ロボットアニメに託した美学と、子どもの頃からの夢――虚淵玄×石渡マコトインタビュー③

アニメ

更新日:2021/1/19

翠星のガルガンティア
『翠星のガルガンティア』 Ⓒ オケアノス/「翠星のガルガンティア」製作委員会

『魔法少女まどか☆マギカ』『PSYCHO-PASS サイコパス』『Fate/Zero』といった傑作を生みだした脚本家・小説家・虚淵玄(ニトロプラス)。彼の作品に登場するメカやロボットのデザインを手掛けているデザイナーが石渡マコト(ニトロプラス)だ。虚淵と同じPCゲームメーカー・ニトロプラスに所属し、銃や刀からバイク、戦闘機、そして巨大ロボットまで、虚淵作品の最もエッジな部分を、3DCGを駆使した美しく機能的なデザインで表現してきた。

 虚淵と石渡のふたりが2013年に手掛けた作品がTVアニメ『翠星のガルガンティア』。虚淵が原案とシリーズ構成・脚本を務めた作品は、はるか彼方の宇宙で戦争に参加していた主人公が、水没した未来の地球にロボットとともに訪れる、というストーリー。主人公の少年とロボットのバディが、未知の地球で少しずつ現地の人々と交流を図っていくドラマが描かれていく。石渡は主人公・レドの相棒であるロボット・チェインバーや、地球のロボット、そして宿敵となるロボットをデザインした。『翠星のガルガンティア』はTVシリーズの放送終了後も、後日譚にあたるOVAが制作されるなど、多くのファンから愛されている作品となった。

 そして、虚淵と石渡が手掛けている最新作がYouTube Premiumとしてバンダイナムコアーツチャンネルで配信中の『OBSOLETE』だ。ある日、地球人と交易を求める異星人が出現。石灰岩1,000キログラムと引き換えに、地球人の技術では解析できない意識制御型汎用作業ロボットを提供しはじめた。この汎用作業ロボットは「エグゾフレーム」と名付けられ、たちまち世界中に拡散し、人々の生活を、戦争を、未来を変えていくという作品。虚淵はこのプロジェクトの原案・シリーズ構成・脚本を担当。多種多様に改造され、発展していく「エグゾフレーム」のデザインを石渡が担当している。

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『翠星のガルガンティア』は2021年2月25日にコンプリートブルーレイボックスが発売予定、『OBSOLETE』は12月1日に配信開始された最新エピソードを含むEP1~EP12まで、YouTube Originalsとしてバンダイナムコアーツチャンネルで無料配信中だ。今回は、この2作品を軸に、ロボットアニメについて語り合ってもらった。

 第3回は、石渡の得意なデザインが大いに発揮された『翠星のガルガンティア』の地球人類側のメカ・ユンボロイド、そして『OBSOLETE』のエグゾフレームについて語り合ってもらった。

『エイリアン2』のパワーローダーが登場するシーンは、リアルタイムで海外で観たかったな、と未だに思う(石渡)

――『翠星のガルガンティア』では、石渡さんは主役メカのチェインバーだけでなく、ご自身がお好きな映画『エイリアン2』のパワーローダー系(連載1回参照)のメカデザインをされていますね。

虚淵:ユンボロイドですね。

石渡:懐かしい(笑)。記憶が定かではないんですが、たしか当初はチェインバーよりもユンボロイドのほうがサイズが大きい、という話があったんですよ。

虚淵:いろんなサイズがあるという話があった気がしますね。

石渡:それで重機(建設機械)の延長として考えたんです。

虚淵:世間だとね、『エイリアン2』のパワーローダーはカッコ悪いというよく分からない文脈があって(笑)、「違うだろ、カッコいいだろ」と、あえて重機系のデザインをしてもらったわけです。

石渡:『エイリアン2』のパワーローダーが登場するシーンは、リアルタイムで海外で観たかったな、と未だに思うんですよ。登場シーンはきっと、みんな大歓声を上げたと思うんですよね。

虚淵:ですよ、あれは。

石渡:あのころの想いがここ(ユンボロイド)に至っている感じがありますね。

――チェインバーとユンボロイドでは、メカデザインの方向性が違いますが、石渡さんの中では頭を切り替えている感じがあるんですか?

