念願叶った『OBSOLETE』が、もたらしてくれたものとは――虚淵玄×石渡マコトインタビュー④

アニメ

公開日:2021/1/23

翠星のガルガンティア
『翠星のガルガンティア』 Ⓒ オケアノス/「翠星のガルガンティア」製作委員会

『魔法少女まどか☆マギカ』『PSYCHO-PASS サイコパス』『Fate/Zero』といった傑作を生みだした脚本家・小説家・虚淵玄(ニトロプラス)。彼の作品に登場するメカやロボットのデザインを手掛けているデザイナーが石渡マコト(ニトロプラス)だ。虚淵と同じPCゲームメーカー・ニトロプラスに所属し、銃や刀からバイク、戦闘機、そして巨大ロボットまで、虚淵作品の最もエッジな部分を、3DCGを駆使した美しく機能的なデザインで表現してきた。

 虚淵と石渡のふたりが2013年に手掛けた作品がTVアニメ『翠星のガルガンティア』。虚淵が原案とシリーズ構成・脚本を務めた作品は、はるか彼方の宇宙で戦争に参加していた主人公が、水没した未来の地球にロボットとともに訪れる、というストーリー。主人公の少年とロボットのバディが、未知の地球で少しずつ現地の人々と交流を図っていくドラマが描かれていく。石渡は主人公・レドの相棒であるロボット・チェインバーや、地球のロボット、そして宿敵となるロボットをデザインした。『翠星のガルガンティア』はTVシリーズの放送終了後も、後日譚にあたるOVAが制作されるなど、多くのファンから愛されている作品となった。

 そして、虚淵と石渡が手掛けている最新作がYouTube Premiumとしてバンダイナムコアーツチャンネルで配信中の『OBSOLETE』だ。ある日、地球人と交易を求める異星人が出現。石灰岩1,000キログラムと引き換えに、地球人の技術では解析できない意識制御型汎用作業ロボットを提供しはじめた。この汎用作業ロボットは「エグゾフレーム」と名付けられ、たちまち世界中に拡散し、人々の生活を、戦争を、未来を変えていくという作品。虚淵はこのプロジェクトの原案・シリーズ構成・脚本を担当。多種多様に改造され、発展していく「エグゾフレーム」のデザインを石渡が担当している。

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『翠星のガルガンティア』は、2021年3月26日にコンプリートブルーレイボックスが発売予定、『OBSOLETE』は2020年12月1日に配信が開始された最新エピソードを含むEP1~EP12まで、YouTube Originalsとしてバンダイナムコアーツチャンネルで無料配信中だ。今回は、この2作品を軸に、ロボットアニメについて語り合ってもらった。

 対談連載の最終回となる第4回は、石渡マコトが子どものころから夢見ていた「最小の有人操縦ロボット」をとうとう実現した『OBSOLETE』について語り合ってもらった。異星人が人類にもたらした「エグゾフレーム」は安価で入手できるがゆえに、発展途上国や経済的に豊かでない国に大量に普及していく。そして、国々のパワーバランスに変化を与え、新たな力を持つ組織が台頭する……。『OBSOLETE』に登場する「エグゾフレーム」に込めた想いとは――?

メインフレーム(素体)は共通だけど、人間がそれをいじって各々の陣営のメカにしていく、それが「エグゾフレーム」の最初のコンセプト(虚淵)

――虚淵玄さんと石渡マコトさんが携わられた最新作『OBSOLETE』は、異星人が人類に安価で提供したロボット「エグゾフレーム」が及ぼす、さまざまな影響を描く作品です。前回の対談で「エグゾフレーム」を「ビス1本までデザイン」するというお話をされていました。虚淵さんはそこまで緻密にデザインすることを、どのように受け入れていましたか。

虚淵:たしか「ビス1本」どころか「エグゾフレーム」の足裏にかかる荷重までを考えていたよね?

