今、地球上でわたしたちが一番幸せ。最高の瞬間を届ける、ライブへの熱い気持ち――水瀬いのり・音楽活動5周年インタビュー⑤

　12月2日。1stシングル『夢のつぼみ』で声優・水瀬いのりが音楽活動をスタートして、5周年を迎えた。戸惑いながら歩き始めた水瀬いのりの足跡は、多くの聴き手の応援を受け、支えられながら、リリースを重ねるごとに確かなものとなっていった。これまでに8枚のシングルと3枚のオリジナルアルバムを発表、日本武道館をはじめ大きなステージに立ち、ファンと心を通わせて絆をはぐくんできた結果、「水瀬いのりの音楽」は5年間愛され続けてきた。そのあたたかい関係性は、きっとこれからも変わらないだろう。今回は、音楽活動5周年と、水瀬自身の25歳の誕生日でもある12月2日の9thシングル『Starlight Museum』リリースを記念して、連載形式で5本立てのロング・インタビューをお届けしたい。最終回のテーマは、「ライブ」。12月5日には、初めてのオンラインライブが開催される。水瀬いのりが、「いつもこの会場で自分が一番幸せ者」と思えるのはなぜなのか――たくさんの愛を受け取ってきたライブへの想いに迫ってみた。

楽しいことをしているときは、「幸せだ」と隠さずに言いたい

――ライブは、水瀬さんの音楽活動の中でとても大事な位置を占めているんじゃないかと思うんですけど、いろいろなステージに立ってきた中で受け取ってきた、一番大きなものはなんですか。

水瀬：やっぱり、愛ですね。とにかく皆さんがくれる好きの気持ちです。人それぞれ、大きさは差があるかもしれないですが、たとえば初めてライブに来てくれて「あっ、なんかいいかも」と思ってくださる人から、「愛してる」というくらい大きな愛をくださる人もいらっしゃいますし。あとは、わたしと同年代で、自分が当時水樹奈々さんに憧れたように、自分も誰かの憧れになれている、というような愛も、もしかしたらあるかもしれないです。ライブって、手を伸ばせば届くと言うと大げさかもしれないですが、わたしが客席に思いっ切り走れば、みんなと直接会話もできちゃうくらい近いもので。それでいて、舞台と客席がある、不思議な空間だなって思っていて。わたしはいつも、「みんなも出演者なんだよ」と思いながらライブをしているんですけど、やっぱりみんなが楽しそうにしてくれてないと、わたしも「あれ？　なんか今のわたし、微妙なのかも」と思ってしまうでしょうし、みんなが楽しそうに歌ってくれていたりすると、わたしも楽しくなりますし。本当に、鏡写しのような関係です。みんなが盛り上がってくれれば最高のライブになる、と確信できる、愛を感じる場所です。

――2017年の春、1stアルバムをリリースするときに、水瀬さんは「いつもこの会場で自分が一番幸せ者って思いながら歌うように心がけている」という話をしていて、素晴らしい考え方をするなあ、と。同時に、この人はなんでそう思えるんだろうって気になったんですよ。

水瀬：なんでしょう、でもやっぱり“Catch the Rainbow！”にも《しあわせを　歌おう》という歌詞を書いている通り、どんなバラードやクールな曲を歌っていても、最終的には「幸せを歌いたい」という想いがあって。幸せは、もちろん言葉でも伝えられますし、音楽でも伝えていきたいと思っています。「今、この会場で自分が一番幸せ」って思いながら歌うと、「全世界の中で自分が一番幸せ」とも思えるんですよね。それってすごく自分のパワーにもなりますし、そう思いながら歌うと、もやもやした気持ちも全部飛んでいきます。「幸せだ」と言葉で言うことで、身体の中にもちゃんと届くんだろうなって思いますし、やっぱり楽しいことをしているときは、「幸せだ」と隠さずに言いたいと思っています。

――究極に前向きな考え方ですよね。今の話もそうなんですけど、自分の歌を受け取ってくれる人たちをすごく信頼している人だな、というイメージが以前からあって。あえて聞きますけど、そこまでお客さんのことを信じられるのはなんでですか。

