ムロツヨシ「山田孝之みたいに生きたい、星野源みたいに歌いたい、と思ったって僕には無理」アニメを観た「子どもたちに『ムロさんが出てる!』と言われたい」

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更新日:2021/2/10

 LINEスタンプなどでも人気のクリエイターにしむらゆうじさんの『宇宙なんちゃらこてつくん』が、NHK Eテレでアニメ化決定! アニマル国宇宙アカデミーのパイロット科に通いながら宇宙をめざす“こてつくん”を主人公に、楽しくゆるく宇宙について学んでいく同作。ナレーションと、DAXAという宇宙のいろんな知識を教えてくれるマスコットキャラの声優をつとめるムロツヨシさんにお話をうかがいました。

求められているのは“なんちゃって”ナレーション!?

――最初にオファーをいただいたときの印象はいかがでしたか?

ムロツヨシ(以下、ムロ) いやあ、嬉しかったですね。Eテレさんって、お子さんたちをターゲットにしっかり番組づくりされてるじゃないですか。子ども向けの番組に参加してみたいという想いはもともとありましたし、宇宙のことを学べる内容といっても、かたくるしくないのがいいな、って。これがね、もっとお勉強って感じの番組だったら、僕じゃなくてもいいんじゃないかって思ったかもしれないけど。

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――にしむらさんのイラストも、どこかゆるい感じですもんね。

ムロ そうそう。肩の力を抜いて、押しつけがましくなく、楽しみながら、気づいたら宇宙のことを前よりちょっと知れているっていうスタンスがいいなと思ったので、お引き受けすることにしました。

――ムロさんは、子ども時代に宇宙飛行士を夢見たりしました?

ムロ いや、全然(笑)。僕が子どものころはまだ、宇宙をめざすなんて夢物語に近かったんじゃないのかなあ。もちろん月面着陸はしたあとだけど、宇宙飛行士なんて、選択肢になかなか入ってこなかったと思う。小学校のころの夢は、プロ野球選手でしたから。でも興味がないわけじゃないので、僕も番組を通じていろんなことを知っていきたいですね。演じるDAXAくんは、宇宙の豆知識を言う役でもあるし。

――アニマル国の宇宙開発機構DAXAのマスコットキャラ、なんですよね?

ムロ そうそう。着ぐるみかぶって、子どもたちに宇宙の説明をする役回り。だからキャラクターっていうのともまたちょっと違うのかもしれないけど、だからこそ僕が演じても成立するのかなあ、なんて思います。これまでもね、劇場アニメの『二ノ国』などに参加させていただいて、声優経験がないわけではないけれど、役者として演じるのとは違う難しさを毎回、痛感していて。引き出しとして持っておかなくてはならない感情の種類とか、台本のとらえかたとか。声の芝居のスイッチを、いまだに掴みきれていないので、今回も試行錯誤しながら頑張りたいなと思っています。

――同時にナレーションも担当するんですよね。その演じわけも、難しいのでは。

ムロ そうなんですよー。ナレーションに関しては、NHKさんでもけっこうお仕事させていただいているので、いちおうの自信と経験値をもって臨んだんですが、それがまったく役に立たなかったっていう(笑)。

――そうなんですか?

ムロ なんかね、僕が思っている以上に肩の力を抜いてほしいらしいんです。語弊があるけど、あんまり上手にやらないで、みたいなことを言われました。つまり、求められているのは“なんちゃってナレーション”なんですよ。

――それは作品のゆるさを演出するために?

ムロ なんでしょうかねえ。でも、肩の力を抜きすぎるとダラダラしちゃって情報が観ている人に伝わらないし、抜いている“ふう”を装うとそれはそれで、やっぱりバレちゃう。「俺、肩の力抜いてるぜ?」みたいなのが出ちゃうとしらけるじゃないですか。その塩梅をとらえるのが、実は難しいんですよね。そこが、やりがいでもあるんですが。

――アフレコ収録をリモートで拝見したんですが、同じセリフをいろんなパターンで録ってましたね。臨機応変に変えていかれるので、さすがだと思いました。

ムロ ありがとうございます。わざと遊びを入れてなんちゃって感を出してみたり、おふざけを強めにしてみたり、まあ、いろいろやってみたんですけど、これから何話か重ねていくなかでちょうどいいところを見つけられればなあと思っています。

子どもたちに「ムロさんが出てる!」と言われたい

――アニメを通じて、ムロさん自身がナルホドと思った知識とか、ありますか?

ムロ あります、あります。ちょうど今日の収録でナレーションしたんですけどね。月面着陸したときに、わざとモノを置いていくって知ってました? 僕、知らなかったんですよ!

――月に、ですか?

