【特別掲載】いま語られる映画『ククルス・ドアンの島』と「安彦良和/機動戦士ガンダム THE ORIGIN展」への思い──安彦良和インタビュー

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公開日:2022/1/21

『月刊ガンダムエース』創刊20周年を記念した原画展「安彦良和/機動戦士ガンダム THE ORIGIN展」の開催、さらに新作劇場アニメ『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』の制作も発表された。これを記念し、『月刊ガンダムエース』2021年12月号に掲載された安彦良和氏のインタビュー記事の一部を特別掲載!

 原画展への思い、そして、『ククルス・ドアンの島』を手掛けた理由についても語ってもらった。

安彦良和/機動戦士ガンダム THE ORIGIN展
撮影:後藤利江

──『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の連載開始から20年が経ち、連載が終わって10年が経ったわけですが、そうした時間が経過したことへの感慨はありますか?

安彦 連載が終わってからの10年は早かったという印象がある。この10年間、俺は何をしていたんだろうって。でも、よく考えるとわりと仕事をしているんだよね。『THE ORIGIN』のOVAも6本も作っているし、連載もシリーズ3つやっていて。だから、決して遊んでいたわけじゃないと思うけど、やっぱりあっという間の10年だったね。

──連載している頃の10年は長かったですか?

安彦 長かったですね。描いている量も多いんだけど、神戸の大学(神戸芸術工科大学)に通うという、それまでにない経験もしたので。それもあったのかな。

──『THE ORIGIN』の他に、『アレクサンドロス』の描き下ろしや『麗島夢譚』の連載も並行してやられていたというのもありますか?

安彦 そうだよね。全くガンダムだけをやっていたんじゃないんだよね。最近はそんなにペースを落としているというわけじゃないけど、あの頃に比べると随分手が遅くなったなと思うね。連載は『乾と巽 −ザバイカル戦記−』しか描いていないけど、あまり暇だと感じもしないから。やっぱり遅くなったんだなって。連載1回分のネームは、今だと4日かかるんです。ずっと3日で終わるようにやってきたのに。筆を入れる日数とトーンを貼ったりする日数を考えると、ネームを3日で終わらせないと原稿が上がらない。でも、最近は3日じゃだめで、最低4日、下手をしたら5日かかっている。ダメだ、弛んでるなって思うね。

──いや、全然弛んでいないと思います。現役でやっているわけですし。

安彦 実際に、疲れてくると目がショボショボしたりとかするので、やっぱり20年前、10年前に比べるとポテンシャルは落ちているなという感じはあるよね。

──作画に関してはいかがですか?

安彦 描いている時はいつも「下手だな」とか「雑だな」って思うんだけど、単行本で小さくなったのを見ると「あ、まだそこまで荒れていないな」と、ちょっと安心する(笑)。あと、ありがたいことに、俺の場合は90年代の半ばからあまり絵柄が変わっていない。その頃に絵のスタイルが出来上がったなと感じていて。作品でいうと『王道の狗』あたりだけど。漫画で長期連載だと、お話の最初と最後で絵柄が変わっちゃうことってあるんだけれど、そういう心配はなくなった。だからそれから『THE ORIGIN』に入れたのは良かった。『THE ORIGIN』は全部で24巻という長丁場だけど、通して読んでも絵柄が変化している、という違和感はないと思う。

──そうした形で描き溜めてきた『THE ORIGIN』の画稿を展示する「原画展」が動き始めるわけですが、安彦さんの原画展と言えば、これだけ大規模のものは2006年に開催した巡回展『安彦良和原画展』以来になりますね。

安彦 そうですね。あの時は300点くらい展示してもらって。あの頃はまともな美術館で漫画の原画を展示するのは少なかった頃で。今はもう大河原邦男さんや富野さんの展示会も県美クラスで普通にやるようになって。いい時代になったなと思うね。今回は、『THE ORIGIN』もOVAとして映像化もされたわけだから、素材として紙以外も展示できるといいかなと思っています。

安彦良和/機動戦士ガンダム THE ORIGIN展
イラスト:安彦良和 ©創通・サンライズ

──安彦さんとしては、こうして原画をまとめて見てもらう機会というのは、いつかやりたいと思っていたのでしょうか?

