王道バトルマンガから鬱マンガまで、TikTokでキャッチーに魅力を伝える「もつもつ@漫画紹介のひと」インタビュー

文芸・カルチャー

更新日:2021/12/7

もつもつ@漫画紹介のひと

 ショートムービーで好きなことやメッセージを発信できるプラットフォームTikTokは今、エンタメ作品を紹介したり、探したり、または好きな人同士が交流できる場のひとつだ。小説やマンガなどの書籍においても、TikTok発のヒット作が続々と登場。そんなムーブメントをけん引するTikTokクリエイターのひとりが、フォロワー数19万人を誇る「もつもつ@漫画紹介のひと」だ。王道バトルマンガから心を抉る問題作まで、作品の魅力をキャッチーに伝えるもつもつ氏は、現在大学生。2020年5月にTikTokを始めた意外なきっかけや、自身に影響を与えたマンガ、そして発信への思いを聞いた。

(取材・文=川辺美希)


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もつもつ氏が選んだ、「自身の考え方に影響を与えた書籍」5選

ブルーピリオド

①『ブルーピリオド』山口つばさ 著
TikTokを始めたきっかけとも言える作品です。特に「好きなことは趣味でいい。これは大人の発想だと思いますよ」という1巻のセリフに衝撃を受けました。

ソラニン

②『ソラニン』浅野いにお 著
明確に考えがこう変わったと言うのは難しいですが、いい意味で人生を楽観できるようになった作品です。自分がまさに真っ只中なこともあり、モラトリアムを描いた作品に影響を受けやすいです。

BLUE GIANT

③『BLUE GIANT』石塚真一 著
幼い頃から夢を見つけても挫折を味わうまでもなく諦めてきましたが、主人公・大の真摯に夢を追う姿に自分も頑張らなければと何度も背中を押されました。

NARUTO

④『NARUTO』岸本斉史 著
中学生の頃に友達に借りて読み、漫画の面白さに目覚めたきっかけになった作品です。悪者にもそれぞれ事情があるというのが当時は新鮮でしたし、人生において大事なことをいくつも学べたと思います。

チェンソーマン

⑤『チェンソーマン』藤本タツキ 著
今一番好きな漫画を聞かれたらチェンソーマンと答えます。読み返すたびに新しい発見があって、「漫画って面白い」と再確認した作品です。

フォロワーからの信頼を守ることが大前提

――マンガを読み始めたのはいつ頃だったんですか?

もつもつ@漫画紹介のひと(以下、もつもつ):中学生の頃にマンガをたくさん持ってる友達の家に遊びに行ったり、借りたりして読むようになりました。大学生になってアルバイトでお金を稼げるようになってから、人並み以上に読むようになったかなって感じです。

――「自身の考え方に影響を与えた書籍」のひとつである『NARUTO(-ナルト-)』で、マンガの面白さに目覚めたそうですね。

もつもつ:『NARUTO』はアニメも観ていたんですけど、マンガを初めて読んで引き込まれましたね。『ワンピース』や『NARUTO』のような王道を友達に借りて読んで、マンガってこんなに面白いんやって思いました。自分でも本屋さんに行くようになってからは、表紙を見て買うことが多くて。たしか『惡の華』とか『聲の形』がそうでした。ジャケ買いでジャンルを広げていった感じですね。それまでジャンプ作品ばっかりだったので、ジャンプ以外にもこんなに面白いマンガがあるんやって、発見でしたね。

――TikTokでマンガ紹介を始めたきっかけは何だったのでしょうか。

もつもつ:きっかけは、言ってしまえばコロナで暇になったからです(笑)。大学に入ってからずっと何かを始めたいと思っていたんですけど、TikTokはフォロワーがいなくても一定数のおすすめフィードに数百人に動画が露出されるので、ゼロから始めるには一番いいプラットフォームだと思ったんですよね。TikTokに目を付けたときはまだ何をするかも決めてなかったんですけど、TikTokで映画やアニメを紹介している人がいるのを知って。僕自身、中学生でマンガにはまったときから、面白いマンガを紹介してくれる人がいたらいいなって思ってたんです。じゃあ、自分はマンガが好きやし、マンガ紹介をしようかなと思って始めました。

――紹介するマンガを選ぶ基準は何ですか?

