ヒトよりも、ヒトらしい存在として。チェインバーを演じて感じたこと――杉田智和『翠星のガルガンティア』インタビュー

アニメ

公開日:2021/2/27

杉田智和

「パイロット支援啓発インターフェイスシステム。 貴官がより多くの成果を獲得することで、存在意義を達成する」――機械の塊に感情が宿る。水没した地球に降りた、人型のロボット兵器チェインバーと少年兵士・レドの成長と冒険を描いた『翠星のガルガンティア』。そのチェインバー役を演じたのが杉田智和だった。

 地球に降り立ったレドを導くパイロット支援啓発インターフェイスシステムとして。
 人間を知り、人間の未来を信じる機械として。
 そして、当時まだ十代だったレド役の石川界人を支える相棒として。
 杉田智和の存在は、作品の表と裏にわたり、とても大きな役割を果たしていた。

『翠星のガルガンティア』のコンプリートブルーレイボックスの発売を機に、杉田にインタビューを実施。虚淵玄作品に様々な形で関わっている彼に『翠星のガルガンティア』の思い出と、虚淵玄の最新作『OBSOLETE』について、話を聞かせてもらった。

翠星のガルガンティア
『翠星のガルガンティア』 Ⓒ オケアノス/「翠星のガルガンティア」製作委員会

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トチろうものなら「機械の役なんだからな」とプレッシャーをかけられているような感じがあった

――杉田さんは、虚淵玄さん(シリーズ構成・脚本)の作品にアニメのみならず、特撮などでも関わっていらっしゃいます。『翠星のガルガンティア』にはどんな思い出がありますか?

杉田:『翠星のガルガンティア』は、虚淵さんだけではなく、監督(村田和也)の思想も入っている作品なんですよね。多くのスタッフさんが関わっていて、それを虚淵さんがシリーズ構成、脚本としてまとめているのかなと。みんなであの船(ガルガンティア船団)の雰囲気を作っていて、その世界に入り込んで、いろいろなことを学んでいくのがチェインバー。ヒトじゃないもののほうが、人を深く知っていく。キカイが人の言葉を使って、人間たちと苦難を乗り越えていく。そうして最終話のチェインバーのセリフにたどり着くわけです。

――チェインバー役はオーディションで決まったんですよね?

杉田:オーディションです。音響会社さんから「新作のアニメーションがあるのでオーディションを受けていただけないでしょうか」と連絡をいただきました。最初に「レド役で(受けてほしい)」と来て、「正気ですか?」と一瞬思いました。でも、こういうのはバランスですからね。まわりのキャストとの兼ね合いで決まるものですから。しかも、レド少尉は16歳の少年といっても兵士ですからいわゆる平和な日常生活を送っている16歳とは違うわけで、その経験値も加味しての僕へのオファーなのかなと考えました。でも、実際にオーディションの現場へ行ったら、テスト収録の段階で、違う役を振られたんです。そうやって、いくつか役を試したあとに、最後に渡された役がチェインバーでした。きっと、キャスティングの方向性に迷われていたのかなと思います。

――『翠星のガルガンティア』はオリジナルアニメ作品ですから、きっとキャスティングも試行錯誤があったんでしょうね。

杉田:そこに彗星のごとく現れた石川界人くんが、レド少尉役に決まったんですよ。その後、僕はチェインバー役になりました。

――レドとチェインバーは人類銀河同盟で戦っている軍人と兵器(マシンキャリバー)のコンビです。それが水没した地球に墜落し、現地の人間たちと知り合うことになる。チェインバーという役柄をどのように受け止めていましたか?

杉田:異星人が主人公というのは……昔、『蒼き流星SPTレイズナー』という作品がありましたよね。あれも、地球人じゃない異星人(『レイズナー』ではグラドス星人)の方が地球を大事にしている話でした。当人じゃない者たちのほうが価値を理解しているという状況は、個人的に好きなシチュエーションなんですよ。レド少尉が人類のことを大事に思ってくれて良かったなと。チェインバーに搭載されているヒューマノイド型インターフェイスには自分の意思はないけれど、兵士だったレド少尉が地球人に会って変わっていくことで、チェインバーも学ぶことができた。キカイがヒトに進化できたんですよね。最終的にはヒトよりもヒトになれたので、チェインバーは不思議な存在だったなと思います。

――チェインバーというロボット、いわゆる会話型支援AI「パイロット支援啓発インターフェイスシステム」を演じるのはどんな面白さ、難しさがありましたか。

杉田:現場では時々煽られましたね(笑)。台詞をトチろうものなら「機械の役なんだからな!」とプレッシャーをかけられているような感じがありました。しかも、もう1台登場するロボットのストライカー(CV:藤村歩)はとても優秀で、絶対にトチらないんです。使えないロボだと思われないようにしないといけないと、気合が入りました。

