【鳥飼茜さん×浅野いにおさんが結婚!】「性を意識するから生きづらくなる」鳥飼が描く“女のリアルな世界”に、浅野がおそるおそる足を踏み入れる……【前編】

アニメ・マンガ

2016/5/14

女性が抱く本音を赤裸々に描く『地獄のガールフレンド』(祥伝社)や、性の不平等と真っ向から向き合った問題作『先生の白い嘘』(講談社)で知られるマンガ家・鳥飼茜さん。このたび、彼女が手掛ける作品の単行本が3カ月連続で刊行されることを記念して、下北沢『B&B』でトークショーが開催された。対談相手として選ばれたのは、人気マンガ家の浅野いにおさん。いま注目を集めるマンガ家ふたりはいったいどんなトークを繰り広げたのか、イベントレポートをお届けしよう!

同世代作家の出会い

「自分のイベントに人が集まるんだろうか」と不安がっていた鳥飼さんを、浅野さんがなだめるカタチで対談はスタート。親しげで軽妙なやり取りが交わされるが、意外にもふたりの出会いはつい最近だったのだとか。

鳥飼茜さん(以下、鳥飼):『地獄のガールフレンド』を描く前までは、講談社でしか仕事をしたことがなくて、その後初めて新しい出版社で描かせてもらうようになって、小学館の人ともつながりができたんですよ。それで呼んでもらった謝恩会で浅野さんとお会いしたんですけど、最初に見た時は『あ! 芸能人だ!』って思って、一緒に写真撮ってもらったんですよね(笑)

浅野いにおさん(以下、浅野):そうだったね。実際、マンガ家って横のつながりをしっかり持っている人と、完全に断絶している人がいるんだよ。鳥飼さんは、それまでそういう集まりに行く機会はなかった?

鳥飼:誘われなかったですもん。

鳥飼さんの発言に、「もっと自分から積極的に行かないとダメだよ」と苦笑いする浅野さん。一見対照的にも見えるふたりだが、同世代ということもありすぐに意気投合したようだ。しかも、偶然にも若い頃に感銘を受けた作品が同じだったという。その作品が、『西荻夫婦』(やまだないと/祥伝社)。ふたりはこの作品に相当な思い入れがあるよう。

鳥飼:子どもがいない夫婦が、西荻のちょっとオシャレな家に住んでるんですよね。ふたりが商店街に行ったり、高架下で野菜を買ったり、とにかく描写がリアルで、土地勘がない人でも西荻ってこういう街なんだってわかるようになってる。しかも、背景に写真を入れる手法は、やまだ先生が走りですよね。

浅野:そうそう。出てくる夫婦が本当に実在しているかのようなリアリティをもって描かれてる

鳥飼:旦那さんはマンガ家っていう設定なんだけど、すごくだらしなくて自分勝手なんですよね。散歩の途中で勝手に家を借りちゃったり。ふたりきりで部屋にいると息が詰まる、みたいなことをほざくの(笑)。

浅野:それを聞いて思ったんだけど、鳥飼さんと僕とでは、どのキャラクターの目線で読んでいたかがまったく異なるんだよね。僕は完全に旦那さんに感情移入しながら読んでたし、なんとなくああいう生き方がしたいなって憧れもあった。だから感想もまったく違うんだよね。そこで性差を感じたんだよ。

男と女で読み方が違う

“マンガを読む”という行為から、男女の性差を感じたと話す浅野さん。そこから話は、鳥飼さんの作品が持つ、“怖さ”へとシフトしていった。

浅野:鳥飼さんの作品の話になるけど、最初に『先生の白い嘘』を読んだ時、『怖い!』って思ったんだよね。シリアスな話で、キャラクター全員が割りと思い詰めてるでしょ? しかも、男が悪者として出てくる感じもあるから、男性として身につまされる内容だった。さらに、『地獄のガールフレンド』では、出てくる女性がみんな自立してるから、男なんていらないのかなって寂しく感じたんだよ。

鳥飼:『先生の白い嘘』は結構ホラーっぽく描いている部分があるけど、『地獄のガールフレンド』はのびのび描いてるつもりで。男の人に何か物申すつもりもなくて、単純にみんなが生きやすくなればいいなって思いながら描いてる。だから、私の作品を読んで『怖い』と思ったっていうのが新鮮で。

