北陸最凶の心霊スポットが舞台の映画『牛首村』。主演のKōki,が、撮影中の現場で体験した不可思議な現象とは――?

映画

公開日:2022/1/28

Kōki,さん

 ホラー映画の巨匠・清水崇監督による「恐怖の村」シリーズ最新作『牛首村』でヒロインを演じるのは女優初挑戦のKōki,――!

 富山県に実在する北陸最凶の心霊スポット・坪野鉱泉を舞台に、最恐の怪談と噂される「牛の首」をモチーフに描かれる映画『牛首村』。現実と物語がまざりあって、この上ない恐怖を提供する同作で、初主演にして女優デビューを果たしたKōki,さんにお話をうかがった。

(取材・文=立花もも 撮影=干川修)

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 廃墟で心霊動画を撮影する女子高生YouTuber。一人の少女に牛首のマスクをかぶせ、エレベーターに閉じ込めたところ、悲鳴と不可解な音を残して彼女は消えてしまった―。その少女が自分と瓜二つであることを知り、導かれるように動画の撮影地・富山に向かった女子高生・雨宮奏音を演じたのは、今作が女優としてのデビュー作となるKōki,さん。

「心霊スポットはもちろん、お化け屋敷も自分からは絶対に行かないくらい怖がりなので、オファーをいただいたときは少し戸惑いました。でも……脚本を読みはじめたら、ページをめくる手が止まらなくなってしまって。文字を追っているだけで、怖い。それなのに、そこで何が起きているのか、この先に何が起きるのか、知りたくてたまらなくて、気づけば最後まで読み終えていたんです。自分にどこまでできるかわからないけど、この物語のなかに入って、奏音を演じてみたいと思いました」

 舞台となる坪野鉱泉は、富山県にあるホテル跡の通称で、北陸最凶の心霊スポットと言われている。そして坪野鉱泉に向かう途中で奏音が通った、首のない地蔵の安置されたトンネルも、その先にある牛首村も、どんな話なのか誰も知らない、決して語ってはいけないとされる最凶の怪談「牛の首」もまた、現実に存在しているもの―。

「はじめて坪野鉱泉に足を踏み入れたときは、心なしか外より空気がひんやりしていて、ぞくっとしました。撮影中は役に没頭できていたせいか、奏音の感情から離れて怖いと思うことはなかったんですけど、故障したわけじゃないのにドローンがうまく飛ばなくなったり、空気が変な感じに歪んでいて、何かあるなと感じさせられる場所でもありました。廃墟だから当然、電気が通っていなくて、夜になると一気に暗闇が深くなるんですよね。もちろん撮影用の明かりはあるけど、かえって山の中の静けさが強調されるというか……。隙間から何かが覗いているかもしれない、あの闇の向こうに誰かがいるかもしれない、と思うと迂闊にふりむくことができない雰囲気もありました」

 実際、Kōki,さんは撮影中の現場で不可思議な体験をしたという。

「部屋の中でメイク直しをしているとき、コンコンとドアを叩く音がしたんです。誰かが来たのかなと思って、メイクさんが見に行ったけれど、誰もいなかった。近くにいたスタッフさんに『今、どなたか呼びにきましたか?』と聞いたら『誰も通っていないですよ』って。その瞬間は、さすがに鳥肌が立ちましたね」

Kōki,さん

瞬きやかすかな呼吸――些細な演技が演出する恐怖

 場の緊張感も、影響を与えたのかもしれない。デビュー作にして初主演という重圧のなか、Kōki,さんは勝気な少女が少しずつ恐怖に呑まれていく過程を、その息遣いや表情の変化で、見事に演じきった。

「瞬きや口の動きについては、監督からも指導していただきました。ほんのちょっと動かすだけで、観客の緊張感が途切れてしまうというということを心がけておいて、って。確かに、セリフの言い方やわかりやすい身振り手振りだけでなく、意識しなくちゃ気づかないくらい些細な動きで、画面から伝わってくる空気が変わるんだってことを知りました。だから……完成した映画を観たときは、もうちょっと目を見開いておけばよかったとか、逆にここでは動いてもよかったとか、反省点が次々と湧いてきて。奏音というキャラクターも自分なりに掘り下げたつもりだったけど、その解釈に演技が追いついていないように感じることもあって。本気で恐怖した次の瞬間、反省が襲ってくる、の繰り返しで、冷静には観られませんでした」

 Kōki,さんの考える、奏音はどんな人物だったのだろう?

「一見クールで、さばけた性格をしているし、クラスメイトの蓮に対しても気の強さを隠そうとしない。でも、どんなに冷たくあしらってもめげずに好きだと言ってくれる蓮のことを、彼女なりに頼りにしていたとは思うんです。そうじゃなければ、富山まで一緒には行かないだろうし。だからといって、彼に対する感情が恋愛なのかというと、そうとは言い切れないし、蓮のしつこさが煩わしいのも確か。そんな、二人にしか理解できない関係性をどうしたら表現できるんだろう?というのは監督にも相談していました」

 実際、奏音の愛情深さは折に触れて描かれる。消えた、自分とそっくりの女の子が双子の妹・詩音だとわかったとき。牛首村の真実が、やるせない悲劇と繋がっていると知ったとき。彼女は、恐怖よりも先に愛情深さを優先させる強さも見せる。

