元乃木坂46・中元日芽香は、どうしてカウンセラーになったのか? アイドル時代の苦しみを語る

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公開日:2021/7/15

ありがとう、わたし 乃木坂46を卒業して、心理カウンセラーになるまで
『ありがとう、わたし 乃木坂46を卒業して、心理カウンセラーになるまで』(中元日芽香/文藝春秋)

 2011年、乃木坂46の1期生オーディションに合格し、見事メンバーになった中元日芽香さん。「ひめたん」の愛称で知られる彼女はいつも笑顔を絶やさない、どこからどう見ても「アイドル」だった。けれどそのアイドルとしての顔の裏で、とても苦しみ、葛藤し、泣いていたという。

 なかなか選抜メンバーに入れず、どんなに努力しても認められない。そう思い悩んだ彼女は、やがて心を病んでしまう。2017年には休業を発表し、数カ月でなんとか復帰したものの、同年にはグループを卒業した。

 そんな中元さんはいま、「カウンセラー」として活躍している。元アイドルが、なぜカウンセラーの道へ進んだのか。それには深い理由があった。中元さんはその道程を初のエッセイ『ありがとう、わたし 乃木坂46を卒業して、心理カウンセラーになるまで』(文藝春秋)で赤裸々に綴っている。

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 本作は、痛みに溢れている。アイドル時代に感じていた苦しみが、行間に滲んでいるからだ。けれど同時に、多くの人にとって救いとなる一冊でもあるだろう。

 中元さんが本作に込めた想い、そして願いとはなにか――。

(取材・文=五十嵐 大 写真=花村謙太朗)

アイドルをしている人たちへのリスペクトは忘れない

――乃木坂46に加入するまでの経緯、メンバーになって感じた葛藤や苦悩、卒業を決意した理由、そして現在。この一冊には中元さんの生き様が赤裸々に綴られていますが、どうして自分のことを書こうと思ったんですか?

中元日芽香さん(以下、中元):自分の気持ちを書いて残すという作業は、実は数年前からやっていたことなんです。ただ、そのときはゴールが見えていなくて。どういうカタチで終わらせればいいのかもわからず、書いては置いておく、という状況が続いていました。

 でも、やっと過去と決着がつけられたタイミングがあったんです。

――それはいつだったんですか?

中元:乃木坂46を卒業してから、初めてグループのライブを観に行ったときです。ステージ上のみんなを観ながら、自分がやっていること(カウンセラー)について「いま、こんなことをしてるんだ!」って自信を持って言えるようになって。卒業してからしばらくは乃木坂46の活躍を直視できない時期がありました。でも、ライブを観ることができて、やっといろんなことが消化できた。そのタイミングで、「いまだったら、自分の過去をしっかりまとめられるかもしれない」と思ったんです。

――本作で書かれているのは、決してハッピーなことばかりではありませんよね。でも、随所に乃木坂46のメンバーに対する愛やリスペクトが滲んでいて、中元さんが誰も傷つけないように筆を執ったことが伝わってきました。

中元:特に前半はパンチが強すぎるかなと心配にもなったので、なるべく柔らかい言葉を使いましたし、各方面に配慮しながら書きました。絶対に忘れちゃいけないと思ったのは、いまアイドルとして活動している人たちへのリスペクトです。

 読む人の立場によっては、「アイドルってそんなにしんどいの?」「そんなこと言うなよ!」「わたしは楽しくてアイドルやってるんだけど!」という風に受け止められてしまう可能性があります。結果、「アイドル=大変なことが多い仕事」という認識に結びついてしまうのは避けたかったんです。だから、「この本はあくまでもわたしの主観で書いています」と伝わるように意識しました。

 それと、カウンセラーになる勉強をしてきて、考え方がとても変わったんです。本を書いているときも、「これを読んで、誰かが傷つかないかな?」とすごく俯瞰で見ることができて。自分の書きたいことがベースにはあるけれど、書いたものをさまざまな視点で見るようにはしていたと思います。

芸能界に限らず、どんな世界にも競争はあるもの

――乃木坂46に所属しながら選抜になれない苦しみも率直に綴られていました。ぼくらはどうしても「選抜でもアンダーでも、同じアイドルだからうれしいのではないか」と思ってしまうことがあります。でも、中元さんは常にプレッシャーを感じていた。そんな選抜・アンダーを分けるシステムのことを、いまはどう捉えていますか?

中元:もしも選抜とアンダーを分けず全員が前線に立てるようなシステムだったとしたら、わたしはここまで乃木坂46に熱中しなかったんじゃないかと思います。そう考えると、たしかに苦しいことはあったものの、選抜制度を心の底から嫌だとは思っていなかったのかもしれない。むしろそれがあったからこそ、必死で頑張れた。だから、選抜制度を否定するつもりはないんです。

 でも、こんなことを言えるのは、わたしがもう当事者ではなくなったからかもしれませんね。現在メンバーとして活動している子たちも、受け取り方はさまざまでしょうし。また、ずっと選抜に入っている子が悩んでいないかというと、そうでもない。センターの子にも悩みはあるはずなんです。わたしはずっとアンダーにいて、選抜に入りたいと悩んでいましたけど、立場が変われば感じ方も違いますよね。

 それと、アイドルグループの選抜とアンダーの関係って一見特殊な構造ですが、実はいろんなところにあるんです。それはカウンセラーになってから気づきました。たとえば、スポーツ選手だってそうだし、企業内にも競争があります。芸能界に限らずさまざまな場所で、「こんなに頑張っているのに、どうして選ばれないんだろう」「誰も自分を見てくれていないんじゃないか」と悩んでいる人は多いと思うんです。そういう人たちに向けて、この本を通して「わたしもそう悩んでいたひとりなんだよ」と伝えられたらいいな、と。