ムロ そう。地球に帰るためには宇宙船を軽くしとかなきゃいけないから、月面に置いていくんですって。え、それ、月側の許可とってんの? 月、怒らないの? って思いましたよね。だってそれ、見方を変えれば不法投棄じゃないですか。

――たしかに(笑)。

ムロ まあ、誰も住んでいないから怒られることはないし、それでよしとされているんだったらいいんだろうけど、ちょっとびっくりしちゃった。さっきも言ったけど、そういう「へ~! そうなんだ!」っていう面白さがあるのが、このアニメのいいところだなと思います。もちろん、宇宙の仕事に携わるためにはこんなにもたくさんの知識が必要なんだとか、月や他の惑星がこんなふうに見えているのは理由があって……とか、まじめなこともたくさん語られるんだけど、それを勉強とも思わず、いつのまにかなんとなく覚えている、それで興味がわいてもっと知りたくなっていく、っていう。

――教育番組としては理想的な形ですよね。もともと子ども向け番組に参加してみたかったとおっしゃってましたが、それはどうしてなんですか?

ムロ それはもう、友人の子どもたちに好かれたいからですね!

――即答ですね(笑)。

ムロ 僕は結婚もしていないのですが、友人の子どもと接する機会がどんどん増えていて。「あ、ムロさんが出てる!」って言われたいという欲求がわいてきたんですよねえ。そして、子どもたちが夢中になっている番組に僕が出ていて、子どもたちの羨望のまなざしが僕に向けられたとき……それがどれほど親たちを嫉妬させることか。

――嫉妬させたいんですか(笑)。

ムロ 親たちが嫉妬しているなかで飲む焼酎はおいしいですねえ。

――(笑)。

ムロ でもそれが、こういうお仕事をしているやりがいのひとつだとも思うんです。僕はけっこう、小学生に指をさされて「ムロツヨシだ!」とか言われるタイプで、それじたいは全然いやじゃない……というか、やっと知ってもらえたんだと嬉しくなりますが、いまだに「誰だっけ?」「見たことある!」「あっ、テレビ出てるでしょ?」みたいな反応が多いんです。カタカナ5文字は難しいか~まだ覚えられないか~なんて思うんですけど、やっぱり、子どもたちにとってもすぐ名前が出てくる存在になりたいじゃないですか。

――子どもたちにも知ってほしい、という想いは昔からですか?

ムロ 20~30代のころは、同世代に好かれたかったし、認めてもらいたかったです。今でもその気持ちはなくなったわけではないですが……。僕は、ドリフターズを観て育った世代なので。当時、40歳くらいだった彼らのネタを観て、手を叩いて笑っていたことを思うと、いま45歳になった自分が、同じように子どもを笑わせられたらどんなにかいいだろう、って思うんですよね。実際は、20代の若者たちの感覚さえ遠く離れていて、ナチュラルには理解できなくなっているんだけれど、僕の発想した何かで、子どもたちが手を叩いて、床を叩いて、笑ってくれたら……。難しいことなのはわかっているけど、その欲求を今は大事にしたいなと思っているんです。次に開催予定の舞台のテーマも、実はそこなんですよね。

――若い感性にも伝わるものをつくるために、心がけていることはありますか?

ムロ 40歳くらいのとき、とある戯曲家から「僕たちはもう、若い世代に教える立場ではなく、教えてもらう立場です。とくに今の時代は、何かを教えようじゃなく教わるつもりで接したほうが、得るものは大きいですよ」って言われたことがあって。俺と同世代なのにすげえいいこと言うな、って思ったんですけど、そこからちょっとスタンスが変わりましたね。どうしたって歳を重ねていくうちに、忘れてしまう感覚がある。でもそれって、裏をかえせば、若いときにはわからなかった感覚を得られたということでもあって。そこにプラスして、今の若者から新しいものを吸収できれば、武器が増えていく。そうすれば同世代も、下の世代も、両方に伝わる何かが生み出せるかもしれないとは思いますね。いやあ、あの戯曲家は本当にいいことを教えてくれた。

――たしかに素敵なお言葉ですが、同世代の異なる価値観を、反発せずに受け入れて、実践しようとするムロさんもすごいと思います。

ムロ いや~それは30代の経験があるからだと思いますよ。それまではやっぱり、下の世代には自分が学んだものを教えるのがいいことだと思っていた。でもねえ、まず僕はその教え方が下手なんですよ(笑)。それに、僕らが学んだことを知ったとて、下の世代が生きている時代に通用するとも限らない、というのを思い知っていたので、その戯曲家の言葉がすごく響いたんですよね。で、ためしに実践してみたら、景色が一気に変わった。今の若い子たちって、「教えて~」っていうとすごく親切に教えてくれるし、「ああこの人はご機嫌うかがいじゃなくてほんとに知りたくて聞いてるんだな」ってわかると、逆にこちらにも聞いてくるようになる。

――対等な関係が築けるんですね。

ムロ そういうこと。「俺は何でも知ってるぜ」って態度で尊敬される時代もあったとは思うけど、今はそうじゃないですからね。

どんな状況でも、なんか楽しそうなおじさん、でいたい

――『宇宙なんちゃらこてつくん』は宇宙に行くという夢をめざすアニメですが、コロナ禍でいろんなことが制限されて、日々の楽しみを見つけるのも難しい……というなか、前向きに夢を抱くにはどうしたらいいと思いますか?

