トラウマ級の作品も! 夏にぴったり、大人もどっぷりハマるゾクゾクの「ホラー絵本」

文芸・カルチャー

更新日:2021/9/13

 夏といえば、怖い話。小説や漫画、映画、YouTubeなどで、ホラー作品を楽しんでいる人も多いだろう。そんな人たちにオススメしたいのは、ホラー絵本。「絵本は子どものもの」などと思う人もいるかもしれないが、侮れないのだ。絵本の中には、子どもだけではなく、大人をも震撼させるような作品も少なくない。そこで、大人もハマるに違いないホラー絵本をご紹介しよう。「ホラー絵本は初心者」という人も「新しい本を探したい」という人もぜひ参考にしてみてほしい。

『しんでくれた』(谷川 俊太郎, 塚本 やすし/佼成出版社)

『しんでくれた』(谷川 俊太郎, 塚本 やすし/佼成出版社)

子どもに独占させるのはもったいない!トラウマ級のホラー絵本

 毎月数え切れないほどの点数が刊行されている絵本だが、それを子どもだけに独占させておくのはもったいない。特に、ホラー絵本の中には、大人も思わず悲鳴をあげてしまうような恐ろしい作品がたくさんある。この記事では、選りすぐりのホラー絵本5作を紹介。谷川俊太郎、恩田陸、京極夏彦、鈴木のりたけ…。選出された作品の作者名を見るだけで、あらゆる著名な作家たちがホラー絵本を手掛けていることが伺い知れるだろう。心にズッシリ重たさが残る絵本、読むものを狂気に誘う絵本、カフカの不条理小説を思わせるような絵本、ちょっぴりエロティックで幻想的な絵本…。なかには「子供向けの絵本でここまでやっていいのか!」というショッキングな内容の絵本だってあるのだ。


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『ばけねこ (おばけ話絵本 5)』(杉山 亮, アン マサコ/ポプラ社)

『ばけねこ (おばけ話絵本 5)』(杉山 亮, アン マサコ/ポプラ社)

猫も昔は“こわい動物”だった……大人も子どもゾっと楽しめる「おばけ話絵本」シリーズ『ばけねこ』

 今でこそ猫は“かわいい動物”代表のような顔をしているが、ほんの数十年前までは“こわい動物”として睨みをきかせる存在だった。年老いた猫は化け猫になって人に仇するとされ、夏ともなれば放映される化け猫映画などでは、血まみれの巨大猫が人を食い殺すのは定番中の定番だった。そんな“こわい方の猫”を懐かしく思い出させてくれるのが『ばけねこ』(杉山亮/ポプラ社)だ。小さな村に住む女の子は、いなくなってしまった飼い猫のタマを探して、「入った者は二度と戻れない」という“ねこみみ山”に向かう。化け猫話は、時として残忍な結末を迎えるものもあるが、本書はゾッとする場面もありながらも結末は心温まるもの。繊細なお子さんでも安心して読める一冊は、「ホラーは好きなんだけど、トラウマ級なのはちょっぴり怖い…」という大人にもオススメできる作品だ。



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『怪談えほん (1) 悪い本』(宮部 みゆき, 東 雅夫, 吉田 尚令/岩崎書店)

『怪談えほん (1) 悪い本』(宮部 みゆき, 東 雅夫, 吉田 尚令/岩崎書店)

宮部みゆきが誘う、人の心のダークサイド 怖い絵本ブームの原点となった1冊

 ここ数年、夏になるとホラー絵本が書店の本棚を賑わせているが、そのブームの火付け役になったのが、岩崎書店の「怪談えほん」シリーズだ。「良質な本物の怪談の世界に触れてほしい」との思いから誕生した同シリーズは、当代の人気作家が本気で怪談を書き下ろし、子どもにも大人にも好評を博している。なかでもシリーズ第1作目の絵本『悪い本』(宮部みゆき:作・吉田尚令:絵・東雅夫:編/岩崎書店)は、『模倣犯』や『ソロモンの秘宝』などの作品で知られる宮部みゆきが文章を手がけた名作。描かれるのは、とある本の“一人称語り”。宮部みゆきの研ぎ澄まされた文章が、まるで催眠術のように読者の心の底にじんわりと染みこみ、吉田尚令による絵が、恐ろしさに拍車をかけていく。人の危うい内面と向き合っていくこの作品は、子供も大人も一度は読んでおきたい、ホラー絵本の傑作なのだ。



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『怪談えほん (3) いるの いないの (怪談えほん3)』(京極 夏彦, 東 雅夫, 町田 尚子/岩崎書店)

『怪談えほん (3) いるの いないの (怪談えほん3)』(京極 夏彦, 東 雅夫, 町田 尚子/岩崎書店)

この怖さ、まさにトラウマ級! 京極マジックが炸裂した怪談えほん『いるの いないの』

 さらに「怪談えほん」シリーズの中でもトップクラスに恐ろしいと評判なのが、京極夏彦『いるの いないの』(京極夏彦:作・町田尚子:絵・東雅夫:編/岩崎書店)。ネット上にでは、「大人が読んでも怖い」「トラウマ級」といった、悲鳴にも似た感想が散見できる。主人公は、おばあさんの家で暮らすことになった少年。とても古いその家は、高い天井には梁がわたっていて、その上には窓からの明かりも届かない暗がりが広がっている。ある日、天井の上を眺めていた彼は、思いがけないものを見てしまい…。読者を疑心暗鬼に陥らせる京極夏彦の言葉のマジック。そして奇妙に歪んだ角度で描かれる町田尚子の絵が、不安をさらに膨らませていく。夜中でも町が明るくなり、闇に恐怖を感じることがなくなった現代だからこそ、広く読まれてほしい作品だ。



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『怪談えほん (12) おろしてください』(有栖川 有栖, 東 雅夫, 市川 友章/岩崎書店)

『怪談えほん (12) おろしてください』(有栖川 有栖, 東 雅夫, 市川 友章/岩崎書店)

有栖川有栖が初めて手がけた絵本『おろしてください』がコワおもしろい

「臨床犯罪学者・火村英生」シリーズなどで絶大な人気を誇るミステリー作家・有栖川有栖が文章を手がけた『おろしてください』(市川友章:絵、東雅夫:編/岩崎書店)も「怪談えほん」シリーズの傑作のひとつだ。主人公は道に迷ってしまった少年。家に帰りたいと乗り込んだ列車に乗り込むのだが、トンネルを抜けたところで、彼は、恐ろしいことに気がつき…。降りたくても降りられない、逃げ出そうにも逃げ場がない。鉄道ファンとしても知られる有栖川有栖が、鉄道にまつわるネガティブな妄想を膨らませ、気鋭のアーティスト・市川友章がその光景を不気味かつユーモラスたっぷりに描き出す。子どもも大人も主人公になったつもりで、ぜひ衝撃の結末を見届けてほしい。



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 一口に「ホラー絵本」といってもバラエティ豊か。有名作家たちが腕によりをかけてたくさんのホラー絵本を手がけ、なかにはトラウマ級の作品まで生み出されているのだから、絵本とはいえ油断大敵だ。暑苦しい夏の夜には、ゾクゾクさせられる恐ろしい絵本を。「次のページを開くのが怖くてたまらない」という恐怖を子どもだけでなく、大人のあなたもじっくり味わってほしい。

文=アサトーミナミ

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