LiSAが自身の音楽を取り戻した、大切なライブの記憶――LiSA『unlasting shadow』インタビュー

アニメ

公開日:2022/4/13

LiSA

 2021年にデビュー10周年を迎えたLiSAは、ミニアルバム『LADYBUG』のリリースに始まり、『テレビアニメ「鬼滅の刃」無限列車編』の主題歌『明け星 / 白銀』を含む3ヶ月連続シングルリリースや年末の日本武道館公演、3年連続のNHK紅白歌合戦への出場など、怒涛のようなメモリアルイヤーを走り切った。2022年最初のリリースは、昨年2月に開催された「LiVE is Smile Always~unlasting shadow~ at Zepp Haneda(TOKYO)」の公演のBlu-rayである。ライブ活動が十全に行うことができなかった情勢を経て、「原曲のよさ」を十二分に表現したこのアコースティックライブにおいて、LiSAは自身の音楽とライブを取り戻した。いわば、ターニングポイントとも言えるステージを振り返りつつ、「11年目」への決意を語った、「2022年最初」のインタビューをお届けする。

advertisement

ライブの中でどんどん自分の気持ちも晴れていくような気がして、「大丈夫なんだ」って思えた

――2022年は、どういう感じで始動したんですか。

LiSA:久しぶりに、年始はゆっくり過ごしました。去年は年始に“dawn”がリリースされたり、毎年ライブがあったりしたけど、今はライブに向けてバンドメンバーとも久しぶりに会って、ライブの準備をしています。スロースタートでした。

――なるほど。

LiSA:自分の中のひとつの区切りとして、10周年までちゃんと駆け抜けようと思っていました。今年からゆっくりしようと思っているわけではないですけど、もっと自分の感じることに対して敏感に、景色を見ながら、それを味わいながら音楽に落とし込んだり、自分の気持ち発信で何を作りたいか、何をやりたいかを自問自答する時間を大事にしたいなって思いました。10周年は特に、自分の10年を振り返りながら曲を作る機会が多くて。今の情勢と向き合って、自分の気持ちを問いながら制作をすることが増えて、音楽のあり方として、一緒に遊ぶだけではない、受け取ってもらう皆さんに届ける音楽の作り方も学んだこの2,3年だったので。これからの10年は、大事に音楽を作りながら、音楽で遊ぶにはどうしたらいいかを感じて落とし込んでいきたいし、それを大事にしていきたいと思いました。

――ものすごいスピードで走ってきた10年を経て、自身の感受性も大事にしていこう、と。

LiSA:今まで、自分が傷ついたこと、自分が痛いことを無視して走ってました(笑)。それは喜びにしてもそうですけど、傷ついたり痛かったりしても、それで悲しんでいる暇がなかったけど、同時に喜びを噛み締める時間や、その余韻も味わうことなく生きてきたので。いま過ごしている瞬間だけじゃなくて、余韻も味わいながら進めるといいな、と思います。

LiSA

LiSA

――今回映像としてリリースされるライブ「LiVE is Smile Always~unlasting shadow~ at Zepp Haneda(TOKYO)」は、2021年2月の公演でしたね。当日の最初のMCでも話していたけど、その時点でお客さんの前で歌うリアルなライブは1年ぶりで、その意味では強い気持ちを持ってやり遂げたライブだったんだろうな、と想像したんですけども。

LiSA:本当は、2020年の3月にライブをやる予定だったけど、それができなくなってしまって。リハーサルも全部終わって、ツアーに向けても意気込んでいたときになくなってしまったけど、このライブはどうしても形にしたいと思ったんですね。ただ、みんなが暗い世界を一度味わったあとで、自分の気持ちもすごく変わった1年だったので、最初に準備していたままやるのは、自分の中でしっくりこなくて。だから、結果できなかった曲たちもたくさんあるし、新しく組み替えた曲たちもたくさんあります。

――確かに。タイトルは一緒でも、同じ気持ちでライブをすることはできないですね。

LiSA:はい。なので、最初の“ASH”は、暗い世界にいたけど、そこから明るい場所に抜け出そうとして――抜け出そうとしているからこそライブができるわけで。『unlasting shadow』というライブに込めたものと同じ感覚を、“ASH”に感じていました。それと、アコースティックライブをやりたかった理由があって、わたしが楽曲をもらうときは、いわゆるオケがまだできていないんですね。作曲ってメロディだから、メロディをもらった状態で得られる感動があって、曲には素晴らしいものが詰まっているから、そこに言葉を乗せたい、という素直な気持ちがあります。

