自分が嫌い…。あなたの「生きづらさ」は病気のせい? 「絆の病」―境界性パーソナリティ障害を克服する方法

社会

公開日:2016/4/22


『絆の病 境界性パーソナリティ障害の克服』(岡田尊司、咲セリ/ポプラ社)

 「自分が嫌い」「生まれてこなければよかった」「死にたい」。自分でいることの不快感や空虚感から逃れるために、リストカット、過食、拒食、セックス依存、援助交際、万引き…。ついには、自殺行為を繰り返し、周囲の人を振り回す――。精神医学では、こうした病態を、境界性パーソナリティ障害と呼んでいる。『絆の病 境界性パーソナリティ障害の克服』(岡田尊司、咲セリ/ポプラ社)は、この病の当事者である咲セリさんと精神科医岡田氏との対談集。本書から、症状と治療の実際を見てみよう。

 現在30代の咲さんは、自分の育った家庭を次のように振り返る。「当時のことで、いま思い出せるのは、つねに家のなかははりつめた状態だったなあと、いつも緊張していて」。父親がよく怒る人で、母親がいつも泣いていたという。親から愛されているという実感がもてず、“安心できる居場所がない”“こんな価値のない自分が幸せになれるはずがない”と思いながら育ったそうだ。20代前半で実家を出て現在の夫である男性と同棲を始めるが、この頃から現れるようになったのが、次の症状だ。オーバードーズ(薬物の過剰摂取)、リストカット、彼への暴力、掃除をしなければいけないという強迫観念、常にまとわりつく不安感、幻覚、など。

 ネットの情報を見て自分の行動は病気のせいかもしれないと思い、精神科のクリニックを訪ねた咲さん。だが、性格のせいにされたり、薬を大量に処方されるだけなど、まともに取り合ってくれる医師になかなか出会えない。一時は絶望しかけた咲さんだが、現在は理解ある医師や夫の愛情に助けられ、webデザイナーとして活躍中だ。精神科の病気は、症状が出にくくなったからといって完治という言い方はしない。病気と上手く付き合って、生活を安定させ、少しでも幸福感を得られることが目標だ。彼女の前進に役立った治療方法の中から、まずは自分ひとりでできる2つを紹介しよう。

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1. 自分のリズムを知る

 毎日の自分の行動を表にして記録。その時の気分やコンディションも記入。記録を始めてからひと月ほどで、自分のリズムが見えてくるという。咲さんの場合は、睡眠不足が大きく気持ちに影響するのがわかったそうだ。また、疲れていたら休憩を入れる、外出先からはなるべく早く帰る、など、自分なりの「無理をしない」方法がわかったとも。

2. 自分をほめる

「もっと自分を愛したら」といわれても、「こんなダメ人間の、どこを、どんなふうに愛すれば」と思ってしまう方、案外多いのではないだろうか。いきなり愛することは難しいが、自分のささいなことをほめることなら、ハードルは低いだろう。朝起きられたら、「今日も生きて起きられたね。すごいね」といった具合だ。咲さんは、ほめることを始めてから、自分が今ここに生きていることや、自分の行動のひとつひとつが愛おしくなったそうだ。

 対談相手の岡田医師は、境界性パーソナリティ障害を「絆の病」と呼ぶ。それは、この病が、幼いころ親との絆を結べなかったことに端を発するだからだ。ありのままの自分が受け入れられているという安心感を得られない子どもは、認めてもらうために努力をする。しかし、もうこれ以上頑張れない、と限界になったとき、頑張ることでなんとかバランスをとっていた心の安定が崩れ、症状が出るのだという。だから、他者に、“頑張っていない自分”“駄目なところも含めた自分”を受け入れてもらう体験が、治癒に大きく貢献するという。そこで、他者と一緒に行う治癒ワークもひとつ紹介しよう。

「生まれ変わりの儀式」

 咲さんによると、「生まれ変わりの儀式」とは、夫のおしりから自分が卵で産まれるイメージなのだという。具体的には、朝起きたとき、夫のおしりの上に咲さんの頭を載せて、今日の卵がどんなふうに生まれたのかを話してもらう。例えば、今日の卵の色や名前など。最後に自分が卵から出てくる演技をして、「生まれてくれてありがとう」といってもらうのだとか。いわばちょっと恥ずかしい遊びなのだが、この病の患者が苦手とする「甘えること」を身に付ける効果があるようだ。咲さんは、このワークで、自己否定感が減ったという。

 毒親の話題が尽きず、親や家族を含めた他者との絆をもつのが難しい昨今の世の中。この病名の診断を受けていなくても、多かれ少なかれ「生きづらさ」を抱える人は多いだろう。最後に、今つらいあなたに、咲さんの言葉をお贈りしよう。

きっと生きづらさを抱える誰もが、自分を縛りつけている何かに気づく――そしてそれがほどけるきっかけがあると思います。(中略)その日まで、手探りで、いろんな方法を試してみることができればいいのではないでしょうか。

文=奥みんす