菓子店直行必至! イケメン店主が作る世界中の“至福”のお菓子にうっとり…【お仕事小説コンでグランプリ受賞作】

文芸・カルチャー

2016/3/17

 大ブレイクした「半沢直樹」シリーズを筆頭に、『県庁おもてなし課』(有川 浩)や『ビブリア古書堂』(三上 延)など、テレビや映画の原作として枚挙にいとまがない「お仕事小説」。なじみのない仕事に触れられる、と最近人気の高いジャンルだ。この「お仕事小説」をもっと盛り上げるべく開催された「お仕事小説コン」でグランプリを受賞した作品が、新たに創刊されるライト文芸専門レーベル「マイナビ出版ファン文庫」第一弾の1冊として登場する。

 受賞作『万国菓子舗 お気に召すまま ~お菓子、なんでも承ります。~』(溝口智子:著、げみ:イラスト/マイナビ出版)は、そのタイトルからも想像できるように、お菓子屋さんの物語だ。とはいえそんじょそこらにある平凡な「お菓子屋さん」ではない。舞台は食通の街として名高い博多。ドイツ人の血を引く30代と思しき超イケメン店主、荘介は「オーダーされたお菓子は必ず用意する」をモットーに、洋菓子だろうが和菓子だろうが、はたまた中華、トルコ…と古今東西どんなお菓子でも「最高」の一品に仕上げてしまう超一流の腕を持つ 。

 けれど生来の放浪癖のせいなのか、日中はほとんど店にいない。朝ショーウインドウに並んだお菓子が売り切れたら閉店するしかないという、なんとも商売っ気のないお店なのだ。こんな曲者店主を元気いっぱい舵取りするのが、これまたお菓子大好きで、ダイエットはしたいけれど店主が作るお菓子の味見が生きがい、というアルバイト店員、久美。そして持ち込まれる、無理難題、けれど客の思い入れがたっぷり詰まったオーダーの数々…。一つのお菓子をめぐる物語が次々に展開される、まさにお菓子好きにはたまらない小説だ。

 個性的な登場人物たちが交わす掛け合いは明るくテンポがあって、何よりも生きが良い。会話に程よくちりばめられた「博多弁」も絶妙なスパイスだ。一見漫才っぽいのだが、そこにはお菓子に対する愛情や相手を思いやる優しさもふんわり感じられて、なんともほのぼのしてしまう。そしてこの作品をさらに面白くしているのは、そのオーダーに隠された客の思いを、客の様子からひもといていったり、廃業した店が出していた幻のレシピを再現していったり、といった推理小説風の味付けがされていることだ。登場するお菓子はどれも、オーダーされるだけの大切な物語、客のかけがえのない “思い出”が秘められていて、それが明らかになったとき思わずほろり、胸が熱くなってしまった。

 一話完結のオムニバス形式だが、実はそれぞれの物語の中で荘介自身にまつわる謎がチラチラと暗示される。つまりすべての物語はその裏に隠された「謎」につながる布石になっていて、一度読み出したらやめられなくなってしまう。まるで食べだしたら止まらない禁断のお菓子のように。

 お菓子が作り上げられるまでの描写のこまやかさ、鮮やかさはもちろん、出来上がったお菓子のどれもおいしそうなこと! 実際に食べてみたくなってしまうものばかりだ。お菓子にまつわるウンチクもたっぷりで、読み終えると思わずお菓子屋さんに直行したくなる。ダイエット中には要注意な一冊かも。

文=yuyakana