 メロディのよさって、わたしにとってとても大事なことだし、作曲してくれる皆さんもすごく大事にしてくれているから、それをアコースティックでも感じてほしかったんです。より研ぎ澄まされた中でライブをしたからこそ、そして1年経って世界が変わったからこそ、感情移入せざるを得ないところがあって。曲たちに込めた思いと、曲たちが感じさせてくれる、話させてくれる気持ちが、すごくたくさんあったライブでした。

――いろんな感情が流れ込んできてしまった結果なのか、なかなか見たことないけど、1曲目から泣いてしまったという(笑)。

LiSA:歌う前から泣いてましたね(笑)。

――同時に、「LiSAのライブってこうだったよね」って改めて感じられるライブのオープニングだったな、と思います。それをもう一度形にできた感覚はあったんじゃないかな、と。

LiSA:そうですね。出てきた瞬間に泣いてしまったのは、みんなの拍手が温かすぎたから(笑)。人がいてくれることってこんなにも温かいんだって思ったし、わたしもライブの感覚を取り戻していった感じがあって。まったく変わってしまったような気がして、ドキドキしながらステージに立ったんですけど。改めて皆さんの思いを感じさせてもらいました。ライブの中でどんどん自分の気持ちも晴れていく、明けていくような気がして、「あっ、大丈夫なんだ」って思えた日でしたね。

――大規模アリーナで見るライブも当然最高だけれども、アコースティックでもLiSAのライブは最高なんだと感じさせるステージでしたね。さらに、歌うことへの喜びがより伝わってくるところもあって。そういう感情も大きかったんじゃないですか。

LiSA:はい。ずっと家にこもっている間、わたし自身も自分の歌と向き合う時間があって。それまでは、うわ~~!ってライブをやって、レコーディングして、テレビの収録もやらせてもらって。そういう活動の中で、休みの日は自分の声をできるだけ温存するようにしていたんです。本番のために、のどを使わない、声を使わない、歌を歌わないっていう。でも、家にいる時間があったから、わたし自身も歌にすごく向き合ったし、自分の歌い方や表現のしかたにも向き合っていた1年だったので、より歌へのこだわりが強いライブだったと思います。

――確か「自分の曲を全曲聴き直した」みたいな話を、以前にもしてましたね。実際、全曲聴き直すって、別にマストではないじゃないですか。状況に打ちのめされて、ただぼんやり過ごしてしまうことだって全然ありえるわけで。でも、「いや、ここで今向き合わないといけないんだ」って思ったのはどうしてだったんでしょう。

LiSA:なんでしょう、せっかちなんだと思います。「ただでは起き上がらないぞ」みたいな。感じた痛みや悲しみや苦しみを、ただ悲しんで嘆いてるだけではいけないなって思いました。自分にとって、「この時間があったからこそ」ってあとから思えるような努力をしておかなくちゃ、と思ったんです。

LiSA

LiSA

LiSA

――素晴らしいですね。今回、ライブ映像を商品化するにあたって見直す機会もあったと思いますが、どんな発見がありましたか。

LiSA:めちゃくちゃいいライブでした(笑)。前回のアコースティックライブ(2018年4月、『LiVE is Smile Always~FUN & FANFARE~[Acoustic Time]』)も、「これってアコースティック?」って言われたんですよ(笑)。でも、LiSAのアコースティックって、それでいいんだと思う。今までも、理由がないことって1個もやってこなかったんですね。リリースイベントもアコースティックでやっていたし、いろんな経験値があったから、楽器の差し引きとか、見せたい場面の作り方も含めて、ちゃんとわたし自身も満足できるワンマンライブが作れたなって思います。

――確かに、前回のアコースティックライブを観させてもらっている身としては、「LiSAのアコースティックライブ」の型みたいなものはしっかり固まってるのかなって感じました。アコースティックではあるけど、最終的には電源入れますっていう(笑)。

