齊藤工「足し算ではなく引き算。鎧を脱いでいく、という方向が、時として実写の強みだと、『ゾッキ』から学びました」

あの人と本の話 and more

公開日:2021/3/17

齊藤工さん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、雑誌『ダ・ヴィンチ』の巻頭人気連載「あの人と本の話」。今回登場してくれたのは、俳優、監督、白黒写真家など、マルチに活動する齊藤工さん。コロナ禍のなか、辿り着いていった人の身体、土との関係性に対する考えとは?そして、竹中直人さん、山田孝之さんとともに監督を務めた、4月公開の映画『ゾッキ』の制作過程についてたっぷりお話を伺いました。

 コロナ禍になってから、より体内の事情に目が向いてきたという齊藤さん。

「やっとそこに辿り着いたというか。僕ら、人間の歴史には、しっかりと微生物との共存があり、殊に土のない都心で生活をしていると、そこからどんどん乖離していっているのではないのかと考えるようになったんです。もしかしたら、いろんな不具合、現代病みたいなものも含め、そこが原因なのではないか?と、答えを探すうち、土や人の体内に社会をつくっている微生物の世界へと辿り着いたという感じです」

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 選んでくれた『土と内臓 微生物がつくる世界』は、自身のなかで、土と人間の歴史、そして現代病のようなものが、ひとつの線になっていった一冊であったという。

「『土の学校』をはじめ、ネイティブアメリカンの書物など、土にまつわる書物を読んできたなかで、土と人との関係性、そのうえにいろんな文化があったということが、この本には明快に書かれている。親類にアレルギーを持っている小さい子がいて、自然療法のようなものを調べていた時期があったんですけど、人間の身体って、5万年くらい進化していないらしいんです。要は5万年前と同じハードウェアなんですよね。けれどそれを取り巻く環境は激変した。最も大きなものが土との距離。歴史を遡ると、もともと土に触れる環境にいた人間が、そうではなくなったことから、不具合が起きて来たのではないかと考えるようになったんです。今の、コロナ禍という状況は、人が以前の状態に返っていくべき気付きのタイミングなのではないかということを、この本から教えられた気がしました。そして一見、結びつかない“土”と“内臓”というタイトルのワードに、結びつかないことが、実は答えだったり、解決策だったりすることも意外とあるんじゃないのか、と気付かされた一冊でもありました」

 孤高の天才マンガ家・大橋裕之、そして、竹中直人、山田孝之、齊藤工という3人の監督――映画『ゾッキ』も、つくり手それぞれが一見、結びつかないかもしれない。だが、作品を見れば、そこには確固たる、唯一無二の世界が生みだされている。

「ちょっと監督陣が派手だったり、蓋を開けてみたらがっかりされちゃうような危険さを初期の頃、感じていたんですけど、竹中さんも山田さんも、そこをわかったうえで、クリエイティブファーストで行こう、こよなく愛する大橋裕之さんの作品の実写化に邁進しよう、という覚悟が、すごく共有できていたという感があります」

 大橋裕之の幻の初期作品集『ゾッキA』『ゾッキB』から、それぞれが好きなエピソードを選んだうえで脚本を依頼、一本の長編作品にまとめあげた作品は、原作に忠実でありながら、映画ならではの大橋ワールドが展開、そして意外なところで、驚きの“つながり”を見せていく。

「オムニバスなのにつながっていく。これはもう、脚本家・倉持裕さんの才能です。僕らがやりたいというものを同じ世界線にしてくださった。誰がどの作品を撮ったかというのは、エンドロールでわかった方がいいね、ということもあるんですけど、最初に読んだとき、自分の内臓に迫ってきた一作を僕は選びました」

 齊藤さんが監督を務めたのは、冴えない日々を送る高校生の牧田に初めての友だちができる「伴くん」。牧田と同じく、ひとりも友だちがいない伴くんとの、はみ出し者同士の友情を描いた一作は、嘘の上に塗り固めた嘘から、妄想と優しさが絡みあい、ヒートアップしていく。

