花澤香菜さんの愛読書! 心に刺さったリトルミイの名セリフとは? 「ムーミン哲学」を語る

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更新日:2022/5/31

花澤香菜さん

 ムーミンバレーパークのショーでスノークのおじょうさんの声を演じる花澤香菜さんは、もともと原作の愛読者。大人になって改めて心動かされた、ムーミンの哲学とは。

(取材・文=野本由起 写真=干川 修)

 かごバッグから、ちょこんと顔を覗かせるぬいぐるみ。そう、花澤さんが「ムーミンバレーパーク」のライブショーで演じるのは、ムーミントロールのガールフレンド・スノークのおじょうさん。花澤さん自身も、ムーミンの物語を読み、その哲学に心動かされた一人だ。

「小学生の頃に読んだ時は、正直ピンと来なくて。でも、大人になって音楽活動を始めてから歌詞を書くようになり、なにげなくムーミンの本を読み返したんですね。そうしたら、〝これは深く読み解かなきゃいけない言葉だな〟って名言がポンポン出てきて、もう全部が突き刺さる。人生を豊かにするためのすべを、お説教くさくなく、ムーミンたちの行動を通じて教えてくれるんですよね。例えば悪者が出てきても、最後は一緒にご飯を食べて〝いろんな人がいていいじゃない〟って。最近は世界情勢が不安定で、気持ちも乱れがちですけど、“人って本来こうあるべきだよね”と教えてもらえる気がします」

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 中でも印象に残っているのが、短編「目に見えない子」(『ムーミン谷の仲間たち』所収)に出てくるリトルミイの有名なセリフ。

「おばさんに嫌味を言われすぎて、〝もう消えたい〟と思ったニンニという女の子が透明になっちゃうんです。ムーミンの家で暮らすうちに、だんだんどんな子かわかってくるんですけど、それでもニンニはしゃべらない。そうしたらリトルミイが、こう言うんです。〈おこることもできやしないんだわ。それがこの子のわるいとこよ(中略)あのさ、たたかうってことをおぼえないかぎり、あんたは自分の顔を持てるわけないわ。ほんとよ〉って。この言葉が彼女の心に響いて、ムーミンパパがふざけてムーミンママを川に落とそうとした時、ニンニがすごく叱るんですね。この一件から、ニンニは顔を取り戻すんです」

花澤香菜さん

花澤香菜さん

 実は花澤さんも、高校時代に友達からリトルミイのような言葉を投げかけられたことがあるという。

「当時は人の目を気にしすぎて、言いたいことも言えなかったんですね。そうしたら友達から、あんたみたいにはっきりしない子は嫌いって言われてしまって。大学でいろんな地方のいろんな子たちと出会って、“あ、私は私のままでいいのか”と思えるようになりましたけど、当時の私にリトルミイの言葉を聞かせたかったなと思います」

 そんな花澤さんも、小学生の頃はスノークのおじょうさんのように自由闊達に振る舞っていた。

花澤香菜さん

「スノークのおじょうさんは、天真爛漫でおしゃれが大好き。しかも、思ったことを全部言うじゃないですか(笑)。そういう姿から、小学校高学年の私を思い出すんですよね。私も言いたいことを言って、気づかないうちに人を傷つけていたと思うので。ただ、大人になった今、スノークのおじょうさんを見ていると、人生が楽しそうでうらやましさも感じます」

その時々で形の違う自由がある 今この瞬間も自由であたらしい

花澤香菜さん

「あのさ、たたかうってことをおぼえないかぎり、
あんたは自分の顔を持てるわけないわ。ほんとよ」

       ─────────リトルミィ(『ムーミン谷の仲間たち』より)

私は戦うことを避けがちですが、「いざという時は言うべきことを言わなきゃ」って背中を押してもらいました。大事な人のために声を上げ、それが結果的に自分のためになっているのも素敵だなと思います。(花澤さん)