石渡:そうでしたね。当初「M1エイブラムス戦車と渡り合えるサイズ感で最小、しかも人を乗せて戦うロボット」というサイズ感を追求していたんです。M1エイブラムスの大きさを考えると、おのずと「エグゾフレーム」のサイズ感が見えてきて、二足歩行のときの股下の長さが決まってくる。じゃあ、その足の長さを持つロボットが、どれくらいの武装を積載できるのだろうと考えていきました。

虚淵:普通やらないよ、そこまで(笑)。

石渡:ははは。足が地面に触れるときの接地圧や設置面積を考えると、全体の重量が見えてくる。その重量で人型に見えるサイズは……と逆算するようにデザインを詰めていったんです。

虚淵:自分としては、当初『装甲騎兵ボトムズ』のオマージュのつもりもあったので「(『ボトムズ』に登場するメカ・アーマードトルーパーの全高)4メートル以下なら」という気でいたんですよ。でも、小さいに越したことはない。小さければ小さいほど、作品のコンセプトにマッチするので。だから、このサイズによくまとめてくれたな、と。

――『OBSOLETE』のコンセプトは「高性能なロボット(エグゾフレーム)が安価で世界市場に出回る」というものでしたね。各国の人々は、そのメカにさまざま兵器や武装を付けて、戦場に投入していく。「エグゾフレーム」の最大の特徴は、コンパクトにもかかわらず、拡張性が大きいメカであるということで。

虚淵:そうですね。メインフレーム(素体)は共通だけど、人間がそれをいじって各々の陣営のメカにしていく、それが「エグゾフレーム」の最初のコンセプトでした。

石渡:簡単に手に入るトラックのパーツとか、装甲車のドアだとかを「エグゾフレーム」のガワ(装甲)に使う……という話もしていましたね。

――虚淵さんは原案や脚本の段階で、「エグゾフレーム」の改造のバリエーションを具体的に考えていたんですか?

虚淵:文面で描き起こしてはいましたけども、具体的に見えたのは、メカデザインがかたちになってからでした。ハイテクを駆使した「エグゾフレーム」と、間に合わせで作った「エグゾフレーム」では見た目の落差を付けてほしい、とは言っていましたね。

石渡:日本のトラックのパーツを付けたような「エグゾフレーム」と、ハイテク戦車のような武装がついたアメリカ海兵隊の「エグゾフレーム」という、まったく違う方向性のデザインを、早い段階で作りました。

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『OBSOLETE』に大きな反響をいただけたことが、本当に嬉しい(虚淵)

――いまYouTube Originalsで配信されている全12話のエピソードでは、ガムテープでいろいろな機器を張り付けた「エグゾフレーム」から、最新鋭技術を搭載した「エグゾフレーム」まで、さまざまなタイプが登場します。このバリエーションのほとんどを石渡さんがデザインされているのですか。

石渡:アニメーション制作を担当してくださっている武右ェ門さんにデザインしてもらったものもありますね。アメリカ海兵隊「ガビアル計画」の試作エグゾフレームなどは、自分はタッチしていないですね。基本的にインド側、パキスタン側というように二陣営に分かれているので、基本的なデザインのラインさえ決まれば、3DCGで作っているのでバリエーションを増やすのはそれほど大変ではなかったですね。

――3DCGモデルを組むことで、リアリティをはっきりと打ち出せているんですね。

石渡:3DCGモデルを使うと、いろいろな検証も便利なんです。たとえば、第1話でアメリカ軍機の中に「エグゾ(エグゾフレーム)」を格納しているのですが、実際に輸送機に詰める数も、3DCGで確認しました。

虚淵:幅20フィートのコンテナに「エグゾフレーム」が何機入るか。どうやって積めばいいのかを検討していたよね。

石渡:そうですね。実在する飛行機を使うときは、3DCGで検証しましたね。

――武右ェ門さんがアニメーション本編で使用する3DCGモデルは、石渡さんが監修しているのですか。

石渡:そうですね。こちらで作ったラフの3DCGモデルをお渡しして、武右ェ門さんがアニメーション本編用の3DCGモデルを作りなおしてくれています。その中で、監督(山田裕城・白土晴一)から「マガジン(弾倉)を追加したい」というリクエストがあれば、「じゃあ、ここに」と具体的な場所を提案していますし、こちらから提案しなくても塗装の剥げや汚しをしっかりと(3DCGモデルに)入れてくださるので、こちらの意図がしっかりと通じている感じがありますね。

――第3話の雪山に出てきたインド軍の山岳特殊旅団・ラダックスカウトが使っている「エグゾフレーム」は、いかにも手作りな感じがありましたね。

石渡:ダクトテープやタイラップでタブレットPCが貼り付けてあったりしますね。あれは、僕の趣味です。そういう、テープとかにまみれたメカが好きなので。デザイン画を描いて、武右ェ門さんに3DCGモデルで作っていただきました。

虚淵:武右ェ門さんが想像以上に頑張ってくださって、本当に感無量でした。あの「エグゾフレーム」がちゃんと動いている!