――たしかに、どんな世界にも競争はありますね。

中元:そうなんです。カウンセラーの仕事をする直前、アイドル活動に専念してきたわたしは世間知らずなんじゃないか……と不安でした。でも、いざカウンセリングでいろんな人の話を聞いてみると、共感できることが多くて。自分がアイドル活動を通じて感じてきた葛藤が、カウンセリングをする上での参考になるんです。

カウンセラーの重要性を、広く伝えていきたい

――中元さんがカウンセラーを志したのは、休業中に受けたカウンセリングがきっかけだったんですよね。

中元:あのとき、カウンセラーさんと出会ったことは大きなきっかけになっています。それまでは人に頼ったり相談したりすることがなくて。「話してもわかってもらえるはずない」とも思っていました。でも、カウンセラーさんとお会いしてみたら、「話すのって、こんなにも気持ちが楽になることなんだ」と実感したんです。感動しました。実は偶然にもカウンセラーさんと地元が一緒で、話しやすかったというのも大きいかもしれません。

 同時に、そもそもずっと芸能界にいるつもりはなかったんです。アイドルを卒業したら、自動的に芸能界も辞めることになるだろうなって思っていて。

――卒業後も芸能界で仕事をしていくつもりは、はじめからなかったんですね。

中元:ありませんでした。もちろん、アイドルという職業は好きです。滅多に経験できないことを経験させてもらえましたし。辞めるときも「もったいない」なんて言われました。

――それでもカウンセラーになりたかった……?

中元:「カウンセラーなんて需要あるの?」と言われたこともあります。その言葉を聞いて、燃えました。「世間の人はそう思っているんだ。だったら、わたしがカウンセラーになって、その認識を変えられないかな」って。いまは元乃木坂46のメンバーということで良くも悪くも注目していただいています。それでも構わない。「元アイドルがカウンセラーやってるみたいなんだけど、そもそもカウンセラーってなに?」みたいな入り口からこの仕事のことを知ってもらって、カウンセラー業界に貢献したいんです。

――休業中に出会ったカウンセラーに救われたから、今度はその恩返しがしたいんですね。

中元:恩返しなんて言ったらおこがましいですけど、あのときのカウンセラーさんにいただいた言葉、感動、気づきのようなものを、今後はわたしが誰かに渡せたらいいなって。カウンセリングってまだまだハードルが高いイメージがあります。自分には必要ないもの、と思っている人もいるでしょうし。でも、頼ってみるとすごく楽になれる。だから、カウンセラーに頼る人がもっともっと増えてほしい。悩みが大きくなって体を壊す前に、気軽にアクセスしてもらいたいんです。

苦しんでいた当時の自分を肯定してあげたい

――本作にはさまざまな苦しみが描かれているのに、タイトルには「ありがとう、わたし」とあります。この言葉にはどんな意味を込めたんですか?

中元:これまで、自分に対して「ありがとう」と思える瞬間が本当になかったんです。でも、この一冊を書いてみて、自然と「ありがとう」と思えたんです。驚きました。そんな言葉が浮かんでくるくらい心が整理できたのかな、成長できたのかなと。

 それと、乃木坂46を卒業するとき、ファンの方から「元気がなかった」と心配されて。そんな風にわたしのことを心配してくださった方々への返答でもあります。「わたし、いま元気でやってますよ」みたいな。

 そして、この本を読んでくださった一人ひとりの方にも、同じように思ってもらいたい。「みんな、すごく頑張ってるんだよ。過去の自分があるおかげで、いまの自分があるんだよ」と伝えたいんです。ひとりでも多くの方がそんな風に前向きになってくださったらうれしいですね。

――本作を読んで勇気をもらう人は多いと思います。同じように、中元さんも勇気をもらった本ってありますか?

中元:休業中によく読んでいたのは、著名人が挫折体験を綴ったエッセイです。「これだけ活躍している人でも、こんな苦労や葛藤があったんだ!」と思うと、勝手に共感して勇気がもらえました。わたしがエッセイを書きたいと思ったのも、そんな読書体験があったからです。

 特に印象に残っているのは星野源さんの『そして生活はつづく』。いまやドームツアーをしている人でも、いろんな苦労があったのかと驚きました。「キラキラ輝いて見える芸能人でも悩むんだから、そりゃわたしも悩むよね」と気持ちが楽になったんです。

――いま最前線で活躍している人が、過去に苦労してきたこと、苦しんできたことを吐露することで、多くの人に勇気を与えますよね。

中元:そう、とても勇気づけられます。だから、わたしの本もそんな役割を果たせたらうれしいんです。この本には本当にさまざまな悩みを綴りました。容姿、才能、周囲との比較、組織内でのポジション、将来への不安、学業との両立……。それらを読んで、「あ、自分はこれに当てはまる!」と感じてもらえるかもしれませんし、まったく共感できなかったとしても「こういう人もいるんだ」と知るきっかけになるかもしれない。

――いま本当にやりたいことに向かって充実している中元さんが、過去の自分に声をかけるとしたら、なんて言ってあげたいと思いますか?

中元:当時の自分に対して「もっとこうした方がいいよ」とは言えません。あの頃はとにかく必死で一生懸命やっていましたし。がむしゃらにやってきて、たくさん悩みを抱えていたからこそ、いまのわたしがあるわけですしね。

 だから、もしも声をかけてあげるとしたら……「そのままでいいんだよ」。あの頃のわたしは自分のことを責めてばかりいたので、そっと肯定してあげたいです。

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