「存在を忘れてしまっていた妹のことを、自分が助けなきゃいけないんだと奏音が決意することができたのは、妹を宝物のように想う気持ちが心の奥底に残っていたからだと思います。その絆を確かめあう場面で、いちばんシンクロできた……役になりきれたと感じたのは、私自身、周囲からシスコンってからかわれるくらい姉のことが大好きだからだと思います(笑)。映画のなかでは、理不尽に次々と人が死んでいく。いつ自分が巻き込まれるかもしれないという恐怖が、また次の悲劇を招いていく。やるせなくてつらいけれど、恐怖以外の感情が物語の裏にひしめいているのもまた、この作品の魅力的なところだと思います」

人の心を動かすような演技ができる女優になりたい

 奏音だけでなく、詩音も演じ分けたKōki,さん。佇まいだけで二人の性格の違いがわかるように、演じる際は意識していたという。

「なんとなく、私のなかで奏音は青色で、詩音は淡い紫色だったんですよね。詩音は奏音に比べて甘えっ子なところもあるし、よく似ているんだけど、やっぱり違う人間なんだとわかるように、制服のリボンの結び方やスカートの長さ、髪型などにもそれぞれの個性が出るようにしていました。監督から、ホラー映画で大切なのは日常的な場面をいかに自然に映し出すかだと言われて。一気に非日常が押し寄せてくるよりも、“普通”のなかにじわじわと異物が紛れこむことで人はよりいっそう恐怖を覚えるんだ、とわかったので、なにげない場面こそ二人の“らしさ”を意識するようにしていました」

 それは、誰もが見過ごしそうな一瞬こそが作品を形作るのだ、と教えてくれた女優の存在も大きい。

Kōki,さん

「ジュリア・ロバーツとシャーリーズ・セロンが好きで、出演されている映画は必ず観るようにしているんですけど、お二人とも、ほんの一瞬の視線や指先の動きなどで、観ている人を魅了するんですよね。そしてその一瞬が、セリフ以上に物語のテーマ性を深めていくんです。自分を無にして役になりきっているから、自然とこぼれでるものがあるんだろうなと思うと、私もまだまだ、勉強しなきゃいけないことがいっぱいだな、と思います。撮影中、監督とセリフについて話し合っていたときも、私には想像もつかない解釈や表現を提案していただくことが多くて、驚かされました。映像の仕事は、チームワークで作り上げていくものだからこそ、学びとるものがたくさんある。私一人で思いつくことでどうにかしようとするんじゃなく、もっともっと視野を広げて、表現方法を身につけていきたいですね。それはきっと、モデルとしての仕事にも役立っていくだろうなと思うので。それに映画って、“心”を残すことのできる媒体だと思うんです。簡単には言葉にできない感情を、演技する一瞬にとじこめて、観る人に届けることができる。幼いころから憧れていた女優というお仕事に、せっかく触れられる機会をいただけたのだから、これからもジャンルを問わず幅広く挑戦していきたいと思います」

Kōki,
こーき●2003年、東京都生まれ。18年、『エル・ジャポン』のカバーでモデルデビュー。中島美嘉や三浦大知への楽曲提供なども手掛ける。最近おもしろかった映画は『ファイブ・フィート・アパート』。小説は映画『サヨナラの代わりに』の原作『You’re Not You』。

ヘア:TAKU for CUTTERS (VOW-VOW) メイク:yUKI for Loopblue.Inc(MØ) スタイリスト:RyokoKishimoto(W)衣装協力:ジッパージャケット 45万7600円、ジッパーパンツ 21万1200円、ブーツ 12万9800円(全てAlexanderMcQueen TEL03-5778-0786)、セルペンティWG ネックレス 90万2000円、B-01WG ブレスレット 145万2000円(共にBVLGARI TEL03-6362-0100)(すべて税込)

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登場人物

雨宮奏音(姉)

雨宮奏音(姉)…Kōki,

都内在住の女子高生。心霊動画の視聴をきっかけに、恐怖体験に巻き込まれていく。

三澄詩音(妹)

三澄詩音(妹)…Kōki,

富山在住の女子高生。心霊動画の配信で坪野鉱泉の廃ホテルに行ったまま行方不明に。

香月 蓮

香月 蓮…萩原利久

奏音のクラスメイト。奏音に好意を持ち、動画の女子高生を一緒に探す。

倉木将太

倉木将太…高橋文哉

詩音の恋人。行方不明の詩音を探している。奏音、蓮とともに都市伝説“牛首村”の謎に迫っていく。

『牛首村』

『牛首村』

監督:清水 崇 脚本:保坂大輔、清水 崇 音楽:村松崇継 出演:Kōki,、萩原利久、高橋文哉、芋生 悠、大谷凜香、莉子、松尾 諭、堀内敬子、田中直樹、麿 赤兒
2月18日(金)より全国ロードショー
都内に住む女子高生・奏音の手首に、突然現れた誰かに握られたような痕。心霊動画の撮影中、消えてしまった牛首マスクをかぶった、奏音と瓜二つの少女。奇妙な符号を感じ、奏音は撮影場所の富山に向かうが……。2020年公開の『犬鳴村』から連なる「恐怖の村」シリーズ第3弾。
(c)2022「牛首村」製作委員会