石渡:頭を切り替える……まあ、切り替えてるのかな。メカデザインの世界観が違うんです。人類銀河同盟には、力点と力点を直線で結ばなくても良いくらいの余裕があるし、技術力がある。人類銀河同盟の設計者には、そういう余裕があるんですね。でも、ユンボロイドを開発している地球の設計者は技術力が失われているので、力点と力点をまっすぐ結ばないといけない。そういうポイントを忘れないように変えています。

――人類銀河同盟には曲面をデザインする余裕があって、地球では直線のデザインが主体になっているわけですね。ユンボロイドの中でも、大海賊ラケージが駆る「ラケージユンボロ」はまるでエビのような特殊なデザインですよね。

虚淵:ユンボロなんだけどヴィラン(悪役)みたいな。矛盾した要求(オーダー)をデザインで実現してくれて、ありがたかったです。

石渡:このデザインを現場が許してくれたのもありがたかったですけど。外観が完全にエビですからね。

虚淵:(ラケージは)ある種のお笑いキャラだから、ここはラインが外れたデザインでも良いだろうと許容してもらえるのがありがたかったですね。

――エビ×ユンボロイドのデザインは、石渡さんの発案ですか?

石渡:当初「デザインをエビにしよう」とは誰からも言われてなかったと思います(笑)。

虚淵:「異形で」という発注はあったと思いますよ。でも、「異形」とオーダーがあって「甲殻類」のデザインが上がってくるのは、さすがの安心感と言いますか(笑)。やっぱり、甲殻類や水ものは、悪っぽくみえるんですよね。

石渡:ありがとうございます。ラケージは甲殻類らしくギザギザしているんですが、あれは船を切るための武装になっているんです。

虚淵:エビユンボロのラフデザインはかなり異形感を強調していたんですけど、結果的にリアル寄りになっていったのかな? シャークマウスのペイントがなされて、よりはしゃいだ感じになりましたよね。ラケージ側の海賊ユンボロは、みんな海洋生物系のデザインにしています。

石渡:監督(村田和也)から「コイツ(エビユンボロ)は、サーフィンして登場します」と言われましたからね。

――ユンボロイドのメカデザインは、ラケージのエビユンボロが作られるくらいの自由度があったんですね。

虚淵:当初、ユンボロにはそれぞれ共通規格のコアブロックがあって、そこに手や足を付け替えることでバリエーションを出そう、という話があったんです。「コアブロックにジョイントがあって、いろいろ付け替えていく感じにしたいよね」って。

石渡:そうでしたね。コアブロックがあることで、より重機感が出てくると思っていました。

虚淵:ユンボロの共通規格と、エビユンボロの「異形感」をどうやって両立させるかという話もありましたよ。結果的に、奇跡のバランスになりましたよね。

石渡:そして、僕らの期待を裏切らない(本編の3DCGモデルの)モーションが本当に素晴らしかった。

虚淵:うん、そうそう。

石渡:カッコいいと思いましたからね、あのときの動きは(笑)。

翠星のガルガンティア

翠星のガルガンティア

翠星のガルガンティア

翠星のガルガンティア
『翠星のガルガンティア』

『ガルガンティア』で、ロボットが壊れるカタルシスを描けた(虚淵)

――『翠星のガルガンティア』の放送から8年が過ぎましたが、このたび2月にBlu-ray BOXが発売されます。いま、見返すとしたら、どんなところに注目しますか?

虚淵:やっぱり初稿からどんな風にホン(脚本)が変わっていったのかを思い返すのは楽しいですよね。自分だけにしか楽しめない観方ですが。

――初稿の脚本から、最終稿は結構変わっているのでしょうか?

虚淵:けっこう変わってますし、『ガルガンティア』に関しては収録現場でセリフを変えたこともけっこうあったんです。だから、ある種のライブ感があったんですよね。その場でアイデアを出し合うのが、すごく面白かった思い出があります。

――石渡さんが『翠星のガルガンティア』を見返すならば、どこをご覧になりたいですか?

石渡:アニメーション本編の3DCGモデルのモーションは、ほとんどチェックしていないんです。現場に何回かお邪魔して「こんな感じです」と見せていただいたことはありましたけど。全部が3DCGではなくて、一部では手描きされているメカの動きがあって、そこがすごくエモいんですよね。改めて見直すならば、そういった細かい動きを見返したいです。

――まさに虚淵さんのストーリーと石渡さんのメカデザインを、アニメのスタッフが膨らませていったわけですね。『翠星のガルガンティア』には、虚淵さんがかつておっしゃっていたロボットアニメならではの魅力がたくさん詰まっていましたね。(参照:“物語請負人”が仕掛ける、新たなロボットアニメの真髄――『OBSOLETE』虚淵玄インタビュー)。