安彦 今回の原画展の話を初めて聞いた時、「そんなの見たがっている人いるの?」って言ったんですよ。連載が終わって10年、OVAが終わってからも数年経っているから。そうしたら「います、います!」と(笑)。でも、これをきっかけに「『THE ORIGIN』がより若い人に認知されるようだったら嬉しいし、そこからOVAも観てもらえるとさらに嬉しいから、やってもらえるのは、ありがたいなと。自分としても、さっきも言ったような途中で絵柄が変わっているから「この絵は見たくない」、「この頃の画風は恥ずかしい」というようなことが、『THE ORIGIN』には無いので、そういう意味でも、まあ大丈夫だろうと。

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「ククルス・ドアンの島」はずっと心に残っていた

安彦良和/機動戦士ガンダム THE ORIGIN展
イラスト:安彦良和 ©創通・サンライズ

──それと、安彦さんの最新監督作となる『ククルス・ドアンの島』の制作が、ついに発表されました。まずは、なぜ『ククルス・ドアンの島』を映像化したいと思われたのでしょうか?

安彦 「ククルス・ドアンの島」というエピソードは、テレビシリーズ当時からずっと心に残っていたんですよ。スケジュールの関係で、まるっきり関わってやれなかったんだけど、里子に出して苦労している子供みたいな感じで、こいつには不憫なことをしたなぁという気持ちがあって。ガンダムエースの企画で、寺田克也と漫画家の皇なつきさんという、とんでもなく絵の上手いお二方にお会いする機会があったんだけど、そこでも『THE ORIGIN』では「ククルス・ドアンの島」を切ってしまった、心残りだって話をしたんだよ。

──ずっと引っかかっていたわけですね。

安彦 でも今回の映画化の直接のきっかけは、おおのじゅんじさんの漫画があったからなんだけどね。

──『機動戦士ガンダム THE ORIGIN MSD ククルス・ドアンの島』ですね。

安彦 実は、『THE ORIGIN』の連載が終わってからのガンダムエースは、毎月送られてくるんだけど、ほとんど見ていなくて。それが、『THE ORIGIN』の一年戦争本編のアニメ化が最終的に無くなった直後くらいに、たまたまうちに届いていたガンダムエースを手にとって。目次を見たら『THE ORIGIN』のサブタイトルがついた『ククルス・ドアンの島』というのがあって。「俺は知らないぞ。なんだこれ」と腹が立って、財前編集長に電話したんですよ。そうしたら、「説明したはずです」って言われて(笑)。

機動戦士ガンダム THE ORIGIN MSD ククルス・ドアンの島
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN MSD ククルス・ドアンの島』(おおのじゅんじ:漫画、カトキハジメ:メカニカルデザイン、ことぶきつかさ:キャラクターデザイン、矢立肇・富野由悠季:原作、安彦良和:漫画原作/KADOKAWA)

財前(ガンダムエース編集長) 連載前にOVAを作っていたサンライズのオリジンスタジオでちゃんと説明しているんですよ。

安彦 当時はOVAの方で頭が一杯だったんだね。プラモデルと連動した企画で、キャラを優先して漫画をやるって言われたから「どうぞ、やってください」って言ったのを思い出して。「誰に断ってやってるんだ!」って思ったけど、ちゃんと断ってもらってた(笑)。

財前 滅茶苦茶焦りましたよ(笑)。連載も後半に入っていた頃ですから。

安彦 それで「ククルス・ドアンの島」のことを思い出して、おおのさんの漫画について詳しく話を聞いたら、一年戦争の色んな時期の話を前後して描いていて、テレビシリーズとはあまり関係がない話だと。俺がやりたいのは、テレビシリーズの話をもとにしたものだから、そことは重ならないので、サンライズに「『ククルス・ドアンの島』の映像化は有りかな?」と聞いたら、「どうぞ」と言われて。そんな形で、話がスタートしているんですよ。

──ドアンの話自体、心に残っていたんですか?