ムロ 今後、世界がどうなっていくか本当に見えないですからね……。何を伝えるのが正解なのかは正直、わからない。ただ、だからこそ僕は、よりいっそう今を楽しもうと思うようになりました。というのもね、楽しそうにしている大人を見ていたら、子どもたちもなんとなく、「大人になるって楽しいことなのかも」って思えるでしょ? 去年は、修学旅行とかいろんな行事が中止になって、悔しい思いをしてる子たちがたくさんいる。今しかできないはずだったことを、あきらめざるを得ない状況で、夢を見るなんて本当に難しいと思うんですよ。でも、それでも、苦しさを乗り越えるためのヒントのひとつになるような、“こんな状況でも楽しそうなおじさん”でありたいなあって。答えになってないかもしれないですけど。

――楽しそうな姿、というのは、笑っている、ということでしょうか。

ムロ どうなんだろうなあ。別に、いつも笑ってなくてもいいと思うんですけど……。小学生のころ、クラスに1人か2人はいたでしょう。「なんかあいつ、いっつも楽しそうだな」ってやつ。毎日ひとりでマンガ読んでるだけだったり、虫の観察してるだけだったり、ひとりで無言だったとしても、なんか表情とかたたずまいとかで「楽しそう」なのが伝わってくる。そういう状態でありたいなあって思いますね。僕だったら、今のところお芝居。ただ、いくら好きなお芝居をしているからって、いつもご機嫌なわけじゃないんですよ。たとえば舞台に立つ前には、稽古という大嫌いな時間が必ずありますし。

――嫌いなんですね(笑)。

ムロ 嫌い(笑)。でも、その時間がないと楽しい時間もやってこない。だから必死でやる。そういう姿を見せられたらいいなと思いますし、ここぞというときには全力で「あいつ楽しそうだなあ!」って思われる状態を披露したい。だからまあ……結局は、お芝居をし続けるしかないんですよね。こんな時代にそんな甘いことを、みたいにシニカルなことを言う人がいたら、その隣で「夢叶いました!」って絶好調に笑って生きてやる(笑)。

――そうやって、自分に胸をはるために意識していることはありますか?

ムロ あんまり人と比べないことですかね。羨ましがりはするんです。いつも言ってますもん。あいつすげえなあ、もってんなあ、って。でも無理なんですよ。高橋一生みたいな芝居やってみたいからって真似してできるものではないし、山田孝之みたいに太く生きたい、星野源みたいに歌いたい、と思ったって僕には無理。だったら、自分にできることを探していくしかないじゃないですか。相手の土俵に立ったって、劣等感が増すだけなんだから。それでも、誰になんと言われてもやりたいと思えることがあれば、そこに全力を尽くすしかない。

――わかっていても、比べて落ち込んじゃうんですよね……。

ムロ その気持ちもわかる! 僕もずっと、なんで同い年なのに坂口憲二やオダギリジョーみたいになれないんだろうって思ってた(笑)。2人にないものを探せばよかったのに、2人がもっているものを自分のなかにも見出そうとしていたから、どうにもならなくて。まず背の高さと顔の大きさが違うのにね。変わったのは、26歳のとき。

――何があったんですか?

ムロ 根拠なき自信を使い果たしたの(笑)。3年くらい下積み経験があれば、絶対に仕事も舞い込むと思っていたのに、7年経ってもどうにもならなくて、ある日ふと「あ、自信なくなった」って瞬間がきた。そこからはちゃんと、仕事をもらうためにはどうしたらいいか、逆算して行動するようになって。経験の積み重ねでなんとか、ここまでこられた。だからねー、なんていうか、失敗も含めて「知る」ってことはすごく大事だと思います。知識はもちろん、自分のことも、いまだにわからないことだらけだから。

――自分を見つめなおす、ってことですね。

ムロ ただまあ、今はみんな、自分と向き合う時間が多すぎて、わけわからなくなっちゃってるでしょう。そうすると楽しむこともできなくなるから、ほどほどにね。ああでも、そんなときだから、『宇宙なんちゃらこてつくん』みたいな作品が必要なのかもしれないですね。お子さんだけじゃなくて、大人たちも一緒に、ゆる~い時間を共有してくれたらいいなと思います。

取材・文=立花もも 撮影=GENKI