1月10日TVアニメ放送スタート! 「ふたりひと役」はどのように体現されるのか?――『無職転生』杉田智和×内山夕実インタビュー

アニメ

公開日:2021/1/7

杉田智和・内山夕実

無職転生
TVアニメ『無職転生~異世界行ったら本気だす~』 1月10日より、TOKYO MXほかにて毎週日曜24:00より放送
(C)理不尽な孫の手/MFブックス/「無職転生」製作委員会

 小説投稿サイト「小説家になろう」で絶大な人気を誇り、2021年ついにアニメ化を果たす『無職転生~異世界行ったら本気だす~』。この作品は、部屋に引きこもってゲームとネットに明け暮れていた34歳のニートの男が、家から追い出され、交通事故に遭って死亡。剣と魔法の異世界で、赤ん坊として目覚め、新たな人生をたどり始めるという物語だ。

 新たな人生を送る少年・ルーデウス役を内山夕実、異世界で心の声としてつぶやく彼の前世(前世の男)役を杉田智和が担当。ふたり一役でルーデウスの一代記が描かれることになった。

 はたしてふたりはこの異世界転生もののパイオニアと呼ばれる『無職転生』にどのように挑むのか。オンエアにあたり、内山と杉田にインタビューすることができた。取材日、杉田は前世の男をイメージして、なんと部屋着で登場。撮影時も内山の陰に見切れるようなスタンスで、前世の男になりきっていた。ふたりのコンビネーションの良さを感じるような撮影を経て、ふたりが語った内容は、ルーデウスという役柄の奥深さに踏み込んだものだった。

advertisement

 

並行宇宙があるとしたら、自分も前世の男だったかもしれない。でも、その恐怖を振り払ってはいけない(杉田)

――まずは、おふたりの『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』という作品との出会いをお聞かせください。

内山:私はオーディションのときに、この作品を知ったんです。すごくたくさんの方に愛されている作品ということで、実際読ませていただくと、「転生もの」ならではのアクションシーンだけではなくて、家族愛や人との絆がすごく丁寧に描かれていて、私自身の現実と重ね合わせて考えてしまうようなシーンもあって、そういうところが愛される作品なんだな、とわかりました。だから、携われることがわかったときはすごく光栄な気持ちとともに皆様に楽しんでいただけるものが作れるように、プレッシャーを感じつつ、気合が入りました。

杉田:「異世界転生もの」というジャンルが確立したころから、必ず引き合いに出される作品ですよね。いわゆる「なろう」系小説のどのような作品が映像化、アニメ化するときも、必ず『無職転生』からなる「異世界転生もの」と名前が上がっていましたけど、なぜか映像化していない。僕のまわりのみんなはなぜだろうと疑問に感じていたようでしたし、そういう意見を自分で見たこともありました。

――杉田さんもオーディションを経て、この作品の参加が決まったのですか?

杉田:そうです。僕が実際に原作を手に取ったのは、オーディションのときでした。

――前世の男は引きこもりのニート。彼は家族の死をきっかけに、自宅から追い出されてしまう。すべてを失って嘆く彼の姿は、とても生々しいものです。そんな前世の男をどう受け止めましたか。

杉田:この作品に恐怖を覚えた部分が、まさにそれで。もうひとりの自分自身が常に語り掛けてくるんです。「お前もこうだったかもしれないぞ」と。とても怖いことなんです。それを否定できないし、反論もできませんから。もし、あのとき違う選択をしたら、自分も前世の男になっていただろう、と。並行宇宙があるとしたら、自分も前世の男だったかもしれない。でも、その恐怖を振り払ってはいけないと思うし、かといって受け入れすぎてしまうと、今の自分の人生に影響が出てしまう。彼に対して、同情することは違うと思うし、かといって叱りつけることはもっと違うと思う。自分としては、前世の男という存在と適正な距離を保つ、気配を感づかれないようにいる。その的確なポジション(前世の男との距離感)を見つけることが大事だなと感じています。

内山:前世の男の描写は生々しいな、と思いました。すべてではないにせよ、読んでいる人がどこか共感できる部分があるんだろうな、と私自身も感じています。そんな前世の男が転生して異世界の家族とともに新しい人生を生きていく。転生後の親子のシーンは、年齢を重ねた自分だからこそ、感じる部分があって。両親の考え方やセリフにすごく考えさせられる言葉が多かったです。この作品は、前世の男とルーデウスだけでなく、まわりの人たちの成長もすごく丁寧に描かれていると思うので、そういうところもみなさんにひとつひとつ感じていただけたら嬉しいなって思います。