安彦 当時はすごく継子扱いで、作監込みで外注のスタジオに丸投げして、上がってきたラッシュを「ああ、これはちょっと……」と思いながら見たくらいだったんだけど、ストーリーはずっと引っかかっていて。これはちゃんと作ればいい話になるはずだって。「ククルス・ドアンの島」は、フランシス・コッポラ監督の『地獄の黙示録』に近い話だなと思っていて。『地獄の黙示録』は、ベトナム戦争中、脱走してジャングルの奥地に自分の王国を作ったカーツ大佐に米軍が刺客を送るという話で。ベトナム戦争の闇を描いていてすごく奥行きがある。「ククルス・ドアンの島」もある種「一年戦争の闇」を描いている感じがして。そういうところも引っかかる話ではあるんですよ。

──今回は、そうした部分にスポットを当てて、いろいろと膨らませているんですね。

安彦 中身に関しては、いずれお話しする機会があると思うけれど、もちろん、いろいろ変えています。舞台になる島も、自分で不器用にネットをいじって「ここだ!」という場所を探したりね。具体的にどこかってことはまだ秘密だけど。

──制作状況はいかがですか?

安彦 順調です。だから、来年のほどよい時期に公開できるんじゃないかな。『THE ORIGIN』のOVAは、過去編を原作にしたアニメ化だったけど、『ククルス・ドアンの島』は漫画でも描いていないし、いろんな要素や展開を交えた、ほとんどオリジナルに近い作品なので、すごく楽しく作ることができている感じですね。

──では最後に、劇場版『ククルス・ドアンの島』を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします。

安彦 『ククルス・ドアンの島』は、発表後かなり反響があったと聞いて、つくづくガンダムもドアンも幸せなヤツだなと思っています。作品は支持されて、愛されてなんぼなので。ガンダムシリーズは難しいところが売りのひとつのようだけど、『ククルス・ドアンの島』はとてもわかりやすい話なので、ガンダムを全然知らない人でも楽しめる作品になるんじゃないかな。「なぜ、今ドアンなの?」って思っている人も多いだろうけど、ご覧になれば「なるほど」と納得していただけるものになるように作っているので、期待していただけると嬉しいです。

※本稿は『月刊ガンダムエース』2021年12月号に掲載の記事より抜粋しました。

©創通・サンライズ

ところざわサクラタウン開業1周年記念
安彦良和/機動戦士ガンダム THE ORIGIN展

会場:EJアニメミュージアム
埼玉県所沢市東所沢和田3-31-3 ところざわサクラタウン 角川武蔵野ミュージアム3F

会期:2022年1月22日(土)~2022年3月21日(月・祝)
前期:2022年1月22日(土)~2022年2月18日(金)
後期:2022年2月19日(土)~2022年3月21日(月・祝)

時間:10:00~18:00(入館締め切りは閉館30分前)
※2月18日(金)は展示入れ替えのため15:00クローズ

休館日:毎月第1・第3・第5火曜日(祝日の場合は開館・翌日閉館)

ほか詳細は公式サイトを参照

公式サイト:https://the-origin-ten2022.jp/
Twitter:https://twitter.com/THE_ORIGIN_ten

安彦良和/機動戦士ガンダム THE ORIGIN展」図録

安彦良和/機動戦士ガンダム THE ORIGIN展
イラスト:安彦良和(未発表イラスト) ©創通・サンライズ

安彦良和/機動戦士ガンダム THE ORIGIN展」で展示される約500点の画稿から厳選した200点に加え、未発表の「ククルス・ドアンの島」のイラストも掲載した公式図録。

EJアニメミュージアム(ところざわサクラタウン)、カドカワストア、Amazon、全国書店他で販売。3850円(税込)。

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