古家正亨氏や芸人のスクールゾーン・はしもらが出演!『BTSを読む』だけじゃない! K-POPを「読む」伝説!?のイベントレポート

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公開日:2021/5/27

 5月15日、Twitterトレンドに突如として現れた「#春のKPOP祭り2021_1stwin」。K-POP関連の音楽イベント…ではなく、“K-POPにまつわる本”のブックフェアにあわせて開催された、ちょっと異色のオンラインイベントが、K-POP好きの間でにわかに話題になった。

 K-POPの盛り上がりにより今注目されているのが、K-POP関連の書籍。この「K-POP本ラッシュ」を盛り上げるべく、3つの出版社が合同でブックフェアを開催した。その名も「春のK-POP祭り」。お皿がもらえそうなネーミングで、なんと実際にもらえるらしい。

 これに関連して行われたオンラインイベントに出演したのは、古家正亨氏、はしも氏、桑畑優香氏、田中絵里菜氏、まつもとたくお氏、e_e_li_c_a氏、DJ DJ 機器氏といった、いわば「K-POP界の水先案内人」の面々。K-POPに足を踏み入れて、ちょっと深追いしたいなと思った最初のほうで出会う人たちが一堂に会する贅沢さと、どんなケミが起こるのか読めない闇鍋っぽさ。一部で「伝説」と話題になったイベントの様子をレポートする。

(取材・文=五十嵐)

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「K-POP本がこんなに豊かな国、日本くらいで他にはない」(古家さん)

 第1部は、「古家オッパ」の愛称でアイドルファンからも愛されるK-POPの第一人者・古家正亨氏と、K-POPあるあるネタでおなじみのお笑い芸人・スクールゾーンのはしも氏によるトークショー。古家氏の場数からはみ出した、聞きそうで聞けないK-POP裏話と、間に差し込まれるはしも氏のギャグで、緩くも楽しく進行した。

『韓国ミュージック・ビデオ読本』(2006年)などの著作を持つ古家氏が、「僕の頃は売れ残って出版社から怒られて、自分で買い取ったりしてました。K-POP本がこんなに豊かな国って、ないと思います。日本くらいで、韓国で本屋にいっても並んでないですよ」と、昨今のK-POP本の盛り上がりについて、驚きを隠せない様子。

 その一方はしも氏は、「K-POP本読んだことありますか?」と聞かれ、恐縮しながら「ない」と答えていた。「僕ね、ほんとごめんなさい、漢字が読めないんですよ。農業高校だったんですけど、月に3回くらい山に入っていたから。キウイフルーツを勝手に取って食べたら謹慎みたいなところだったので」。本を読まない人だって、K-POPは聴く。それはむしろ普通のことだ。「K-POP本」がここまで盛り上がる日本がちょっと不思議なぐらいだ。

 そんなはしも氏、実はBTSの作曲・プロデューサーとしても知られるSupreme Boiと、ゲリラ的にインスタライブでコラボしたことがある。持ちネタであるショートナムさんを披露し爆笑されたとのことだが、「どこで誰と繋がるかわからないし、ダイレクトで繋がることだってある。ショートナムさん、TikTokで上げたら200万再生で、YouTuberの人も真似してくれてるんですよ」「僕を見てBTSを知ったっていう人もいるそうなんで」というはしも氏の発言は、今振り返るとイベントの第2部にも通じる、K-POPの間口の広さを端的に表すエピソードだった。

 ちなみに1部のクライマックスは、古家氏のプロデューサー宣言。これから挑戦したいことを聞かれて、「10年くらいこの仕事をしていると、いろんなことを知りすぎて、メディアで発言することにも限界があって。これをどう活かそうかなって考えた時、アイドルのプロデュースをしたいと。昔俳優のユ・ジュンサンが手掛けた『TAURINE(タウリン)』っていう、『MAMAMOO』の元祖みたいな。そういう洒落っ気のあることをできたら楽しいなって思います」と、意気込みをのぞかせていた。

