「常に磨いてないとすぐに錆び付く鉄の玉の漫画人生」 自伝を超越した「超自伝」車田正美インタビュー〈後編〉

マンガ・アニメ

2016/1/20

藍の時代-一期一会-
(車田正美/秋田書店)

 車田正美先生の「漫画道」を描いた超自伝『藍の時代-一期一会-』。前編では漫画家デビューを果たしたところまでを、先生自ら解説していただいた。今回はいよいよ本格的に連載を始めるエピソードが語られるが、一体どのようにして今日の栄光を掴んでいったのか。「車田イズム」の原点がここにはある!

●第6話、第7話

もうひとりの親友・トシこと中山歳男はヤクザの道を歩んでいた。一方、東田は新作のネームに苦しむ日々。そんなある日、何気ない日常の風景から、自らの運命を変える作品の着想を得る。トシと東田、ふたりの道はハッキリと分かれていってしまった──。

─このエピソードで描かれているトシという人物は……。

「もちろんいたよ。でも作品に出てくるトシほどカッコよくはなかったけど。幼馴染でさ、根はいいやつだったんだよ。俺が漫画やってるのを知ってるから『頑張れよ』って言ってくれたり、デビュー後にくすぶってたら『(漫画で)全然出てこねえじゃねえか』って言われて、殴り合いのケンカしたりね。その辺はリアルなエピソードだな」

─ここからいよいよ『リングにかけろ』(自伝では『リングにほえろ』)の話になるんですが、姉弟がボクシングをしている姿から着想を得るシーンが描かれています。

「まあそこは創作だよね。司馬遼太郎の『竜馬がゆく』とか、いろいろなものから得た知識を総動員してあの形になったのよ。20歳頃から本とか読み始めて。それまでは漫画くらいしか読まなかったのにな(笑)」

─エピソードでは壁村編集長からのアドバイスという形で描かれていますが、実際にアドバイスはあったんですか?

「誰にも言われたことはないね。やっぱり自分自身で、いろんなものを吸収しなけりゃダメだって思ったよ。ただ、本を読んで、映画を見て、誰かの話を聞いたとして、それがそのまますぐに使えるわけじゃない。一度、自分の中に沈めて、咀嚼して出さなきゃいけない。そのまま出したら盗作になっちゃうし、そもそも面白くないだろう。自分なりの味付けをして出すから、読者も納得するわけよ」

─編集長がPTAからクレームを受けているシーンがありましたが、そういったことはありましたか?

「いや、俺の作品に関しては聞いたことがないな。でもジャンプの作品は結構、槍玉に挙げられてたよね。そもそもジャンプの漫画は最初、エロと暴力で売ってたんだから、少年漫画で(笑)。その時点で良い子の雑誌じゃないけど、自分たちの気に入らないものは全て否定するってのも野蛮だよな」

多くの本を読み、さまざまな知識を蓄えていった東田。それが結実して、大ヒット作となる『リングにほえろ』が誕生するのだ

●最終話

『リングにほえろ』で連載を掴んだものの、人気は一進一退を繰り返していた。そんな時、かつて人気漫画家としてもてはやされ、今は凋落してしまった白鳥ルイと再会する。彼から自分の漫画には何かが足りないと指摘され、考え抜いた末に東田がたどり着いた結論とは……。

─かつて人気だった白鳥ルイが、落ちぶれて登場しますね。この人は誰かモデルがいるんですか?

「あれは完全に架空の人物。熱血漫画の対比というか、流行ばかり追っていった者の象徴という感じだな。例えば『リングにかけろ』がヒットすると、他の雑誌でも5対5のバトルものを始めたり、『聖闘士星矢』が当たれば、アニメでも星矢っぽいものが出てくる。結局、2番煎じ、3番煎じってのがこの世界なんだね。まあ当たることもあるけど、そういうのは大体、消えちゃうじゃない。作家というか、エンターテインメントは皆そうだと思うけど、時代の風潮とか流行り廃りに巻き込まれたらダメなんだよな」

