いい靴下は噛んだ後に歯型が残らない!女子に人気の国産靴下トップカンパニー『靴下屋』創業者の成功哲学

ビジネス

公開日:2016/6/28


『靴下バカ一代 奇天烈経営者の人生訓』(越智直正/日経BP社)

 皆さんは「タビオ」という会社をご存じですか。国産靴下のトップカンパニーですが、女性にはチェーン名の「靴下屋」のほうが馴染みがあるかもしれません。

 本書『靴下バカ一代 奇天烈経営者の人生訓』(越智直正/日経BP社)はその創業者、越智直正氏の一代記。御年76 、とにかく明るい、とにかく骨太、とにかく靴下大・大・大好き! どれくらい靴下が好きかというと…なんと「良い靴下は噛めば分かる」のだそう。まじかぁ…と思ってしまうが、これも品質を追求してのこと。

「靴下の弾力を確かめるには噛むのが一番なんですわ。いい靴下は噛んだ後に歯型が残らず、自然と原状に戻りますが、品質が落ちる靴下は噛み跡が残ってしまいます」

 さらには、靴下を噛む時間を延ばすために、水を張った洗面器に顔を突っ込んで息を止める訓練までもしたそうです。

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 かなりのビックリエピソードですが「靴下屋なんやし、靴下のことになると我を忘れるのは当たり前のことやと思うんですけどね」と越智氏は動じません。

「やっぱり変やと思う?」は、はい、ちょっと…。

一生一事一貫(いっしょう・いちじ・いっかん)の靴下人生

 こんな調子で靴下に最大の情熱を捧げる越智氏、その靴下人生は15歳で丁稚奉公に出た日から始まりました。奉公先では苦しいことも数えきれませんでしたが、ここで出会った大将の言葉は一生の宝となったとのこと。「いい靴下を作りたければ、人間を磨け。人格にふさわしい商品しか作れない」この言葉で越智氏は「自分もいい商品を作りたい」と強く願うようになったといいます。

 それからは靴下に「一生一事一貫」の日々。これは、一生を通じて一つのことを貫き通すという意味です。才能がなくても一生懸命に頑張っていれば、仕事が自分を守ってくれる──。そう心に決め、越智氏は仕事に打ち込み続けました。

 苦しかった少年の日から中国の古典を心の糧とし、紆余曲折のすえ28歳で起業してから、経営者として厳しい山を越え続けてきた越智氏。その道程から生まれた印象的な言葉がありました。

「覇道ではなく、王道を歩め」

 王道とは徳や仁義に基づいて組織を治めるもの、覇道とは武力や権謀術数で組織を支配するもの。覇道だけは選ぶまいと越智氏は心に誓っていたそうです。

 創業から10年ほどが経った1970年代後半になると、価格競争の波が靴下業界にも押し寄せてきました。しかしここでも越智氏は王道を貫きます。安売り競争で勝負せず独自に品質を極める。この哲学が結果的に会社を飛躍に導きました。

全力で生きましょうや

 体当たりで数々の試練を乗り越えてきた越智氏。いわゆる苦労人のはずですが、すべてをエネルギーに変えてしまう明るさが本当に魅力的です。

「頭の良しあしなんか関係ない。ベストを尽くすこと。たったこれだけのことを言いたかったんですわ。みなさん頑張ってくんなはれよ。」

 これは越智氏が本書の最後に伝えてくれたメッセージ。ほんものの温かさが、読後にじんわり沁みる一冊です。

文=桜倉麻子