【ダ・ヴィンチ2016年6月号】映画『64-ロクヨン-』公開!「横山秀夫」特集番外編

特集番外編2

更新日:2016/5/21

【ダ・ヴィンチ2016年6月号】映画『64-ロクヨン-』公開!「横山秀夫」特集番外編

横山作品が映像関係者に愛される理由を探りました 

編集I

 映画『64-ロクヨン-/前編』が5月7日(土)に公開になった。見せ場の直後に来る前半ラストシーンはストーリーが大きくうねるところなので、前編を観た方は後編の公開日が本当に待ち遠しいことだろう。

 

 今回、横山秀夫さんの特集をやると決まったとき、著書や過去のインタビューを読み返しながら、どんな切り口で構成するかを考えた。そこで驚いたのが著書の映像化率の高さ。横山さんは、新聞記者、マンガ原作等の仕事を経て、1998年に『陰の季節』で作家デビュー。その後、体調を崩され、約7年間のブランクがあるので、作品数自体はそんなに多くはない。が、単著については『影踏み』以外の作品はすべて映像化されているのだ。『クライマーズ・ハイ』『64(ロクヨン)』いたっては、ドラマ化、映画化、ともにされているし、それぞれの映像化作品の評価もきわめて高い。わかりやすい勧善懲悪ものでもないし、警察が舞台であってもいわゆる刑事主人公の事件ものでもなく、組織の中で苦悩・葛藤する人間を描き倒す、読み応えはありながらも一見地味なストーリー。もともと横山さんの大ファンだったので、私自身、小説としてのおもしろさは十分感じていたのだが、映像関係者は、横山さんの作品のいったいどんなところに魅力を感じるのか。横山さん自身が「映像化しにくいように書いている」と語る小説をどんなふうに映像化しているのか――。それが探りたくなった。

 映画『64-ロクヨン-』の主演・佐藤浩市さんは、これまで2作の横山作品に主演している。本誌の横山秀夫さんとの対談では、過去の出演作も振り返り、「もがいて這いつくばって、一生懸命に出口を探して、そこに向かって進む」――そうした覚悟が必要であり、「組織の中で個人がのたうつ姿がたまらない」と、その強烈な魅力について語っている。佐藤さんのほかにも、これまで横山作品に関わってきた、内野聖陽さん、仲村トオルさん、三浦友和さんや、原田眞人監督、水谷俊之監督らが、とっておきの映像化エピソードを明かしてくれている。自分の担当書籍の映像化を狙いたい編集者としては、どんな作品が映像の創り手たちの心に火をつけるのか、それを聞かせていただいたようで本当に身になるインタビューだった。

 そして、横山秀夫ファンにぜひとも読んでいただきたいのが、ロングインタビュー。『64(ロクヨン)』を完成させるまでの苦労話は、これまでもさまざまな場で語られてきたが、作家デビューを見越して会社をやめてしまい、フリーライターやマンガ原作の仕事をしていた時期の話が個人的には非常に興味深かった。『少年マガジン』の編集者たちにしごかれながら、エンターテインメントを突き詰めていったあの頃があるから、今の横山作品のおもしろさがあるように思う。

 2003~2004年ごろ、『クライマーズ・ハイ』や『臨場』のインタビューで、横山さんのお仕事場にうかがったことがある。今回、愕然としたのが、あの時期はあまりに仕事が忙しく睡眠時間を削って執筆をしていたので、取材を受けながらも「自分が何をやっていたのか、何を考えていたのか、夢の中の出来事でよく覚えていないのだ」とお話くださったことだ。横山さんは非常にサービス精神旺盛な方で、取材にうかがうと、ユニークな執筆裏話をいろいろ披露してくださって、本当にそれが楽しみだったから、あの時期、横山さんがこうした状況にあったとはまったく予想がつかなかった。でも、今回のインタビューで、時間的にも精神的にも追いつめられた状態の中で取材を受けてくださっていたことを知り、そんなところでもエンターティナーであろうとした、その心意気には心底打たれた。

 横山さんは、いま3本の単行本未収録の長編(『ノースライト』『広域』『孤灯』)を抱えている。「すべてを上梓するまでに2年も3年もかける気はありません。『ノースライト』については2016年中に必ず出します」と、最後に力強く宣言。『64(ロクヨン)』のあとの新刊を待ち焦がれていたファンにはいちばんうれしい情報だったに違いない。