3年前に書かれた乃木坂46・高山一実さんの初短編小説『キャリーオーバー』

文芸・カルチャー

2018/12/4

 僕は定期的に新世代ジャンボの口コミをネットでチェックしていた。
《感情機能いらねー。うちの宝くじうざすぎて破いたったww これで当選してたら泣けるんだがwww》


 3万円で買ったものを破くなんて、そんなもったいないこと、僕には考えられない。目を瞑ると、100億という膨大な金に包まれた自分がくっきりと浮かんだ。幸せな顔をしている。大金を持つと、それをどこからか嗅ぎつけ、たかりに来る奴がきっといる。そいつに貧乏な奴をどう思うか聞いてみよう。格下に見るような態度を見せた瞬間、残虐な方法で始末してやるのだ。フフッ……。

 目を開けると、100億円予備軍はこっちを向いていた。

『おいらは……君の味方だよ。』

 聞こえたのに、その言葉を無視した。そのあと再び目を閉じても、何も浮かばなかった。
 
 

 宝くじが来てから二週間が経った日、母さんは死んだ。この世でたった一人の家族がいなくなった。ずっと病気を患っていることは知っていたが、まさか手の施しようがないレベルまで悪化していたとは。うちには治療をするお金すらなかったのか。いや、きっと母は自分には一切お金を費やさなかったのだ。僕の学費、家賃や食費、そして父の残した借金の返済に稼ぎをすべてつぎ込み、通院を怠ったのではないか。母が命がけで創ってくれた生活。それを貧乏だと馬鹿にされ、いじめられ、暴行され、生きることにただ必死だった僕は、母さんの苦労に目を向けられなかった。金があれば……助けられた命。金がないと……金がないと……。

 机の一番上の引き出しに、母は、手紙を遺していた。
 
 
 

息子へ

 お母さん、あなたに贅沢をさせてあげられなかったこと、本当に申し訳なく思っています。沢山の我慢をさせてしまったでしょう。本当にごめんなさいね。お母さんを恨んでね。周りの人は大切にするのよ。優しくしなさい。そうすればきっと……きっと幸せになれるわ。あなたと過ごせた日々が幸せでした。ありがとう。

母より
 


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