負けても負けても「広島カープ」のために投げ続けた。”豪放磊落な野武士”と”孤高のダンディー” 2人の名投手エピソード!!

スポーツ

2016/10/26

『二人のエース』(鎮勝也/講談社+α文庫)

 25年ぶりにセ・リーグを制し、32年ぶりの日本一を目指す広島カープ。引退を表明した黒田博樹の魂のピッチングや、高卒4年目の22歳、「神ってる」鈴木誠也の大ブレイクなど、選手たちの躍動が、地元ファンの熱狂的な応援とともに、全国的な話題を呼んでいる。

 こうした一種の社会現象は、歴史ドラマの主人公や名脇役に再び光があたるが如く、対象となるものの歴史や背景、エピソードの再発掘、再評価につながる。『二人のエース』(鎮勝也/講談社+α文庫)もそんな1冊。かつてカープがまだ弱小だった昭和40年代、チームを支え続けた安仁屋宗八と外木場義郎という2人の名投手の物語を軸にしたノンフィクションである。沖縄出身のプロ野球選手のパイオニア的存在であった安仁屋と、完全試合1回を含む3度のノーヒットノーランを記録したプロ野球史上、唯一の投手である外木場。2人は単なる弱小チームの好投手、だけでは語れないほどエピソードが豊富で、故にプロ野球の歴史にも名を残したといっても過言ではない。

 いわゆる“カープ女子”に代表されるように、今回の優勝に盛り上がっているファンには、平成生まれも多いはず。贔屓球団のレジェンド的な選手を知ることは、オールド・ファンとのコミュニケーションも弾み、チーム愛が増すことにもつながる。応援にも一段、深みが出るだろう。

 実は本書、諸事情があり、安仁屋と外木場が現役時代に新聞などに残したコメント以外、本人の肉声はない。代わって2人を浮き彫りにするのは、補って余りある、彼らの指導者や多くのチームメイト、相手球団の選手の膨大な証言。第三者の証言は、時に主観的になることもある本人の回顧よりも、その人物の凄みや細かな人間性を伝えることもある。本書もそれが上手く作用し、かえって名投手のリアルで臨場感ある姿、ピッチングが伝わってくる。これだけの証言を集められたのは、著者が長年、新聞記者として現場取材を続けてきた賜であろう。

 特に豪放磊落、典型的な昭和の「野武士」的プロ野球選手だった安仁屋に対し、「ダンディー」と評され、チームメイトとも群れずに孤高を貫いた外木場と、好対照だった2人の性格、プライベートなどは、この手法だからこそ、得られた描写も多い。

 また、2人のプロ野球人生に合わせ、カープという球団の歩みも過不足なくまとめられているのも、若いファンにとってはありがたく、年季の入ったファンにとっては懐かしいものとなるだろう。

 安仁屋宗八、プロ通算119勝124敗。外木場義郎、プロ通算131勝138敗。あらためて思うのは、もし2人が今のカープにいたら、おそらくもっと勝ち星を積み重ねられたであろうということだ。負けても負けても、広島のために、カープのためにマウンドで投げ続けた安仁屋と外木場。こうした選手たちの奮闘のうえに今のカープがあることを、ぜひ本書で知ってほしい。

文=長谷川一秀