――前世の男は転生して、異世界で幼児から「生き直す」ことになります。前世の反省から、しっかりと生きる姿はとても印象的です。

杉田:(前世の男に)もともとの才能や素養のようなものがなければ、ルーデウスのようには育たないはずなんです。彼が前世でああなってしまったのを、生前の環境のせいだけにしたくはない。自分自身にも怠惰な部分、甘えが必ずあるので……。おそらく「転生」とは「現在までのものを無に返したうえで、新しい自分を生きる」ではないと思うんです。あくまでデフラグ、再構築なんだと思います。前の自分を否定したら、成長のきっかけは何もない。筋肉は傷ついて、超回復して、成長する。前向きなストレス、負荷をかけなくては成長しない。しかし、そのことには自分で気づくしかない。ルーデウスはそれを的確にとらえることができる才能を持っていたなという印象です。

内山:そうなんですよね。(ルーデウスは)特殊な能力を持って転生したわけじゃないので、完璧じゃない彼(前世の男)が成長していくのは、すごく響くものがあるなという感じがしました。

無職転生

無職転生

無職転生

無職転生

杉田さんの声と私の声が入ることで、ルーデウスというキャラクターが初めて完成する(内山)

――ルーデウス役と前世の男役は、言ってしまえば、ふたりひと役でもあると思います。相手役を知ったときはどんな印象を感じていましたか。

杉田:前世の男役に僕が決定した段階で、音響制作会社さんから「ルーデウス役は内山夕実さんです」と教えていただきました。大人数での収録ができない状況の中、なかなか一緒に収録することは困難だと思うのですが、前世の男とルーデウスに関しては必ず掛け合いか、直前にチューニングできる機会を設けてください、とお願いしていました。第1話のアフレコで内山さんと実際に顔を合わせて収録できました。まあ、つい立てが間にありましたけど(笑)。内山さんと収録ができないときも、収録済みの音声を必ず聴かせてもらいながらアフレコをしています。

内山:幼少期や回想シーンということではなく、同じ時間を同じタイミングにふたりでひとりの役を演じさせていただけるという機会はほかにないと思いますし、どんな感じになるんだろう、とすごくドキドキだったんですけど、実際に杉田さんの音声の入った映像を拝見したときに、杉田さんの声と私の声が入ることでルーデウスというキャラクターが初めて完成するんだなと。杉田さんの声と、私の声が入ったルーデウスを見た瞬間に鳥肌が立つ思いでした。自分がアドリブをしたタイミングと、杉田さんのモノローグのタイミングがピタッとハマったときは「はっ!これだ!!」みたいなシンクロ感を味わっていました。すごく奥深いキャラクターになっていると感じます。

――ルーデウスはふたりの声を通じて、彼の本音と建前、外面と内面、行動と感情を描くキャラクターですよね。実際に第1話をふたりで収録をしてみていかがでしたか。

内山:どこまでルーデウスの表情変化にアドリブの声を入れるのかは、まだ第1話は試行錯誤している段階でしたし、序盤はルーデウスも幼児ですから、どの程度実際に使われるかわからないということもあって、ひとつひとつの表情変化すべてに息を入れていきました。台本を読んでいるときに前世の男の心情は全部把握をしようとしていましたが、ルーデウスと前世の男の置かれている状況はまったく違うので、杉田さんのモノローグを聞かずに、ルーデウスの演技をしたほうが良い場面もあるなと、実際に演じていて感じました。

杉田:転生したとはいえ、生前の記憶もあるし、それまでに蓄積してきた人生経験があります。前世の男は問題こそあっても、善人ではあるので、それは幸せなことだったな、と感じました。一歩間違えば、転生後の世界が復讐劇になる場合もありえますからね。

――アフレコ現場はいかがでしたか。

杉田:(内山さんの)姿を見ると、ほっとしますよ。収録が別々でも、内山さんの顔を見ると「ああルーデウスだ」と思って。

内山:私もまったく同じ気持ちです。私は第1話の台本をいただいたときに初めて「(前世の男役が)杉田さんなんだ!」と知ったんですけど。あの……私、主人公ポジションのキャラクターをたくさん演じてきたわけではないので、今回のルーデウスを担当させていただくことが決まったときに、プレッシャーみたいなものが正直あったんですよね。すごく緊張していたんですが、台本に杉田さんのお名前があったのがすごく嬉しくて。「ああ、じゃあ大丈夫だ」みたいな(笑)。杉田さんと一緒にこの作品に挑ませていただける安心感と、ありがたい気持ちでいっぱいになりました。現場で杉田さんをお見掛けしたときも、同じ役を二人三脚で作っていけることがすごく光栄で。恐縮しながら収録をさせていただいています。