ガルガンティア

ガルガンティア

ガルガンティア

自分の仕事は終わっていない、きっと『スーパーロボット大戦』があるはずだと、ずっと思い続けていました

――チェインバーのみならず、地球人のキャストも粒ぞろい。アフレコ現場はいかがでしたか。

杉田:個性の強いキャラクターが多いんです。その中で唯一のヒューマノイドインターフェイスとして立ち回るには、現場を見渡さないといけない。とはいえ、プロフェッショナルの方ばかりですから、現場の輪を乱すような人はひとりもいませんでした。静かで淡々とした現場でしたね。その中でただひとり、石川界人くんだけが若かった。

――レド役の石川さんは当時まだ10代。声優としてもキャリア2年目の新人でした。杉田さんは当時のインタビューで「石川くんを見ていると、父親になったような気分になります」とおっしゃっていました。

杉田:チェインバーの立ち位置がそうなんですよね。パイロット支援啓発インターフェイスシステムですから。レド少尉の教育者でもあり、父親であり、兄であり、親戚の叔父であり、先生でもある。ときには導き、ときには感情のケアもする存在なんです。石川くんは優秀だったので、あまり心配するようなことはなかったんですけど、なるべく石川くんから言葉を引き出してあげることを意識して演じていました。彼が話したい、彼が意思を伝えたいという状況になるように、心がけていました。

――その丁寧な気遣いがあったからこそ、杉田さんと石川さんのコンビネーションが生まれたんでしょうね。

杉田:石川くんに限らず、相手のやる気を引き出すことが大事なんですよ。上から脅したり、押さえつけて、これをやりなさいと命令したとしても、やることはやってくれるでしょう。恐怖支配するのは簡単なんです。でも、それは結局その人のためにならないし、それを私がやっちゃいけない。そうではなく、北風と太陽方式でやる気を引き出すんです。なんか学習塾のスローガンのようですけど、自主性を引き出すことが大事なんです。

――押さえつけるのではなく、自主的に。それはまさに『翠星のガルガンティア』の後半の物語を思わせる選択ですね。

杉田:ストライカーは効率を極めようとした結果、機械がすべての人間の感情を制御して、支配すれば良いという発想だったんですよね。でも、それはストライカーの考える平和であって、人間はそんなに単純じゃない。それを知っているから、レド少尉は抗おうとするんです。

――圧倒的な力で人々を従えるストライカーとレドとともに人間性を学んでいくチェインバー、そのふたつの対比が印象的でした。

杉田:藤子・F・不二雄先生のロボット論じゃないけど、チェインバーとストライカーが同じ工廠から生まれたとすれば、姉弟ですからね。

――ストライカー役は藤村歩さんが担当されていました。収録現場で藤村さんとはどんなお話をされたのでしょうか。

杉田:音声を加工すると思ったので、セリフをかぶらないようにするといったテクニカルな話をするくらいでしたね。藤村さんご本人はとても温かい人間性の方なので、冷たい印象は受けませんでした。ストライカーが登場したときは殺伐とした世界になっていましたが、収録の現場はすごく和気あいあいとしていて。「大変ですね、大変ですね」とお互いに気を遣いあいながら収録していました。

――第1話の収録のときは、石川さんは宇宙語を感情豊かに演じていたそうですね。

杉田:虚淵さんは、よく特殊な言語を使うんですよね。どの特殊言語も難しい。『仮面ライダー鎧武』でオーバーロード語(杉田はオーバーロードのひとり・デェムシュの声を担当)のときも大変でした。あのオーバーロード語は50音表があったんですけど、台本では日本語とカタカナでオーバーロード語が書いてあったんです。しかも、デェムシュのスーツアクターさんがサービス精神旺盛なアクションをする方だったので、演出サイドから「全部の動きに声を付けてほしい」と言われて。「ハッ」とか「フッ」とか、こちらでオーバーロード語を50音表に合わせて考えて、収録したんです。そうしたら台本上でデェムシュは「孤高の武人、寡黙で武に長けており……」と説明されていたのに、公式サイト上では「制御の効かない暴れん坊」と書いてあって……(笑)。

――杉田さんとスーツアクターさんの頑張りが、結果的にデェムシュに新たな魅力を付加してしまったのかもしれませんね。『翠星のガルガンティア』でもチェインバーは徐々に変化していきます。杉田さんはその変化をどのように受け止めていましたか。