虚淵:そうですね。やはり『ガルガンティア』でロボットが壊れるカタルシスを描けたのは良かったです。

――この「ロボットを使い捨てる潔さ」は、虚淵ロボットアニメ作品の美学のような気がします。

虚淵:その美学の原点は、やっぱり『機動戦士ガンダム』の最終回にあると思うんですよね。

石渡:ははは(笑)。

虚淵:頭と腕が壊れてこそのガンダムなんです。

石渡:たしかに。ラストでガンダムがロボットでありながらも、乗り物であることが描かれているところが良いんですよね。パイロットであるアムロが乗り捨てていく感じ。

OBSOLETE

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『OBSOLETE』 Ⓒ PROJECT OBSOLETE

「最小の搭乗型ロボを作る」ことが、子どもの頃からの目標だった(石渡)

――そんな虚淵さんと石渡さんのロボット愛が反映された新作『OBSOLETE』は、最新エピソードが配信されました。異星人がもたらした技術で生まれたエグゾフレームのメカデザインが生まれたきっかけをお聞かせください。

虚淵:最初(メカデザイナーを決めるための)コンペ的なことをやったんですよね。

石渡:そうですね。

虚淵:そのコンペの時に「小さいサイズのロボットに人間をどう絡めるか」といったアイデアを、彼が何案か出してくれたんです。その振り幅の大きさが良くてね。そもそもコンペの段階で、二案、三案出すというのは確率論として強いよね(笑)。

石渡:そういうことは、けっこうやります。

虚淵:コンペの段階から何案も出してくれると、将来的な安心感にもなりますからね。

――じゃあ、ポイントは「ロボットのサイズ」と「人間の絡み方」だったんですか?

虚淵:「出来るだけ小さくしたい」というのがあったんですよね。まさか3メートルを切るとは思わなかったけど(笑)。

――エグゾフレームは全高2.5メートルとなっています。かなり小型のロボットになりましたね。

石渡:「最小の搭乗型ロボを作る」ことが、子どもの頃からの目標でした。パワーローダーやアニメ『DEAD HEAT』のFXを観てきたので、「もっと小さいロボットを作りたい」と思っていたんです。それで、子どものころから、いろいろと人の乗り方を考えていて。パイロットが上半身を自由に動かせて、人型で最小というデザインを今回、提案したんです。ほかにも、ニトロプラスに入って、人型のロボットをデザインするときに、その都度提案していたアイデアも出しています。

虚淵:良いアイデアがいろいろあってね、土壇場まで、ふたつのパターンのどちらを採用するかで悩んだんだよね。

石渡:ああ、そうでしたね。

虚淵:今のエグゾフレームは、素体にパイロットがまたがるかたちになっていますけど、股間の部分に足を入れる(人がフレームを穿く)というアイデアもあったんです。

石渡:そうでした。

虚淵:股間に足を入れるデザインも、シルエットがガニ股になってカッコ良かったんだけど。

石渡:人のポージングをしたときに、シルエットに違和感が出ちゃうという意見があって、いまのかたちに落ち着きました。

虚淵:ブランコにぶら下がっている感じがあったんですよね、股間に足を入れる案は。それよりは、やっぱり騎乗という感じのポージングが良いだろう、と。あと、フレーム(素体)にガワをかぶせた案もいろいろいただいて、騎乗スタイルのほうが発展性があるということがわかったんですよね。インダストリアル感も出せるし、気持ち悪い生体感も出せる。

――石渡さんは以前、宮武一貴さん(スタジオぬえ所属のメカデザイナー、代表作『勇者ライディーン』『超時空要塞マクロス』など)との対談で「ビス一本まで細かくデザインをしなきゃいけないメカデザインがある……」と相談されていましたよね。

石渡:はい、しました。

――それって『OBSOLETE』のことだったんですか。

石渡:そう、『OBSOLETE』です。宮武さんと対談をさせてもらったときに、ちょっとだけ相談しました。「ビス一本までデザインをしたら、みんなに迷惑がかかるんじゃないかと思うんです、どこまでやるべきなんでしょうか?」と。そうしたら「クリエイターなら、やるべきなんだろうな」とおっしゃってくださったので、「わかりました」と(笑)。

第4回は1月23日配信予定です。

取材・文=志田英邦

OBSOLETE

2014年、突如、月周回軌道上に現れた異星人・ペドラーは、人類に対して「交易」を呼びかけた。それは石灰岩1000キログラムと引き換えに意識制御型汎用作業ロボット「エグゾフレーム」を提供するという者だった。銃よりも安価で、誰でも操作できる「エグゾフレーム」はまたたくまに拡散していく。

【配信情報】
『OBSOLETE』 YouTube Originalsとして、バンダイナムコアーツチャンネルで配信中。
YouTube Premiumメンバーは全エピソードを広告なしで視聴出来ます。
YouTube Premiumメンバー以外の方も、各エピソードの無料配信日以降に、広告つきで視聴いただけます。

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