ローン返済、2人の子供のため……「売春格差」に直面する熟年風俗嬢たちの酷すぎる現実

暮らし

2016/3/17


『熟年売春 アラフォー女子の貧困の現実』(中村淳彦/ミリオン出版)

「女性たちは意に反して性行為を強要、撮影されて、奴隷のような状況に追い込まれている。深刻な人権侵害だ」

 朝日新聞に掲載された伊藤和子弁護士をはじめとするNPO法人ヒューマンライツ・ナウの調査結果が波紋を広げている。若い女性らがアダルトビデオへの出演を強制され、拒否すれば多額の損害賠償を請求されるなどの被害を訴えているという。

 被害女性たちには同情するし、適切な対処を願うばかりだが、大多数の業者はビジネスとして法令を遵守し、まっとうな営業活動を行っているのもまた事実である。近年はテレビ・バラエティでも華々しい活躍を見せるAV女優は、女性たちの間で「憧れの職業」にもなっている。実際、AV関係のモデルプロダクションには応募が殺到しているといい、面接を突破できるのは若くて容姿端麗で性格に問題がない、選ばれた一握りの美少女のみという超難関だ。「奴隷のような状況」で働かされる女性はそれだけの価値がある証拠で、「SMAP解散騒動」に見られるように、組織に利益をもたらす売れっ子が辞めたくても辞められないのは、どの業界にも見られる問題だろう。

 女性の供給過多は性風俗でも同じで、今はもう、性を売れば誰もが稼げる時代ではなくなった。アダルト求人誌は声高に高収入を煽るが、その裏には「売りたくても売れない」女性がひしめいている。とりわけ性サービスに従事する女性にとって大きな武器といえる「若さ」を失った30代以上の人妻・熟女は、タレントレベルの美熟女でなければ売り物にならない、というのが実情である。そんな熟女たちの「売春格差」を描くのが『熟年売春 アラフォー女子の貧困の現実』(中村淳彦/ミリオン出版)。

 50代のベテラン風俗嬢は、加齢とともに30年続けた風俗仕事に翳りが見えはじめた。若い頃の月収は50万円ほどもあったが、もう雇ってくれる風俗店もないという。現在は「かつての常連客」を相手にセックスを売って得る月10万円未満の収入で、蒲田の安アパートに一人暮らしている。「風俗は楽に稼げるから」と自堕落な生活に甘んじ、貯金はなく、結婚もしなかった。終わらない不況が日本を変え、彼女の人生設計を狂わせた。

「非正規労働が蔓延したことによる収入減に加え、婚姻率の低下や家族や地域の崩壊が重なり、今の日本は本当に誰がカラダを売っているかわからない状態といえる。(略)風俗嬢になりたい女性が増えたからと、需要や市場が拡大するわけではなく、女性が増えれば競争が起こり、誰かが風俗市場から追いだされることになる」

 夫の浮気で離婚したシングルマザーは女手ひとつで2人の子供を育ててきたが、次第に養育費の支払いが滞るようになり、あと数万円足りないだけの生活費のために40代にして初めてのAV出演を決意する。カメラの前でセックスを披露してわずか数万円のギャラを手にし、「もっと出演したいと思った。長男の進学費用もあるし……」と撮影の様子を振り返る。

 50代の人妻は、住宅ローン返済のために夫に隠れて鴬谷の熟女デリヘルに勤務する。1日に付く客はせいぜい1人。1万円に満たない日給を稼ぐためにカラダを売るのは、ダブルワークしているパートの収入だけじゃとても生きていけないからだ。「結婚したことも家を買ったことも後悔していないけど、住宅ローンがなければ風俗していない」と、淡々と語る。

 普通に働いても普通の生活が送れない、現実。性産業は女性の最後のセーフティネットとしての側面が大きかったが、近年は充分に機能していない、と著者は警告する。風俗嬢は日本全国に30万人以上いるという。「カラダを売っても生きられない」としたら、彼女たちに明るい未来はない。

文=谷口京子(清談社)