水瀬：そこは本当に単純で、みんなが笑ってくれるから、みんなが楽しそうにしてくれるから、だと思います。もちろん、皆さんひとりひとりと長時間おしゃべりしたことがあるというわけではありません。ファンレターなどを通してみんなの愛を知って、「嬉しいな」と思いながら、こうしてインタビューなどでお返しするような関係ではありますけど、ライブ会場でみんなと一堂に会したときには安心感があります。「こうやって普段、わたしの活動を見てくれているんだなあ」って実感しますし、皆さんの笑顔が自然と口角が上がっていて、目が細くなっていて。それって、リラックスしつつも興奮状態というか、そういうアドレナリンが出る空間にいるからこそ、出てくる表情だと思っていて。いつもライブでそれを見たときに「きっと大丈夫」ってわたし自身も思いますし、今はなかなか会えないですけど、「きっとみんなは、こういう表情で手紙を書いてくれているんだろうな」って、顔を見なくても想像がつくんです。そしてそれが、わたしからの皆さんへの信頼の源になっています。

――好きの気持ちをライブの場で届けて、お客さんから返ってくる。それを繰り返すことで、そのパワーはどんどん強くなっていく。そんな感じですか。

水瀬：そうですね。なので、ライブでは常にここにいるわたしたちが地球上で一番幸せ、と思っていますし、次のライブが行われるときにも、それをモットーに歌いたいです。

集大成と新しい始まりを、みんなと笑顔で迎えられたら

――1stライブは1公演でしたけど、その後初めてのツアーを経験しましたよね。

水瀬：初めてのツアーは、いろいろなことがすごく難しかったです。ライブでのペース配分と、平日は声優のお仕事をして、土日はライブをやる感覚に、身体も気持ちもなかなか追いついていかなくて。それと、実は1stツアーのときに、あまり声のコンディションがよくなくて、それで悩んでいたこともありました。「もう、どう向き合えばいいんだろう」って悩んでいたのですが、そのときにスタッフの皆さん、バンドの皆さんがすごく支えてくれて。悩んだ出来事がきっかけで、より皆さんと深く話したり、自分の悩みを打ち明けることができたので、とてもよかったな、と思います。自分からは言えなかったと思うので、皆さんが気づいてくれて、力になってくれたことで、今のライブチーム、音楽チームのスタッフの皆さんとのチームワークが生まれるきっかけになりました。今となっては、あの日々も大事だったと言えますし、そのときを乗り越えたからこそ強くなれたのかな、と思います。

――12月5日には、初めてのオンラインライブがあります。リアルでファンの皆さんと会うことは叶わないですけど、久しぶりに歌を届けられる場所に立てるわけですよね。水瀬さんと会える日を待ってる人が、たくさんいると思います。オンラインライブに向けての気持ちを聞かせてください。

水瀬：きっと皆さんも待っていてくれたんじゃないかと思いますし、わたしとしても、これだけ人前で歌えない期間が長く続くとは思ってもいなくて。もともとライブはすごく緊張もしますし、いつも迷いや不安を持ちながらステージに立って、それでも最後にはみんなのおかげで笑える、そして幸せを感じられるライブになっていると思います。こんなに長い期間みんなと一緒に過ごせない未来があるなんて、日本武道館のライブのときには思ってもいなかったですが、オンラインライブという形で皆さんに歌を届けられる場所を作っていただけたのは、スタッフの皆さんのお力と、それを実現できるだけの応援を皆さんから日々いただいているからだと思います。記念すべき5周年で、みんなと直接会えるライブではなかったことは残念ですが、離れていてもライブを観ていただけるのはとても嬉しいです。ぜひ当日は、皆さんのおうちが最前列の席になるような気持ちで、熱く応援してもらいたいですし、わたしもこれまでとこれからをたくさん詰め込んだセットリストにするつもりです。集大成と新しい始まりを、みんなと笑顔で迎えられたら嬉しいです。

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取材・文＝清水大輔　　写真＝GENKI（IIZUMI OFFICE）
スタイリング＝田村理絵　ヘアメイク＝大久保沙菜