杉田:チェインバーはずっと記録をしていたんでしょうね。様々な情報を蓄積していく中で、学習していく。その進化の結果が、最終話の結末となってしまった。おかげでチェインバーは『翠星のガルガンティア ~めぐる航路、遥か~』に出ることがなくなってしまったわけですが。

――チェインバーは見守る立場になってしまいましたね。

杉田:ただ、自分の仕事は終わっていない、きっと『スーパーロボット大戦』があるはずだと、ずっと思い続けていました(チェインバーは『第3次スーパーロボット大戦Z 天獄篇』に登場)。

杉田智和

『OBSOLETE』のEP12話は、虚淵玄という作家のあふれんばかりのサービス精神から生まれたものだったんですね?

――今回は杉田さんに、虚淵玄さんの最新作『OBSOLETE』をご覧になっていただきました。

杉田:もうちょっとストレスのない状態で観たかったなと思いますね(笑)。「虚淵作品に縁が深いから『OBSOLETE』を観ろ」という形でオファーをいただいたので。

――すみませんでした。ご覧になった感想はいかがでしたか。

杉田:2020年、そして2021年の令和に作られた作品ですが……『太陽の牙ダグラム』でもなければ『装甲騎兵ボトムズ』でもない。何に近い作品かと問われれば……『ガサラキ』かな……と。コンバットアーマー(『ダグラム』のロボット兵器)でもない、アーマードトルーパー(『ボトムズ』のロボット兵器)でもない、これはTA(タクティカル・アーマー/『ガサラキ』のロボット兵器)だ!と。世界各国を描いていくという視点にも、髙橋良輔さん(『ダグラム』『ボトムズ』『ガサラキ』の監督)っぽさを感じました。世界各地を見るというのも似ていますしね。『ガサラキ』がオンエアされた頃に、当時の自分がナレーションを担当した「ガンプラ」のCMが流れていたんです。大喜びで観ていたんですよね。そのときの記憶が思い出されました。

――今回は現実を舞台にした作品になっています。

杉田:異星人が与えてくれたオーバーテクノロジーを、人類が持て余し気味になってしまう。アメリカのような大国はオーバーテクノロジーの可能性を信じないし、その一方で雪山のような僻地や軍事力のない小国では、その技術を使って軍事的に拡大していく。不思議なバランスになっている作品ですね。この12話で描いてきたものから、どこを伸ばしていくのか。これから長期シリーズにしていくのか、今後が気になりますね。

――確かに。

杉田:あと、気になったのは、第12話ですね。もし「虚淵さんに原案をお願いしたんだから、こういうの……ほら、『魔法少女まどか☆マギカ』みたいなのを書いてもらえ」と誰かがオーダーしたのだったら、その人にデフレクター・ビームを打ち込みたいと思っていました。

――あれは虚淵さんのシリーズ構成上のアイデアだと伺っております。

杉田:良かった。あれは虚淵玄という作家のあふれんばかりのサービス精神から生まれたものだったんですね? まあ、あの第12話で終わりでも良いんですけど。とても情報が不足しているんですよね。足りない。でも、きっとそこに仕掛けがあるんだろうなと思わせるような作りになっています。この世界観の続きはどこにあるのか。自分の日常生活や、自分の目から見た世界情勢と照らし合わせて考えていく作品になっていると思います。

取材・文=志田英邦  写真=GENKI(IIZUMI OFFICE)

OBSOLETE

2014年、突如、月周回軌道上に現れた異星人・ペドラーは、人類に対して「交易」を呼びかけた。それは石灰岩1000キログラムと引き換えに意識制御型汎用作業ロボット「エグゾフレーム」を提供するという者だった。銃よりも安価で、誰でも操作できる「エグゾフレーム」はまたたくまに拡散していく。

【配信情報】
『OBSOLETE』 YouTube Originalsとして、バンダイナムコアーツチャンネルでEP1~EP12まで無料配信中。
YouTube Premiumメンバーは全エピソードを広告なしで視聴出来ます。
YouTube Premiumメンバー以外の方も、各エピソードの無料配信日以降に、広告つきで視聴いただけます。

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杉田智和(すぎた・ともかず)
株式会社AGRS所属。1999年『魔装機神サイバスター』でアニメ作品に初めてのレギュラーで出演する。代表作に『銀魂』(坂田銀時役)『ジョジョの奇妙な冒険』(ジョセフ・ジョースター役)、『涼宮ハルヒの憂鬱』(キョン役)などがある。Twitter:@sugitaLOV