5年でいろいろと培うことができたのかな、と思います。最新シングルの“Starlight Museum”も、始まりはけっこうキーが低いのですが、そこに集中して音を紡いでいくときがすごく楽しいんだな、と気づきました。

水瀬いのり

水瀬いのり
「Inori Minase LIVE TOUR 2019 Catch the Rainbow!」より

(“Catch the Rainbow!”は)武道館でみんなが一緒に歌ってくれて、最高の景色を見せてもらいました

――5年間を象徴する楽曲として、“Starry Wish”も選んでいますね。

水瀬:“Starry Wish”は、わたしのアーティスト活動を多くの人に知ってもらえるきっかけになった曲だと思います。初めてのTVアニメのタイアップで、毎週必ず自分の歌がエンディングとして流れるのも、“Starry Wish”が初めての経験だったので、思い入れがあります。あとは、ライブでこの曲のイントロが流れてくると、ファンの皆さんのテンションが見るからに上がってくれるのを感じていて。みんなにとってもこの曲が大きな存在になっているんだな、と実感するので、改めてタイアップをいただけることのパワーを感じましたし、夢見ていたアニメソングを歌えたこともあって、嬉しかったです。TVアニメ『ViVid Strike!』のエンディングだったのですが、「この曲は『ViVid Strike!』のエンディングテーマです」と言えるのは、「アニソンシンガーのようだ!」と思って、当時「音楽活動をしていると、こういうことに喜びを感じられるんだなあ」と思いました。

――声優としてアニメ音楽を歌うことは、もしかしたら活動を始めたときからある程度想像はできていたかもしれないけど、実際に体験してみるとすごく嬉しいことだったんですね。

水瀬:そうですね。アニメのキャラクターとして、初めてレギュラーで出させてもらったときの気持ちと一緒で、エンディング映像のクレジットで作詞、作曲でお世話になった方の名前と「歌:水瀬いのり」って出たときに、「ああ~、すごいなあ」って思いました。

――なるほど。で、冒頭にも話してくれましたけど、“harmony ribbon”と“Ready Steady Go!”はとにかくライブで育った曲であると。

水瀬:はい。本当に、わたしが何かをこの曲にしたのではなくて、みんながこの曲にしてくれた、みんながこの曲の一部になってくれたことによって完成した2曲だと思います。“Catch the Rainbow!”も同じで。初めて作詞をした楽曲なのですが、その年のライブツアーでワンマンとして初めての日本武道館2デイズ公演をやらせていただいた際、わたしがちょっと感極まってしまって歌えなくなったときに、皆さんがすぐにこの曲の歌詞を口ずさんでつないでくれたんです。そのとき、ひとり寂しく歌詞を書いていたときのことを思い出して、「こんなに報われることがあるんだ」って本当に嬉しかったんです。寂しく、でも一生懸命みんなへの思いを歌詞にしていて――自分の部屋を歩き回りながら、手帳を片手に、スマホで漢字を変換しながら歌詞を書いてたのですが、武道館という大舞台で歌うことができて、しかも涙で歌えなくなったらみんなが歌ってくれるなんて、もうアニメの最終回みたいですよね(笑)。みんなの愛をもらって、ファンの皆さんへの思いを歌った歌なので、それをみんなが一緒に歌ってくれて、最高の景色を見せてもらいました。

――「ひとり寂しく」と言ってましたけど、実際歌詞を書くときは寂しかったんですか。いろんな人のことを思いながら書く歌詞だったわけですよね。

水瀬:やっぱり、その時点では目に見えないので、自分のライブ映像を観てみんなが盛り上がってくれている姿を確認したり、ファンレターを読み返したりしました。「自分の思い込みじゃないよなあ」って思いながら(笑)。ちゃんとわたしはみんなから応援してもらえてるのかな、どんなところを好きと言ってもらえているのかなと思っていたのですが、ライブ映像やお手紙で、みんなの言葉や愛を実感して、「嘘じゃない、妄想じゃなかった!」と感じて、それに対するお返事のように、「みんながくれる愛があるから希望を歌えるんだ」という歌詞にしようと思いました。歌詞を書くときにはみんなはいないので孤独な気持ちでしたがけど、曲ができ上がる頃にはみんなといい曲にできているんだ、と未来を見据えながら書いていきました。

――歌詞の中にある《一緒に》《そばにいたい》《みんながいるから! しあわせ》あたりはとても印象的なフレーズですけど、ひとり寂しく部屋で書いた歌詞が、現実になっていったんですね。

水瀬:はい。もう、想像していたよりはるかに大きなスケールで、みんなから感動を受け取りました。

――書く時点で受け取ったものにより歌詞が生まれて、その歌詞で受け取る人とつながっていく。どんどんつながりが生まれていってるんでしょうね。

水瀬:そうですね。本当に、みんながくれるものがあってできた1曲なので、それに対してみんながたくさんの感想をくれて、終わらないラリーがずっと続いている感覚です。

――この歌詞を書いたことで、「自分の音楽活動はこういうことなのかも」っていう気づきがあったのでは?と想像したんですけども。

水瀬:自分の気持ちを表現する上で、やっぱりシンプルな言葉が好きなんだな、と思いました。回りくどい言葉とか、ちょっと気が利いていて、「今思えばこういうことだったのか」みたいな、お洒落な感謝の仕方ができなくて。「ありがとう」「好きだよ」「そばにいてね」とか、包み隠さずシンプルに、まっすぐな言葉で感謝や気持ちを伝えられることは、自分でも知らなかった一面で、歌詞を書きながら感じたことです。なので、意外と大胆なところもあるのかなって思ったりします(笑)。

第4回は12月2日配信予定です。

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取材・文=清水大輔  写真=GENKI(IIZUMI OFFICE)
スタイリング=田村理絵 ヘアメイク=大久保沙菜

初のオンラインライブ
「Inori Minase 5th ANNIVERSARY LIVE Starry Wishes」
12月5日(土)19:00〜開催!

特設サイト:https://www.inoriminase.com/special/2020/SW/