もつもつ:自分が純粋に面白いと思うかどうかが、第一の基準です。最近、出版社の方に献本してもらったり、お仕事のお話をいただいたりもするんですけど、面白いと思っていない作品を紹介しちゃうとフォロワーの方からの信頼が崩れてしまうので、面白いと思う作品であることは大前提です。それに、マンガはどうしても連載の打ち切りがあるので、面白いけどまだ知られてないマンガをみんなに知ってもらえるように、最近のマンガを多めに紹介するようにしています。

ユーザーや作者からの反響の大きさで、業界に貢献したい気持ちが芽生えた

―TikTokを始めて、その影響力の大きさや手応えを初めて感じたのはいつでしたか?

もつもつ:僕、フォロワーの伸び方がずっと遅かったんですよね。今は19万人なんですけど、2020年2月時点で7万人ぐらいだったんです。でもその後、立て続けにフォロワーが伸びたきっかけがあって。「『呪術廻戦』の次に来るマンガ5選」と、『田舎』っていうちょっと大人向けなマンガを紹介する動画が2本連続で伸びて、それからは、どうすれば再生数が伸びるのか、だんだんつかめていきましたね。

――具体的に、どういうポイントを意識して動画を作っているんですか?

もつもつ:TikTokのおすすめフィード上の動画はどんどん変わっていくんですけど、大事なのは視聴維持率、最後まで見てもらえるかということなので、そこはけっこう注目してます。一言目に興味を持ってもらえるような言葉を使ったり、関心を最後までキープするための仕組みをどう入れるのかを考えています。最近よくやるのは、「もし〇〇だったら皆さんはどうしますか?」って質問で始めること。質問をしたら、答えを考えてくれるじゃないですか。「〇〇なマンガ5選」とかは、最初の作品に興味がなくても、2作目、3作目は何やろ?って見続けてもらえるので、そういう工夫はしています。

――反響が大きかった動画の中でも、重版や売上につながった印象的なエピソードはありますか?

もつもつ:最初にTikTokの影響の大きさを感じたのは『桃源暗鬼』でした。作者の漆原侑来さんからもTwitterでご連絡いただきましたし、マンガの帯にも「TikTokで話題」って書いていただけたりして。自分がやってきたことって、こんなに価値があったんやって思いましたね。「心が弱い人は絶対に読んではいけない最凶鬱漫画TOP5」で1位に紹介した『愛と呪い』っていうマンガも、重版につながったとご連絡をいただきました。ちょっと前のマンガで、本屋さんにもあまり並んでいなかったんですけど、動画を見て本屋さんに問い合わせしてくれる人が多かったそうです。

――時間があったから始めたTikTokでの影響力がここまで大きくなったことについて、率直に今、どんな思いでいらっしゃいますか?

もつもつ:TikTokの書籍紹介の方って、業界に貢献したい気持ちから始めた方が多いと思うんですけど、僕は、最初はそこまでのことは考えていなくて。マンガが好きやし、マンガを知ってもらえたら嬉しい、くらいの気持ちで始めたんですけど、やっていく中で、「このマンガめっちゃ面白かったです」って感想をいただいたり、出版社の方や漫画家さんから感謝の言葉をいただいたりすることが増えてきて、徐々に自分の動画でマンガ業界に貢献していきたい気持ちが大きくなってきましたね。

――そういうふうに意識が変わって、動画の作り方も変わってきましたか?

もつもつ:かなり、変わりました(笑)。最初のほうは、とにかく好きなマンガを見つけたらすぐ紹介って感じだったんですけど、売上につなげるためには再生数を伸ばさないといけないので、ただ好きに紹介するんじゃなくて、どうやったら見てもらえるのか、どうやったら買ってもらえるのかを考えて作るようになりました。

――作品紹介だけではなく、『鬼滅の刃』は面白いのか、過大評価なのかっていうテーマの動画も発信されたりして、マンガ業界に対して思うことを伝えるという姿勢もお持ちですよね。そういう発信は、どういう考えに基づいてやられているんですか?