――内山さんのルーデウスの声を聴いて、杉田さんが影響を受けたことはありますか。

杉田:ルーデウスは、自分ひとりで完成しているとは思っていないんです。それでも、ある程度はひとりで完成させなくてはいけないことも多くて。常に矛盾と不条理を抱えながら演技しています。壊れそうな天秤に乗せてはいけないものを乗せているけれど、一緒に支えている内山さんがすごく頼れる人なので、助けられています。ただ、あまり感謝を伝えてしまうと力が緩んでしまうかもしれないので、もう少し、最終回の収録ぐらいまでとっておこうかなと。

内山:……がんばろ!!(自分に言い聞かせるように)

――おふたりの作るルーデウスをオンエアで観るのが楽しみです。

内山:「自分ひとりでは完成しない」という感覚は私も同じです。「完成前のもの」を私は提供しているんだけど、私が提供すべきものは「不安定なもの」ではなくて、自分なりに「完成させたもの」を出さなきゃいけない。だから、複雑な緊張感があるんです。今後も……最終回の収録まで、私もこの感覚を大事にして、責任感を持って臨みたいと思います。

杉田:バレーボールでトスを上げて、アタックが決まっても、試合は終わりじゃないですからね。よくわからないたとえですけど。

内山:(笑)そのたとえ、よくわかります! 試合終了まで気は抜きません!

杉田智和・内山夕実

視覚、聴覚、いつも以上にいろいろな感覚を駆使して作品に向き合っています。そうしないと、内山さんに渡すものができないですから(杉田)

――アニメ版『無職転生』は、映像がとても美しい作品として仕上がっています。おふたりはその映像面で期待していることはありますか。

杉田:毎話、仕上がりの絵うぃ想定しながら収録しています。画面の中に込められているもの、台本に書かれていること、あらゆる情報を取り入れています。視覚、聴覚、いつも以上にいろいろな感覚を駆使して作品に向き合っています。そうしないと、内山さんに渡すものができないですから。

内山:アフレコのときの映像では、表情をとっても細かく描写されていて、完成が楽しみだなと思っていました。絵の情報量が多いので、キャストのみなさんの演技が良い意味でリアルな感じになっていて、さらに音楽が付くことで、劇場版クラスの見ごたえある作品になりそうです。PVの段階からすごく素敵な映像だったので、よりTVシリーズのオンエアが楽しみになりました。

――ルーデウスが成長していく中で、いろいろなキャラクターたちと出会っていきます。おふたりが気になっているキャラクターはいらっしゃいますか。

内山:両親(パウロとゼニス)ですね。いろいろな問題はありつつも、すごく愛情たっぷりにルーデウスを育ててくれている感覚を、収録中も感じることができました。直接掛け合いをすることはあまりできなかったんですけど、収録していただいた両親の音声を聴くと、すごく安心できました。両親の存在ってとても大きいんだな、とあらためて感じました。グレイラット家の絆は、今後のルーデウスにも影響を与えていくので、印象に残っています。

杉田:転生して最初に受ける影響って、やはり両親によるものだと思うんです。両親を見て、子どもは育っていくじゃないですか。ふたりが善人で本当に良かった。ちょっと問題はありますけど……いや、ちょっとじゃないくらい問題がありますけど(笑)。あとは、この作品に“ある存在”が出てくるんですが、あれが恐ろしくてしようがないです。気になるし、無視ができない。向こう側から「こっちを見ろ」と言っているような、前世の男とは別ベクトルでルーデウスに影響を与えるような存在です。正体がわからないんですよね。そのキャラクターが言う言葉には僕らも影響を受けますよ。ブレちゃいけないって思いつつ、最新の注意を払いながら接するようにしています。

――今後のルーデウスの波乱万丈の人生が、どのように映像で描かれるのかが楽しみです。

杉田:みなさんが観て、どのような感想を抱かれたかを知りたいです。貴重な意見になりますので、ぜひ公式の作品アカウントに感想をお寄せください。

内山:そうですね。ぜひ、みなさん、ご覧いただいて、いろいろな想いを感じ取っていただきたいです。

TVアニメ『無職転生~異世界行ったら本気だす~』公式サイト

取材・文=志田英邦 写真=小野啓

杉田智和(すぎた・ともかず)
AGRS所属。1999年『魔装機神サイバスター』でアニメ作品に初めてのレギュラーで出演する。代表作に『銀魂』(坂田銀時役)『ジョジョの奇妙な冒険』(ジョセフ・ジョースター役)、『涼宮ハルヒの憂鬱』(キョン役)など。Twitter:@sugitaLOV

内山夕実(うちやま・ゆみ)
大沢事務所所属。2011年『Aチャンネル』でアニメ作品に初めてのレギュラーで参加する。代表作に『魔法科高校の劣等生』(千葉エリカ役)、『Re:ゼロから始める異世界生活』(パック役)、『きんいろモザイク』(猪熊陽子役)、『デジモンユニバース アプリモンスターズ』(新海ハル役)など。Twitter:@yuumin_uchiyama