LiSA:しかも、アコースティックライブなのにフルバンドいる、みたいな(笑)。「普通にライブができるんじゃない?」っていうバンドメンバーが揃ってますからね。なんなら増えてます(笑)。

――(笑)最近聴いていなかった曲、ご無沙汰していた曲が多めの構成になっていて。そういう意味ではサプライズ感もあるセットリストでしたね。お客さんにとっても嬉しい驚きだっただろうし、たとえば “変わらない青”なんかはだいぶ懐かしい印象があったんですけども。

LiSA:“変わらない青”大好きなんです(笑)。ライブでは、1回か2回くらいしか歌ってないですね。このライブでは野間(康介)さんがピアノを弾いてくれていて、普段はサウンドプロデューサーとしてライブに参加しているんですけど、リアレンジに近いところはあったと思います。構成を決めるときに、曲の素材を持っていって、原曲はめちゃくちゃいいけど、これをアコースティックで味わってもらうためには、伯方の塩がいいですか、トリュフ塩がいいですか。みたいな(笑)。どうしたらおいしくなるかを、バンドと一緒に作っていきました。たとえば“Rising Hope”って、バンドでやったほうがおいしいじゃないですか。絶対に、バーベキューソースのほうがおいしいから(笑)。そこが塩味になることで、伝わり方や思いの乗せ方が変わるような、新しい提示や提案ができる曲を選びました、あとはタイトルの『unlasting shadow』から、「shadow」の気持ちを表してくれるものと、unlasting =光を表してくれるものをピックアップしていきました。

――今の話を踏まえても、“dawn”がキーになっているライブだな、と思います。ちょうど中間にあって、タイトルの通り夜明け感があり、この曲を境にどんどん明るく開けていく構成が印象的でしたが、“dawn”の位置づけについて聞きたいです。

LiSA:“dawn”は去年の1月に出たシングルで、暗い世界の中にいる自分が作った、夜明けを待つ自分としての歌なんですね。ずっと家にいて、今が朝なのか夜なのかよくわからない状態で過ごしていたときに、それでも毎朝「今日も朝がきたな」って思いながら、夜明けを見てたんです。そのときに、もし新しい世界が始まったとしても、ゼロに戻るだけだなって思って。最初、わたしは何も持っていなかった、でも自分で作ってきた。それをもう1回、みんなと作り出すだけだなって、自分の中で思ったんです。

――なるほど。

LiSA:だから、「なくすことを怖がらなくたっていいんじゃないか」って思いました。いま過ごしている時間を怖がらなくてもいいんじゃないかって思ったのは、前を向くにあたって自分の中で1個の結論でした。夜明けを願っていたときに書いた気持ちが、少しずつ明けた世界で、みんなに届けられたのは、すごく運命的なものを感じます。本当は『LEO-NiNE』に入れようと思って、アルバムの制作をしてるときに“dawn”を作ったんですよ。当時、自分が前を向くために願いを込めて作った曲ですね。

――そして、古参のファンも大満足の15分超えメドレーは圧巻だったわけですが(笑)。

LiSA:(笑)。

――感動するのは、どの曲もお客さんに大事にされていることで。全力で受け入れてくれてたし、それはどの曲も等しく育ててきたからこそだな、と。非常にLiSAのライブ的な光景だと思いました。

LiSA:確かに。だってカップリングもアルバム曲も、バンバン入れちゃうから。ちゃんとリリースした曲をライブで育てるぞって言って出してもらってるから、その責任としてライブでみんなと一緒に育ててきたし、わたしもやりながら、シングルもアルバムも関係なくみんなが受け取ってくれる、味わってくれているなって感じました。

LiSA

LiSA

LiSA

(武道館ライブでは)これまで走ってこられたからこその新しい「1」を、みんなに渡せたら

――終盤のMCで、「やれることたくさんあるな」って話していて、年末の武道館ライブの記憶をたどると「なるほどな」と思って。このアコースティックライブがLiSAの音楽を再起動、リブートしてくれて、だからこそ武道館のライブがあれだけ充実したものになったんだろうと思いますね。

