ラノベがやばい!! 新ヒットのキーワードは 異世界、エルフ、嫁、奴隷!?

マンガ

更新日:2016/9/21

 近年ライトノベル周辺ではWEB小説と呼ばれるジャンルが盛り上がっている。「小説家になろう」をはじめとした小説投稿サイトや個人サイトなどに掲載されていた作品を書籍化したもので、『魔法科高校の劣等生』(電撃文庫)、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』(GA文庫)などのビッグヒットも生まれている。

 その一方で、ここ数年ライトノベル界隈でよく耳にするのが「WEB小説以外の新作からヒットがなかなか出ない」という声だ。特に、近年はレーベルの乱立で月間の刊行点数が100点を超え、読者が店頭で何を選んで良いのか迷っている状況もあると聞く。必然的に刊行前からネットで内容を確認でき、読者間の情報交換も盛んなWEB小説に注目が集まりやすいということもあるのかもしれない。

 そんな中、WEB小説以外の新作で久々に複数回の重版を重ねる作品が出てきている。それが、『異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術』(講談社ラノベ文庫、既刊5巻)、『異世界ならニートが働くと思った? エルフの姫を奴隷にして世界を支配させます。』(MF文庫J、既刊3巻)の2作だ。筆者の観測情報ではあるが、前者は2014年12月に1巻が刊行されて現在までに6刷。後者は2015年8月に刊行されて5刷。さらに2016年1月に刊行された『エルフ嫁と始める異世界領主生活 俺の住む島に異世界が来ちゃったんだが』(電撃文庫、既刊2巻)も発売後即重版がかかっている。タイトルには、異世界、エルフ、姫、嫁、奴隷と言った言葉が並ぶ。

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異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術

異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術
むらさきゆきや(著)、鶴崎貴大(画)/講談社
ファンタジーMMORPGクロスレヴェリの内で魔王・ディアヴロとして君臨する伝説のプレイヤー・坂本拓真は、ある日クロスレヴェリそっくりの世界に召喚された。彼の眼前には二人の美少女。一人はエルフ、もう一人は猫耳。自分が魔王(拓真)を召喚したのだと言って譲らない二人を落ち着かせるために、とっさに魔王のふりをする拓真。さらには、身に付けていた魔術反射能力を持つ《魔王の指輪》の効果で、本来召喚獣がつける《従隷の首輪》が二人にはめられてしまう。この世界で圧倒的な力を持つ魔王・ディアブロとして生きることになった拓真の運命やいかに。

 

異世界ならニートが働くと思った? エルフの姫を奴隷にして世界を支配させます。

異世界ならニートが働くと思った? エルフの姫を奴隷にして世界を支配させます。
刈野ミカタ(著)、ねこめたる(画)/KADOKAWA
エルフの王族の血を引く少女・ティファリシアは異世界《万象の楽園》に《英雄》を召喚した。召喚されたのは高校生・崩喰レイジ。しかし彼はやりたいこと以外は一切やらないニートだった。召喚された《英雄》たちはこの世界の覇権を握らんと繰り返される《英雄戦争》に参加することを求められるのだが、レイジが了解するはずもなく、さらには持ち前の機転と詐術で彼女との主従関係までをも逆転させる。出だしからつまづいたティファリシアは《英雄戦争》を勝ち抜くことができるのか?

 

エルフ嫁と始める異世界領主生活 俺の住む島に異世界が来ちゃったんだが

エルフ嫁と始める異世界領主生活 俺の住む島に異世界が来ちゃったんだが
鷲宮だいじん(著)、Nardack(画)/KADOKAWA
人口わずか200人の離島で暮らす高校生・漆畑由太は、ある日浜辺でドラゴンに襲われるハーフエルフの少女・アクセリアと出会う。苦闘の末、現代の機器を駆使してドラゴンを撃退した由太は、迫害を受けた彼女たちの領地が半島ごと異世界から転移してきたことを知る。しかもその領地は問題が山積み。食糧難や健康衛生状態悪化から領民は疲弊しきっていた。偶然の誤解からこの地の領主となった由太がその解決にあたることになるが、領地の結界をめぐる予想だにしなかった問題に遭遇し……。

 あらすじを読んでいただいても分かる通り、それぞれに異なる特徴を持ちつつも、ヒロインがエルフで、舞台は異世界という点で共通している。また、ヒロインと恋愛関係に発展することはお約束としても、内2作でヒロインと主従関係を結ぶなど共通する要素が多い。こうした要素自体は決して目新しいものではなく、先頃、待望の完結に向けて新刊が発売され話題となった『ゼロの使い魔』(MF文庫J)をはじめとして、過去にも同様の要素を持った作品は多数あるが、今再びこうした作品に注目が集まっているのは興味深い。考えられる要因の一つとしては、『異世界迷宮でハーレムを』(ヒーロー文庫)など、異世界、チート、ハーレムといった近似の要素を持った作品がWEB小説においては読者から根強く支持されており、その影響が少なからずあるように思う。

 冒頭でも述べたように「WEB小説以外の新作からヒットがなかなか出ない」と言われ、若干の停滞感すら漂っていた昨今のラノベ業界。しかし、新ジャンルとして登場してきたWEB小説の一部は、すでにライトノベルという枠組の中に内包されているとも言え、その点でライトノベルが元来持っている「面白ければ何でもあり」といった懐の深さが結果としてこうした新たな局面を生んだのだと捉えることもできないだろうか。さらには、従来(WEB小説以外)のライトノベル側もこうした新しい流行を取り入れながら新たな形を模索している最中だ。一部にはライトノベル市場の衰退を叫ぶ向きもあるようだが、個人的にはWEB小説に限らず、あらゆるエンタメジャンルの流行をアメーバーのように取り込んでいくライトノベルの持つ貪欲さに期待したい。まだ見ぬ傑作はこうした過渡期にこそ生まれてくるのだから。