浅野:正確に言うと、怖いというよりも『疎外感』に近いのかも。女性だけで完結してて、男性目線で読むと、自分がまったく介在する余地がないというか。もちろん、『先生の白い嘘』に比べるとポップで読みやすいんだけど、これは女性のためのマンガって感じがするんだよね。

鳥飼:そもそも、『地獄のガールフレンド』は、女の人が楽になれればいいなと思って描いてはいるんだけど、突き詰めると、別に女性だけのことではないんです。人って、成長していくうちにいろんな役割がひっつけられていくでしょ? 女として、母親として、みたいな。それはもちろん男の人も一緒。で、私は、そういう余計なものをそぎ落としていって、小学生の頃みたいに一番素に近い状態で生きていくことが楽なんじゃないかなって思ってるんです。浅野さんの言う疎外感っていうのも、『女性に必要とされていない』っていう男性性の否定なんだと思うんだけど、結局それが男の人を苦しめる原因でもあると思う。

性を意識することで生きづらくなる

鳥飼さんの作品が持つ“怖さ”から、話は男性性、女性性といった役割が持つ重圧へと展開。それらを取っ払うことで、誰もが生きやすくなる、というのが鳥飼さんの考えなのだとか。それには、浅野さんも「確かにそうかもしれない」と納得した様子。そして、浅野さんは『地獄のガールフレンド』第2巻を読んだ時の感想を語りだした。

浅野:2巻になると、また印象が変わるよね。なんでかというと、加南に彼氏ができるから。加南と彼氏は立場が完全に逆転してる感じはあるんだけど、それでも一応他者を求める姿を見えたから安心したんだよ。1巻は完全に自立しちゃってたもんね。

鳥飼:1巻を読んだ人が、『彼氏がいなくても生きていける女性同士の新しいカタチだ』って感想を呟いてたんですけど、私自身はどっちでもいいと思ってるんです。恋愛抜きで生きていってもいいし、好きな人ができたら付き合えばいいしって。だから1巻を読んでそういう『ひとりで生きる女性のストーリー』を期待してくれている人が2巻を読んだら、ちょっとガッカリするかなって。私、若干やっちゃったかなって思ってます(笑)。

鳥飼さんは、周囲が求めてくれているものよりも、自分が素直に感じたこと、思ったことをマンガにしていきたいという。時にはそこで悩んでしまうこともあるらしいが、浅野さん曰く、「それはマンガを作るうえで常に起こる呵責だから仕方ないこと」なのだとか。周囲の期待と、自分が生みだしたいもの。その二極に悩まされるマンガ家という職業は、なんて難儀なものなのだろうか……。

後編に続く→//ddnavi.com/news/300843/

 

【著作紹介】

地獄のガールフレンド

鳥飼茜 祥伝社

友達ゼロ同士の女3人、同居開始! “お母さん”にモニョるバツ1シングルマザー・加南(31)、 セカンド処女のまじめOL・悠里(28)、 超モテ股ゆる女・奈央(36・家主)は 一軒家でルームシェアを始めた。 いい加減なチラシのもとに集った 3人の共通点は「友だちがいない」。 女たちの食卓では 非モテの根源、オバサン問題、 受け身の性欲、“女の人生”比べ、 ……とおしゃべりが止まらない! 世間におののく女たちに捧ぐ、 デトックス同居物語!

先生の白い嘘

鳥飼茜 講談社

原美鈴は24歳の高校教師。生徒を教師の高みから観察する平穏な毎日は、友人・美奈子の婚約者、早藤の登場により揺らぎ始める。二人の間に、いったい何があったのか? ――男と女の間に横たわる性の不平等をえぐる問題作、登場!

デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション

浅野いにお 小学館

3年前の8月31日。突如 『侵略者』の巨大な『母艦』が東京へ舞い降り、この世界は終わりを迎えるかにみえた――
その後、絶望は日常へと溶け込んでゆき、大きな円盤が空に浮かぶ世界は今日も変わらず廻り続ける。
小山門出(こやまかどで)、中川凰蘭(なかがわおうらん)、2人の女子高生は終わりを迎えなかった世界で青春時代を通行中!
『ソラニン』『おやすみプンプン』の浅野いにお最新作! 2人の少女のデストピア青春日常譜、開幕。

構成=五十嵐 大