─その白鳥ルイに、「君の漫画は何かが欠けている気がする」と言わせています。それはやはり、自分自身が気づいたものなのでしょうか。

「そう、俺自身が気づいたこと。『リングにかけろ』をやってる時に、アンケートで1位を取ることもあるんだよ。でも下がる時もある。その差は何なのかなって考えた時、自分の方向性みたいなものに気づいたのよ。ヘタに人情話とかそういうのを入れずに、娯楽に徹しようと。エンターテインメントで突っ走ろうと思い至ってから、『リングにかけろ』も人気絶好調で進みだしたんだ」

─その考えに思い至ってから「これが最後だと思ってやるんだ」という覚悟で原稿を描きますが、実際にそう思われていたのでしょうか。

「『リングにかけろ』のネームを初めて持って行った時、編集者に言われたんだよ。『車田くんがこれをモノにするかしないかで、今後の人生が大きく変わってくるだろう』と。その真意は、これがダメだったらもうダメだよってことなんだな。だから当たったからよかったけど、当たらなかったら漫画家をやってなかったかもしれない。そういう危機感は、過渡期ごとにあったよ。例えば『リングにかけろ』『風魔の小次郎』とヒットしたけど、『男坂』をやったらコケた。もし次の『聖闘士星矢』が当たらなかったら、漫画家としてはいなかったかもしれない。それを乗り越えてきたから、今があるんだよな」

─常に背水の陣みたいな気持ちで臨まれているということでしょうか。

「それはある。作品というよりは、毎回のネーム1本1本がそうよ。これがダメだったら、読者は認めてくれない、そっぽを向くぞってね。そう思ってやってるから、1本のネームにものすごいエネルギーを使うのよ」

─『藍の時代』のタイトルについてですが、ここに込められた想いを教えてください。

「ピカソの絵に『青の時代』ってあるじゃない。あれにあやかったんだけど、あそこまで天才じゃないからちょっとくすんだ藍色なんだね。あとは昔の少年雑誌はインクの色がいろいろあったんだけど、読者に一番人気だったのが藍色だったということもある。いろいろ意味はあるけど、要は『金の卵』じゃないってことなんだよ。賞に応募してもその他大勢で、名前まで間違えられて(笑)。デビューはボロ紙の十数ページよ。いわば『鉄の玉』で、常に磨いてないとすぐに錆び付く。そういう漫画人生という想いが込められているんだ」

「漫画は娯楽だ」という思いに至り、必死にネームを考える。その1本1本がまさに真剣勝負であり、常に背水の陣なのだ

 常に背水の陣の覚悟で漫画に臨み、読者に渾身のエンターテインメントを与え続けてきた車田正美先生。最後に「熱血画道40周年」を迎えた今の心境と、今後のビジョンはどのようなものなのか、伺ってみた。

─40周年を迎えられたわけですが、今の心境をお聞かせください。

「そんなに大げさなものはないんだけどな。ただ、昔は1本の仕事が終わると酒だの遊ぼうだのと思ってたけど、今はまた次のアイディアが出てきて、すぐに描きたいと思うようになった。だから漫画家は天職かもしれないな。60歳を過ぎても、第一線でやれてるっていうのはね」

─では今後も描き続けるのみということなんですね。

「そう、突っ走るのみよ。今『男坂』と『聖闘士星矢-冥王神話-』をやってるけど、他にも志半ばで打ち切りになった作品はある。そういうのにもキチッと形をつけたいって気持ちはあるよね。あとはもちろん、新作も描きたいし」

─先生の新作、ぜひ見てみたいです。

「アイディアは頭の中にあるんだよ。例えば『藍の時代-激闘編-』とかな。最後に原稿を捨てるじゃない。あの原稿を誰かが拾って、みたいなところから始まるのよ。この漫画界で勝負にいくか、という話。ちょっとゾクッと来ない?」

─来ました! もはや40周年といわず、50周年、60周年と「熱血画道」を突き進んでいただければ、いちファンとして嬉しいです。本日はありがとうございました。

『聖闘士星矢-冥王神話-』をはじめ、現在も連載を抱える車田先生。そのアイディアは枯れる気配など微塵もなく、我々はまだまだ車田ワールドに浸っていられそうだ

取材・文=木谷誠(Office Ti+)