 自身がスノークのおじょうさんを演じる時は、ナチュラルなかわいさを意識しているという花澤さん。昨年ライブシアターで上演された「自由でしあわせな生活」では、「預言者あらわる」(ムーミン・コミックス第5巻)を原案に、自由や幸せの意味を問うショーを披露した。

「今にふさわしい内容ですよね。とはいえコロナ禍の前から『自由って何?』と思うことはきっとあったはず。私も、声優のお仕事でキャラクターを自由に表現したいと思うけれど、技量が足りないと何もできなくて。逆に『自由に演じてください』って言われても、それはそれでやりにくい時もあります。その時々で自分が考える自由は違うし、コロナ禍でも自由を探すことはできるはず。しかもこのショー、最後は『人生っていろいろあるから面白い』ってなるんですね。今は大変ですけど、いつかは『あの頃はあの頃なりに楽しめていたよね』って思えるようになるかもしれない。そんな希望の持てる物語だなと思いました」

 ムーミントロールと仲間たちによる劇中歌も、花澤さんの心を揺さぶったという。

「スノークのおじょうさんが〈自由であたらしいことってなんだろう〉と歌ったあとに、ムーミントロールが〈今日からの毎日は幸せになるのかな〉って歌うんですね。それを聴いた時、今この瞬間も〝自由であたらしいこと〟なんだって思えたんです。日々忙しく過ごしていると忘れがちですけど、『今日は自由であたらしい日。何をしたっていいじゃない』と教えてくれる素敵な歌詞だなと思いました」

 もともとムーミンママにあこがれと共感を抱いていたという花澤さんだが、このショーを通じてあらためてムーミンママに感服したそう。

「みんなが預言者の言葉に流されていくのに、ムーミンママは動じないんです。肝が座っていてカッコいいんですよね。ムーミンパパが自由を求めて木の上で暮らすと言い出した時には、サンドイッチを持って行ってあげるんです。本当は家に帰りたいのにプライドが邪魔して帰れないことも、全部お見通し(笑)。夫婦関係ってそういうもの。お互いこうでなきゃって思いました」

 優しいムーミントロールと気まぐれで奔放なスノークのおじょうさん。夢見がちなムーミンパパとしっかり者のムーミンママ。それぞれの個性を受け入れ、互いに補い合う関係性も魅力のひとつだ。

「そう。だからこそ、自分の自由ばかり求めてはダメなんですよね」

 最後に、これからムーミンバレーパークを訪れる人に向けて、メッセージをいただいた。

「自然に囲まれ、ムーミンの世界観に浸れる素敵な場所です。広いので密にはなりませんし、きっと心を自由に解放できるはず。ムーミンの魅力を伝えるショーも作品にちなんだ食べ物もあるので、ピクニック気分で楽しんでくださったらうれしいです」

ムーミンバレーパーク内にある「エンマの劇場」
(c)Moomin Characters TM

ムーミンバレーパーク内にある「エンマの劇場」では、ムーミンと仲間たちが繰り広げる歌とダンスの参加型ショーを毎日開催。現在は「ダンス・ダンス・ウィズ・ムーミン」を上演中。(12:00~、14:30~/季節や天候により時間変更や中止の場合も)

花澤香菜
はなざわ・かな●2003年放送のアニメ『LAST EXILE』ホリー・マドセイン役で声優デビュー。『3月のライオン』(川本ひなた役)、『PSYCHO-PASS』(常守朱役)など出演作多数。映画『五等分の花嫁』(中野一花役)が5月20日に公開予定。歌手としては、今年2月にアルバム『blossom』をリリース。

ヘアメイク:宇賀理絵 スタイリング:山本香織 衣装協力:シャツ3万250円、ジャンプスーツ3万5090円/すべてHonnete、シューズ2万6400円/Catworth(すべてグランストンベリーショールーム TEL03-6231-0213)、その他スタイリスト私物 *すべて税込