石渡:もちろん期待をしていたのですが、できあがった映像は想像以上でしたよね。

虚淵:しぶーい映像にしてくれました。

石渡:第2話の「浮き橋が展開していくCG」なんて、初めて見ました。

虚淵:戦車の貴重な渡河シーン。

石渡:しかも、淡々と描いていく。これはすごいなと。しかも、それを「良い」と言ってくださる視聴者がいてくれるのも嬉しかった。いまや第1話は、約1,000万回以上再生されてます。

虚淵:ありがたい限りです。海外での受け方が想像以上でした。YouTubeのコメント欄に見たこともないフォントがずらりと並んでいて。

石渡:コメントが多種多様で。いちいち翻訳して見てました。

――「エグゾフレーム」の拡張性は、まだまだ広がっていきそうですね。

石渡:それはもう、いくらでもあると思います(笑)。

虚淵:今後の展開はまだわからないですけど、ネタだけは振ってあるんですよね。

石渡:もう、人型じゃなくても良いのかなとも思っています。

虚淵:うん。クルマにしたり、逆関節にしたり……。

石渡:変わった装甲の付け方をしちゃう国が出てきてもおかしくない。

虚淵:『OBSOLETE』も「エグゾフレーム」も、まだまだ発展性があると思います。

――『OBSOLETE』はここまで12エピソードを発表されていますが、ここまで作ってきて、手ごたえはいかがですか。

虚淵:大きな反響をいただけたことが、本当に嬉しいですね。YouTubeで配信するという発表形態の冒険もありましたし、かなり意欲的な作品だな、と思っています。でも、まだまだチャレンジしていかなきゃいけないな、と。

石渡:僕は「本当に好きなことをやれた作品」だったと思っています。だから、大変さは全然感じませんでした。子どもの頃から考えていたことが、実現できてよかったです。

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虚淵さんに、ガチのマカロニ・ウェスタンを作ってほしい(石渡)

――おふたりが今後一緒に作ってみたいと思う作品はありますか?

虚淵:すでに、常に、やってもらってますからね(笑)。今まで通り、これからもメカデザインを頼んでいきたいと思っています。

石渡:ありがとうございます。オレは虚淵さんにガチのマカロニ・ウェスタンを作ってほしい。

虚淵:ガチの?

石渡:レオーネ(セルジオ・レオーネ/『荒野の用心棒』を始めとするマカロニ・ウェスタン映画の巨匠)テイスト強めの。

虚淵:レオーネテイストかあ。今のお客さんは辛抱できないんじゃないかなあ。

石渡:現実的には難しそうですけど(笑)。

――ニトロプラスさんでは過去にPCゲーム『続・殺戮のジャンゴ -地獄の賞金首-(邦題)』をお作りになっていますが……。

石渡:『ジャンゴ』はあまり関われなかったんですよね。だからこそ、虚淵さんにはガチガチのマカロニ・ウェスタンを作ってほしいんです。このままだと、レオーネのテイストが失われていきそうなので……。

虚淵:そうだねえ。まあ、自分の作品は、何を書いてもマカロニ・ウェスタンになっているんじゃないかと思うんだけど(笑)。じゃあ、異世界転生ものにしたらいいんじゃないかな。転生した先でいきなりボコボコにされて復讐を誓う、とか……いや、それじゃ転生しても全然嬉しくないよね。異世界転生ものは、転生した先で楽しく生活するから、作品として人気があるわけで。

石渡:復讐と金が飛び交う異世界(笑)。エンニオ・モリコーネの曲を流したいですね。過去作のリメイクでも良いんですけど(笑)。

虚淵:じゃあ、機会があれば。マカロニ・ウェスタンをやるなら、銃と棺桶をデザインしてもらおうかな(笑)。

取材・文=志田英邦

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2014年、突如、月周回軌道上に現れた異星人・ペドラーは、人類に対して「交易」を呼びかけた。それは石灰岩1000キログラムと引き換えに意識制御型汎用作業ロボット「エグゾフレーム」を提供するという者だった。銃よりも安価で、誰でも操作できる「エグゾフレーム」はまたたくまに拡散していく。

【配信情報】
『OBSOLETE』 YouTube Originalsとして、バンダイナムコアーツチャンネルでEP1~EP12まで無料配信中。
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YouTube Premiumメンバー以外の方も、各エピソードの無料配信日以降に、広告つきで視聴いただけます。

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