「K-POPの未来は開かれていて、予測不可能。だからこそ面白い」

 第2部は、BTS関連の著書を手掛ける翻訳家・桑畑優香氏、音楽ライターのまつもとたくお氏、デザイナー・ライターの田中絵里菜氏によるクロストーク。

 桑畑氏が翻訳を手掛けた、BTSにまつわる2つの本、世界的熱狂を分析した『BTSを読む』と、社会学的アプローチによる『BTSとARMY』。「もともとBTSがなぜこんなに人気があるのか、1人で自由研究してちょこちょこ取材していた」という桑畑氏もさることながら、編集者の立ち位置の違いが興味深い。前者を担当した柏書房の竹田純氏がBTSを知ったのは、2018年末のCDランキングでランクインしているのを見たのがきっかけ。それまでBTSのことを「まったく知らなかった」といい、「自分が知らないのにランキング入りしているってなんなんだろう」と思ったのだという。後者の編集担当であるイースト・プレスの黒田千穂氏は本のテーマ通り、ファンダムの中の視点を持つ(DJプレイ時「マンセ」でコメントしていたところをみると、セブチ推し?)。担当がそれぞれの本の副題「なぜ世界を夢中にさせるのか」「わたしたちは連帯する」をつけたところからも、視点の違いがうかがえる。「竹田さんは私と立ち位置が一緒で、ファンダムの外側から。黒田さんはファンダムの中に入って解き明かしていく。そのシンクロが3人羽織りのようだった」(桑畑氏)。

 古家氏と同じく1997年頃からのK-POP歴を持つ音楽ライターのまつもとたくお氏の著書『K-POPはいつも壁をのりこえてきたし、名曲がわたしたちに力をくれた』は、24年間で気になった曲、勇気を与えられた曲を、音だけにこだわってセレクトしたという。「僕の本は完全に音楽の視点から。次何聞いたらいいのかな?と思った時におすすめのインディーズとかも紹介しています。ガチガチのK-POPファンだけじゃなく、違うジャンルの音楽好きにも読んでほしい」。ソテジ・ワ・アイドゥルやH.O.T.からBoA、BTS、個人的に注目しているというYUKIKAまで、K-POPの軌跡と名曲を網羅している。

『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』の著者・田中絵里菜氏は、デザイナーとして韓国の雑誌編集部で働いていた経歴を持ち、K-POPを支えるクリエイターへの取材を軸に世界的ムーブメントをひもといていく。「K−POPってなんで流行ってるんだろうということを、客観的に、体系的にまとめた本を作ってみようと思って。音楽そのものというよりプロモーションの話でできています」。渦中のZ世代、しかも本国発というリアリティのある目線は、オタクが把握している漠然とした点と点を、K-POPの現象へと結びつけていく。1本のMVにかけられる予算や「パリパリ」と呼ばれるせっかちな性格がクリエイティブに及ぼす影響などのエピソードも興味深い。

 K-POPがこれほどまでに人気を博すとは誰も予想していなかったし、さらに日本では本にまでその人気が波及するという状況は、これまでのK-POPブーム時代にはなかったと、3人は口を揃えて言う。

「今までK-POPブームって何回も起きてると思うんですけど、今回は興味のない人にも広まった実感がある。コロナ禍であっても、ネットでコンテンツを時間、言語の障壁なく見られるから、入り口が開かれていて誰でも入りやすい」(田中氏)

「10年前の少女時代もYouTubeを開放していたりして、その頃から日本の音楽業界と違ったところはあった。『なぜK-POPは日本・アジアで売れてるのか』みたいな分析本は出ていたけれど、神話、東方神起みたいに特定グループのファンはいても、ジャンル全体をチェックしたいという人はほとんどいなかった」(まつもと氏)

「これからも予測不可能で、そこが面白い」というところでも意見が一致していた。

 第3部は、K-POPイベントを主催するDJ・e_e_li_c_a氏とDJ DJ 機器氏によるDJ タイム。この瞬間がK-POPの真髄!とばかりに、公式ハッシュタグ「#春のKPOP祭り2021_1stwin」がトレンド入り。最新カムバ曲からソバンチャのほうのオジャパメンまで、息をもつかせぬ最上のつなぎとVJで、6時間にわたるイベントは幕を閉じた。

 本来ライバル関係である出版3社が共催することで、K-POP本のブームを顕在化した今回のイベント。出版界にとっても、けっこうエポックメイキングだったんじゃないだろうか。もっと聴きたいしもっと知りたいから、カムバ期待しています。