アイドルマスター 15周年の「今までとこれから」⑫(萩原雪歩編):浅倉杏美インタビュー

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公開日:2021/6/17

『アイドルマスター』のアーケードゲームがスタートしたのが、2005年7月26日。以来、765プロダクション(以下765プロ)の物語から始まった『アイドルマスター』は、『アイドルマスター シンデレラガールズ』『アイドルマスター ミリオンライブ!』など複数のブランドに広がりながら、数多くの「プロデューサー」(=ファン)と出会い、彼らのさまざまな想いを乗せて成長を続け、昨年7月に15周年を迎えた。今回は、765プロのアイドルたちをタイトルに掲げた『MASTER ARTIST 4』シリーズの発売を機に、『アイドルマスター』の15年の歩みを振り返り、未来への期待がさらに高まるような特集をお届けしたいと考え、765プロのアイドルを演じるキャスト12人全員に、ロング・インタビューをさせてもらった。彼女たちの言葉から、『アイドルマスター』の「今までとこれから」を感じてほしい。

 第12回は、萩原雪歩役の浅倉杏美に話を聞いた。キャスト変更を機に765プロダクションに参加したのは、2010年のこと。当初抱えていた葛藤と、雪歩への熱い気持ちを聞かせてくれた。

萩原雪歩
(C)窪岡俊之 (C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

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雪歩は、「まわりの人のためにも頑張りたい」という気持ちを強く持っている子なのかなって思う

――昨年7月に『アイドルマスター』がスタートして15年を迎えました。浅倉さんは2010年から参加されているわけですが、15周年という節目について、どう感じていますか。

浅倉:ひとつの作品が10年続くだけでも、すごいことだと思うんですよね。限られた作品でしかなし得ないことだと思いますし、それだけ皆さんにたくさん応援していただくことで続いてきたと思うので、本当にすごいですよね。15年前はいち観客というか、下田麻美ちゃんとお友達だったので、「こういう作品をやってるんだ」って話しているのを聞いてましたけど、まさか15周年を自分がいちメンバーとして一緒に迎えるとは思わなかったです。遠いところまで来たなあ、という感じがします(笑)。

――浅倉さんは、キャストの変更という経緯を経て『アイドルマスター』に参加していますが、加入当時のことを振り返っていただけますか。

浅倉:不思議だったのが、その前にも『アイドルマスター』のオーディションは受けてはいたものの、歌も得意じゃないし、受からないかな、と思って受けていたところもあって。その中で、初めて求められたことも純粋に嬉しかったです。それと、私が声優としてやらせていただいた役の中に、雪歩のようなおとなしい子で声が高くて、女の子らしいっていう役がなかったんですよね。元気な子や、ボーイッシュな子、私の素の声を求めていただくことが多かったので、やったことがない分野で声をかけていただいたことも、役者としては嬉しかったです。オーディションを受けられるとわかってからは、ゲームを持っている方にやらせてもらったり、そのときに出ていた情報を集めたりして、雪歩を研究して臨みました。

――研究した結果、浅倉さんにとって雪歩はどういう人物に映りましたか。

浅倉:最初は、すごく弱々しい子だと思いました。おとなしくて、女の子らしくて、すぐ「穴を掘る」って言ったり、泣いてる姿をよく見かけるな、と思っていて。でも実は言っていることに一貫性があって、「できない」って言っていても結局最後までやり遂げたり、プロデューサーの言葉を自分の中に取り込んで昇華して、わりと自分の足で立っているところもあって。雪歩自身が言うほど、弱々しくもないし、アイドルとして一貫性がある子なんだな、と思いました。

――見た目の印象と違って、雪歩が芯を持った子だと解釈をしたときに、彼女を支える原動力ってなんだと考えましたか。

浅倉:やっぱり雪歩って、自分ひとりだけだったら頑張れないところもあるのかなって思うんですよね。今もいろいろ雪歩を演じさせていただくことはあるんですが、悩んだりしたときに支えてくれる仲間だったり、いつも側で見ていてくれるプロデューサーだったり、「まわりの人のためにも頑張りたい」という気持ちを強く持っている子なのかなって思います。もちろん彼女自身、「ダメな自分を変えたい」「成長をしたい」という部分もあると思うんですけど、他人の力になりたい、まわりの人がいてくれるから頑張れる側面というのを、より持っているアイドルなのかなって、実感としてわかってきた気がします。

