煽り運転の謎を漢和辞典で解く!? 漢字マニア教師×SNS嫌いの女子高生コンビが、漢字の力で事件を解決!?

文芸・カルチャー

公開日:2023/5/11

環司先生の謎とき辞典 チカと文字禍とラブレター
環司先生の謎とき辞典 チカと文字禍とラブレター』(皆藤黒助/ポプラ社)

 学園ミステリには、頭脳明晰なイケメンキャラクターがつきものだ。だがイケメンはイケメンでも愛読書は漢和辞典、特技は一発で目的の漢字を引くこと、ワイシャツの下には必ず漢字Tシャツという、生粋の漢字マニアだったら…。

 そんな漢字大好き教師が“漢字の力”で謎を解き明かすミステリ小説『環司先生の謎とき辞典 チカと文字禍とラブレター』(皆藤黒助/ポプラ社)が、2023年5月9日に発売。著者の皆藤黒助氏はこれまでにも「ようするに、怪異ではない。」シリーズなど、さまざまなミステリ小説を手がけてきたが、“漢字を使って謎を解く”とはいったいどういうことなのだろうか。


 漢字マニアの国語教師と、その相棒となる女子高生・知華が急接近したのは『山月記』の授業でのこと。イケメン教師と騒がれる環司(たまき つかさ)先生からふと「李徴が虎になった理由」を聞かれ、知華は思いつくままに「お酒を飲みすぎたから」と適当な言葉を返してしまう。授業をロクに聞いていなかったことがバレたのか、その後環から放課後に来るよう呼び出されてしまうのだが――。

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 彼が知華を呼び出したのは何も怒るためではない。「李徴が虎になった理由」の回答から、彼女もまた自分と同じ“漢字好き”だと勘違いしたためだ。しかし知華は漢字が好きなどころか、文章を書くこととSNSが大嫌い。それでも構わず漢字愛を語る環に思わず「私は漢字なんて嫌いですッ!」と啖呵を切る知華だったが、彼は不思議そうに首をかしげるばかり。しまいには「では、漢字が役に立つことをキミに証明して見せよう」と、ある事件の謎を漢字の力で解明していく。

 たとえば彼が初めて解いて見せた事件は、煽り運転の謎。なぜ運転手は、道の向こうにお巡りさんが立っていることを知っていたはずなのに煽り運転を行ったのか。知華からこの話を聞いた環はおもむろに漢和辞典を取り出し、まず「煽」の掲載ページを開き始める。

 そして「音読みは『セン』。訓読みは『あおる』『おだてる』『おこる』など。その意味は字の右側にある『扇』という漢字の意味と非常に近く…」と説明しつつ、今度は「扇」の掲載ページに目を向け、やがて「扇」から転じて「扉」に着目していく。

 ここからどう謎の解明に繋がっていくのか、真相は自身の目で確認してもらうとして、環から言わせると「我々人が漢字を操っているのではない。漢字が我々を操っているのだ」「故に、人間が考えつくことの真相は全てここ(漢和辞典)に載っている」とのこと。宣言通り、漢字の力を使った謎の解明には、多くの読者が驚かされるだろう。

 ちなみに『環司先生の謎とき辞典』のカバーイラストを手がけたのは、イラストレーター兼デザイナーのみっ君。伊東歌詞太郎氏の『家庭教室』や、涼木玄樹氏の『誰かのための物語』のカバーイラストを手がけた人物であり、自身のTwitterで「読んだ後、漢字や言葉についてもっと知りたくなる青春ミステリです!」と同作を評していた。

 漢字マニアというユニークなキャラクター・環の魅力、知華との漫才のような掛け合いとテンポの良いストーリー展開、そして漢字にまつわる知識が満載の『環司先生の謎とき辞典』。同作に触れれば、きっと読んでいるこちらまで漢字を好きになるに違いない。

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