「同じ体験をしたわけじゃないんですけど、人間の曖昧さ、想像力と妄想力、そこから生まれる感情が、この一作を読んだとき、痛いほどわかったんです。この人には美人のお姉ちゃんがいるんじゃないかって思い込んだら、その道に行ってしまうし、“そうだよね?”って言われたとき、実際、お姉ちゃんがいなくても否定できない感情が。世の中の流れというか、そういうものに抗うより、とりあえず頷いてしまう、黒を白と言ってしまう青年の心の、ある意味、弱さ、それを言ったことでどんどん大変なことになっていくのもわかりつつ、でも相手の何かを壊したくない心の機微。そこには、“あの頃”の自分のようなものが、いた。映画を撮るとき、そこは丁寧に描きたいなと思いました」

 キャスティングはなかなか決まらなかったという。

「当初は様々な候補の方がいらっしゃいました。夢のようなキャスティングが並んだこともあったのですが、まるでアベンジャーズみたいで、色味が、配色が濃すぎるなと。悩むなかで、たまたま番組のなかでご一緒させていただいたのが、当時、東京ではまだあまり知られていなかったコウテイというお笑いコンビの九条ジョーさん。彼を見て、“そこにいる生命体みたいなもの、あれ、伴くんじゃない?”と直感的に思いました。そしてちょうどその頃、撮影していた映画で、スタッフさんに忘れられているキャストの方がいて。それが森優作さんだった。原作者の大橋さんも、大先生であるのに、遠慮気味な存在というのか、存在を忘れられる方というか、牧田は大橋先生の分身であると思っているので、“あ、牧田がいた!”と。伴くんという概念を演じられるのは、九条さんだけだと思ったし、それをしっかり受け止められる反応、反射できるのは森さんしかいないと。二人の衣装合わせのとき、すでに“勝った!”と思いました(笑)」

 映画初出演であった九条ジョーには、映画『ジョーカー』の予告編を何度も観てもらったという。

「ハイスピードで奇妙な動きをしている、どうにも不気味なんだけど、惹かれてしまう生命体みたいなところや、みんなから嫌われているけれど、確固たる信念があること、それが生み出す切なさなど、ジョーカーと伴くんはどこか通じているなと思って」

 そんな思いの反映された映像は、実写化ならではのスタイルで、観る人の大橋ワールドを増幅させる。

「総じて原作があるものの実写化って、愛読者からすると、“余計なことするなよ”っていうところがあるのは否めない。けれど近年では、たとえばフランス版の『シティハンター』とか、“あ、こんな成立のさせ方があったんだ”と思わせるものもあり、さらに映画を機に、原作に辿り着くという役割を担うこともある。原作ファンの方が、複雑な感情になるのは、つくる前から、制作陣もキャストもわかっているけれど、そうした摩擦を産まないクリエイティビティが日本にもあったらいいなと思いますね。そして実写化というと、どうしても非日常みたいな、特別な日の食べ物みたいになってしまう気がするのですが、本作では、要素の足し算ではなく、むしろ引き算なんだなということをすごく学びました。鎧を脱いでいく、という方向が、時として実写の強みなんだと」

取材・文:河村道子 写真:干川 修
ヘアメイク:赤塚修二(メーキャップルーム) スタイリング:YOPPY(juice) 衣装協力:セーター10万8000円、シャツ6万8000円、パンツ8万7000円/すべてYOHJI YAMAMOTO(広報宣伝部TEL03-5463-1540)(すべて税別)

さいとう・たくみ●1981年、東京都生まれ。俳優業の傍らで20代から映像制作にも携わり、初長編監督作、映画『blank13』では国内外の映画祭で8冠、『フードフロア:Life in a Box』ではAACAにて、日本人初の最優秀監督賞を受賞。公開待機作に、映画『騙し絵の牙』『愛のまなざしを』『シン・ウルトラマン』。

映画『ゾッキ』

映画『ゾッキ』

原作:大橋裕之(『ゾッキA』『ゾッキB』(カンゼン)) 監督:竹中直人、山田孝之、齊藤 工 出演:吉岡里帆、鈴木 福、森 優作、九条ジョー(コウテイ)/松田龍平ほか 配給:イオンエンターテイメント 4月2日(金)全国公開
●マンガ家・大橋裕之の幻の初期作品集に収録された作品を3人の監督が1本の長編映画に! 愛と面白味に溢れた人間模様をシュールにリリカルに描いた、カテゴライズ不能の奇跡の一作。
(c)2020「ゾッキ」製作委員会