もつもつ:コメントとかを読んで、いま流行っているマンガを否定している方が一定数いるように感じていて。あの動画を上げたのは、今はある程度発信力を持つことができている自分が、「これは面白い」ってちゃんと言わないとなって思ったからです。「面白くない」みたいな意見が目につくと、作品をよく知らなくても読みたくなくなっちゃう人もいると思うので、このマンガはちゃんと面白いんやって、動画で伝えたかったんですよね。

――やっぱり反響は大きかったですか?

もつもつ:はい、いい意見も悪い意見もたくさんもらいました(笑)。

価値観や人間関係……マンガが僕の世界を広げてくれた

――いろいろなジャンルのマンガをたくさん読まれているもつもつさんは、今のマンガのトレンドをどうご覧になっていますか?

もつもつ:最近多いなと思うのが、自己啓発系というか、好きなことをがんばろうぜ系のマンガですね。いつの時代もそういう作品はあったと思うんですけど、今、人生100年時代と言われる中で、どう生きたらいいのかを考えている人が多いと思うんです。僕も大学生なので、まわりの友達にも悩んでる人が多くて、そういう時代に合っているから受け入れられているのかなと思いますね。それに、動画配信のサブスクとかエンタメの選択肢が増えている中で、すぐに興味を持たせないといけないからなのか、でっかい設定を最初にドンっていうところから始まるマンガが多いのかなと思います。特に少年誌では、主人公最強系とか、特殊設定で引き付けるマンガが多いですね。

――ダ・ヴィンチニュースの読者には30代のビジネスマンや主婦の方もいらっしゃいますが、がんばっている大人世代におすすめのコミックはありますか?

もつもつ:『メダリスト』はおすすめです。フィギュアスケートに打ち込む小学生の女の子とコーチがダブル主人公のマンガなんですけど、コーチは夢があったけど挫折してしまった人物で、大人はそちらに感情移入できると思いますね。日本のフィギュアスケートって世界的にもレベルが高くて、幼いときに始めないとトップに立てない壁があるらしいんです。主人公の女の子は始めたのが遅かったので、努力してその壁を乗り越えていくんですけど、壁が高いからこそ、がんばる姿に背中を押される作品ですね。他にもいろんな女の子や男の子が登場するんですけど、それぞれに葛藤があって。たとえば主人公は遅咲きで環境にも恵まれていなかったんですけど、逆に、メダリストの息子で環境にも恵まれている子は、だからこそ言い訳ができない葛藤を抱えていて。読者それぞれが、自分の悩みを投影できる選手が見つかると思います。

――もつもつさんがおっしゃったように、たくさんのエンタメがある中で、マンガでしか得られない体験とか、マンガならではの魅力ってどういうところにあると思いますか?

もつもつ:価値観やものの見方が増えることがエンタメの魅力だと思うんですけど、中でもマンガは、よりニッチなジャンルやテーマを扱った作品が多いんですよね。作品数でいうとエンタメの中でもトップレベルなので、より広い世界を知ることができるのがマンガの良さだと思います。

――「自身の考え方に影響を与えた書籍」のコメントからも、マンガがもつもつさんの人生に大きく影響を与えてきたのかなと思うのですが、改めて、もつもつさんにとってマンガってどんなものですか?

もつもつ:世界を広げてくれるものですね。マンガを好きになったことで新しい友達ができたりとか、部活がうまくいかなくて距離ができてしまった友達とも、マンガの話題でまたしゃべれるようになったりして……価値観だけじゃなくて、いろいろな意味でマンガは僕の世界を広げてくれましたね。

――これからTikTokクリエイターとして、もしくはご自身の人生で、近い将来実現したいことやビジョンはありますか?

もつもつ:TikTokでの活動も含めて、とにかく僕はマンガに人生を変えられてきたので、マンガ業界に貢献したい、マンガを広げたい気持ちが大きいですね。僕自身、テレビでケンコバさんとか麒麟の川島(明)さんが紹介しているマンガを読んだりするんですけど、僕も、「この人が面白いと言ってるから買おう」と思ってもらえる存在になりたいです。

もつもつさんTikTok
https://www.tiktok.com/@motsumotsu_manga

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