LiSA:そうですね。このライブがなかったら、たぶん不安で『LADYBUG』も、ほんとにゼロからになっていたような気がします。でも、アコースティックライブで、「わたしたち、大丈夫だな」って思いました。何が不安だったかというと、もともとわたしの曲って、みんながいて成り立つ曲ばかりだから。みんなの声も想定に入れて楽曲作りをしてきたし、みんなと一緒にどんな景色が見たいか、どう遊びたいかの出口を想像しながら曲を作ってきたから不安もあったんですけど、それはアコースティックを初めてやるときも同じで、いろんなスパイスを楽曲につけたからこそ、たくさんの人が楽しんでくれるものになってるけど、素材の味だけでどれくらいわかりやすく伝わるんだろうっていう不安はありました。どうやったら退屈しないで味わってもらえるかをすごく考えたけど、アコースティックライブを経て、ここにもすごくいろんな想いがあった、と思えたし、みんなとの信頼がつながった日でした。

――そういえば、年末の武道館では最後30分くらいMCでしゃべっていたけど――(笑)。

LiSA:いろんなことがあった2年だったので(笑)。無条件の信頼とかもあるから頑張れる一歩もあったけど、予想できないことが起こりすぎたし、誰も体験したようなことがないことをたくさん体験した2年でした。でも、みんなに対しての「大丈夫」はすごくありました。ツアーが始まっても、いろんな心配事はあったけど、最初に話したように、駆け抜けるときはやり切ることを目標にしているから、怪我していても「痛い」って言ってられないんですよね。「大丈夫! 痛くないよ。とりあえずゴールまで行くね」って(笑)。だけど、公演が終わったときに、やっと冷静に自分の気持ちを感じてあげられる時間が、武道館の最後の30分だったと思います。10年間を振り返りながら、確かな確信になったこと――みんながいるから大丈夫なんだって思ったし、改めてそれを自分の気持ちで感じて、言葉にしたのが最後の時間でした。

――10周年を走り切って、再度迎える武道館ライブ「the Birth」へ向けての気持ちも聞かせてほしいです。

LiSA:今は自分で想像しているだけですけど、わたしが作りたいものは、11周年、11歳のお誕生日です。1って、新しい一歩だと思っていて。10周年の『LADYBUG』ツアーでたくさん振り返らせてもらったので、新しい一歩である11歳のお誕生日には、「楽しかったなあ」だけじゃなくて、みんながいつでも前を向いて進んでいける、次の一歩に進んでいける、新しい1年を思い切り駆け抜けられる、新しいことを楽しめるようなライブになるといいな、と思います。誕生日のお祝いを自分でするというよりも、誕生日にプレゼントする気持ちです。前を向いていくための日を届ける気持ちで、ライブを作りたいです。たくさん「ありがとう」を届けたから、これまで走ってこられたからこその新しい「1」を、みんなに渡せたらいいですね。

――「11歳の誕生日」の先は、どんな思いを持って走っていきたいと考えていますか。

LiSA:そうですね……なんか、伝わりづらいと思うんですけど、今やっと30歳になった気持ちなんですよ(笑)。

――(笑)どういうこと?

LiSA:20代って、自分の責任を自分で取れるようになった10年だと思います。未成年って、何をやっても親が責任を取らないといけないけど、成人を迎えたら自分の責任で、勉強することだらけだと思うんです。自分のキャパを感じる10年というか、自分自身は何ができるのか、ここまでやったら壊れてしまうんだ、と勉強する10年。毎日120パーセントで生きることだけが正しいわけじゃないんだなって、体感として気がついた10年だったから。120パーセントでみんなと会う日のために、毎日は80キロで走行しておこう、みたいな(笑)。でも、120点を取るための計画は、できるようになったと思います。

 だから、これまでは自分自身を知るための10年だったと思っていて、30代はそれを踏まえて自分の道をきちんと進んでいく、たくさん勉強した自分が、今までにもらった宝物を持って、それをどう使っていくかが、30歳からの10年なのかなって思います。まあ、30代後半になったら、全然違うこと言ってるかもしれないけど(笑)。余韻もちゃんと楽しんで、味わった上で、これまでの10年を感じながらみんなと丁寧に進んでいきたいし、次の15周年に向けてのパーティーの準備をしていきたいです。

LiSA特集トップページはこちら

取材・文=清水大輔


あわせて読みたい