――10年間、雪歩の役をいろんな場面で演じてきて、浅倉さんが思う「雪歩のこんないいところ、私だけが知ってるかも」みたいなポイントはありますか。

浅倉:「私だけが知っている」ではなくなっちゃうかもしれないですけど、「ダメだ~」って逃げてしまったり、「私にはできませ~ん。ダメダメですぅ」って言ってるわりに、めちゃくちゃしっかりちゃんとやるんですよね(笑)。ほんとに、すごくしっかりやるんです。極端な話で言えば、雪歩は犬が苦手ですけど、別に犬が苦手なまま一生を生きたっていいと思うんですよ(笑)。でもそういうところでも、なんとかして頑張ろうと、向かっていく。「ダメです、できません」って言いながらも、ほんとにスモールステップながらも苦手をなくしたり、できることを増やしていて、その健気さが心をグッとつかむというか、かわいいなって思います。「そんなに頑張らなくてもいいんだよ」って声をかけたくなっちゃう健気さは、すごく魅力的だなって思いますね。

――なるほど。ライブのお話も伺いたいんですけども、初めてステージに立ったときのことを振り返っていただけますか?

浅倉:初めてライブに出たのは、5周年のときでした。そこで、雪歩役が私に変わる発表も兼ねていたんですけど、発表の場がライブで、実際に歌も披露するよって言われたときには、「なんてスパルタなんだろう」って(笑)。ただ、その1年前から頑張って収録してきて、ものすごいセリフ量を録ったり、既存曲も全部歌ったので、頑張ってきたものを出していただける、雪歩としてやっていけるという、喜びの日でもありました。頑張ってきたものが届けられる喜びと、「もしかしたら受け入れてもらえないんじゃないか?」という不安や心配は同時にありましたね。終わったあとは、皆さんに複雑な思いもあったかもしれませんが、前向きに応援してくださる声をたくさんいただいて、結果的にすごく楽しい思い出になりましたし、『アイドルマスター』の物語が私の中で始まる第一歩になったので、感謝しています。ライブを楽しめるようになったのは……どれくらいだろう? 7周年の横浜アリーナで、765プロオールスターズのみんなでやったライブは、練習の段階から楽しさが感じられたし、「こういうこともしたいな」って自分から思えるようになった気がします。

 練習のときからいろいろ一緒に意見を出し合ったり、先輩と個人で話す機会もあって、「杏美はほんとに成長したね」「こういうところに気をつけると、もっと歌が伸びるよ」とか、パフォーマンス面でのアドバイスをいただくことができて、すごくわかりやすかったんです。腑に落ちることがたくさんあって、自分の中でも明確な意志を持って取り組むことができたので、楽しかった記憶があります。

――ライブ前のレッスンやツアーでは、同じキャストのみなさんと一緒に過ごす時間も増えると思いますが、他の方から言われた印象的な言葉や元気や勇気をもらったエピソードはありますか。

浅倉:8周年のツアーで大阪に行かせてもらったときに、前日入りの新幹線で音無小鳥役の滝田樹里さんが「一緒に行こっかあ」って言ってくれたんですけど、私の中での樹里さんは明るくて優しくて面白い方で、ライブでも飄々としているし、歌を歌うときはビシッと決めている人に見えていたんです。でもそのときの新幹線で、樹里さんが「ほんとは不安で」って、話をしてくださって。私から見ると、すべて難なくこなしているように見える樹里さんでも、こんなことを思ったりするんだって思って――『アイドルマスター』の765プロオールスターズに入ったのは私が最後だったから、「自分ひとりができていないんじゃないか」「自分ひとりが不安に思ってるんじゃないか」みたいな劣等感に悩まされることが多かったんです。でも樹里さんもそうやって戦いながら本番を迎えてるんだって思ったら、気が楽になりました。私も肩の力を抜いて、自分ばかりができないんだと思わなくていいのかなって。そういう話を、新幹線の座席に座った段階からしていて、すごく濃い時間を過ごしました(笑)。