毒か薬かは人間次第。猛毒ランキング1位は…「青酸カリ」じゃないの? 事故や事件と毒についても語る1冊

科学

更新日:2020/5/7

 ちなみに、1995年のオウム真理教による地下鉄サリン事件で、一躍有名になった「サリン」は、ランキング13位。第1次大戦時に行われた化学兵器開発から発展してできた人工物だ。吸うと、筋肉が異常な興奮状態になり、内臓を含む体の動きが失調、死に至る。現在でも当時の後遺症で苦しむ被害者が数多くいることを、忘れてはならない。

 また、現在特に社会問題になっている合成ドラッグだが、これも毒だ。毒なのに、なぜ禁止にできないのだろうか? それは、法律上、成分は合法なので、取り締まりが難しいからだという。法律上禁止されている成分が入っている商品ならば、すぐに摘発することはできるのだが、業者はそれを別の似た成分に入れ換えて販売しているのだ。しかも、売る人はそれを試し飲みしているわけではないので、買う人が最初の試飲者ということに。飲んでみるまで、どのくらい危険なものかはわからないのだ。

 毒は人間の敵! と思って読んでいると、著者のこんな言葉が目に入った。「毒は薬、薬は毒」。つまり、人間が毒をどのように利用するかによって、有用にでも害にでもなりうるということだ。例えば、毒草のトリカブトに含まれるアコニチンという物質は、強心剤として用いられている。また、ダイナマイトの原料、ニトログリセリンは、狭心症の薬として。特に、動植物がもつ天然の毒は、研究者のあいだでは薬という認識の方が強いのだとか。毒か薬かは人間次第ということだ。

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「青酸カリ」だって、実は工業的に重要な物質だ。毒性、有用性ともにまったく同じ「青酸ソーダ」(シアン化ナトリウム)が、金・銀・プラチナなどの金属メッキの製造や、金鉱山での金の選別に用いられているのだ。この「青酸ソーダ」は、日本だけで年間3万トンが生産されている。つまり、あるところにはある、結構メジャーな物質なのだ。これを知ると、「青酸カリ」が毒ランキング1位ではなくても、手に入りやすいという意味で殺人シーンに多用されるのもうなずける。私たち読者が、毒殺シーンといえば「青酸カリ」と思ってしまう理由は、どうやらこのあたりにあるようだ。

 今度推理ものを楽しむときは、出てくる毒にちょっと注目。あなたも名探偵になれるかも?しれない?

文=奥みんす